2020年はESGに関連した債券やローン等の投融資額が7,362億ドルで前年比6割増と急増しており、政府と中銀が主導する形で、持続可能な資源活用を促す「サステナブル金融」が拡大傾向にあり、特に「ESG債」は今年上半期終了時点で前年同期比3.4倍と発行ペースが加速する中、最近資金流入が顕著な分野では、環境や社会にプラスの影響を与える企業へ投資する「インパクトファイナンス」があり、「見せかけのESG」の排除を目的に、今年3月にEUで「サステナブル金融開示規則」が適用された事も追い風に、国連の持続可能な開発目標(SDGs)への成果を実質的に生み出す金融として期待が集まっています。

主なESG債     増加率(YoY) 資金使途
サステナビリティ債 5.2倍 環境対策や社会課題の解決の両方に資金を充てる
グリーンボンド
(環境債)
2.9倍 環境関連の事業に資金の使途を絞る
ソーシャルボンド
(社会貢献債)
52% 人権問題や貧困など社会課題の解決に資金を使う
サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB) 4.8倍 資金使途を特定事業に定めず、企業が環境や社会関連の目標を設定し、達成の有無で利率や償還時期が変化
インパクトファイナンス(投資) 42% 脱炭素や健康などの社会課題を解決して「社会的インパクト」を創出かつ、「経済的リターン」も生み出す金融
出所:日経新聞「ESG社債発行、世界で3倍 脱炭素で資金調達活発に」を基に作成
出所:GIIN「The 2020 Annual Impact Investor Survey」を基に筆者作成

 そこで、今回は世界的な潮流になりつつあるESGを投資対象とするETFをテーマに、その投資環境及び、脱炭素社会の実現に寄与する事が期待される優良銘柄をご紹介致します。

 まず、足元では大手運用会社を中心に、「ESG(環境・社会・企業統治)」分野に強みを持つ企業を買収する動きが広がっており、世界のESG投資額は2018年に約31兆ドルでしたが、ドイツ銀行によると、30年までに130兆ドルとなり、全運用資産の95%を占める事が予想される等、その市場規模の拡大を商機とする投資マネーの流入が顕著になっています。

ESG投資関連企業の買収事例
買収企業 被買収企業 投資対象 買収発表時期
バンガード・グループ(米) ジャスト・インベスト(米) 資産管理テクノロジー 21年7月
JPモルガンAM(米) キャンベル・グローバル(米) 森林投資 21年6月
S&Pグローバル(米) IHSマークイット(英) 気候変動に関連した情報等 20年11月
出所:日経新聞「環境投資会社 運用大手が買収」を基に筆者作成

 とりわけ、資産運用残高で世界2位の運用会社の米バンガードは低コストなインデックスファンドの先駆者として知られていますが、直近では創業初のM&Aとなるポートフォリオ自動作成ソフト提供会社を買収する等、オーダーメイド運用の基盤を強化する事で、個人投資家の間でも高まりつつあるESG関連銘柄への投資需要を取り込み、自ら運用するETFへの資金流入といった相乗効果を視野に、差別化を図っています。

(同社が運用するESG関連株式ETF/ファンド)

Ticker Name AUM
(in USD)
1 Year
Return
Geographic
Coverage
Incept.
Date
Expense
Ratio
ESGV ESG U.S. Stock ETF $4.5 b 43.51% U.S. only 2018/09/18 0.12%
VFTAX FTSE Social Index Fund $13.2 b 42.06% U.S. only 2019/07/02 0.14%
VEIGX Global ESG Select
Stock Fund
$548.6 m 41.49% U.S. and
international
2019/05/06 0.55%
VSGX ESG International Stock
ETF
$2.2 b 33.99% International
only
2018/09/18 0.15%
出所:Vanguard「Vanguard’s ESG lineup」を基に筆者作成

 今回は、上記より直近1年間のパフォーマンスが最優秀の「ESGV(ESG U.S. Stock ETF)」を分析対象として、その構成銘柄のうち、今後5年間で株価リターンの最大化(年率成長率)が予想される銘柄をご紹介致します。

【優秀銘柄】~ESGV~

      Revenue
Estimate
Growth
Estimates
   
  Ticker Industry Next Year
(2022)
Next 5 Years
(per annum)
Trailing Return
(1-year)
*Total ESG Risk score
1 DIS Entertainment 26.30% 51.70% 51.56% 16 Low
2 TSLA Auto
Manufacturers
33.90% 44.66% 135.59% 31 High
3 NFLX Entertainment 15.20% 44.55% 5.56% 17 Low
4 AMZN Internet Retail 18.50% 37.93% 16.86% 27 Medium
5 NVDA Semiconductors 10.00% 26.84% 90.94% 13 Low
6 BAC Banks
—Diversified
2.90% 24.27% 79.01% 26 Medium
7 FB Internet Content
& Information
13.12% 23.70% 43.32% 25 Medium
8 PYPL Credit Services 21.40% 23.51% 63.84% 18 Low
9 MA Credit Services 19.50% 21.03% 27.18% 16 Low
10 V Credit Services 19.60% 18.84% 24.72% 17 Low
出所:finance.yahoo.com上の各銘柄の「Sustainability」を基に作成
*総合的なESGリスク評価のスコアは、管理されていないリスクを0~100の絶対値で表しており、スコアが低いほど管理されていないESGリスクが少ない事を示す。

