人生の残り時間は長くない。後悔だけはしたくなかった

CASE04:エルさん

▼Profile
 大手金融機関に就職した2年目に株式投資を開始。40歳のとき、「2020年までに株式投資で1億円の資産を築き、早期リタイアする」という目標を掲げる。2019年、予定より1年早く1億円を達成し、FIREを実現。

 米国株投資ブログ『【L】米国株投資実践日記』を運営。今年2月には『英語力・知識ゼロから始める! 【エル式】米国株投資で1億円』を刊行した。

エルさんのFIREデータ
FIREを実現した年齢 51歳
FIREを実現したときの資産額 1億円超
資金づくりの方法 株式投資(主に米国株投資)
現在の収入 株式の配当金および値上がり益

FIREを目指そうと思ったきっかけは?

明るい未来が待っているとは思えなかった

 私は大手金融機関に勤務していたのですが、40代になった頃から将来の身の振り方を考えるようになりました。というのも金融機関では、50歳前後になると第一線を退き始めます。

 役員のポストが約束された一部の社員を除いて、グループ会社や取引会社への出向を命ぜられ始めるのです。

 もちろん、それを受け入れる人も大勢います。しかし、私はそういう状況に立たされてまで残る気にはなれなかった。そこで50歳を過ぎたら早期退職し、別の生き方をしよう、と考えるようになりました。

 若い頃から株式投資を行っていたこともあり、当時5,000万円ほどの資産を有していました。だから、これから10年間頑張って働き、投資も続ければ1億円の大台に乗せることも夢ではないだろうと。それで、2020年までに1億円を貯めて、早期退職するという目標を立てました。

どのような手法で1億円の資産を築いた?

米国株投資に切り替え、運用パフォーマンスが劇的に向上した

 投資を始めてしばらくは日本株と投資信託に投資していました。ユニクロがブレイクする前にファーストリテイリングの株を買って大きな利益を出すなど、成績はまずまずでした。ただし、1度、大きなつまずきを経験しています。

 いうまでもなくリーマンショックのときで、資産をおよそ半分に減らしました。もっとも、我を忘れてろうばい売りしなかったことと、銘柄構成を見直したことが幸いし、2年足らずでピーク時まで戻すことができました。

 その後、目安としてまず、資産を1億円に増やすことを目標にしましたが、その時に1つ、大きな方向転換をしました。日本株投資から米国株投資にシフトしたことです。

 以前は、米国株は一般口座でしか買えないなど敷居が高かったのですが、2015年ごろから特別口座で買えるようになったため、米国株メインに切り替えました。

 なぜ米国株かというと、米国には高い収益力を誇る企業がたくさんあるからです。日本の大企業は経営が安定しているというよさはありますが、総じて成長率が低い。そのため、長期にわたって継続的に株価が上がり続ける銘柄は限られます。

 それに対して、米国にはGAFAMをはじめ、高いブランド力を武器に世界中でビジネスを展開している、高収益企業が山ほどあります。

 実際、米国株投資にシフトし、運用パフォーマンスは劇的に向上しました。そしてそのおかげで、計画より1年早い2019年に早期退職を達成しました。もし日本株にこだわっていたら、今もまだ会社に勤めていたかもしれません。

会社を辞めるとき、迷わなかった?

人生の残り時間は長くない。後悔だけはしたくなかった

 実は会社を辞める前、ちょっとだけ転職活動を行いました。気持ちはFIREに傾いていましたが、自分の市場価値はどのくらいなのだろうかという思いがあり、話を聞くだけ聞きにいってみたんです。

 そうしたらある会社の上層部の方にこういわれました。「私があなただったら、今の会社に1分でも長くいます」と。

 そのときは少し心がぐらつきました。当時、私の年収は1,000万円を超えていました。それを捨てるのはやっぱり愚かな行為なんだろうか…と。

 最近、人生100年時代といわれますが、実際にはそこまで長生きする人は、ほんのひと握りです。100歳どころか、50代、60代で亡くなる人も大勢います。私の場合も、50代になってから、昔の同級生や同僚が亡くなったという知らせがたびたび届くようになりました。

 つまり、自分だっていつどうなってもおかしくないわけです。

 だったら、たとえ1,000万円の収入があろうと、貴重な時間を、本意でない仕事のために費やすのは決して賢明とはいえないだろうと思いました。万が一、大病を患って体の自由が利かなくなったりしたら、「さっさと会社を辞めて、好きなことをやっておけばよかった」と絶対に後悔するでしょうし。

 それで、結局、当初の予定通り、早期退職を決断しました。

FIRE後の生活は?

