香港株式相場はやや低調な動き

 ここ1カ月の香港株式相場はやや低調な動きとなりました。

2021年1月以降の主要株価指数の動き

注:2020年12月最終取引日の値=100
出所:各取引所統計から作成(直近データは2021年7月19日、NYダウ平均株価は7月16日)

 香港ハンセン指数は6月25日、3月以来の高値に迫る水準まで上昇したのですが、そこから急落、7月9日には年初来安値(場中ベース)を記録しました。その後は戻り歩調にありますが、上値は少し重いようです。

中国民営企業の米国上場、何が問題だったのか?

 6月30日にニューヨーク市場に上場したばかりの滴滴出行(DIDI)ですが、7月4日、個人情報の収集に関して“インターネット安全法”で定める規定に著しく違反しているとして、中国当局からアプリの新規ダウンロードの停止を命じられたことから、ハイテク企業全体への管理強化が嫌気されました。

 共産党中央委員会弁公庁、国務院弁公庁は6日、「証券違法活動を法に基づき厳しく打ち据えることに関する意見」を発表しました。

 証券取引に関するいろいろな違法行為に厳しく対処するといった内容ですが、その中には海外上場に関する違法行為についても厳しく対処することが盛り込まれていました。それで投資家は動揺したのです。

 中国民営企業の上場の仕方が問題となっています。

 民営企業では、IPO(新規株式公開)の主幹事を務める欧米系の投資銀行が、VIE(変動持ち分事業体)と呼ばれるスキームを用いて、企業リストラを行った上で上場します。

 まず、本社を租税回避地など本土以外に設置します。その上で新しく創る上場会社と本土の実質的な事業資産(企業)との関係を資本関係ではなく、テクニカルな契約関係として処理します。このようにして作られた企業であれば欧米の法制度上、中国政府からの管理を受けないで済むことになります。

 中国当局としては当然、おもしろくありませんが、自ら積極的にグローバリゼーションを進めようとしています。欧米がいうところのグローバルスタンダードの法解釈を黙認してきたのはそのためです。

 しかし、米国政府は昨年12月、外国企業説明責任法を成立させました。米国に上場する中国企業に対する監査を強化し、中国企業を排除しようとしています。ならば譲歩することはありません。新法によって海外上場企業に情報漏えいのリスクが出てくる以上、本土企業と同等か、それ以上に厳しく管理すべきだということになります。

株価暴落の危機を救った中国当局

 株価急落は中国当局の政策によるのですが、さらなる暴落の危機を救ったのも中国当局でした。

 中国人民銀行は9日大引け後、預金準備率を0.5ポイント(一部例外もあります)引き下げると発表しました。今年に入り原材料価格の上昇が顕著となっており、零細企業の経営が悪化しています。こうした零細企業に対して銀行が十分な支援を行えるよう、預金準備率を引き下げるのだと当局は説明しています。

 実施は15日からですが、この日は4-6月期の経済成長率が発表される日でもありました。金融緩和しなければならないほど景気が悪いのかといった懸念もあったのですが、結果は7.9%成長で、市場コンセンサスよりも0.1ポイント低いだけでした。

 加えて、香港市場は中国国内の市場であり、当局にとって重要な資本市場です。その点がニューヨーク上場企業と香港上場企業との根本的な違いです。多くの投資家がそれに気づき始めたこともあって、香港市場は落ち着きを取り戻しています。

米中覇権争いがビジネスチャンスになる!注目セクターは?

 相場は米中覇権争いによって振り回されている感があります。

 今回の注目セクターは、覇権争いがビジネスチャンスに結び付きそうな新型コロナワクチン関連セクターです。

 具体的には、研究開発型のベンチャー企業で軍と共同でウイルスベクターワクチンを開発する康希諾生物(06185)、ドイツのバイオ医薬ベンチャーであるビオンテック社と共同開発を行い、グレーターチャイナ圏でのmRNAワクチンの独占販売権を有する上海復星医薬(02196)、投資先である北京科興中維生物技術(シノバック、NASDAQ:SVA、売買停止中)が不活化ワクチンを開発する中国生物製薬(01177)、親会社である中国医薬集団(シノファーム)が不活化ワクチンを開発する国薬控股(01099)、画期的な新型コロナ治療薬の開発を進める開拓薬業(09939)などをピックアップしました。

