コンセンサス予想を上回る米国航空会社の決算
米国航空会社の2021年第2四半期決算が出そろいました。
サウスウエスト・エアラインズを除くすべての企業が、コンセンサス予想を上回りました。これは、新型コロナウイルスで昨年はどこへも行けなかった人たちが、コロナワクチン接種によって、堰(せき)を切ったように、旅行し始めたことが好業績の主因です。米国内、とりわけ西海岸への旅行が好調です。そして、懸念されていたビジネス客も戻ってきています。
米国航空各社によりそのアプローチには差がありますが、段階的に飛ばす旅客機の数を増やしています。
しかしその半面、大西洋路線、太平洋路線はまだ回復とは程遠い状態です。また、多くの航空会社が、政府からの支援金に助けられています。
いま新型コロナのデルタ株の感染拡大が話題になっていますが、各社の予約状況への悪影響は特に見られません。ただし今後、デルタ株は欧州、アジア諸国の入国規制を左右する要因になると思われます。
欧州は現在、米国からの旅行者に対し、門戸を開いています。一方、米国は対照的に欧州、中国、インド、ブラジルなどからの旅行者に対し、いろいろ制約をつけています。また英国を「旅行しないほうがいい国(do-not-travel warning)」に指定しました。
いずれにせよ、航空各社のここまでの業績の回復、ならびに今後の見通しのよさと照らし合わせて、株式市場の参加者は、これらの銘柄に関して悲観的すぎると思います。
米航空会社の決算見どころ1:アラスカ・エア・グループ(ALK)
アラスカ・エア・グループ(ALK)の第2四半期決算は予想を上回りました。
EPS(1株当たり利益)は予想▲45セントに対し▲30セント、売上高予想15.2億ドルに対し15.3億ドル、売上高成長率は前年同期比+262.7%でした。
・有償旅客マイル数(Revenue passenger miles)は8,712百万マイル(前年同期比+486.7%)
・座席有効マイル数(Available seat miles)は13,413百万マイル(前年同期比+211.4%)
・乗客マイル利回り(Passenger mile yield)は13.09セント(前年同期比▲29.9%)
・座席有効マイル当たり売上高(Passenger revenue per available seat miles)は11.38セント(前年同期比+16.5%)
・座席有効マイル当たり費用(CASM)は9.2セント(前年同期比▲57.9%)
・客席稼働率は77.0%
ビジネス客はいまだ戻ってきていません。平均飛行距離(stage length)には大きな変化は出ていません。
機材に関しては、2021年末をメドに10機のエアバスを投入します。
営業費用は、旅行代理店へのコミッションの支払いの増加、クレジットカード・チャージの増加などで増えています。しかし、これは売上高が増えるにつれて自然に増えてしまう変動費なので、心配していません。
マイレージが失効する前に使ってしまいたいと考えている消費者が多いので、現在はマイレージ利用による旅行客が、普段の4倍くらい増えています。
シアトルの雇用市場はタイトで、地上職員などの雇用は難しくなっています。
米航空会社の決算見どころ2:アメリカン・エアラインズ(AAL)
アメリカン・エアラインズ(AAL)の第2四半期決算はコンセンサス予想にほぼ一致する内容でした。
EPSは予想▲1.72ドルに対し▲1.69ドル、売上高は予想74.8億ドルに対し74.8億ドル、売上高成長率は前年同期比+361.0%でした。
・有償旅客マイル数は42,022百万マイル(前年同期比+481%)
・座席有効マイル数は54,555百万マイル(前年同期比+219%)
・乗客マイル利回りは15.57セント(前年同期比+1.6%)
・座席有効マイル当たり売上高は12.00セント(前年同期比+85%)
・座席有効マイル当たり費用は12.90セント(前年同期比▲46.4%)
・客席稼働率は77%
デイリー・キャッシュ・ビルドは100万ドル/日でした。第2四半期末の時点での手元流動性は213億ドルです。
中小企業の出張が復活し始めたことで、ビジネス客が増えつつあります。
欧州路線は、欧州各国が米国からの旅行者に門戸を開放した関係で需要が戻り始めています。これらのことを踏まえ、一時閉鎖していたクラブ・ラウンジを再開しています。
予約状況に目を転じると、9月以降は現在35~40%予約済みとなっています。夏場に極めて強かったレジャー行楽客は季節的に一段落すると見られるので、今後はビジネス客を取り込むことを狙います。
昨年、新型コロナがまん延した際、座席予約システムの売り上げ最適化アルゴリズムが、もはや通用しないことが明らかになりました。
そこで、従来の経験則を無視し、新型コロナの状況下での売上高の最適化を模索しました。
具体的には、旅行日から2週間以内の直前予約客は新型コロナでも高い値段を払うことから、この土壇場の客をたくさん取り込めるように、座席キャパシティーを設定しました。
現在の予約状況から判断すると、10月くらいからビジネスの出張が本格的に戻ってくる見込みです。
第3四半期のキャパシティーは2019年と比べて▲15%から▲20%の水準に設定します。
第3四半期の特殊要因を除く税引き前マージンは▲3%から▲7%を見込んでいます。
米航空会社の決算見どころ3:デルタ・エアラインズ(DAL)
デルタ・エアラインズ(DAL)の第2四半期決算は予想を上回りました。
