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本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)
東京エレクトロン
1.2022年3月期1Qは、43.6%増収、92.0%営業増益
東京エレクトロンの2022年3月期1Q(2021年4-6月期、以下今1Q)は、売上高4,520.49億円(前年比43.6%増)、営業利益1,417.91億円(同92.0%増)となりました。
今1Qより収益認識基準を、従来の工場設置基準から、装置の引渡が完了し履行義務が充足された時点、及び装置の設置に関連する役務の提供が完了し履行義務が充足された時点で収益を認識することになりました(概ね、装置出荷時に装置分の売上を計上し、顧客の検収が完了した時点で装置立ち上げに関わる役務分の売上を計上する)。
そのため、今1Qは全体では売上高で1,395億円、営業利益で828億円、旧基準によるものより増えることになりました。そのため今1Q決算を旧基準で表すと、売上高3,125億円(前年比0.7%減)、営業利益589億円(同20.2%減)となり、旧基準では売上高は横ばいで営業減益でした。
会社側によれば、新基準と旧基準を比べると、新基準が旧基準に対して1四半期早く収益認識が行われます。そのため、今1Qの新基準による高い売上高は旧基準の場合は今2Qに計上される見込みです。年度に直した場合でも、1四半期違うだけでこの差が大きくなることはないと会社側は説明しています。
なお、今1Qの製品出荷額は、前年比で大幅増、前4Q比でも増加しています。従って基調としては業績拡大が続いていると考えてよいと思われます。ただし、会社側が製品出荷額を明示していないため、どの程度の業績拡大になっているのかは不明です。
表1 東京エレクトロンの業績
グラフ1 東京エレクトロンの半導体・FPD製造装置販売高
表2 東京エレクトロン:半導体製造装置の地域別売上高
表3 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)
2.半導体製造装置事業が好調
セグメント別に見ると、今1QのSPE(半導体製造装置事業)は、新基準で売上高4,379億円(前年比44.2%増)、営業利益1,528億円(同82.6%増)、旧基準で売上高2,960億円(同2.5%減)、営業利益695億円(同17.0%減)となりました。
また、FPD(フラットパネルディスプレイ製造装置事業)は、新基準で売上高140億円(同27.3%増)、営業利益16億円(同3.2倍)となりました。旧基準では、売上高163億円(同48.2%増)、営業利益20億円(同4.0倍)となりました。
地域別売上高を見ると、中国向けが前4Q1,022億円(旧基準)、今1Q1,536億円(新基準、以下同様)と急増していますが、これは新規顧客が増えたこと、汎用半導体向け設備投資が中国で増加していることによります。韓国向けは同じく1,014億円→953億円、台湾向け882億円→628億円と減少していますが、高水準を維持しています。
SPEのアプリケーション別売上高を見ると、前4Qから今1Qにかけて、DRAM向けが減少し、NAND向けとロジックファウンドリ+ロジックその他向けが各々増加しました。
3.会社側は2022年3月期業績予想を上方修正した
今1Qの業績を見て会社側は2022年3月期業績予想を上方修正しました。前回予想(旧基準)は売上高1兆7,000億円、営業利益4,420億円でしたが、今回予想(新基準)は売上高1兆8,500億円(前年比32.2%増)、営業利益5,080億円(同58.4%増)となりました。
楽天証券予想も、前回予想の売上高1兆7,600億円、営業利益4,600億円から、今回は会社予想と同じ業績に修正します。
会社側が旧基準での業績予想を発表していないため、実質的にどの程度の上方修正か不明ですが、業績拡大は続いていると思われます。
また、楽天証券では2023年3月期予想については、前回予想の売上高2兆1,500億円、営業利益6,000億円を維持します。
会社側では暦年2021年、2022年の見通しとして、先端ロジックとファウンドリ、DRAMの設備投資増加を予想しています。また、28ナノ以前の汎用半導体の設備投資についても2022年に期待できるとしています。
4.今後6~12カ月間の目標株価は、前回の6万6,000円を5万5,000円に引き下げる
今後6~12カ月間の目標株価は、前回の6万6,000円を5万5,000円に引き下げます。2023年3月期の楽天証券予想EPS 2,873.5円に、成長性とリスクの両方を考慮した想定PER15~20倍を当てはめました。引き続き中長期での投資妙味はあると思われますが、短期的には更に株価が下がる可能性があると思われます。
成長性は、最先端半導体の量産のために大型設備投資が継続的に必要になっていること、汎用半導体でも自動車のように設備が足りないため設備投資が必要になっている分野が多いことを見れば明らかです。大型設備投資の理由として、大手半導体デバイスメーカーの売上高が好調に推移していることが挙げられます。例えば、AMDの2021年4-6月期売上高は前年比99.3%増、エヌビディアの2021年5-7月期売上高は前年比68.3%増でした。東京エレクトロンの同業他社では、アプライド・マテリアルズの2021年5-7月期が、41.0%増収、81.7%営業増益と好調でした。
一方リスクとしては、2021年4-6月期が実質減益だったことと、株式の需給関係に関するリスクを考慮しました。今回も株式分割を行わなかったため、個人投資家の新規投資と(日本の株式需給で重要な)個人投資家の信用取引による短期売買が傾向的に鈍る可能性があります。これ以外のリスクについては後述します。
