6月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 6月の新興株市場は、意外な堅調ぶりを示しました。月間騰落率は、日経平均株価▲0.2%、TOPIX(東証株価指数)+1.1%に対し、新興株市場の日経ジャスダック平均が+2.7%、東証マザーズ指数が+5.0%でした。ひさびさにマザーズが最良パフォーマンスを記録。とはいえ、月間プラスは4カ月ぶりで、年初来でプラス圏に再浮上した程度の水準ですが…。

 決算発表シーズンの通過や、IPO(新規公開株)空白期ということもあって、月前半の新興株市場は好調。マザーズ指数は7~15日まで7連騰するなど、最近では“らしくない”安定感でした。

 ただ、FOMC(米連邦公開市場委員会)でハト派側にサプライズが生じたこともあり、低下傾向にあった米長期金利が再び上昇。高バリュエーション株売りの地合いに弱いマザーズ市場、日経平均も急落した21日に向けて水準を切り下げます。

 米金利上昇に対するストレスのほか、21日にかけて警戒感が広がっていたのが22日から始まる「IPOラッシュ」でした。22日から30日にかけ、7営業日で17社上場という超過密スケジュール。IPOに短期資金が向かう分、割を食うのが既存のマザーズ銘柄になります。IPO銘柄が上がろうが下がろうが、マザーズ指数に含まれていないため指数に影響もありません。

 そんなIPOラッシュが22日から開幕。すると、22日上場のIPOからいきなり「初値の公開価格割れ」が発生。その後も初値の公募割れ(17社中4社)、セカンダリーでの初値割れ(6月末時点で17社中9社)、セカンダリーでの公募割れ(6月末時点で17社中4社)―など、明らかにこれまでと違うIPO地合いでした。

 IPOラッシュ開幕前の段階で、個人の評価損益はソフトバンクG株などの低迷で悪化。マザーズもイマイチで、その状態で次から次にIPOが登場したことで、価格無視でポイポイ売っていくような雰囲気に…。完全に、資金分散の影響、スケジュール設定が悪過ぎたのではないでしょうか。

 そんなIPOラッシュ下で、マザーズ指数が切り返したのは意外でした。IPOに資金が向かい、既存銘柄はより一層の薄商いだったのですが、閑散に売りが少ない印象。そのなかで、指数を持ち上げた特殊要因も。

 それは指数ウエートで11%強ある最大銘柄(マザーズ界のファストリ)メルカリが、IPOラッシュ開幕直後(23日)に業績予想の上方修正を発表してくれたこと。これでメルカリが急騰し、月間では13.7%上昇しました。メルカリ上昇分だけでマザーズ指数を1.6%押し上げた計算に。

6月の売買代金ランキング(人気株)

 6月も新興株市場は薄商い。マザーズ市場の1日当たり売買代金は1,360億円(1月2,311億円→2月2,037億円→3月1,637億円→4月1,567億円→5月1,427億円)と、今年最低でした。月前半、マザーズの流動性を吸い上げた新興株が1銘柄ありました。

 それが、ジャスダック上場のシンバイオ(6月の売買代金ランキング1位)。7日には、シンバイオ1銘柄の売買代金がマザーズ市場全体の43%相当という大商いも記録。この日のマザーズ市場の売買代金は1,007億円と今年最低でした。

 また、ここにはランクインしていない銘柄に6月IPOがあります(25日移動平均売買代金が計算できないため)。IPOラッシュ前(6月1~21日)のマザーズ市場の1日当たり売買代金は1,265億円でしたが、IPOラッシュ中(6月22~30日)は同1,564億円にアップ。この上乗せ分は、連日、1日当たりの売買代金の3割以上を6月IPOが記録したため。

 圧巻だったのが事前人気は低かった日本電解でした。29日の売買代金は361億円と、1銘柄でマザーズ全体の2割を占める大フィーバー。事前の人気度など関係なし、「IPOは開けてみないと分からない!」ですね。

