FIREが続けられなくなったらどうする?

 働いて稼いだ資産を投資に回し、その運用益だけで生活するFIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的に自立して早期退職)。

 しかし、人生は思った以上に長いもの。運用に失敗したり、物価が上昇したり、家族構成が変化したり、当初の想定以上に支出がかさむと、FIREを続けられないリスクがあります。病気や長いブランクのせいで、もはや働きたくても働けない状況に陥ることもあるでしょう。

 そんなリスクに備えて、「FIREに失敗したら、使えそうな公的支援制度」について知っておくと、いざというときの役に立つはずです。

住む家がなくなったら「住宅セーフティネット」制度

 頼みの綱だった運用益が激減したら、これまで住んでいた家を売却したり、賃料負担を減らすために引っ越しをしたりする必要が出てくるかもしれません。そんなときに頼りになるのが、民間の空き家・空き部屋を活用した「住宅セーフティネット制度」です。

 この制度は低額所得者(月収15万8,000円以下の世帯)、高齢者、障がい者、子育て世帯など住宅確保に配慮が必要な人の入居を拒まない賃貸住宅を家主に登録してもらい、その改修費を国が支援するとともに、入居者に対しても家賃や家賃債務保証料の補助を行ってくれる制度です。

 住宅確保の配慮が必要な人に、入居可能な賃貸住宅の情報提供や転居相談、引っ越し後の見守りなど居住支援を行うNPO法人を市区町村が支援する制度も整備されています。

 国土交通省が運営する「セーフティネット住宅情報提供システム」にアクセスすると、該当物件を都道府県別に検索できます。たとえば、東京都で検索すると、賃料・共益管理費3万円台を最安値に、447棟1,786戸もの賃貸住宅が登録されています(2021年8月6日現在)。

 あくまで、賃貸住宅を自力で探すことが難しい方々を対象とした制度ですが、FIREで運用に失敗した上に病気を患うなど生活困難な状況になったときには利用を考えましょう。

シェアハウス、サブスク型住宅、空き家バンクを徹底活用

「住宅セーフティネット制度」には、シェアハウスも登録されていますが、ますます深刻になる高齢化社会を考えると、独居ではなく、他人と住宅をシェアするタイプの居住スタイルが今後は普及してくるでしょう。

 少ない元手でFIREを継続するためには、住むところにお金をかけないことが大切です。民間企業の中にも、個室でプライベート空間もあるシェアハウス物件の仲介を行う会社が増えています。

 最近は、月々数万円から全国各地の住宅に住み放題のサブスクリプション型住宅サービスも普及。地方には高齢化で空き家になった家を安い賃料で貸し出して管理してほしいといったニーズがあり、「空き家バンク」の制度も拡充されています。

 シェアハウス、サブスク型住宅、空き家バンクなど、新しい住まいのスタイルを追求して、居住費になるべくお金をかけないような生活を送れるようになるとFIRE失敗のリスクを減らすことができます。

FIRE中止で再就職先を探すなら職業安定所へ

 FIREを中止し、職探しをするなら、厚生労働省が運営するハローワークで、求人・仕事情報の検索や職業・就職相談、職業訓練の手続きを受けることができます。

 再就職や転職を目指すなら、たとえ雇用保険を払っていなくても「求職者支援制度」を利用できます。この制度は、月10万円の生活支援給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講し、訓練終了後はハローワークの求職活動サポートを受けられるというもの。

 給付金の支給には本人収入が8万円以下、世帯全体の金融資産が300万円以下などの要件がありますが、たとえその要件を満たせなくても、職業訓練だけは無料で受講できます。

 訓練コースには、IT関連のWebアプリ開発科、プログラマ育成科、医療事務、介護福祉まで、さまざまなものがあります。

求職者支援の主なコース

基礎 ビジネスパソコン科、オフィスワーク科など
IT WEBアプリ開発科、Android/JAVAプログラマ育成科など
営業・販売・事務 OA経理事務科、営業販売科など
医療事務 医療・介護事務科、調剤事務科など
介護福祉 介護職員実務者研修科、保育スタッフ養成科など
デザイン 広告・DTPクリエーター科、WEBデザイナー科など
その他 3次元CAD活用科、ネイリスト養成科など
出所:厚生労働省のホームページより引用

 FIREを達成したからといって、そのあと、仕事をしてはいけないという決まりはありません。運用に失敗して仕方なく職探しする状況になる前から、「生きがい」「やりがい」「社会とのつながりを保つ」ために、働くためのスキルや働ける場所を確保しておくべきです。

 たとえば、FIRE達成後でも、ホームページ作成に力を入れて広告収入を得たり、人脈を広げて起業に挑戦したり、投資とはまったく畑が違う農業や福祉、教育など「好きな仕事」を見つけることができます。自分が社会の中で活躍できる場所を常に持っていることは、リスク管理の意味からも大変重要です。

当座のお金の工面に使える「生活福祉資金貸付制度」

 投資にはリスクがつきものです。2008年秋に起きたリーマンショック級の大暴落や金融恐慌が発生すると、資産半減どころか、その大半を失う可能性もあります。当座のお金にも困ったときは、国の「生活福祉資金貸付制度」も利用できます。

 新型コロナウイルス感染症の影響で拡充された「緊急小口資金貸付」なら、最大20万円(コロナ禍の影響でない場合は最大10万円)までを無利子、保証人不要で借りることができます。返済期限は2年以内です。

「総合支援資金貸付」を利用すると、生活資金として1人世帯で最大15万円を3カ月間借りられます。ただし、連帯保証人がいない場合、年1.5%の貸付利子がかかります。

本当に困ったら生活保護の受給も視野に

 運用の失敗で資産がほぼすべてなくなり、援助してくれる親族もおらず、病気などで働けなくなった場合は「生活保護」の申請も考えましょう。収入が各地方自治体の決めた最低生活費に満たない場合、その差額を保護費として支給してもらえます。

 申請は住民票のある市区町村にある福祉事務所の生活保護担当課で行います。銀行預金の通帳の提出や扶養できる親族がいないかどうかの調査があり、生活保護の受給期間は収入の報告やケースワーカーの訪問調査を受ける必要があります。

 東京都の単身者の生活扶助額はおよそ7万~8万円といわれています。これに住宅扶助が加わり、医療費などは原則無料になります。

 こうした貸付制度や生活保護に関しては、申請をためらう人もいますが、お金に困ったからといって高金利のカードローンに頼ったり、友人などに無理に借金を申し込んで人間関係が崩れたりする前に、公的な支援制度をうまく活用しましょう。

 特に生活保護は、憲法25条に規定された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」です。毎月の収入が最低生活費を下回っていて、努力しているのにそれでも生活費が足りないという状況に陥った場合、どんなに若い人でも受給することができます。生活保護申請を支援するNPO法人などもあるので、困ったときは相談しましょう。

FIREへ踏み出す前にその後のリスクも考える

 家族構成や生活スタイルが変化して当初想定していた生活費では暮らせない、運用している資産が激減して運用益だけでは暮らせない、資産自体がほぼなくなるほど投資でダメージを受ける、病気やケガで再び働きたくても働けなくなるなど、FIREにはさまざまなリスクがあります。

 FIREを始める前からそういったリスクへの対処・防御策を考え、FIRE達成後もいざというときはまたすぐに働けるだけのスキルや人脈、人生を共に過ごす大切な家族との良好な関係、地域・コミュニティーとのつながりを築いておくことが重要です。

 ただ単に「働かないで、だらだら遊んで暮らす」のはFIREではありません。経済的な自立という、時に「壊れやすい」ステータスを守るためには、常日頃からの準備や努力が大切です。