首相交代が明白になり、日経平均急騰        

 先週3日、米雇用統計が発表されましたが、なんともちぐはぐなマーケットの動きとなりました。ドル/円は米雇用統計のNFP(非農業部門雇用者数)が予想(73.3万人)を大きく下回る23.5万人となったことからドル安となりました。

 しかし、ドル安になったといっても1ドル=109.50円以上をキープしており、これまでの中心レンジ109.50~110.50円をブレークしていない状況です。かなりのネガティブ・サプライズでしたが40銭程度の円高にしか過ぎませんでした。

 株式市場ではダウは下落しましたが、NASDAQはテーパリング開始時期が遅れるとの期待から上昇しました。

 一方で米10年債利回りは年内テーパリング開始の方向は変わらないとの見方から上昇しました。それぞれのマーケットがいいとこ取りしているような印象の動きでした。

 日経平均株価は、3日の米雇用統計発表前の東京市場ですでに急騰していました。突然の、菅首相の「総裁選出馬せず」との報道によって600円近く上昇し、翌週の6日(月)も500円超の上げとなり、首相交代による経済対策への期待から2日間で1,100円超の上昇となりました。

 7日(火)には、5カ月ぶりに一時3万円台を回復しましたが、この動きは米雇用統計の結果とは関係なく、NYダウの下落にも影響を受けていない動きでした。

 このように米雇用統計発表後の為替、株、金利の動きは、それぞれの市場との関連性があまりなく、方向性もなく、ネガティブ・サプライズの判断を先送りしているだけかもしれません。

9月は「通貨大乱の月」!今年は何が起こる?

 さて、9月はこのコラムで毎年紹介していますが、「通貨大乱の月」として警戒する月のため身構えています。

 ハッサクが「通貨大乱の月」と呼んでいるのは、1985年のプラザ合意、1992年欧州通貨危機、2001年米国同時多発テロ、2008年リーマンショックと、為替市場を大きく揺るがした歴史的大事件が9月に発生したからです。

 毎年9月に何かが起こるということではないのですが、その時の経験が体に染み付いており、9月はいつもマーケットに対して緊張して臨む月となっています。そして、そのような9月ですが、今年の9月は経済よりも政治要因で動きそうな気配があります。

 米国ではバイデン大統領の支持率が、死傷者を伴った8月のアフガン撤退によって急低下し、不支持率が支持率を上回る状況となっています。また、民主党穏健派のウェストバージニア州のマンチン上院議員が、3.5兆ドルの景気刺激策の「一時休止」を求めています。

 上院はハリス副大統領の1票で辛うじて過半数を超える議席となっているため、マンチン議員が反対票に回ると法案が可決できなくなる事態が起こります。クレイン米大統領首席補佐官は、5日、マンチン議員を説得できると自信を示していますが、今後の警戒材料になるのは間違いありません。

 このように8月後半から、バイデン大統領を取り巻く政局が急速に悪化してきています。

 今のところ、マーケットに悪影響を与えるような動きとはなっていませんが、現実に経済対策法案の規模が縮小したり法案が可決されなかったりした場合には大きな影響が出そうです。

 また、民主党内の中にはFRB(米連邦準備制度理事会)パウエル議長再任に反対する動きもあるため、再任問題にも影響を与えるかもしれません。

 そして26日のドイツ連邦議会選挙も注目です。環境問題を大きく掲げる緑の党も直近は失速しており、与党のCDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)もラシェット党首が不人気であり、SPD(社会民主党)のショルツ財務相が首相候補として急浮上していますが、メルケル首相のように強いリーダーシップやカリスマ性はありません。

 今後、連立に苦労し、メルケル後継がスムーズにいかない場合、ドイツのみならず、欧州の影響力が低下する可能性も想定され、長期的にはユーロ安要因となりそうです。26日のドイツの選挙は今月最大の注目材料になるかもしれません。

欧州の二つの山場

 日本は、菅首相の総裁選不出馬報道によって、29日の総裁選への注目度が一気に高まりました。

 このように9月は日米欧とも政局が波乱材料になりそうですが、その中で欧州が特に注目です。欧州は26日のドイツの選挙だけでなく、9日のECB(欧州中央銀行)理事会にもマーケットの関心が高まっています。

 ECBではドイツやオーストリアのタカ派が中心となって資産買い入れ減額を主張しており、資産買い入れ減額観測が急浮上しています。

 ユーロ圏のCPI(消費者物価指数)も、8月は10年ぶりの伸び率となっており、「インフレは一時的」との従来の姿勢を維持するのかどうか、という点も合わせて注目されています。

 米雇用統計によってFRBのテーパリングが遅れるとの見方が浮上している中で、ECBで資産購入の減額が協議されたという報道だけでもユーロ高に反応する可能性があります。減額ではなく買い入れペースを緩めるということでもユーロ高に反応する可能性があります。

 逆にハト派的な内容は現状ではサプライズとなることも予想されるため注意が必要です。欧州は9日と26日、それぞれの前後を含めて二つの山場を迎えることになりそうです。