米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。
米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合株価指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種株価指数」があります。
これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。
そこで2021年8月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2021年7月16日現在、為替は1ドル=110円で計算)。
その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な3つの違いについて、お伝えします。
米国高配当銘柄への投資の留意点
(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。
(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。
(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。
米国高配当株1:ジャナス・ヘンダーソン・グループ(JHG)
英国に本社を置く、グローバルな資産運用会社です。
340人以上の運用マネジャーを抱えながら世界中に25の拠点を有し、アクティブ運用に取り組み続け、長年にわたって世界中の投資家にパッシブ運用を上回る投資機会を提供しています。
時価総額は67億9,000万ドルで、日本円で約7,500億円となっています。
事業の注目ポイント
事業収入の内訳は「運用・委託報酬(Management fees)」で、続いて「株主管理報酬(Shareowner servicing fees)」「成功報酬(Performance fees)」「その他報酬(Other revenue)」となります。
事業収入の内訳
「運用・委託報酬」では、運用する金融商品から受け取る手数料を中心としており、この事業では既に新型コロナウイルス発生前の業績を上回って推移しています。
また、ジャナス・ヘンダーソン・グループはグローバルな資産運用組織であるため、自社の活動が社会に大きな影響を与える可能性があるとして、ESG(環境・社会・ガバナンス)の原則に沿って、投資活動を行っています。
競合他社
競合他社として、ブティック投資管理会社に株式投資を行う資産管理会社のアフィリエーテッド・マネジャーズ・グループ(AMG)、中国の富裕層向けに資産管理商品の販売を主たるサービスを提供するノア・ホールディングス(NOAH)、退職、投資管理、従業員福利厚生の3つのセグメントで事業を展開するボヤ・ファイナンシャル(VOYA)などが見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値を超えています。
また、配当は2021年4月29日に以前より6%増額し、四半期で1株あたり0.38ドルにするとの発表がありましたが、それとともに自社株買いの発表も行っています。
世界的な株高を背景に運用するファンドが好調であることで、業績は好調に推移しており、それに伴って株価も堅調に推移しています。
業績動向
2021年4月29日開示の四半期決算ではEPS(1株あたり利益)・売上高ともに市場予想を上回りました。
決算を受けての株価の変動はあまりありませんでしたが、その後、米国の株価上昇に伴いジャナス・ヘンダーソン・グループの株価も上昇しており、既にEPS・売上高については前年同期を上回るとともに、新型コロナ発生前の水準も超えています。
次回は7月29日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか、注目です。
注意点
FRB(米連邦準備制度理事会)のテーパリング発表によって、ジャナス・ヘンダーソン・グループの株価も大きく影響を受ける可能性があります。業種柄、マーケットの影響を受けやすいため、今後のFRBの動向によっては、株価が大きく変動する可能性がある点には注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:1.52ドル
配当利回り:3.85%
株価:39.42ドル(約4,300円)
権利落ち日は8月上旬予定(権利実施は8月下旬予定)です(2021年7月19日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は1.52ドル、配当利回りは3.85%、株価は39.42ドルで約4,300円から購入できます(2021年7月16日時点)。
2018年以降の最高値は41.43ドル、最安値は11.98ドルです(終値ベース)。
米国高配当株2:コージェント・コミュニケーションズ・ホールディングス(CCOI)
世界最大のインターネットサービスプロバイダーの一つで、高品質なインターネット、イーサネット、およびコロケーションサービスを提供しています。
北米、南米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、アフリカの6大陸にまたがって世界48カ国で事業を展開しています。
時価総額は36億6,000万ドルで、日本円で約4,000億円となっています。
事業の注目ポイント
事業の中心は「オンライン事業(On-Net)」で、続いて「オフライン事業(Off-Net)」「その他事業(Non-Core)」となります。
「オンライン事業」では、「VPN」においてethernet-services(イーサネットサービス)とSD-WANを、「Internet」において、Dedicated Internet Access、IP TransitとGlobal Peer Connectを、「Colocation」においては、Cogent Data CentersとUtility Computingのサービスを提供しています。
競合他社