市場 コード 銘柄名 6月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金
25日移動平均値
(億円)
月間
騰落率
ジャスダック 4582 シンバイオ 2,397 921 137 26.2%
東証マザーズ 4934 Pアンチエイジ 14,420 1,257 115 -14.2%
東証マザーズ 4385 メルカリ 5,900 9,308 59 13.7%
ジャスダック 2702 マクドナルド 4,900 6,515 57 -1.1%
東証マザーズ 7342 ウェルスナビ 4,035 1,840 57 -5.4%
ジャスダック 6890 フェローテック 3,415 1,275 50 28.6%
東証マザーズ 6613 QDレーザ 1,570 543 43 -4.6%
東証マザーズ 4477 BASE 1,689 1,871 41 -2.2%
ジャスダック 6614 シキノハイテック 3,820 165 39 98.4%
東証マザーズ 6521 オキサイド 10,060 474 30 31.0%
東証マザーズ 2370 MDNT 96 168 29 77.8%
東証マザーズ 4436 ミンカブ 3,870 577 25 -6.3%
東証マザーズ 2150 ケアネット 8,220 908 24 2.8%
東証マザーズ 4488 AIinside 13,410 525 24 -19.2%
東証マザーズ 4478 フリー 10,210 5,586 23 23.5%
東証マザーズ 4880 セルソース 17,500 1,082 22 50.9%
東証マザーズ 6255 エヌピーシー 817 180 19 22.9%
東証マザーズ 4563 アンジェス 894 1,368 18 -13.0%
東証マザーズ 4475 HENNGE 3,805 618 18 -24.7%
ジャスダック 2667 イメージワン 798 79 16 0.0%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 シンバイオ(4582・ジャスダック)

 目下、マーケットで人気ナンバーワンのバイオ株。エーザイから自社販売に移行した海外事業の売上インパクトが大きく、今期黒字転換が見込まれる創薬ベンチャーです。

 また、中外製薬の再発・難治性リンパ腫向け治療薬との併用療法で同社の抗悪性腫瘍剤「トレアキシン」の使用が可能になること、同社が独占的開発・製造・販売権を取得している米キメリックス社の抗ウイルス薬の日本における特許取得など株価材料も豊富。

 月初から、マザーズに需給悪化銘柄も多く、新興株好きの短期マネーが集結するような雰囲気に。7日には1日の売買代金が430億円という驚異的な商いも記録しました。

 ただ、個人の信用買いが中心だったようで、東証が9日から信用規制をかけるとしたことで一度調整。その信用規制も、29日から解除されると発表され、また上昇。高水準の信用買い残を積みながら高値圏をキープできているため、需給的にはまだ悪くないといえます。

2 プレミアアンチエイジング(4934・東証マザーズ)

 マザーズ大型では前月のベストパフォーマーで、5月末に上場来高値を付けていた人気株。知名度、流動性とも高めた状態での発表に注目されたのが、14日の第3四半期決算でした。

 発表された第3四半期決算は、「DUO」「CANADEL」など主力ブランドが好調で、売上高が237.6億円、営業利益が44.2億円に。営業利益の通期計画は44億円ですので、第3四半期で超過する好決算でした。

 ただ、翌15日の株価は前日比14%安に。好決算が確実視され先に買われていたこともありますが、決算発表をまたいだ投資家の中には「大幅な上方修正」「値がさ株だけに株式分割」「化粧品株だけに株主優待」などさまざまな期待が込められていたようで、典型的な一旦出尽くし。

 これまでの上昇の反動が出る形で、5月末終値(1万6,800円)を26%下回る1万2,430円(21日安値)まで突っ込む場面もありました。とはいえ、今回見送られた上方修正や分割、優待といった材料。この先に発現可能性のある期待材料として残した意味で、楽しみの先送りとも言えそうですが…。

3 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 しばらく上値が重く、マザーズ指数の重石にもなってきた指数ウエートトップ(6月末時点では11.6%)のメルカリ。それが6月は、マザーズ指数を月間で1.6%も押し上げた救世主的存在になりました。月間上昇率13.7%は今年最大。

 きっかけは、23日に発表した今期予想の上方修正でした。従来の営業損益予想は「15億円赤字~15億円黒字」とレンジで提示していましたが、今回の新予想は「45億円黒字」。

 国内メルカリの好調のほか、メルペイの定額払い利用が増加したことで収益力が増強されたようです。アナリスト予想も従来予想の上限15億円黒字程度だったため、ポジティブサプライズ。

 この週のマザーズの投資主体別売買動向を見ると、最も買い越しだったのが外国人(差引55億円買い越し)でした。メルカリ上方修正を受け、予想以上に好反応を示したメルカリ株の上値を買い上げたのは外国人だった、という解釈で合っているはずです。

4 フェローテック(6890・ジャスダック)