 まず、世界各国のワクチン接種状況をご覧ください。

表:世界のコロナワクチン接種回数

順位 国名 累計(億回) 構成比
1 中国 14.14 39.9%
2 インド 3.91 11.0%
3 アメリカ 3.35 9.5%
4 ブラジル 1.19 3.4%
5 ドイツ 0.84 2.4%
6 イギリス 0.81 2.3%
7 日本 0.65 1.8%
8 フランス 0.61 1.7%
9 トルコ 0.61 1.7%
10 イタリア 0.59 1.7%
  その他 8.70 24.6%
合計   35.40 100%
出所:Our World Data
注:2021年7月16日現在

 世界最大の人口を持つ中国が接種回数では他国を圧倒しています。

 中国国内で使用されるワクチンは、一部を除き中国国内で生産されたものです。

 工業情報化部が7月16日に発表したデータによれば、中国の新型コロナワクチン生産能力は年間50億回分に達しており、国内の累計供給量は14億回分、海外は5億7,000万回分に達しているそうです。ワクチン生産でも、中国が世界を席巻しています。

新型コロナウイルス発生のナゾ:米中で陰謀論が渦巻く?

 新型コロナウイルスについては釈然としないことがたくさんあります。その起源ですが、現地に専門家グループを派遣し調査した結果、動物から中間宿主を通じて人に感染したとの仮説が最も有力だとWHO(世界保健機関)は今年3月に発表しています。

 そして、武漢ウイルス研究所から流出したとの説については、極めて可能性が低いとほぼ否定しており、起源論争に決着がついたかに見えました。

 それなのにバイデン米大統領は5月、武漢ウイルス研究所からの流出説を含めて新型コロナの起源に関して追加調査するよう情報機関に指示しています。

 武漢ウイルス研究所から流出したとする説について、トランプ前大統領は2020年4月の段階でそれを主張しました。理由として、同研究所のセキュリティー対策に問題があるというようなことを言っていますが、それはすでに、流行が起こる数年前から米国と武漢ウイルス研究所の間に人的交流があったことを示しています。

 遺伝子組み換えなどの最先端技術は米国が最も進んでいて、中国の研究者たちの多くは米国に留学し、その技術を学んでいます。また、米国国立衛生研究所による研究助成プログラムによる資金が、武漢ウイルス研究所に提供されていた可能性が米国で指摘されています。両国の間で、表に出しにくいことを以前から秘密裏に共同研究していた可能性も否定できません。

 こうした情報を前提として推測すると、武漢ウイルス研究所の内部に米国情報機関の内通者がいて、実際にトランプ前大統領やバイデン大統領が指摘するように、研究所内部で不手際が生じてウイルスが誤って流出しており、それを知った内通者が米国に伝えた可能性があります。しかし、米中関係の悪化を考えれば、米国に悪意があった可能性も否定できません。

 この問題について、中国外務省は度々その見解を披露しています。

 4月8日の記者会見において趙立堅報道官は、ショッキングなことを言っています。日米のマスコミが全く報じていないことですが、米国が中国に対して再調査を迫ることに対する反発として、米国のフォート・デトリック基地やウクライナなどの海外で展開している生物軍事化活動について情報公開を強く求めています。米国だけが「生物兵器禁止条約」で検査メカニズムを作ることに反対していると非難しています。

 もし仮に、新型コロナウイルスが何らかの人為的な遺伝子操作がなされた結果、誕生したのだとすれば、人類にとって非常に危険なものになるかもしれません。現時点では毒性は低くとも、本来自然界に存在しないだけに変異が早かったり、毒性が急に高まるかもしれません。

 さらに空想(?)を先に飛ばせば、もし仮に、生物兵器を使った戦争が差し迫っているとすればどうでしょうか。

中国市場・注目セクターは中国ワクチン関連

 いずれにしても、各国、特に米中にとっては、ワクチンや治療薬の開発は喫緊の課題です。

 これまでの実績からいえば、ワクチンの開発には非常に長い年月がかかっていました。あくまで一般論ですが最短でも、基礎研究に数年、フェーズⅠに1年、フェーズⅡに2~3年、フェーズⅢに2~3年、承認申請に1年程度かかると言われています。