競合他社として、24州の住宅および企業顧客にサービスを提供する完全統合ブロードバンド通信プロバイダーであるケーブル・ワン(CABO)、住宅とビジネスの顧客に、各種通信サービスを提供する総合通信会社であるルーメン・テクノロジーズ(LUMN)、消費者事業、無線事業、ビジネス・ネットワーク・サービス事業およびビジネス・インフラ・サービス事業を運営する多角経営の接続プロバイダーであるショー・コミュニケーションズ(SJR)などが見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値まで回復していませんが、既に新型コロナ発生前の水準を大きく超えて推移しており、配当は2015年以降、四半期ごとに連続増配中です。
北米のデータセンターや、マルチテナントオフィスビルなど、多くの市場にサービスを提供しており、それらの拡大も株価上昇の要因の一つのようです。
業績動向
2021年4月28日開示の四半期決算ではEPS・売上高ともに市場予想を上回りました。
EPS・売上高は共に前年同期を上回ると同時に、新型コロナ発生前の水準も超えています。
データトラフィックとストリーミングサービスの継続的な成長がコージェントコミュニケーションズの業績を押し上げており、今後も堅調な業績が予想されています。
次回は8月5日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。
注意点
米国以外の地域でのストリーミング利用率が、それほど高くないことが同社にとっては今後の成長要因です。しかし、裏を返すと、このシェアを取りこぼしたときに、今後の大きな成長が望めない可能性があることには注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:3.12ドル
配当利回り:4.05%
株価:77.01ドル(約8,500円)
権利落ち日は8月中旬予定(権利実施は9月上旬予定)です(2021年7月19日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は3.12ドル、配当利回りは4.05%、株価は77.01ドルで約8,500円から購入できます(2021年7月16日時点)。
2018年以降の最高値は90.75ドル、最安値は41.65ドルです(終値ベース)。
米国高配当株3:モーリス・アンド・カンパニー(MC)
さまざまな業界に、財務アドバイザリーサービスを提供する独立系投資銀行です。
南北アメリカ、ヨーロッパ、中東、アジア、オーストラリアなどでM&A(合併・買収)、資本増強、リストラ、プライベートファンドアドバイザリーなどの包括的サービスを提供しています。
時価総額は35億7,000万ドルで、日本円で約3,900億円となっています。
事業の注目ポイント
事業は「アドバイザリーサービス事業(advisory services)」の単独事業です。
その中で、売り上げの中心は「米国事業(United States)」で約8割を上げており、続いて「欧州事業(Europe)」「その他地域事業(Rest of World)」となります。
地域別の売り上げ割合
モーリス・アンド・カンパニーは、「M&A」「買収防衛」「キャピタルストラクチャアドバイザリー」「プライベートファンド」「ソブリンアドバイザリー」など多岐にわたるサービスを提供しており、対象は富裕層から企業、政府まで幅広い層の顧客を対象としています。
競合他社
競合他社として、独立系の投資銀行顧問会社であるエバーコア(EVR)、多様な産業およびビジネスサービスなどを含む多様な分野のクライアントにアドバイスを提供するパイパー・サンドラー(PIPR)、金融スポンサー、機関投資家、政府へ戦略、リストラと特別状況、プライベートファンドなどについての助言および配置サービスを提供するPJTパートナーズ(PJT)などが見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値を超えており、配当は四半期ごとに変動していますが、ここ2四半期は年利回り4%前後となっています。
昨年、M&Aの動きが下火になるなど、モーリス・アンド・カンパニーが展開する事業にも影響が出ましたが、一方でリストラ案件が増加するなどし、現在では新型コロナ発生前の水準を超えるまで業績は回復しており、それに伴い株価も上昇しています。
業績動向
2021年4月28日開示の四半期決算では、EPS・売上高ともに市場予想を上回りました。
決算を受けて株価はわずかに下落しましたが、すぐに回復しその後、横ばいで推移しています。
決算発表までに大きく株価が上昇していたため、好決算を受けての株価の変動は少なかったようです。次回2021年8月4日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。
注意点
今後も業績は堅調に推移する事が予想されていますが、配当が四半期ごとに変動するため、想定より受け取りが少なくなる期となる可能性もあり、その点には注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:2.2ドル
配当利回り:4.08%
株価:53.92ドル(約5,900円)
権利落ち日は8月上旬予定(権利実施は9月下旬予定)です(2021年7月19日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は2.2ドル、配当利回りは4.08%、株価は53.92ドルで約5,900円から購入できます(2021年7月16日時点)。
2018年以降の最高値は57.46ドル、最安値は21.96ドルです(終値ベース)。
米国高配当株4:ニーナ(NP)
2004年にキンバリークラークからのスピンオフにより独立しました。
プレミアムニッチ市場を対象に、特殊材料企業としてさまざまな製品を作り出しています。
「ボックスラップ」や「医療用パッケージ」、「研磨布紙」、「感圧粘着テープ」など紙をベースにその技術から派生したさまざまな商品を展開しています。
時価総額は8億2,500万ドルで、日本円で約908億円となっています。
事業の注目ポイント
事業の中心は「工業技術・科学技術製品事業(Technical Products)」で、売り上げの約6割を上げており、続いて「用紙・包装事業(Fine Paper and Packaging)」となります。
「工業技術・科学技術製品事業」では、「ろ過製品(filtration)」が売り上げの中心となっており、セルロースベースの不織布や、メルトブロー不織布などの生産を行っています。
これらの製品は、産業用ろ過市場の拡大とともに売り上げを伸ばしており、今後も世界的な環境への取り組み拡大などにより、さらに市場規模が拡大していくことが予想されています。