 2日に、今2022年3月期の業績上方修正を発表。最終利益が従来予想の45億円を上回る123億円(前期比67%増)を見込むとしました。理由は、半導体ウエハーの持分法適用会社が第三者割当増資を実施し、第1四半期に持分変動利益が発生するため。

 特殊要因のため反応は限られるかと見られていましたが、翌日からの株価反応はすさまじく…月間で28.6%高。1996年の上場来、何度も2,900円台ではね返されてきた株価でしたが、ついに3,000円の節目超えに成功。

 シキノハイテックやオキサイドなど半導体関連の新興株人気も相まって、強いモメンタムが生まれました。これだけ上昇しても、増益モメンタムも強く、予想PER(株価収益率)で見ればいまだ10倍前後です。

5 フリー(4478・東証マザーズ)

 マザーズはプレミアアンチエイジング、ジャスダックはシンバイオ、そして6月後半は直近IPO株…そうした銘柄に短期マネーが集まるなか、薄商いが続くのがマザーズ時価総額2位のフリー。

 閑散に売りなしめいた展開で、気付けば株価は2カ月ぶりの1万円台を回復していた印象。月間上昇率も23.5%と今年最大。メルカリと一緒に、マザーズ指数を押し上げました。

 薄商いでしたが、随所に材料もありました。18日は、一部外資系証券がビジネスソリューションセクターとして、東証1部のOBCとマザーズの同社の2社を新規カバレッジ。同社の投資判断は「ニュートラル」(目標株価9,000円)ですが、双方とも市場拡大のスピードを上回る売上成長継続を見込むと。

 また、22日には法人向けのクレジットカード事業に参入すると発表。独自の与信モデルで、クレジットカードの限度額が少ないスタートアップ企業をターゲットにするようです。

6月の株価値上がり率ランキング

 指数としてはパフォーマンスの良かった6月の新興株市場でしたが、個別株ベースで月間2倍化した銘柄(※あくまで月末比較)は今月もゼロ。仕手株化したような小型材料株がメインで、時価総額が200億円以上あるのがFRONTEOとセルソースだけ。

 決算発表シーズンも通過しただけに決算材料も少なく、テーマ株も長続きせず(例えば月前半に大活況だったアフターコロナ株も、月後半は大失速)。

 なんといっても、値動き妙味を狙った個人の短期マネーは、月後半にラッシュとなったIPOへ分散した影響も大きかった6月。そのIPOも、かといって低調な新興株市場全体の売買ボリュームが増えるとも言えない状況。セカンダリーのパフォーマンスが劣悪。

 IPO売買により短期間で資産を目減りさせた個人投資家多数は確実、同様にボラティリティの高い新興小型株でのリスクテイクも抑制されたと想像されます。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
6月末
終値
前月末
終値
時価総額
(億円)
ジャスダック 6614 シキノハイテック 98.4% 3,820 1,925 165
東証マザーズ 2370 MDNT 77.8% 96 54 168
東証マザーズ 2158 FRONTEO 62.7% 1,245 765 488
ジャスダック 7760 IMV 54.8% 845 546 143
ジャスダック 4124 大阪油化 52.0% 2,812 1,850 30
東証マザーズ 6618 大泉製 51.2% 1,220 807 102
東証マザーズ 4880 セルソース 50.9% 17,500 11,600 1,082
東証マザーズ 4584 GTS 49.9% 643 429 193
ジャスダック 5699 イボキン 47.9% 3,905 2,640 67
ジャスダック 4356 応用技術 46.1% 3,960 2,711 113
ジャスダック 7777 3Dマトリックス 41.3% 407 288 183
ジャスダック 6158 和井田 40.4% 1,586 1,130 111
東証マザーズ 7036 イーエムネットJ 39.8% 4,230 3,025 81
東証マザーズ 7676 グッドスピ 39.0% 2,276 1,637 71
ジャスダック 5381 Mipox 37.9% 735 533 89
ジャスダック 7805 プリントネット 37.7% 1,009 733 55
東証マザーズ 7091 LPF 34.6% 3,885 2,886 58
ジャスダック 6664 オプトエレクト 34.4% 820 610 54
東証マザーズ 4884 クリングル 34.2% 1,127 840 49
ジャスダック 6666 リバーエレテク 33.6% 1,555 1,164 128

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 シキノハイテック(6614・ジャスダック)

 今年のIPO銘柄で、セカンダリー上昇率の現状ナンバーワン。同社は、本社を富山県魚津市に置き、3月24日にジャスダックへ上場しました。車載用半導体部品の検査装置などを手掛ける半導体関連銘柄です。

