6人全員が株式投資で「経済的自由」を勝ち取った

 FIREを達成するうえで最も重要なのが、そのための資金作りだ。今回、FIREを実現した6人は、年齢や職業などはさまざまに異なり、資金作りの期間や手法もそれぞれだ。

 しかし、ただ一つ、6人に共通しているのが、いずれも「株式投資」によって経済的自を勝ち取った点だ。YouTube成功を収めて「仮面FIRE」を実現したぽんちよさんも、併行して株式投資を行っている。

 彼らがどのように、投資資金を作り、銘柄を選び、売買してFIRE達成までの資産にまで育てていったのか、比較検証してみよう。

米国株で成功…穂高さん、アキラさん、エルさん

 まず注目したいのは、日本株ではなく米国株で目標資産に到達した、穂高さん、アキラさん、エルさんの3人。それぞれの投資手法を見ていこう。

 穂高さんは学生時代、FXにハマり、その乱気流と戦っていたが、FXでは長期にわたって安定した利益を獲得するのは難しい、という判断から株式投資にチェンジ。そのときから主に米国株に投資している。

 穂高さんが狙ったのはズバリ、「高配当株・連続増配株」。すべての資金をそこにつぎ込み、配当金を積み上げていくという手法で成功した。

 一方、途中で日本株投資から米国株投資に切り替えたのがエルさんだ。20代の頃から日本株個別銘柄と投資信託に投資していたが、2015年、米国株も特別口座で購入可能になったタイミングで、前から買ってみたかった米国株投資にシフトして成功した。

 穂高さんと異なり、エルさんが狙ったのは、「割安成長株」。長期的に株価上昇が見込める銘柄を購入して、値上がり益を狙うというやり方だ。

 その結果、運用パフォーマンスが格段に上がり、目標にしていた資産1億円を計画より1年早く達成した。

 穂高さんはインカムゲイン派、エルさんはキャピタルゲイン派といってもいいだろう。

 また、アキラさんも、米国赴任時に投資を始めたこともあって、最初から米国株に投資していた。日本株を購入したことは一度もないという。

 投資を始めた当初は米国株の個別銘柄を購入していたが、思うように結果が出せず、米国の株式指数であるS&P500に連動するインデックスファンドに方向転換したことが功を奏し、着実に資金を膨らませることができた。

米国株で資金作りするメリット

 三者三様の米国株投資だが、そのメリット・デメリットを改めてまとめてみよう。

 まずエルさんが挙げる米国株の最大のメリットは、その高い「成長性と収益性」だ。

「GAFAMをはじめ、高いブランド力を武器に世界中でビジネスを展開している、高収益企業が山ほどあるから。日本企業は安定性という良さがありますが、成長率が低く、長期にわたって継続的に株価が上がり続ける銘柄は限られます」(エルさん)。

 穂高さんが挙げる米国株の魅力はズバリ「増配力」。

「米国には利益率が高い連続増配株が、日本とは比較にならないくらい多い。高配当株・連続増配株をひたすら買い続けるという手法は、当時の・投資環境おい、モチベーションが途切れにくく、続けやすく、経済的自由へ着実に近づいている実感を得られる仕組みでした」(穂高さん)。

 米国生活が長かったアキラさんは、逆に日本株をよく知らない。成長率の低い日本企業より米国企業のほうが、身近で信頼感があるのも当然で、その「世界に通用するブランド力」を信頼している。

「米国の株式指数であるS&P500に連動するインデックスファンドに7割、新興国を対象とするインデックスファンドに3割で投資しています」(アキラさん)。

 3人が挙げた魅力は、永遠に続くとは言い切れない。米国にも不況は訪れるし、2021年現在の米国市況が好景気だからこそ、暴落したときの恐ろしさは想像に難くない。

 さらに、投入できる資金や本人の性格、FIREするまでの目標年数などで、米国株投資がFIRE手段にふさわしい人とそうでない人も出てくるだろう。

 米国株ブームの昨今だが、米国株のみを妄信するのはやはり危うい投資方法だ。同じ米国株を選ぶにしても、自分の立ち位置と目標金額、達成年数を見据えて、シビアに選択、時には方向転換することが必要といえる。

日本株で成功、ろくすけさん

 一方、日本株投資によって資産を築き、FIREを実現したのが、ろくすけさん。

 ろくすけさんは、20代半ばでインデックスファンドを買い始め、およそ10年で3,000万円の資産を構築。30代半ばから本格的に日本株の個別株式投資を開始し、約20年で3億円超まで資産を増やした。

 米国株ブームに沸く中、ろくすけさんが日本株にこだわるのは、一つ一つまじめに取り組む日本企業を認めたい、応援したい、という思いだ。

「市場全体の成長性を比較したら米国に遠く及ばない。今後も人口が増え続けると考えられている米国に対して、日本は人口減少に歯止めがかからない状況のため、両者の開きはさらに広がる可能性はあります。しかし、そんな中でも適切に事業領域を選択した上で、企業努力によって米国企業をしのぐくらいの成長を遂げている企業がたくさんあります。ならば、そういう企業を応援したいんです」(ろくすけさん)。

日本株で資金作りするメリット

 また、「米国株だけがもてはやされている現状に一石を投じ、1人でも多くの人に日本株のよさを再認識してもらいたいです。日本の企業が創造する価値は、株価上昇や配当という形で、できるだけ日本人が享受して欲しいという思いもあります」とろくすけさんは語る。

