資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。

 このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

アクティブファンドを選ぶなら何を基準にしたらいいのか?

加納伸二さん(仮名)会社員・55歳(既婚)

 加納さんは先日、友人に投資信託(ファンド)の選び方を相談したところ、一人からはインデックスファンドを、もう一人からはアクティブファンドを勧められました。

 せっかくなので、投資資金を半分ずつに分けて、両方を購入することに決めました。

 まずは、あるアクティブファンドを購入しました。そして、このアクティブファンドがリターンを上回ることを目指す指数に連動するインデックスファンドも購入しました。こうすることで、値動きの比較をしながら、自分にあった投資を判断しようとしています。

 ところが、アクティブファンドといっても種類が多すぎて、どれを選んでいいのか、なかなか決めることができません。まずは友人に教えてもらったように「運用期間3年以上」の商品で、「投資目的・方針」が「自分好みの運用」である投資信託を探すことにしました。

 ここからさらにアクティブファンドの具体的な銘柄を絞るために、加納さんはどうしたらいいのでしょうか。

■関連記事≫アクティブファンドのウソホント!やってはいけない投資信託の選び方

アクティブファンド選びのポイント(1)3つの鉄則

 アクティブファンドを購入したことがある人はこれまで、対面営業の金融機関、主に証券会社で購入してきたという人がほとんどでしょう。資産運用の相談のため、店舗の窓口で話を聞く場合、金融機関がお勧めする投資信託、中でもアクティブファンドを提案されることがあるからです。

 もちろん、顧客のニーズに沿った提案にはなりますが、金融機関の販売上位銘柄を見ると、実はインデックスファンドよりもアクティブファンドが提案されていることがわかります。ファンドの運用会社から販売を委託されている金融機関からすれば、低コスト=手数料収入の低いインデックスファンドよりも、手間暇をかけた分の手数料が乗っているアクティブファンドを中心に販売することは、営利企業として当然の流れかもしれません。提案の中で、運用に関するリスクや手数料についての説明がある一方で、アクティブファンドの良しあし、そして判断方法の説明を受けたという方はそう多くはないはずです。

 では個人投資家はアクティブファンドを自らの手で選ぶことはできないのでしょうか。

 そこで今回は、アクティブファンド選びの基本をわかりやすく紹介します。まずは、はずしてはいけない鉄則を3つに絞ってお伝えします。

アクティブファンド選びの鉄則1:ファンドと比較すべき指標を見極める

 アクティブファンドの運用方針は、市場全体の平均的なリターンを上回る成果を得ることです。ほとんどのアクティブファンドは、市場全体を参考指標として採用しています。

 ここで気をつけておきたいことは「市場全体とは何を表しているか」です。

参考指標が適切か

 例えば、米国のAI(人工知能)やフィンテックなどの新しいテクノロジーをテーマに投資をするファンドなのに、参考指標が、IT企業の多いナスダック総合株価指数ではなく、大型株で構成されるS&P500種株価指数を採用していては、評価に疑問が残ります。

参考指標の対象銘柄が少なすぎないか

 次に、コロナワクチンの効果に期待する投資対象をテーマにしたファンドがあったとします。参考指標にバイオテクノロジーETF(上場投資信託)を採用していたとしても、コロナワクチンを製造・販売している企業は一部に限られています。そのため、他のバイオ系銘柄の値動きに影響され、想定している値動きとはかけ離れてしまうかもしれません。

どんな銘柄が組み入れられているか

 また、ファンドの月次レポートを見ると、上位10銘柄以上が記載されていることもあります。投資をする前に、どんな銘柄を組み入れているのか、参考とする指標は何か、そもそも参考指標となるものがあるのかなどを判断するようにしましょう。

アクティブファンド選びの鉄則2:名称に惑わされずにファンドを選ぶ

 アクティブファンドにはその投資テーマに合わせて名称が付いていて、中には愛称が付いている商品もあります。投資家に興味を持ってもらえるように特徴が分かりやすく、値上がりが期待できそうな名称がついています。しかし、名称だけでファンドの良しあしは判断できません。

 そして、気になる名称の投資信託があれば、まずは同じようなテーマのETFがないかを確認することを忘れてはいけません。似た投資先でありながら、コストを抑えて投資できる可能性もあります。

アクティブファンド選びの鉄則3:新規設定のファンドは様子見に徹する

 ここ数年は数が減りましたが、新規設定される投資信託は毎年数多くあります。その中で、金融機関が販売に力を入れる商品は、設定当初で数千億円もの資金を集めることも珍しくありません。