ウォルトディズニー

年間チャート

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 世界中で映画・娯楽サービスを手掛ける同社(NYSE:DIS)は、世代を問わず親しまれる「ディズニーパーク」等の遊園施設や「ミッキーマウス」といった数多くの有名ブランドをはじめ、近年では米メディア大手の21世紀フォックスの映画・テレビ部門の買収や2019年秋の開始から僅か1年半足らずで1億人を超える会員基盤を築いた「ディズニー+(プラス)」を筆頭に、動画配信事業を強化しており、独自作品や人気キャラクターが競争優位性の源泉と言えます。

 主要セグメントは2部門構成で、売上高全体の約8割を稼ぐ「Media & Entertainment Distribution」が中核であり、動画配信の「ディズニー+(プラス)」と「Hulu」に加えて、MLBやNFL等のプロスポーツ専門チャンネルの「ESPN」、テレビ放送の「ABC」といった多彩なコンテンツ・番組を提供しており、買収を重ねたピクサーやマーベル、ルーカスフィルムやマーベルのIP(知的財産)が他社との差別化に貢献しています。

 他方の「Parks, Experiences and Products」では、テーマパーク事業と映画配給を中心とするコンテンツ販売・ライセンス事業があり、人気映画「スター・ウォーズ」の派生作品「マンダロリアン」の関連グッズやマーベル最新作「スパイダーマン」の映画化に伴う収入に加えて、米国内で映画館の再開が進み「ラーヤと龍の王国」や「ノマドランド」を上映する等、ポストコロナでスポーツや映画など関連事業が急回復する事が期待されています。

 直近の第2Q決算では、売上高が前年同期比13%減かつ、純利益は96%増の減収増益となり、主力の動画配信サービス「ディズニー+(プラス)」の会員増加数が過去3四半期と比べて鈍化傾向にある一方で、2024年に2億3,000万~2億6,000万人の会員という目標について、チャペックCEOは「順調に進んでいる」と中期経営計画は予定通り遂行されています。

テスラ

5年チャート

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 EV世界最大手の同社(NASDAQ:TSLA)を率いるイーロン・マスク氏は世界でも類まれな起業家として、これまでに電子決済大手のペイパル、宇宙開発ベンチャーのスペースXなどの設立及び、5つの企業の現役経営陣として活躍する一方で、ツイッター上でのコメントで仮想通貨ビットコインの乱高下を引き起こす等、同氏の一挙手一投足は市場関係者からも注視されています。

 2020年通期にはEV世界販売台数が前年比36%増の49万9,647台と当初目標の50万台をほぼ達成しており、特に主力小型車「モデル3」と小型多目的スポーツ車「モデルY」の2車種が納車数の約9割を占める中、現在建設中の独ベルリン及び米テキサスのギガファクトリー稼働により「モデル3/Y」だけで、近年中に生産容量が100万台を超える事が見込まれています。

 直近の第1Q決算では、売上高が前年同期比74%増かつ、純利益が同27倍強で7四半期連続の最終黒字を確保しており、2021年より上海工場から出荷を開始した新型SUVの「モデルY」の販売が好調で、中国のEV販売台数は前年同期比3.7倍の約6万9,000台となり、米国販売台数とほぼ同水準にまで拡大する一方で、将来的には「オートパイロット(FSD)」の機能向上により自動運転タクシー配車サービスといった高収益事業の商用化が期待されてます。

 今年2月には15億ドル相当の仮想通貨(ビットコイン)の購入及び、米国内での同社製EV購入時の決済に応じる一方で、マスクCEOが環境負荷の大きいマイニング(採掘)を懸念との理由から同決済の停止を表明する等、同氏の言動が金融市場の波乱要因ですが、本業であるEVの世界販売台数が四半期ベースで初めて20万台の大台を超えて過去最多を更新と、業界の先駆者的存在を担い、中長期的には脱炭素社会の実現に欠かせない企業と言えます。

ネットフリックス

5年チャート

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 1997年創業の同社(NASDAQ:NFLX)は動画配信大手として、オンデマンド型のストリーミング配信サービスのパイオニア的存在であり、今や中国を除く190カ国以上、2億800万人の有料会員向けに、独自作品をはじめ、様々なジャンルや言語のTV番組、ドキュメンタリー、長編映画まで多彩なコンテンツを提供しており、特に人工知能(AI)で好みの製品を推薦する「レコメンドシステム」の導入等、UI(ユーザーインターフェース)の改善に果敢に取り組んでいます。

 昨今では、米アマゾンの有料会員サービス「プライム」が同社に続いて会員数2億人を突破し、人気スパイ映画「007」で知られる米老舗映画会社メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)の買収を発表する一方で、AT&T傘下で「HBOマックス」を手掛けるワーナーメディアと競合のディスカバリーが経営統合と今後の競争環境の激化に対して、料金値上げや今年は170億ドルをコンテンツ投資に振り向ける事で、顧客の質向上に注力しています。

 直近の第1Q決算では、売上高が24%増かつ、純利益も2.4倍と共に過去最高を更新と巣ごもり特需が追い風になった一方で、足元では会員数の前期比増加幅が会社予想の600万人を下回り、第2Qは過去5年間で最低の100万人程度を見込む等、先行きの成長鈍化が懸念される中、値上げ戦略が功を奏し、会員1人あたりの料金収入が前年同期比6%増で営業利益率が27%と収益基盤を強化しながら、コンテンツの制作・獲得に向け投資に余力を残しています。

 また年次報告書では、パリ協定の目標に沿って、自社施設からの直接排出を指す「スコープ1」と電力発電に伴う間接排出の「スコープ2」を2030年までに45%の削減を表明しており、昨年はCO₂のネット排出量を前年比17%減に成功する等、2020年代中の「カーボンニュートラル」達成に向けてESG(環境・社会・企業統治)を意識した経営が評価されています。

転載元:モトリーフール

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