 ろくすけさんが重視する日本株の魅力=銘柄選びのポイントは「長期成長率」だ。

 米国株と比較すると、成長スピードは遅く、ぱっとした派手さはない日本株だが、ろくすけさんは、利益成長スピードよりもその持続性を重視して銘柄を選ぶ。

 成長の持続性を調べるカギとなるのが「経営者」だ。

「長期にわたって成長を続ける企業かどうかを見分けるために私が重要視するのは経営者の考え方です。米国株などでは経営者を知る機会はなかなかありませんが、株主総会などに積極的に出席して、経営者の考え、人となりを知って、成長力が長期に持続するかを判断しています」(ろくすけさん)。

 日本にいるからこそ、日本の企業をよく知るチャンスも多い。

 身の回りのほんのちょっとした変化をヒントにしたり、また疑問点をIRに照会するなどして、独自の分析を深めることができるのが日本株投資の良さといえる。

 投資の世界ではよく知られる「スゴ腕投資家」であるろくすけさんほどの企業分析力は一朝一夕には身につかないが、成功したときの理由はもちろん、失敗したときの理由も分かるし、なぜ失敗したかの情報提供者=投資仲間もごまんといる。

 投資初心者がまず手始めに挑戦するならば、日本株という選択肢は有効といえる。

複合型で成功、ぽんちよさん、ちーさん

 あと1年後に仮面を脱ぎ、仮面FIREから完全FIREを目指しているぽんちよさん

 社会人1年目から、徹底した節約・倹約と副業で毎月10万円の投資資金を作り、当初は全額を日本株につぎ込んでいた日本株投資派だ。

 並行して副業(自転車パーツのせどり)にも熱を入れた。これで得た利益もすべて日本株へ投入している。

 FIREを目指し始めたのが20代後半で、手取り給与もさほど多くないため、できる限りの手を使って投資に回す資金を増やしていったぽんちよさん。

「投資金額を増やそうと副業に精を出した結果、大きく収入を増やすことに成功し、ある程度まとまった資産もできました」(ぽんちよさん)。

 目標の5,000万円には後一歩だが、FIRE後の生活を見込んで移住・転職した先の企業が楽しすぎる、という、うれしい誤算もあり、YouTuber、ブロガー、投資家、会社員と複数のわらじを履き続けている。

 ちーさんには、子供のころからのお年玉などを、親が貯めてくれていた100万円があった。これを元手に、20歳から日本株式への投資を開始。

 その後、就職すると給与の大半を貯蓄、そして日本株式へも引き続き投資し、資産形成を着実に行ってきた。

 途中、2006年のライブドア・ショックや2008年のリーマン・ショックで痛手を負いながらも、2013年からのアベノミクスの上げ潮に乗ることで、約4年前には資産総額3,000万円まで増やすことに成功。資産のうち元本は2,000万円くらい、投資利益は1,000万円ほどという。

 また、ちーさんが投資を始めた時期は、ネット証券もようやく日本に数社ほど登場してきたころ。現在のように、まだまだ投資環境が整っているとは言えず、取引手数料も高額で、個人投資家が気軽に米国株を買える状態ではなかった。

 その後、ネット証券が広く普及するに伴って取引手数料も徐々に下がり、米国株にも投資するようになったが、日本株を売ってまで米国株に振り替えようとは考えなかった。保有している日本株の利益が出ていたことが大きい。
「そして、配当金が円で支払われたり、株主優待銘柄があるなど、日本株にしかないメリットももちろん魅力です。ただ、資産の分散という視点から2014年以降、新規の投資先は米国株が中心になってきました」(ちーさん)。

 現在は新たに個別株への投資はせず、年200万~300万円ほど投資信託やETF(上場投資信託)へ積立投資しているという。状況に応じて資産比率を検討し、分散していくのは、投資のベストメソッドだ。

複合型で資金作りするメリット

 日本も米国も世界の一部ではあるが、それぞれ違う値動きをすることもある。

 日本株、米国株、新興国株など、投資先をそれぞれ分ける分散投資はもちろんだが、副業や転職、YouTubeやブログなど、FIRE資金の獲得口を複数持っているのが複合型の強みだ。

 いずれが欠けても、その比重を変えてFIRE資金を貯めることができる。

FIRE後に見えてくる「本当の自立」

 上記6人の方に共通しているのは、FIREを達成した後も、おのおののジャンルでの投資をやめていないこと。

 さらに、YouTuberやブロガー、本の執筆など、会社員時代にはできなかった新しい活動を満喫している点だ。どれかがうまくいかなくなっても補てんが利く態勢を整えているのは非常に強い。

 当たると大きいYouTubeに挑戦している人も多いが、YouTubeは撮影から企画から負担が大きい。

 しかし、万が一、YouTubeの更新が負担になってきても、ブログや執筆、投資など、他の収益確保手段があるから、休んだりやめたりもできる。

 中でもぽんちよさん、ちーさん、穂高さんなどは、現在も30代とまだまだ若い。この先、お子さんができる、転居するなど、ライフプランが大きく変化する可能性もゼロではない。

 その場合、収入を得るさまざまな選択肢を持っている3人は、FIRE後の長い人生のコントロールに役立つかじをいくつも持っているといえる。

 十分な資産を持ってはいても、やはり不安は必ずつきまとう。

 義務的な会社員生活から逃れた後、今度は自分が楽しめる仕事で収入を得続けている6人は、FIREした後も、何かに依存しすぎず生きている。

 FIREの根本である「経済的な自立」を理解し、実践しているのだ。6人の成功の秘訣は、FIREはゴールではなく、通過点でしかないという点にある。