過去3カ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

8月雇用統計の予想

 BLS(米労働省労働統計局)が9月3日に発表する雇用統計は、市場予想によると、失業率は5.2%に低下、NFP(非農業部門雇用者数)は75.0万人増加となっています。平均労働賃金は前月比0.3%増、前年比4.0%増の予想。

 今年前半の雇用統計を振り返ったとき、4月と5月の雇用者数が伸び悩んでいた理由は(4月27.8万人、5月58.3万人)、需要よりも供給サイドの問題でした。つまり求人が少ないからではなく、応募者がいなかったのです。

 その大きな原因のひとつが「良すぎる失業給付金」。失業でもらえる給付金が給料より多いのだから勤労意欲がなくなるのは当然でした。そこで米国の各州が失業給付金の上乗せ金額の廃止を実施したところ、途端に求人サイトの閲覧数が5%もアップしたということです。ようやく働く気になったアメリカ人が、労働市場に仕事をしに戻ってきます。

 小さな子供のいる家庭では、親が働きに出かけている日中はおじいちゃん、おばあちゃんが面倒を見ることが多いため55才以上の年齢層の人材が労働市場に戻れずにいます。55才以上の労働参加率が下落全体の3割を占めていることからも、この年齢層の再就職の低さが際立っています。これも雇用者が伸びない理由となっていました。

 しかしこの問題も、秋に学校が再開すれば、徐々に解消されることになり、労働力不足による企業活動の停滞も解消に向かうことになります。

7月雇用統計のレビュー

 7月のNFPは94.3万人増え、失業率は0.5ポイント低下して5.4%になりました。業種別の雇用を見ると、外食・飲食部門を中心にレジャー・サービス業が約38万人の大幅増加。また9月の新学期に備えたサマースクールなどの需要に支えられて、地方自治体の教育部門が22.1万人もの雇用増となったのが目立ちました。

 5月の非農業部門雇用者数の増加は、58.3万人から3.1万人増え61.4万人に、6月は、85万人から8.8万人増えて93.8万人に上方修正されました。今回の修正により、5月と6月の雇用者数は合計で11.9万人増えたことになります。

 米国の雇用市場で雇用増加が継続的に加速している背景には、記録的な求人数があります。米労働省が発表したJOLT求人件数によると6月の求人は1,000万件を突破。これは失業者の総数を上回る件数です。

 平均労働賃金は、前月比0.4%増、前年比4.0%増。経済再開に伴う労働需要の増加が賃金の上昇圧力となっている可能性が指摘されています。

これが「最後の雇用統計」

 米国でコロナウイルスワクチンの接種が本格化する前、米経済再開の見通しがまったく不透明なときに、FRB(米連邦準備制度理事会)は、FOMC(米連邦公開市場委員会)において、政策のフォワードガイダンスに関して重要な変更を行いました。2020年12月のことです。

 FOMCは、政策のフォワードガイダンスを、従来の「今後数カ月」といったような、期間を定めた定量的なガイダンスから、最大雇用と物価安定の目標達成に向け「一段の著しい進展があるまで」という、数字では表せない定性的なガイダンスへと修正しました。

 米国の雇用市場では、コロナ禍によって、2020年3月と4月のたった2カ月の間に2,200万人もの雇用が失われました。しかし、その後はでこぼこがあったものの着実に回復を続け、2021年7月までに1,670万人が仕事を再び見つけることができています。FRBが目指す、コロナ流行前の2020年2月の水準まであと570万人足りないところまで来ています。

 雇用者増加の直近3カ月間平均は82万人。このペースが維持できるなら、来年1月には完全雇用が達成可能となります。FRBのタカ派は「米経済の著しい進展」の証拠がそろったとして、緩和政策の即時終了を主張している。一方ハト派は、雇用の回復はまだ道半ばというスタンスで、緩和政策がまだ必要だというスタンス。今回が、9月のFOMC前に発表される最後の雇用統計になります。