 一方、康希諾生物(06185)の開発スケジュールを見ると、すさまじい速さです。

 2020年に入り新型コロナウイルスが突如として流行、同社はすぐにワクチン(Ad5-nCoV、ウイルスベクターワクチン)の開発を始めています。わずか55日でフェーズⅠ、フェーズⅡの臨床実験を完了させています。そして、軍科院生物工程研究所と共同研究する形でフェーズⅢを実施、海外でもロシアなどでフェーズⅢを実施しました。

 最終的には開発から1年後の2021年2月、条件付きで承認されました。海外については、2021年2月にメキシコ、パキスタン、3月にはハンガリー、4月にはチリで緊急使用許可が下りています。

 しかし、中国のワクチン開発だけが異様に速いわけではありません。米国のファイザーや、モデルナ、英国のアストラゼネカのワクチンも同様な速さで開発を終えています。

 理由が何であれ、ワクチン開発は米中にとって極めて重要であるということです。

 康希諾生物のワクチンがどれだけ売れるのかについて、正確に予想することなどできません。せいぜい、最大限どこまで生産能力があるかを予想し、そこから利益予想をするのが関の山です。

 今回紹介する銘柄については、短期的に業績がどうなるかというようなことではなく、長期的な視点から、覇権争いを展開する米中両国にとって、国家戦略としてワクチン開発は非常に重要であるという点に注目したいと思います。

注目の中国株1:康希諾生物(06185)

 天津市に拠点を置く民営のワクチン開発メーカーです。宇学峰会長は1998年、カナダのマギル大学で微生物学に関する博士号を取得、カナダの製薬会社に就職し、そこでワクチン開発などの指揮を執ったものの帰国。発起人の一人となり、2009年に同社を設立しました。

 研究開発主体の会社で、2020年12月末時点で新型コロナ、エボラ出血熱、脳膜炎、百日咳、肺炎、結核、帯状疱疹などの13の疾病に関して16種のワクチンを開発しています。

 2017年にはエボラウイルスのワクチン開発に成功、2018年12月期にはわずかに売り上げ(113万元、1,921万円、1元=17円で計算、以下同様)が計上されましたが、そのほかの期間は売り上げゼロが続きました。

 2020年12月期に入り新型コロナワクチンで、ようやく1,854万元(3億1,518万円)の売り上げが立ちました。さらに政府からの補助金が7,705万元(13億985万円)あったのですが、人件費、研究費、減価償却費などがかさみ、3億9,664万元(67億4,288万円)の赤字となりました。

 もっとも、中国をはじめ各国で新型コロナワクチン使用は急速に増えており、2021年1-3月期の売上高は4億6,676万元(79億3,492万円)、赤字は1,411万元(2億3,987万円)に縮小しました。

 現在、開発を進めている16種のワクチンの内、新型コロナワクチンを除くと、髄膜炎球菌感染症、エボラ出血熱に関するワクチンが実用化間近にあります。そのほか、6種類のワクチンについて臨床試験中、あるいは臨床試験の申請中です。開発中のワクチンには実用化できそうなものが多い点も評価できます。

 新型コロナワクチンの生産能力は今年、少なくとも2億剤(回分)に達すると同社は発表しています。また、合弁事業、外部委託による生産が加われば、2023年には年産5億剤に達すると予想する市場関係者もいます。平均単価が8ドル程度まで下落したとしても、その時点では40億ドル程度(4,400億円、1ドル=110円で計算、以下同様)の売り上げが期待できます。

 今後、業績は飛躍的に拡大すると予想されます。

注目の中国株2:上海復星医薬(02196)

 中国を代表する企業家の郭広昌氏が会長を務める復星国際(00656)の中核企業で医薬品の製造を手掛けています。2020年12月期の部門別売上高は、製薬が72.1%、医療機器、医療診断が17.3%、医療サービスが10.5%、医薬品小売・卸売が0.1%です。

 2020年12月期は6.2%増収、10.3%増益でした。製薬部門はコロナ禍のため、特に前半は不振でした。一方、医療機器、医療診断部門は新型コロナ検査試薬、救急医療器具、呼吸器などの売り上げが急増しました。そのため、全体でも増収増益を確保できました。2021年1-3月期は昨年の反動、新商品の寄与から、37.0%増収、46.8%増益となりました。

 同社に注目する最大の理由は中国最大規模の製薬メーカーでありながら、現在もアグレッシブな経営を続けている点です。

 2020年3月、ドイツのバイオ医薬ベンチャーでアメリカ・ファイザー社とも共同開発を行っているビオンテック社とmRNAワクチンの研究、中国大陸、香港マカオ地区の独占販売契約を結んでいます。

