1ドル=111.60円の年初来高値をマーク
先週2日に発表された米雇用統計は、NFP(Non Farm Payrolls(非農業部門雇用者数))が85万人と予想(72万人)を上回ったことから、ドル/円は1ドル=111.60円を超え年初来高値を付けました。
しかし、失業率が5.9%と前月5.8%から上昇したことや、賃金の伸びが鈍く、3カ月連続で伸びが縮小したことから、FRB(米連邦準備制度理事会)の早期の金融引き締め観測が後退し、米長期金利が低下するとドル/円も下落。一時111円割れとなりました。
その後、111円台に戻しましたが、上値の重い動きとなっています。米雇用統計発表後のドル/円は、これで3回連続の下げ(円高)となっています。直前に発表される*ADPなどの指標から先読みして買い過ぎ、発表当日に反転、という結果が3回繰り返された形となりました。
* ADP雇用統計とは…米国の給与計算などの人事関連業務の大手代行会社である、ADP(Automatic Data Processing, Inc.)社が発表する雇用調査レポートです。
今回の買い過ぎや反転は、雇用統計発表前に失業給付が特別加算されたこと、週300ドルがいくつかの州で早期に終了したことなどから、NFPはよい結果が出るのではないかとの期待で発表前からドルが買われたことや、IMMの円ショート・ポジション(※)が2年ぶりの高水準となっており、3連休も控えていたため、ポジション調整がみられたのではないかと言われています。
ただ、NFPが昨年8月来で最大となっているため、パウエル議長が指摘する「雇用は秋口に改善」との期待は残っていると思われます。
(※)「IMM通貨先物ポジション」のことです。「IMM通貨先物」は米国のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に上場する商品で、IMM(International Monetary Market)で取引される円やユーロ、ポンドなど国際通貨の先物市場のことです。
「円ショート・ポジション」は、円売りのポジション(売り建て玉)のことで円安(ドル高)を狙ったポジションのことです。このポジションの調整(巻き戻し)とは、ポジションを決済することになり、円高圧力となります。
「IMM通貨先物ポジション」は、ヘッジファンドなど投機筋の動向を示す指標として注目されています。毎週公表されるポジションの変化をみて、ポジションが極端にたまっている場合には、ポジションの巻き戻しによって相場が逆に動く可能性があるため、相場の方向性を予測する指標として、世界中の投資家が注目しています。
各通貨のポジションは火曜日に集計され、その週の金曜日取引終了後(日本時間土曜日の午前5時30分ごろ)に公表されます。ただ、公表された数字は3日前のポジションであることに留意する必要があります。
例えば、「2年振りの高水準の円ショート・ポジション」は6月29日(火)時点のポジションのことです。従って、米雇用統計が発表される7月2日迄にさらに円ショートが積み上がっている可能性があるかもしれないということです。もちろん、逆にその間にポジションが減少している可能性もあります。
米雇用改善が鈍い背景
バイデン政権は7月4日までに、18歳以上の国民の、少なくとも1回の接種率70%を目標にしていましたが、CDC(米疾病対策センター)によると、7月4日の接種率は67%とのことです。
州によってばらつきがあり、ニューヨーク州(72.6%)、カリフォルニア州(75.1%)は70%以上ですが、ミシシッピ州(46.3%)、ルイジアナ州(49.2%)などは50%を割れ、40%台となっているところもあります。
アンケートによると、接種を受けていない人の74%が接種をしないだろうという結果が出ていることから、民主党基盤の州と、共和党基盤の州との接種格差は縮まらないかもしれません。
6月の米雇用統計のNFPは、昨年8月来の雇用増でしたが、コロナ前の雇用水準までには、まだ680万人の雇用回復が必要です。米国のGDP(国内総生産)や景況感の劇的な回復と比べると、雇用の改善は緩やかな状況となっています。
接種率も目標の70%には届かなかったものの、70%に近づいているため、もう少し雇用回復のスピードが速まってもよいのではないかと思われますが、現在の雇用改善の伸びが鈍い背景として挙げられているのは次の3点です。
(1)経済対策による失業給付の追加給付は、まだ全米で半分の州が9月上旬まで給付継続。全人口の4割を占めるそれらの州では、手厚い給付のため働きに出ない人が多い。
(2)子供の世話をするため、9月の学校再開まで復職が困難
(3)コロナ感染の恐怖から接触型サービス業務を避ける傾向
(1)の追加給付と(2)の学校再開は、パウエル議長が指摘するように9月には状況が改善される可能性が高いかもしれません。しかし、(3)のサービス業務の敬遠は健康上の問題であるため、心理的な足かせとして長引く可能性があるかもしれません。
こういう状況の中で気になるのは、米国の独立記念日の3連休で外出が増え、家族や知人・友人との交流が相当増えることが予想されることです。
変異型ウイルスの感染比率が上昇してきており、連休明けには感染者が増えることも予想されます。そうなると、感染拡大の規模によっては、規制が再び発動され、(2)の学校再開が遅れたり、あるいは、(3)のサービス業務への復職にも大きな影響を与えることも想定されます。
今回の雇用統計の結果を受けて、早期の金融引き締め観測が大きく後退したわけではないとの見方が多いようです。テーパリング開始の表明時期が、8月のジャクソンホール会合から9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)に後倒しになった程度のようです。
もしそうなら、ドル/円も大きく下落しないかもしれません。しかし、3連休明けの感染拡大状況によっては、下押しが深くなる可能性も予想されるため、3連休後の感染状況には注視する必要がありそうです。
3連休後の2週間後あたりからの米国の感染状況によっては、雇用改善に影響が及び、FRBの金融引き締めのスケジュールにも影響してくるかもしれないからです。
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