8月27日、注目のジャクソンホール会議で予定通り、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演がありましたが、相場は踊りませんでした。
8月のFOMC(米連邦公開市場委員会)は開催予定がなかったため、今後の相場に影響を与えるテーパリング(量的緩和の段階的縮小)についてパウエル議長の発言が注目されていましたが、8月27日、オンライン形式で開催されたジャクソンホール会議で、パウエル議長は、テーパリングについて「年内開始は適切になり得る」と述べました。
パウエル議長は7月のFOMCでは、「私の考えは『年内に開始するのが適当だろう』だった」と説明しました。また、18日に公開された7月FOMCの議事要旨では、「ほとんどの参加者が今年中に始めることが適切」と判断したと述べられていたことから、FRB内のテーパリングに対する考え方はパウエル議長を含めて一枚岩との印象をマーケットに与え、瞬間的にはドル高に反応しました。
また、インフレについては「一時的でいずれ落ち着く」との従来認識を保ったうえで、「インフレは『さらなる著しい進展』を満たしている。最大雇用に向けた明らかな進展もあった」と明言し、テーパリング開始へ条件が整いつつあるとの認識を示しました。
しかし、テーパリングの明確な時期に関する言及がなかったことや、「テーパリングは利上げ時期を示す直接的なシグナルではない」と強調したことなどから、全般的に将来の金融政策に柔軟性をもたせるハト派的な内容だったため、米金利は低下し、株は上昇、ドルは低下しました。
ドル/円は、「年内開始適切」との発言でドル高に反応し、「利上げのシグナルではない」との発言によってドル安となりましたが、値動きとしては1ドル=110円を挟んだ上下20銭程度の動きでした。パウエル議長の発言によって相場は踊らず、そして、現在も110円を挟んで動いていることから、相場の転換材料にはなりませんでした。
逆の言い方をすれば、パウエル議長は市場との対話を見事にこなしたことになります。テーパリングという市場の織り込み材料を市場に消化させ、利上げという、さらなる期待を沈静化させたということになります。
テーパリング年内開始のスケジュール・シナリオ
パウエル議長だけでなく、ほとんどのFOMC参加者が納得しているテーパリングの「年内開始適切」とのスケジュール感とはどのようなものでしょうか。
FOMCは年内3回あります。9月21~22日、11月2~3日、12月14~15日の3回です。年内開始のためには、タカ派、ハト派によって多少タイミングのずれはありますが、想定シナリオは絞られてきます。
(1) 9月3日の米雇用統計(8月雇用)を受け、9月FOMCでテーパリング開始告示、11月開始
(2) 10月8日の米雇用統計(9月雇用)を受け、11月の開始告示、12月開始
(3) 可能性として、開始告示と開始を同時に行うシナリオ。9月に告示・開始、11月に告示・開始あるいは、12月3日の米雇用統計(11月雇用)までみて、12月に告示・開始
などのシナリオが想定されます。
今週3日発表の8月雇用統計は(1)のシナリオとして注目度が高まります。かなりよい数字が発表されれば期待は高まりますが、パウエル議長も懸念しているデルタ株の影響は、8月雇用にも影響している可能性があり、シナリオの可能性としては低いように思われます。
やはり、9月に学校の対面授業が再開し、保護者が仕事に戻れる9月分雇用、あるいは追加失業給付が9月に終了し、復職が反映される9月分雇用をみて判断する(2)のシナリオの方が(1)よりも可能性が高そうです。
10月分雇用は11月5日に発表のため、11月FOMC(11月2~3日)には間に合いません。10月分雇用を確認してから判断となると、12月のFOMCで判断、ということになります。その場合、通常であれば、12月開始告示、来年2022年1月に開始ということになりますが、年内開始が適切というのであれば、(3)のシナリオの可能性が高まってきます。
テーパリングの次の材料は?
9月から12月まで、実質的には2カ月半ですが、テーパリングの具体的なスケジュールが見えない限り方向感は出にくく、当面は米雇用統計や物価に一喜一憂する相場が続きそうです。
また、テーパリングの具体的な道筋が見えても、これだけ何カ月も話題になっていると、その頃にはかなり織り込まれている可能性もあります。金融引き締めの次の段階である利上げが材料にならないと、多少は動いても大きく動かないかもしれません。
しかし、その利上げもまだまだ先の話となりそうです。2014年のテーパリングの際は、テーパリングが開始してから終了まで10カ月。テーパリング終了から利上げ開始まで14カ月かかっています。つまり、テーパリング開始から利上げまで約2年かかっていることになります。
パウエル議長は「テーパリングは利上げ時期を示す直接的なシグナルではない」と強調しましたが、2014年のスケジュール感を現在にあてはめてみると、もし、今年の12月にテーパリングが始まるのなら、利上げは2年後の2023年12月ということになります。しかし、2023年の利上げを材料にして相場が動くのはかなり無理がありそうです。
このようにテーパリングも材料として織り込まれつつあり、利上げはまだ先の話となると、ドル/円を取り巻く環境は変わらないため動きづらい相場が続きそうです。
日本銀行やECB(欧州中央銀行)との金融政策の違いが相場を動かす、というシナリオも想定されますが、これまでのところあまり相場に影響を与えていません。しかし、留意しておく必要はあります。
また、テーパリングの具体的なスケジュールが見え始めた時に、FRBの正常化への動きが新興国に影響を与えるかもしれないという点も留意しておく必要があります。
米国内では、いよいよ9月から本格的に対面授業の学校が再開されます。しかし、すでに一部の小学校で教師から生徒に感染が広がったことが報告されており、学校再開がスムーズに保護者のBack to workにつながるのかどうか注目です。
デルタ株が急増しているため、子供達の通学を敬遠する保護者が増えたり、マスク着用義務を拒む保護者が増えたりすると、職場復帰が遅れ、雇用回復ペースが鈍くなる可能性が出てきます。
日本でも今週から2学期が始まりますが、分散登校や小学校でもオンライン授業を実施するところが多く、感染対策をかなり意識した慎重なスタートとなるようです。ハッサクも小学生や園児との接触機会が多いため、この一年半のコロナ禍で最も心配しながらの生活が始まりそうです。
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