 2021年1月には香港特別行政区でのmRNAワクチン緊急使用の認可を得ており、5月にはビオンテック社と合弁会社を設立、mRNAワクチンの本土での製造を目指すと発表しました。

 また、7月11日にはTSMC、鴻海精密工業、永齢基金会へのmRNAワクチン販売契約を結んでいます。自社に開発力がなければ有力な海外企業と組んで素早く事業化する、こうした機動的な経営力を評価したいと思います。

注目の中国株3:中国生物製薬(01177)

 民営の大手製薬メーカーです。抗がん剤、肝臓病治療薬、整形外科用薬をはじめ、抗感染薬、呼吸器系薬などを幅広く製造しています。売上高(2020年12月期)が1億元(17億円)を超える製品が46種、10億元(170億円)を超える製品が5種あるなど、中国を代表する製薬会社の一つです。

 2020年12月期は2.4%減収、0.3%増益となりました。新型コロナ禍のために病院に通院する患者数が大幅に減少、さらに病院が制度に沿って集中的に医薬品を買い上げる際の入札価格が大幅に下がったこともあり、業績はやや厳しいものとなりました。

 ただ、2021年1-3月期は病院での診療活動が回復、医薬品集中買い上げ入札価格は安定し、新薬の貢献もあって、16.4%増収、118.5%増益となりました。

 新型コロナワクチンに関しては、北京科興中維生物技術(シノバック)に5億1,500万ドル(約567億円)を投資、15%の株式を取得する形で開発に参加しています。

 シノバックは不活化ワクチンを開発しています。2021年2月には中国から条件付きで使用許可が下りています。

 海外についてはインドネシア、ブラジル、チリでは1月、フィリピンでは2月、エジプトでは4月、ネパール、バングラデシュでは6月にそれぞれ緊急使用許可が下りています。WHOでも6月に緊急使用を承認しています。

 投資評価益の形ではありますが今後、業績への貢献が期待できそうです。

注目の中国株4:国薬控股(01099)

 中国医薬集団の中核企業で中国最大クラスの医薬品、医療機器、保健商品の卸売、小売会社です。部門別売上高(2020年12月期)では医薬品卸売が74.2%、医療機器が19.3%、医薬品小売が5.2%、その他が1.3%です。

 2020年12月期は7.3%増収、14.9%増益となりました。主力の医薬品卸売りは新型コロナ禍の影響で伸び悩んだのですが、逆に小売や医療機器の需要は高まりました。2021年1-3月期は27.4%増収、49.8%増益となりました。新型コロナ禍の反動で業績は急反発しています。

 親会社である中国医薬集団は世界最大の新型コロナワクチンの生産拠点を完成させました。これにより現在は、年産50億回分を超える生産能力を備えています。

 中国をはじめ、アラブ首長国連邦、バーレーン、ボリビア、セーシェル共和国、タイ、トルクメニスタンなどから正式に使用許可を得ています。WHOからは緊急使用許可を得ており、87カ国で緊急使用されています。

 ただし、これは親会社の事業であり、国薬控股の収益とは直接関係ありません。ですが、親会社の収益が上がれば、同社への事業拡大のための投資、あるいは資産注入などが可能になります。間接的な影響を考えれば、同社をワクチン関連銘柄の一つに加えてよいと考えます。

注目の中国株5:開拓薬業(09939)

 新薬の開発を目指す創薬ベンチャー企業です。アンドロゲン受容体に関する医薬品の開発に力を入れており、2020年12月末現在、6つの開発中の新薬が臨床段階に進んでいます。ただし、2020年12月期の売り上げはありません。

 同社に注目する理由は、新型コロナのワクチンではなく、治療薬の開発です。

 7月16日の公告によれば、同社が開発を進める新薬(プロキサルトアミド)がパラグアイから新型コロナの治療薬として緊急使用を許可されました。プロキサルトアミドは新世代の抗アンドロゲンで、新型コロナの治療薬のほか、前立腺がんや乳がんの治療薬候補です。

 新型コロナ治療薬としては、米国、ブラジルなどの南米、EU(欧州連合)、アジア諸国、地域でフェーズⅢを実施しています。

 よい結果を期待したいところです。