EPSは予想▲1.35ドルに対し▲1.07ドル、売上高は予想62.5億ドルに対し71.3億ドル、売上高成長率は前年同期比+385.6%でした(なお、デルタ・エアラインズの場合のみ、以下のデータの比較が2020年ではなく2019年との比較になっています)。
売上高の内訳
エコノミークラス:27.97億ドル(2019年同期比▲53%)
ビジネスクラス以上:17.56億ドル(2019年同期比▲56%)
ロイヤリティー・トラベルアワード:4.28億ドル(2019年同期比▲43%)
トラベル関連サービス:3.58億ドル(2019年同期比▲45%)
ジェット燃料販売:9.62億ドル(比較なし)
ロイヤリティー・プログラム:4.39億ドル(2019年同期比▲9%)
その他:1.35億ドル(2019年同期比▲20%)
路線別売上高
国内線:44.78億ドル(2019年同期比▲45%)
大西洋路線:2.88億ドル(2019年同期比▲85%)
南米路線:4.85億ドル(2019年同期比▲36%)
太平洋路線:8,800万ドル(2019年同期比▲87%)
・有償旅客マイル数は33,285百万マイル(2019年同期比▲47%)
・座席有効マイル数は48,529百万マイル(2019年同期比▲32%)
・乗客マイル利回りは16.04セント(2019年同期比▲11%)
・座席有効マイル当たり売上高は11.00セント(2019年同期比▲31%)
・座席有効マイル当たり費用は13.00セント(2019年同期比▲25%)
・客席稼働率は69%
旅客売上高は2019年第2四半期に比べると▲53%でした。
セラブルキャパシティー は2019年第2四半期に比べると▲39%でした。
6月は単月ベースで黒字化しました。またビジネスクラスが回復し始めました。
第3四半期のキャパシティーは2019年第3四半期に比べて▲28%から▲30%を計画しています。売上高は▲30%から▲35%を見込んでいます。
CASMは+11%から+14%を見込んでいます。
米航空会社の決算見どころ4:サウスウエスト・エアラインズ(LUV)
サウスウエスト・エアラインズ(LUV)の第2四半期決算はEPSが予想を下回りました。
EPSは予想▲23セントに対し▲35セント、売上高は予想39.4億ドルに対し40.1億ドル、売上高成長率は前年同期比+297.6%でした。
・有償旅客マイル数は27,689百万マイル(前年同期比+393%)
・座席有効マイル数は33,414百万マイル(前年同期比+87%)
・乗客マイル利回りは12.89セント(前年同期比+2.8%)
・座席有効マイル当たり売上高は10.68セント(前年同期比+171%)
・座席有効マイル当たり費用は10.22セント(前年同期比▲14.4%)
・客席稼働率は82.9%
4~5月は好調でしたが、6月はソフトウエアの人的ミスで遅延、キャンセルが生じ、苦戦しました。
現在のビジネス客比率は35%であり、これはサウスウエストにとっては少ない数字です。レジャーは好調です。地上整備員の確保の競争が激しいです。
米航空会社の決算見どころ5:ユナイテッド・エアラインズ(UAL)
ユナイテッド・エアラインズ(UAL)の第2四半期決算は予想を上回りました。
EPSは予想▲3.96ドルに対し▲3.91ドル、売上高予想53.3億ドルに対し54.7億ドル、売上高成長率は前年同期比+270.9%でした。
・有償旅客マイル数は28,514百万マイル(前年同期比+860%)
・座席有効マイル数は39,613百万マイル(前年同期比+342%)
・乗客マイル利回りは15.31セント(前年同期比▲33.2%)
・座席有効マイル当たり売上高は11.02セント(前年同期比+45%)
・座席有効マイル当たり費用は13.7セント(前年同期比▲71%)
・客席稼働率は72.0%
国際線、ビジネスクラスが予想より好調でした。夏から秋にかけて回復が続くと見ています。ユナイテッドが伝統的に弱いフロリダなど、国内のレジャー向け市場で必要なキャパシティーをしっかり確保したことが、売上高で予想を上回った主因です。
ユナイテッドは「ボーイング777型機」を主に国内の長距離路線に投入しています。
しかし、新型コロナによる需要減に対応し、バッサリとコストを落とす必要が出たため、ボーイング777は駐機したままです。
ハワイ路線はボーイング777が鍵を握っている関係で、これが飛んでいないということが同地域からの売上高のアンダー・パフォーマンスの原因となっています。
ボーイング777が再投入されれば太平洋、大西洋のハブ拠点の売上高が鋭角的に戻すと考えています。
第3四半期のキャパシティーは2019年第3四半期に比べて▲26%を予想しています。すでに第3四半期の売上高の6割は予約済みです。
出張需要回復なら、今の航空株は割安に放置されている
航空会社各社の第2四半期決算はエア・トラベル需要が戻ってきつつあることを実感させる内容でした。
次の第3四半期は季節的にレジャーではなくビジネスの需要が中心となるため、本当にビジネス出張需要が戻ってくるかどうかはやや不透明な面もあります。
航空各社の経営陣は決算カンファレンスコールで口々に「自信をもっている」という意味の発言を繰り返していました。もし彼らの言う通りになるのなら、今の航空株は割安に放置されていると思います。
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