直近1カ月の日経平均はほぼもみ合い、大幅下落場面では押し目買い意欲の強さも確認

 直近1カ月(6月14日~7月12日)の日経平均株価は1.3%の下落となりました。買いが先行して一時は2万9,500円に迫る水準まで上昇しましたが、6月21日には一時1,000円超の急落となったほか、7月中旬にかけても大幅安となり、一時5月13日の安値に急接近する場面もありました。

 ただ、下落場面ではすぐに急反発の展開となるなど、押し目買い意欲の強さも感じられる状況にはなっています。

 FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果を受けて金融緩和の早期縮小観測が強まり、6月21日にかけての株価下落要因になりました。

 ただ、その後は、FRB(米連邦準備制度理事会)議長をはじめ金融政策に対するハト派的な姿勢が多く示され、米国長期金利の低下基調が続いたことで、株価は持ち直す動きになりました。

 7月中旬までの下落に関しては、ISM(米サプライマネジメント協会)非製造業景況指数が予想を下振れたほか、新型コロナウイルスの感染者数が国内外で再拡大し、世界的な景気の減速懸念が強まったことが背景になります。

 また、ETF(上場投資信託)分配金捻出に絡んだ売りが発生するなど、需給面もマイナスに作用したようです。

 この期間の上昇が目立った銘柄には、イーレックス(9517)レノバ(9519)などの再生エネルギー関連が挙げられます。環境省が2030年度の太陽光発電の導入目標を積み増す方針と伝わったことが買い材料となりました。

 イーレックスは石炭火力発電所を買収して、環境負荷の少ないバイオマス発電に転換すると報じられたことも材料視されました。

 ほか、三井ハイテック(6966)は決算がポジティブサプライズとなり、ラクス(3923)神戸物産(3038)SHIFT(3697)などの中小型好業績株も大幅な水準訂正を果たしました。

 一方、各社の決算内容が嫌気されて、ドラッグストア関連銘柄の下げが目立ちました。日本オラクル(4716)パーク24(4666)Jフロント(3086)なども決算内容がマイナス視されました。

 出資企業の中国ディディに当局が違法行為認定と伝わったこともあり、引き続きソフトバンクG(9984)は下値模索の動きが続きました。

東京五輪、4-6月期決算などが注目ポイント、総じて押し目買い優位と判断

 7月23日からは東京五輪が開催され、外国人投資家の日本株に対する見方の変化につながるという意味でも注目されます。

 現時点では、日本の経済効果に対する影響が限定的とみられるほか、東京五輪を契機に新型コロナウイルス感染者数の広がりが見られれば、政権の求心力の低下にもつながりかねないことで、ネガティブな方向に左右する公算が大きいと考えられます。

 一方、活躍が目立った日本人選手に関連するような銘柄群が、個別に物色される可能性はありそうです。

 7月12日から東京都では4度目の緊急事態宣言が発令されています。ワクチン接種が本格化していることからも、最後の宣言となる可能性は高いでしょうが、今後決算発表が本格化するタイミングであるため、上方修正の抑制要因につながるものとみられます。

 自動車関連は半導体不足の影響も足元で短期的に響いていると考えられ、今回の4-6月期決算では、市場が期待するほどの上方修正や増配アナウンスは少なくなるものとみられます。

 決算発表における失望要因と捉えられる可能性があるでしょう。今回に関しては、好決算発表期待を先取りするよりは、決算発表後の押し目買いに注目したいところです。

 米国長期金利は想定外の低下基調をたどっていますが、住宅価格の上昇などを考慮すれば、近いうちの反転が想定されます。仮に、米国企業の4-6月期決算発表で、原材料価格の上昇懸念などが多く示されれば、金利の上昇余地は広がることになるでしょう。

 ただ、現在の水準からは、ある程度の金利上昇が株価にマイナスの影響を与える可能性は低いとみられます。むしろ、高配当利回り銘柄など、バリュー株の見直しにつながることになるでしょう。

 なお、需給要因で言うと、足元ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資金流入観測が強まってきているようです。

 東証では、東証再編に係る新市場区分の上場維持基準に適合しているかどうかの1次判定結果を各企業に通知しています。

 報道では、東証1部の3割に当たる664社がプライム市場基準に届かずと伝わっています。株主総会を通過したタイミングでもあるため、今後流通株式比率向上に向けた、株式売出の実施などが増える可能性には要注意となります。

 一方、個人株主拡大や時価総額増大に向けた株式価値の向上策などがアナウンスされる公算もあり、当落線上とみられる銘柄群には、今後手掛けにくさが強まるものとみられます。

コロナ禍においても2ケタ増益を達成した利益安定成長銘柄に注目

 長期投資としては、成長株のキャピタルゲイン(株価の値上がり益)狙いも醍醐味(だいごみ)の1つではありますが、よりリスクが低く安定した利益を確保するにはインカムゲイン(配当収入)狙いが有効となるでしょう。