最近の半導体製造装置株の下落について
1.今回の半導体製造装置株の下落は、DRAMスポット価格の下落観測から始まった
もともと半導体製造装置メーカーの株価は、日本でもアメリカでも今年4~5月に株価が一旦ピークを付けた後、緩やかに下落していました。一つの見方ですが、半導体製造装置メーカーの業績があまりに良すぎるため、過去のサイクルに当てはめてピーク感が台頭したのです。
今回の半導体製造装置メーカーの株価下落は、それに加えてDRAMスポット価格の下落観測が原因となっています。DRAMスポット価格の推移はグラフ2のように、昨年11月を底にして今年4月まで急騰しましたが、今は一服しています。これが今後下落する観測が浮上しています。ちなみに、大口価格はDRAM、NANDとも横ばいです(グラフ3,4)。
2018年1-3月期に半導体関連銘柄の株価が前回のピークを付けた後、下落に転じたときはNANDスポット価格がピークアウトしたことが材料になりました。そのため、今回のDRAMスポット価格の動きには注意する必要はあります。DRAM市況の悪化が今後拡大するであろうDRAM設備投資の阻害要因になる可能性があるためです。
ただし、DRAMの需要は好調であり、現在主流のDDR4からより高速化した最新鋭のDDR5への転換が今後進むと予想されることから、現時点ではDRAM需給と設備投資に関して大きな心配をする必要はないというのが私の考えです。
もっとも、日本の半導体製造装置株を見ると、DRAM問題のほかにもリスクがあると思われます。
グラフ2 DRAMのスポット市況
グラフ3 DRAMの市況
グラフ4 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)
2.日本の半導体製造装置株、あるいは広く値がさ株のリスク
前述の東京エレクトロンだけでなく、日本の半導体製造装置メーカーの最低売買単位は、100万円以上する高いものが多いです。このような値がさ株に投資するリスクは次のように考えられます。
1.株式分割を行わず、最低売買単位が高い状態に置かれ続けると、個人投資家の新規投資と、(日本の株式需給で重要な)個人投資家の信用取引による短期売買が傾向的に鈍る可能性がある。
2.ASMLホールディング、アプライド・マテリアルズなどがいずれも1株数万円で投資できるのに対し、東京エレクトロンの場合は1売買単元100株で400万円以上、ディスコで約300万円、レーザーテックで約200万円が必要になる。この状況の下、個人投資家の東京エレクトロンなどを含む日本株の値がさ株の売り、アメリカ株の買い(アメリカ株のポートフォリオ投資)の動きが継続的に起きていると思われる。東京エレクトロンのような値がさ株を売却してアメリカ株のポートフォリオを組むと、企業成長とリスク分散の両方が追求できるため、日本の個人投資家の投資の中身は大きく改善すると思われる。
3.また、アメリカ株投資に成功した個人投資家の間では、日本株と日本株投信を全て売却してアメリカ株投資の原資にする傾向がある。
4.国際競争を行っている企業の場合(多くの半導体製造装置メーカーがそうだが)、最低売買単位が大きすぎると従業員に対するストックオプションの付与が難しくなったり、従業員の自社株買いの要望に十分応えられなくなると思われる。これでは優秀な人材確保に問題が生じ、長期的な競争力に問題が生じるリスクがある。
表4 株式投資に最低でいくらかかるのか
3.日本の値がさ株の企業はなぜ株式分割をしないのか
日本のテクノロジー関連株やゲーム株には、最低売買単位が100万円以上の値がさ株が多いですが、そのような企業の多くは株式分割をしません。この考え方には大きく二つあります。
一つは、企業側が投資家、株主を選びたいという考え方です。要するに機関投資家と大口の個人投資家のみが株主になってほしいという考え方です。
もう一つは、個人投資家は端株を買えばよいという考え方です。
いずれも株式市場の何たるかを理解していない考え方です。全ての値がさ株の企業の考え方がそうだとは言い切れませんが、私が聞いている限りではこの二つの考え方が程度の差はあれ、日本には根強いと思われます(特に企業側が株主を選別したいという考え方です)。アメリカ企業が幅広い投資家から成長資金を集めるために、大口の機関投資家、小口の個人投資家へのアピールをともに忘れないのと好対照です。
4.日本の半導体製造装置株やテック系の値がさ株には、下落した後元に戻るのに時間がかかるリスクもある
日本の個人投資家の資金が日本の中だけを巡っていた昔ならいざ知らず、今はアメリカ株という日本の個人投資家にとって重要な比較対象であり投資先があります。私は半導体デバイス市場と半導体製造装置市場の基調は今も強く、当面腰折れることは考えにくいと考えています。そのため、半導体製造装置株は下落した後再び上昇する可能性があると考えていますが、これは主にアメリカ株に投資した場合です。私が考えているように日本の値がさ株の需給関係が傾向的に悪化するならば、日本の半導体製造装置株が元に戻るには時間がかかり、その後更に上値を追うにも時間がかかるリスクがあると思われます。
逆に考えると、今回の下落は半導体関連のアメリカ株の分散投資を検討するための重要な機会と言えると思われます。
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)
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