開始決定は12月というシナリオは変わらず?

 8月の最初の注目材料である米雇用統計が先週6日に発表されました。注目の非農業者部門雇用者数(NFP、Non Farm Payrolls)は94.3万人増と予想(87万人増)を上回り、失業率も5.4%と予想以上の改善を示し、パンデミックが始まった昨年3月来で最低の失業率となりました。

 また、賃金の伸びも前月比+0.4%と予想を上回ったことから、FRB(米連邦準備制度理事会)のテーパリングが早まるとの期待が高まり、米10年債利回りは1.24%台から1.29%台に上昇し、ドル高となりました。

 ドル/円も1ドル=109円台後半から110円台前半に上昇しました。過去3カ月は米雇用統計発表後、円高になる相場が続きましたが、さすがに今回は良好な結果から上昇後の水準は維持しています。ただ、上昇の勢いは鈍く、直近の高値水準である110.60~110.70円近辺には届きませんでした。今週はこの水準を抜けるかどうか、抜けても111円台に乗せるかどうかが注目ポイントになりそうです。

 米雇用統計が予想を上回ったことから、テーパリング時期が早まるのではないかとの見方から金利やドルは反応しました。この見方は大勢かというとそうでもないようです。今回の雇用統計発表前に一部のFRB高官からは、「今後2回(7、8月分)の雇用統計が前回6月と同じように好調なら、必要な進展があったといえる」との声が出ていましたが、テーパリングの開始決定については、学校再開や追加給付終了などで雇用回復が見込まれる9月分のデータまで待ちたいと考えるFRB高官が多いようです。

 大手の米投資銀行も今回の結果を受けても「開始決定は12月というメインシナリオは変わらない」と時間軸はぶれていないようです。従って今回の米雇用統計が市場に与える影響は限定的と考えられます。ドル/円に対する影響も限定的と予想されます。

FRBが金融政策を変更する時の一連の流れを整理

 以前このコラムでFRBが金融政策を変更する時の一連の流れについてお話ししましたが、その流れが一歩進んだのでもう一度振り返ってみたいと思います。

 FRBの現在の金融政策は緩和政策なので、政策変更とは金融緩和から金融引き締めということになります。その流れとしては、

「(1)量的緩和→(2)量的緩和縮小開始→(3)量的緩和縮小終了→(4)利上げ開始→(5)保有資産の段階的縮小開始」となります。

 現在、焦点となっているのは、現状の(1)「量的緩和」から(2)の「量的緩和縮小開始」の時期がいつかということですが、さらに(2)の段階は細かく段階が分かれ、(a)「縮小検討の議論開始」→(b)「縮小を示唆」→(c)「FOMCで縮小開始を表明」→(d)「縮小開始」となります。

 7月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、「今後の複数回の会合で引き続き進捗状況について評価する」と表明し、テーパリング開始に向けた議論が進んでいることを示唆しました。先程の流れでいうと、(2)-(a)の段階に入ったことになります。

 そして「今後の複数回の会合で評価する」となると、年内のFOMC開催月は9月、11月、12月の3回ですので、9月と11月のFOMCで状況をみて12月にテーパリングの開始時期を表明し、来年1月に開始とのスケジュール感がメインシナリオになりそうです。今回の雇用統計はよかったのですが、やはりこのスケジュール感を早めることにはならなさそうです。

雇用回復の回復ペースがポイント

 今回の雇用統計ではNFP(米国非農業部門雇用者数)が94万人と急速に回復してきていますが、それでも就業者数はコロナ禍前の水準を、約570万人下回っています。2008年のリーマンショックの時には約870万人の雇用が喪失し、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和から政策変更に動き出したのは、雇用喪失が250万人にまで回復してきた時点でテーパリングに言及したといわれています。そして雇用喪失が100万人にまで回復してきた時点でテーパリングを開始したと言われています。

 それに当てはめると、今回、テーパリングに言及するには今後約300万人が回復した時点(雇用喪失270万人)、テーパリング開始は約470万人が回復した時点(雇用喪失100万人)となります。この先、もし、月100万人ペースで回復すれば、3カ月後にテーパリング言及、5カ月後にテーパリング開始ということになります。このスケジュール感は先程述べたメインシナリオ(来年1月開始)と合致することになります。

 つまり、今後の雇用回復が月100万人ペースで回復するかどうかがポイントになりそうです。6月、7月と2カ月連続で90万人を超える雇用回復となってきたことから、この先も100万人近くを維持する可能性は十分予想されます。9月に入って追加給付が終了し、学校が再開されると雇用回復が加速する可能性もあります。一方で「デルタ株」が蔓延し、感染懸念から接客が必要なサービス業を中心に職場復帰が消極的になって回復ペースが鈍る可能性もあります。

 8月9日に米労働省から発表された6月の雇用動向調査によると、求人数は1,000万人を超えていますが、失業者数は948万人と求人数が失業者数を上回る状態がまだ続いている状況となっています。手厚い失業給付や「デルタ株」懸念で職場復帰に消極的な様子が窺えますが、この状況が9月に入って改善されるかどうかに注目です。