 高配当利回り銘柄は、業績変化率が低くても、安定した業績成長が確保できれば株価の大幅な下落は避けられ、着実なパフォーマンスが期待できることになります。

 なかでも、中小型株は大型株よりも事業規模の拡大余地が大きいため、その分、キャピタルゲインの獲得期待も相対的に高まりやすいと考えられます。

 下表は、配当利回りが4%以上の銘柄の中で、長期投資に堪え得る中小型株をスクリーニングしたものとなります。ここ5年間の年平均営業利益成長率が2%以上の銘柄であり、着実に業績が拡大傾向にあるものと捉えられます。

 また、高配当利回りであっても、その分株価が下落していてはトータルのパフォーマンスが低下してしまうことになるので、ここ5年間の株価パフォーマンスが日経平均の上昇率と比べて、大きく劣っていないもの(5年前比での株価上昇率が70%以上)をピックアップしています。

 さらに、外国法人の持株比率が高い銘柄は機関投資家の投資対象になっている銘柄であると推測されるため、長期投資対象としてリスクは大きくないといえるでしょう。

利回り4%以上、利益安定成長で長期投資向きの中小型株

コード 銘柄名 予想配当
利回り
株価 時価総額 年平均営業
増益率
株価
騰落率
1961 三機工業 4.90 1,428.0 852 2.9 70.4
5857 アサヒHD 4.08 2,207.0 1,759 23.6 174.8
8098 稲畑産業 4.25 1,648.0 1,046 5.7 72.8
8203 ミスターマックスHD 4.33 623.0 247 31.5 126.6
9880 イノテック 4.51 1,329.0 182 14.1 206.2
注1:予想配当利回りの単位は%、時価総額の単位は億円、営業増益率の単位は%。株価は2021年7月9日終値、単位は円。
注2:年平均営業増益率は5年間平均
注3:株価騰落率は5年間(2016年7月11日比)

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが4.0%以上(7月9日終値ベース)
  2. 営業利益の年平均成長率(5年間)が2%以上
  3. 5年前比での株価上昇率が70%以上
  4. 外国法人持株比率が20%以上
  5. 前期実績ROE(自己資本利益率)が5%以上

銘柄コメント

三機工業(1961・東証1部)

▼どんな銘柄?

 設備工事大手企業の一社です。空調、衛生、電気、情報通信、オフィス移転などの建築設備事業、搬送システム、コンベヤーなどの機械システム事業、上・下水処理施設、ごみ焼却施設などの環境システム事業といった幅広い事業領域で展開しています。

 オーストリア、中国、タイ、米国に関連会社があります。高効率な省エネルギー設備を備えた建築物を指すZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル) Ready物件の竣工(しゅんこう)実績などもあります。

業績見通し

 2021年3月期営業利益は75億円で前期比29.7%減益となっています。ビル空調衛生を中心に大型工事が端境期となったほか、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって小口・諸口工事が減収となりました。

 一方、2022年3月期は95億円で同26.7%増益の見通しとしています。前期に落ち込んだ電気設備の反動増を見込むほか、主力のビル空調衛生設備も堅調な増加を見込んでいます。

 ちなみに、受注高に関しては、前期第4四半期にかけて大きく回復する状況にもなっています。

ここがポイント

 営業利益の推移は、2016年3月期65.1億円、2017年3月期60.1億円、2018年3月期65.9億円、2019年3月期106.4億円、2020年3月期106.7億円と推移しています。

 2016年3月期は前期比2.2倍と急拡大していたため、仮に期間を6年間とした場合の平均成長率は一気に高まることになります。年間配当金は2016年3月期の30円に対して、2022年3月期は70円の計画になっています。

 5年前との比較では、産業空調設備、環境プラント設備などの売上規模が大きく拡大しています。

アサヒホールディングス(5857・東証1部)

▼どんな銘柄?

 貴金属事業が主力となります。歯科分野を中心とした貴金属含有スクラップからの貴金属リサイクル、金および銀を米国やカナダで精錬する北米精錬などを手掛けています。

 また、各種廃棄物の収集運搬・処理・リサイクルなどを手掛ける環境保全事業、マッサージチェアや空調システムを扱うライフ&ヘルス事業も行っています。

 金市況が上昇した際には関心が高まる銘柄となります。配当性向は50%以上をメドとしています。

業績見通し

 2021年3月期営業利益は251億円で前期比39.5%増益になっています。貴金属価格の上昇が寄与したほか、北米精錬事業分野における製品加工・販売の拡大など、貴金属事業セグメントがけん引する形になりました。

 2022年3月期は260億円で同3.5%増と、5期連続での最高益更新となる見通しです。貴金属事業が引き続き堅調に推移する見通しであるほか、工業生産活動の回復によって産業廃棄物排出量も増加し、環境保全事業セグメントも回復に転じるとみています。

ここがポイント

 営業利益の推移は、2016年3月期60.6億円、2017年3月期20.4億円、2018年3月期137.9億円、2019年3月期144.8億円、2020年3月期180.1億円と推移しています。

 年間配当金は2016年3月期の60円に対して、2022年3月期は90円の計画になっています。ただ、2021年4月に1:2の株式分割を実施していることから、実質的には6年間で60円の増配、3倍の水準となります。

 5年前との比較では、貴金属リサイクル事業の売上収益、営業利益水準が大幅に拡大する形となっています。

稲畑産業(8098・東証1部)

▼どんな銘柄?