 それだけ運用会社も力を注いでいるといえる商品ですが、新しく運用が開始された投資信託がどのような銘柄をどんな比率で組み入れていくのか、運用中の見直しはどのように行っていくのかは運用が始まってみなければ分かりません。

 インデックスファンドであれば、もともと市場平均を目指しているので、新規設定されたファンドでも大して問題になりませんが、実績のないアクティブファンドは未知数です。あえて新規設定のタイミングで投資をする必要はないでしょう。

アクティブファンド選びのポイント(2)注目すべきアクティブファンドの特徴

 アクティブファンドを選ぶとき、ETFやインデックスファンド、類似商品との比較が必須です。その上で、どんなアクティブファンドを選べばいいのか。具体的な例をいくつかご紹介したいと思います。

注目のアクティブファンド選び1:少数銘柄へ厳選投資するファンド

 投資信託というと、100、200と数多くの銘柄に分散投資をしているイメージがあるかもしれませんが、中にはできるだけ少数銘柄を厳選している投資信託もあります。一つ一つの個別銘柄の株価変動の影響が大きい一方で、本来の投資テーマにより近い値動きをしてくれるともいえます。

 参考に、こういった特徴のあるアクティブファンドの例を紹介します。

 世界の先進国企業2万社から厳選した「構造的に強靭な企業(付加価値の高い産業・圧倒的な競争優位性・長期的な潮流)」に投資をしており、組入株式はわずか27銘柄です(2021年3月31日時点)。

 格付投資情報センターR&Iのファンド大賞2020において、国内株式総合部門で最優秀賞を受賞したファンドです。2008年から一貫して日本株式に投資をしてきたノウハウと確かな実績がリターンにあらわれており、組入株式はわずか17銘柄です(2021年3月31日時点)。

注目のアクティブファンド選び2:独自の投資哲学を持つファンド

 アクティブファンドの中でも、特に際立って独自の投資哲学のもとで運用をしているのが、他の金融機関や事業会社に属していない「独立系運用会社」の取り扱う商品です。金融機関を通さずに、直接運用会社から購入する直販で取引できる商品も多数あります。

 参考に、その中でも特に特徴のあるアクティブファンドの例を紹介します。

 直販の「ひふみ投信」、金融機関経由の「ひふみプラス」と分かれています。主に日本株式へ投資をしており、守りながら増やす運用、顔が見える運用を目指しています。藤野英人氏が率いる運用会社レオス・キャピタルワークスが運用を行い、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)でも対象商品に入っていることが多い投資信託です。

  • 結い2101(ゆいにいいちぜろいち)

 鎌倉投信が考える、これからの日本に本当に必要とされる事業性と社会性を兼ね備える「いい会社」に投資しています。いい会社とは、社員とその家族、取引先、顧客・消費者、地域社会、自然・環境、株主などのステークホルダーを大切にする持続的で豊かな社会を醸成できる会社と定義しています。

注目のアクティブファンド選び3:自分で銘柄選別しづらいテーマのファンド

 今では投資信託を使わずとも海外の株式に投資することも容易になり、投資信託にはないような商品もETFなら、自分で投資できることもあります。しかし、アクティブファンドを通じて投資をした方が、自分の投資目的に沿った投資ができることもあります。

 参考に、こういったアクティブファンドの例を紹介します。

 MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスから投資テーマの「自動運用車・EV(電気自動車)・車のIT化・シェアリング」などに関連する銘柄から最終的に40~60銘柄に絞って投資をします。自動車産業の構造変化という世界的な激流によって、対象となる銘柄は単に自動車部品を作る企業だけではなく、中小企業も含めて幅広い企業の中から選別されています。

 世界中の次世代通信(5G:第5世代移動通信システム)関連企業の中から、業績面で恩恵を受ける企業に投資をします。次世代通信は米国の開始時期が早いこともあって、日本人にはなじみのない企業が有望銘柄として多数、組み入れられています。

資産運用のポイント

アクティブファンドを正しく評価して資産づくり

 個人投資家で株式投資を好む方であれば、投資信託を必要としない方もいます。投資信託は運用の手段であって目的ではありませんので、自分にあった手段を選べばいいのです。

 ただし、日々の生活で忙しい人や運用に時間を取られたくない人にとっては、個別銘柄の株式投資は向かないともいえます。そのような人にとって投資信託はぴったりな商品かもしれません。

 もし「気になる投資テーマ」「やってみたい投資」「共感できる投資手法」があれば、アクティブファンドを検討してみることは、合理的な投資戦略といえるでしょう。

【要チェック】
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