 半導体需給のひっ迫が世界的にフォーカスされる中での上場ということもあり、時流に乗る格好で信じられないほど上場後に値上がり。グロース系ベンチャー企業が人気化する傾向のあったIPOの世界で、同社が最高パフォーマンスに…これが、その後の日本電解などが人気化する布石になったといえるでしょう。

 公開価格は390円で、公開規模が5.5億円と小さかったこともあって初値は3.1倍の1,221円。半導体株物色の追い風と、高値更新による需給妙味が相まって、仕手株化したような値動きが極まった24日に一時5,240円を付けました。

 この日に公開価格から見た“テンバガー(10倍株)”を達成…これで、出尽くし感が広がったのか、ストップ高(5,240円)した当日にストップ安(3,835円)で終了という、ド派手な値動きを見せました。

2 FRONTEO(2158・東証マザーズ)

 前月発表した本決算時に、今期の増益と復配発表で急騰。ただ、バリュエーションの高いAI関連銘柄だけに、業績材料での株高は続かず…。そんななかで、6月中旬から立て続けに発表された材料で株価は変貌。同社のようなグロース株は、現実的な決算数値より、将来を期待させる材料に勝るものはないようで。

 同社が発表した材料は3つ。14日に発表したのが、複雑なネットワーク上での株主間の影響力を解析する「株主支配ネットワーク解析ソリューション」の提供開始。続いて22日には、創薬支援AIに関する特許査定の取得。

 そして28日には、AIエンジン「KIBIT」を活用した営業通話解析が一部国内証券に採用されたとの発表でした。株価に上昇モメンタムが付いてきた状態で、週イチペースで材料を提供できたことが驚き。

3 セルソース(4880・東証マザーズ)

 時価総額1,000億円級の新興株でいえば、6月ダントツの上昇率を記録したのがセルソース。中小型グロース株の日本株ファンドで、ポートフォリオ上位に同社を入れているファンドが多いことでも知られています。

 上場来高値を更新し、時価総額1,000億円台に乗せるきっかけとなったのは、14日発表の今期予想の上方修正でした。今2021年10月期の売上高予想を前期比52%増の28億円(従来予想は25.3億円)、営業利益予想を同83%増の7.6億円(従来予想は5.7億円)に増額。

 再生医療の拡大で、提携医療機関数が想定以上に増えたことのようです。バリュエーションは高いですが、同業他社の存在しないオンリーワン系グロース株。株価に勢いが付けば、青天井な雰囲気が広がりやすい銘柄といえます。

4 3Dマトリックス(7777・ジャスダック)

 止血剤に関する材料で株価が噴き上がりました。材料が出たのは、月末も差し迫った28日の引け後。米子会社の止血剤が米FDA(食品医薬品局)から承認を受けたと発表。米子会社が米マサチューセッツ工科大学からライセンスを受けた技術で開発してきた止血剤で、内視鏡的手術・処置への適応などで承認を受けたようです。

 手前の流動性が極めて低かった株価300円台の低位株に、個人の短期資金が大挙。1日の出来高で30万株程度だった銘柄が、ピークの30日は2,114万株もできたわけで…強烈な需給ギャップで、発表後わずか2営業日で最大4割の値上がりとなりました。

5 オプトエレクトロニクス(6664・ジャスダック)

 バーコードリーダーを手掛けるジャスダックの小型バリュー株。前期の赤字から一転、今期は黒字予想だったのですが、24日に今2021年11月期の大幅上方修正を発表しました。今期の最終損益予想を、従来の2.5億円黒字から7.2億円の黒字に大幅増額。欧州やアジアでバーコードリーダーの需要が想定より好調だったようです。

 また、コロナ関連での特需もある様子。米国でハンディスキャナーが売れたのは、コロナの検査装置の付属機器に採用されたことが理由とのこと。コロナ関連でいえば日本でも、コロナワクチンの接種券読み取り用としてハンディスキャナーの需要が伸びる可能性も。上方修正で大きく上昇しましたが、今なお予想PER6倍台、PBR(株価純資産倍率)0.9倍台の小型バリュー株な水準です。

7月に注目したい新興株の動き

 ハイボラ直近IPOでの超短期ギャンブルトレード―これはしばらく続くでしょうが、初値が付く直後など、とくに個人マネーが向かう「上場日」の銘柄が減る点では一安心。怒涛(どとう)の6月IPOラッシュを通過、7月もIPOは9銘柄予定されているとはいえ「1日1社ペース」の平常スケジュールです。そう思うと、6月のスケジュールは異常でしたね。