 化学品の専門商社で、住友化学が21%超を保有する筆頭株主となっています。情報電子や合成樹脂が主力分野となり、ほかに化学品や建材、医農薬や農産物なども扱っています。

 海外事業の割合が50%超を占めています。現在は、「自動車分野」「ライフサイエンス・医療分野」「環境・エネルギー分野」などに注力しているようです。

 中計における配当政策として、前年度実績を下限として減配を行わない累進配当を導入しています。

業績見通し

 2021年3月期営業利益は150億円で前期比13.2%増益となりました。利益面では過去最高を更新しています。

 新型コロナウイルスの影響で合成樹脂や化学品事業を中心に減収となりましたが、情報電子事業における販管費の低減効果、生活産業事業の売上伸長により、増益を確保しています。

 一方、2022年3月期は145億円で同3.2%減益の見通しとしています。貸倒引当金戻入益の一巡による情報電子の減益を見込んでいるようです。

ここがポイント

 営業利益の推移は、2016年3月期113.7億円、2017年3月期126.2億円、2018年3月期59.6億円、2019年3月期140.3億円、2020年3月期132.3億円と推移しています。年間配当金は2016年3月期の40円に対して、2022年3月期は70円の計画になっています。

 中期計画の数値目標としては2024年3月期165億円を掲げています。

 5年前との比較では、トータル売上高は横ばいですが、情報電子事業の構成比が高まっており、結果的に高付加価値化の進展による利益率の向上が図れています。

ミスターマックス・ホールディングス(8203・東証1部)

▼どんな銘柄?

 九州を地盤に、ディスカウントストア「MrMax」のチェーン展開を行っています。中国地方や関東地方にも展開、2021年2月末店舗数は57店となっています。

 商品別の売上規模では、食品、ヘルスケア製品、家電などが上位となっています。PB商品の割合が28%程度を占めています。

 2021年2月末をもって株主優待制度の廃止を発表、今後は配当金による利益還元を充実させるとしています。

業績見通し

 2021年2月期営業利益は60.1億円で前期比2.5倍の水準となりました。過去最高を更新しています。新しい生活様式に応じた衛生用品や巣ごもり需要を取り込んで既存店売上高が好調に推移、住生活用品などの高利益率商品の売上も好調であったことから利益率も向上したもようです。

 一方、2022年2月期は44億円で同26.8%減益の見通しです。巣ごもり需要が膨らんだ反動などによる売上の減少を想定しています。

 なお、直近の既存店売上高は一昨年比ではプラス成長となっています。

ここがポイント

 営業利益の推移は、2016年3月期15.3億円、2017年2月期19.4億円(決算期変更)、2018年2月期25.3億円、2019年2月期25.5億円、2020年2月期24.5億円と推移しています。

 年間配当金は2016年2月期の10円に対して、2022年2月期は27円の計画になっています。

 5年前との比較では、店舗数は減少しながらも売上高は増加しており、販売効率が高まる形となっています。その結果、粗利益率は上昇し、販管費率も低下、利益率は向上する方向となっています。

イノテック(9880・東証1部)

▼どんな銘柄?

 半導体の設計開発ソリューション事業と、テスターを中心とするプロダクトソリューション事業が二本柱となっています。欧米の最先端製品の輸入販売が中心でしたが、2000年以降は、自社製品の開発・販売などメーカー的な機能を強化させています。

 また、M&A展開も積極的に行い業容の拡大につながっています。配当政策は配当性向30%を下回らないこととし、急激な業績変化などがなければ50%を目安にするとしています。

業績見通し

 2021年3月期営業利益は19.5億円で前期比17.0%増益となりました。年間配当金も40円から50円にまで引き上げています。イノテック事業がテスター事業を中心に売上を伸ばし、全体のけん引役になりました。

 また、子会社のアイティアクセスも自販機向け決済システムなどが順調に推移しました。2022年3月期は23億円で同17.7%増と連続2ケタ増益の見通しです。

 引き続きイノテックのテスター事業が伸びる見通しであるほか、STArも台湾や中国でのビジネスが回復見込みと、テストソリューション事業の伸長を予想しています。

ここがポイント

 営業利益の推移は、2016年3月期10.1億円、2017年3月期10億円、2018年3月期12.4億円、2019年3月期19.6億円、2020年3月期16.7億円と推移しています。

 年間配当金は2016年3月期の14円に対して、2022年3月期は60円の計画になっています。

 ここ5年間でみると、イノテック自身の業績は減収減益ですが、主要子会社5社の売上がそろって大きく拡大しています。2000年以降に活発化させたM&Aが大きな効果を挙げている形です。