好きな趣味を満喫。ジム通いも始めた

 今も株式投資は行っていますし、投資ブログも続けているので、完全にリタイアしたわけではありません。とはいえ、それら以外に仕事はしていないので、職業は「無職」になるのかもしれません(笑)。

 会社を辞めて暇でしょうがないという話をよく聞きますが、私の場合は、それはありません。本を読むのも映画を見るのも音楽を聴くのも好きですし、街を歩いたり、おしいものを食べに行ったりするのも大好きで、趣味は多いほうです。ちなみに本は年間100冊以上読みます。

 あと、会社を辞める少し前からジムに通うようになりました。もともと病気1つしたことがないクチで、運動なんてしたことがなかったのですが、さすがに毎日家にいたら運動不足になるかなと思いまして。今は週に2、3日通っています。

どう変わった?FIREのBEFORE→AFTER

  FIRE前 FIRE後
起床時間 5~6時 6時。7時に目覚ましをセットしているが、
6時には起きてしまう
通勤時間 1時間強 0分
1日の労働時間 9時間 1、2時間。ブログ執筆や取材対応など。
銘柄研究にはほとんど時間をかけていない。
毎月の生活費 退職前と特に変化なし
毎月の収入 退職前と特に変化なし
収入源 会社の給与・ボーナス 株式の配当金および値上がり益、
取材・セミナー報酬など
肉体的疲労度 普通
精神的疲労度 やや大
毎日の充実度 やや不満足 100%

FIRE後のマネー収支は?

米国株に加え日本株投資も好調なので資産は増加

 会社員時代は毎月決まったお金を妻に渡し、家計を管理してもらっていました。資産の運用は得意ですが、家のことはよくわからないので、家計の管理は妻に任せたほうが間違いないと思いました(笑)。

 FIRE後の今もそのやり方を変えていません。毎月の給与はありませんが、以前と同じ金額を妻に渡しています。

 お金の出所は、1つは保有株の配当金(一部分配金)です。私の投資法は、基本的には値上がり益を狙うやり方です。ですので、配当金を重視したポートフォリオは組んでいません。とはいえ、配当がつく銘柄も多く保有しているので、年間に受け取る配当金は200万円を超えます。

 それより多いのが株を売買して得た利益です。米国株投資で1億円の資産を築いたといいましたが、米国株は長期保有であり、ほとんど売却することはありません。ただ、会社を辞めた後、日本株投資を再開したんです。

 金融機関の社員という肩書きがなくなり、何でも買えるようになったし、銘柄研究したりする時間もたっぷりあるので。日本株は短期的な値上がり益を狙うことが多いので、その利益を生活費に回しています。

 ちなみに日本株投資を再開した2019年は、日本株の売買だけで2,000万円の利益を出しました。2020年はコロナショックもあって苦戦しましたが、それでもプラスを確保しました。会社を辞めて2年以上経ちますが、資産は減っていません。むしろ逆に増えているのが実情です。

FIREしてよかったと思うことは?

家族と過ごす時間が増えた

 自由に使える時間が潤沢にある、これにつきると思います。会社員時代にはやりたくてもできなかったことが、できるようになりました。

 その1つが、家族と過ごすことです。会社員の頃も子供たちとはできるだけコミュニケーションを取るようにしていましたが、私の帰りが遅いこともあり、時間的には多くなかったと思います。今は毎日、家族4人で夕食を取りますし、断然、会話が増えました。

 それに、私は毎日が休日のようなものですから、家族旅行もいつでも行けます。実際、退職後、長男とはシンガポール、次男とはマレーシアに行き、子供との仲を深めるいい時間を過ごせました。

 さらに、退職後、母とはベトナムに行き、親孝行もできました。その後、コロナがはやって海外旅行はしにくくなりましたが、世の中が落ち着いたら、また行こうと思っています。

エルさんのFIRE LIFE ある一日

時刻 行動
6:00 起床。日経新聞電子版の記事をチェック。
興味深い記事があったら、
ツイッターのフォロワーにシェアする
7:00 朝食
9:00 株式市場が開くと同時に、その日の動きを確認。
興味を引く銘柄があれば調べて売買を検討する。
何もなければすぐに退場する
12:00 昼食。この日は家の近くのビストロに行き、ランチを楽しむ
13:30 自宅に戻り、ブログ執筆、読書など
16:00 家の近くのジムに行く
19:00 家族とともに夕食
20:00 読書、映画鑑賞など
22:30 米国市場が開く(冬時間は23時半)ので、
保有銘柄の動きをチェック
24:00 就寝

FIRE志願者にアドバイスを!

「今しかできないこと」を大事にしてほしい

 私の好きな映画の1つに、2018年に大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』があります。イギリスのロックバンド、クイーンのボーカリスト、フレディ・マーキュリーの生涯を描いた作品ですが、当時、これを見て「人は必ず死ぬんだ」と改めて思い知らされました。

 そして、私は、先々の準備ばかりで、今できることを先送りする人生を変えようと考えました。

 もちろん、将来のためにお金を残すことは大事です。しかし、それだけを目的に日々を過ごすのは、なにかもったいないように思います。人生はいつ幕を閉じるかわからないのですから、「今しかできないこと」があるなら、それを優先すべきではないでしょうか。