 資金が分散することで、「今日はこっち、明日はあっち、だからこっちはポイ」といった脈絡ない動きは減るでしょうが、かといって低調な新興株市場全体の売買ボリュームが増すとも言えない状況。全体的に流動性が低めな中、流動性が抜群に高い数銘柄に資金が集中する傾向は続きそうです。

 目下では、6月IPOの日本電解ですが、日本電解一強が続くのか? モメンタムが途絶えて別銘柄へ資金移動するのか? に関心が向かいます。

 短期の資金でいえば、7月は東京五輪が開幕するようなので、一時的にアフターコロナ株(リオープン株)が盛り上がる場面もありそう。ただ、東京都中心にコロナの新規感染者数がまた増加、自粛生活も長引きそうななか、アフターコロナ株が分かりやすくフィーバーするとも思えないところ。物色テーマに関しても、短期でコロコロ変化しそうです。

 イメージが湧きにくい7月相場ですが、6月に起きた「マザーズ指数の大きめ上昇」を分析すると見えてくるものがあります。6月はマザーズ市場の売買代金が前月比で減少しましたが、それでもマザーズ指数は月間5.0%の上昇率を記録しました。これは珍しいことです。では、なぜマザーズ指数が上昇できたのか…?

 6月はマザーズ銘柄のうち、月間で上昇した銘柄数が182、変わらずが3、下落した銘柄数が167でした。騰落銘柄数的にはある程度拮抗(きっこう)していた割に、指数は高い上昇率となったわけです。

 その理由は、時価総額ワンツー(指数ウエートもワンツー)の主力大型株の大幅上昇で説明が付きます。まず、時価総額トップで指数ウエート11.6%のメルカリ。メルカリが6月は13.7%上昇し、これだけでマザーズ指数を1.6%押し上げました。

 そして、時価総額2位で指数ウエート7.0%のフリー。フリーも6月は23.5%と大きく上昇、これでマザーズ指数を1.6%押し上げました。メルカリとフリーの2銘柄で、マザーズ指数5%高のうちの64%に相当する上昇寄与があったわけです。

 その6月、マザーズ指数は月間で5.0%上昇したとはいえ、大きく上がった週は6月第2週(+5.6%)だけ。この週のマザーズの投資部門別売買動向を調べると、個人は87億円売り越し、国内機関投資家も39億円売り越しだったのに対して、海外投資家が112億円買い越しでした。

 この週にメルカリは週間+4.5%、フリーが同+15.7%になっていますので、指数をけん引した銘柄を買い上がったのは海外勢だったことが判明します。

 では、なぜ買ったのか? となるわけですが…この週にあった出来事をさかのぼると、6月11日に、コーポレートガバナンス・コードの改訂と施行を東証が発表していました。決定事項で注目されたのが、市場再編後の最上位市場「プライム」に対するルール。今回、プライム上場企業に対しては、独立社外取締役を3分の1以上選任すること―などが決まりました。

 と、考えると…来年4月に控える東証の市場再編というビッグイベントを前に、これを契機に“最上位市場”へステップアップしそうな企業の“先回り買い”の動きが出てきているのかもしれませんね。新市場区分に適しているかを判定する基準日が6月30日でした。その時点の状況を見て、東証が7月9日に適合市場を企業サイドに通知するようです。

 プライム上場基準には、「流通株式」という新しい概念が設けられています。大株主が保有している株のうち、投信保有分や、銀行や事業会社など国内機関投資家が“純投資”で保有する分は流通株式にカウントされます。

 一方で、10%以上保有する主要株主の持ち分や、役員などの持ち分、銀行や事業会社などが保有する“政策保有株(=持ち合い関係の株のこと)”はカウントされません。

 その流通株式の比率が「35%」必要で、かつ、流通時価総額で「100億円以上」がプライムの上場基準となっています。この基準を既に満たしているマザーズ銘柄は、メルカリ、ジーエヌアイ程度。ジャスダックでは、フェローテック、メイコー、ナカニシ、マクドナルド、セリアなど複数あります。

 プライムを目指すかどうかは、会社側がどこの市場に申請するか次第ですが、基準を満たしていれば当然プライムを選ぶはず。新たな指数の組成を契機とした機関投資家マネー流入、これを見据えた大型新興株の先回り買いに注目!