競合他社
競合他社として、住宅建設、修理およびリフォーム、屋外構造に使用される製品を製造するルイジアナ・パシフィック(LPX)、子会社を通じて、木材、木材複合材、その他の製品を小売、建設、工業などの3つの主要市場に供給する持株会社であるUFPインダストリズ(UFPI)などが見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値まで回復していません。
また、配当は連続増配こそ止まったものの、昨年と同じ水準を維持しています。
「ろ過製品」の売り上げの大幅な増加などによる業績の改善によって、株価は少しずつ戻ってきていますが、まだ新型コロナ発生前の水準までは回復していません。
今後は2021年4月6日に買収した「剥離紙」を手掛ける、「Itasa」がニーナの業績に寄与し、コロナワクチンの流通とともに、プレミアムニッチ市場の需要回復に伴う株価回復が期待されます。
業績動向
2021年5月5日開示の四半期決算ではEPSは市場予想を上回りましたが、売上高は市場予想を下回りました。しかし、EPS・売上高ともに前年同期の水準まで回復しておらず、「工業技術・科学技術製品事業」を中心とした業績回復が待たれます。
次回2021年8月4日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。
注意点
取り扱い製品が多岐にわたっているため、よく言えばリスク分散されているのですが、一方で、株価の回復は1事業に特化している企業に比べて遅くなる傾向があるため、注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:1.88ドル
配当利回り:3.83%
株価:49.01ドル(約5,400円)
権利落ち日は8月中旬予定(権利実施は9月上旬予定)です(2021年7月19日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は1.88ドル、配当利回りは3.83%、株価は49.01ドルで約5,400円から購入できます(2021年7月16日時点)。
2018年以降の最高値は95.95ドル、最安値は34.82ドルです(終値ベース)。
米国高配当株5:エクセロン(EXC)
傘下に複数の電力会社を抱える米国有数のエネルギープロバイダーである持株会社です。
米国最大の原子力発電所を運営しており、原子力発電が米国のゼロカーボンエネルギーの60%を生成していることから、今後の温室効果ガス排出量の削減目標に向けて大きな役割を担っています。
その他、電力の生成においては、ガス、風力、太陽光、水力発電を用いるなど米国で最もクリーンで低コストな電力生成を行っています。
時価総額は449億3,000万ドルで、日本円で約4兆9,400億円となっています。
事業の注目ポイント
事業の中心は「エクセロン・ジェネレーション社(Generation)」で売り上げの約6割をあげており、続いて「ComEd社(Commonwealth Edison Compan)」「PHI社(Pepco Holdings LLC)」「BGE社(Baltimore Gas and Electric Company)」「PECO社(PECO Energy Company)」となっており、各社がそれぞれの地域でエネルギー送達事業を行っています。
会社別の売り上げ割合
「エクセロン・ジェネレーション社」は大規模な発電も行っており、その約6割が原子力発電で、それ以外に水力・風力・太陽光・天然ガス・石油燃料を用いて発電を行っています。また、「ComEd社」ではイリノイ州最大の電力会社として電線管理を中心に事業展開しています。
競合他社
競合他社として、エネルギー関連事業およびサービスの開発と管理に注力するDTEエナジー(DTE)、複数の伝統的な電力会社とSouthern Powerによる電力販売やSouthern Company Gasによる天然ガスの流通を担う持株会社サザン(SO)などが見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値まで回復していませんが、配当は昨年と同じ水準を予定しています。
株価が戻っていない要因の一つとして、今年発生したテキサス州の大寒波があります。この寒波によって、エクセロンの発電設備にも影響があり、結果業績に悪影響が出ました。
現在、コスト削減などを行うことで株価は徐々に回復しており、今後はクリーンエネルギー政策を追い風に、昨年の高値を超すことができるか注目です。
業績動向
2021年5月5日開示の四半期決算ではEPSは市場予想を下回り・売り上げは市場予想を上回りました。テキサス州を襲った大寒波の影響により業績に影響が出ており、そのようなことからEPSが市場予想を下回りました。
今後は、NextEra Energy(NEE)やDuke Energy(DUK)などの米国大手電力会社を大きく上回るゼロカーボンエネルギー発電企業として、連邦政府の政策を追い風に業績が拡大することが期待されます。
次回2021年8月4日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。
注意点
9.11以降、多額の投資を行い、核施設の防御を強化してきました。加えて、政府防衛機関および諜報機関とも緊密に連携し続けています。それは一方で、外部からの攻撃対象となりえる施設であることの裏返しであり、そういったリスクがあることには注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:1.53ドル
配当利回り:3.32%
株価:45.99ドル(約5,000円)
権利落ち日は8月中旬予定(権利実施は9月中旬予定)です(2021年7月19日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は1.53ドル、配当利回りは3.32%、株価は45.99ドルで約5,000円から購入できます(2021年7月16日時点)。
2018年以降の最高値は50.95ドル、最安値は29.98ドルです(終値ベース)。
【要チェック】
リーファス社の公式YouTubeチャンネル『ニーサ教授のお金と投資の実践講座』では、同コラムの他にも動画でお金と投資の知識を学ぶことができます。
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