「環境」「ワクチン」「IT」…危機時にニンジン(期待)を生み出すのは、人類の特技

 先週、コロナ2年目となった2021年が折り返しを迎えました。年初からのおよそ半年を振り返ると、バイデン新政権発足、米個人投資家の共闘による一部銘柄の乱高下、投機資金の流入などによる複数銘柄の歴史的高値更新、新型コロナワクチンの流通・変異株の拡大、FRB(米連邦準備制度理事会)の段階的な資産買い取り縮小(テーパリング)観測による幅広い銘柄の一時的な価格下落など、多数の印象的な出来事が相次ぎました。

 さらに10カ月間、さかのぼります。2020年3月初旬は、新型コロナが「パンデミック化」したと宣言されたタイミングです。この時、現金化が急速に進み、「新型コロナショック」と呼ばれた阿鼻叫喚の総売りが発生しました。

 4月には、原油相場が史上初のマイナス価格をつけ、その後、各国でコロナの第1あるいは第2波が起き、感染拡大による経済的ダメージを軽減すべく米国を中心とした主要国が金融緩和を強化しました。

 この金融緩和強化を主因とし、8月初旬、主要国の株価指数が騰勢を強める中、金価格が史上最高値をつける珍事とも言える出来事が起きました。

 秋以降は、コロナ、環境、人権問題、対中戦略などいくつもの重いテーマを抱えたままその日を迎え、数週間、明確な結果がでない異例の展開になった米大統領選挙、その後は、バイデン新政権とワクチンに過大な期待が集まり、環境配慮を前面に押し出したバイデン氏が勝利したことで需要が急減して真っ先に急落すると目された原油相場までをも急上昇させた「バイデン・ワクチン相場」が始まりました。同相場のはじまりは翌年春の、複数銘柄の史上最高値更新祭りの下地となりました。

 昨年3月からこれまで、つまり新型コロナがパンデミック化してから1年4カ月間、本当にさまざまなことが起きました。今でこそ多少は落ち着いたものの、昨年5月前後は、各種経済指標やさまざまなデータが相次いで市場予想を大きく下回るなど、さながら未曽有の危機状態だったと言えます。

 当時はコロナによってどれだけ景気や市民のマインドが落ち込むか、谷の深さの議論がほとんどでしたが、現在はコロナからどれだけ回復するか、山の高さの議論が大半であるように感じます。

 日本ではまだ20%程度とはいえ、米国では50%を超えるなど、各国でコロナのワクチン接種率が上昇してきていることは、好材料と言えそうです。

 この激動の1年4カ月間、全体的には、「危機」には「期待」で対策する事例が、各種で見られました。コロナで負ったダメージは「金融緩和」による景気回復期待や「環境」を柱とした新しい需要出現期待で癒やし、変異株の拡大にはワクチン流通拡大期待でムード悪化を抑え、個人投資家の共闘による騒動には規制強化による市場正常化期待でけん制してきました。

 いわば、「危機」を「期待(ニンジン)」で埋め合わせなければしのげない事態が続いてきたわけですが、この1年4カ月間、各種価格はどのような値動きを演じたのでしょうか。

図:ウィズ・コロナ時の環境

出所:筆者作成

パンデミック化から1年4カ月、「ほぼ全部高」の衝撃

 筆者が日ごろから注目している56銘柄の騰落率を確認してみます。56銘柄とは、貴金属4銘柄、その他金属等11、エネルギー2、穀物関連5、農畜産物11、主要国の株価指数10、通貨8、暗号資産3、その他2です。

 2020年3月2日の終値と2021年6月25日の終値で計算する、上昇銘柄数が全体の93%にあたる52銘柄、下落銘柄数が7%にあたる4銘柄でした。

 下落した4銘柄はドル/スイス(▲4.4%)、ドル指数(▲5.7%)、ドル/カナダドル(▲7.8%)、そしてカカオ(▲11.6%)でした。米国の金融緩和の影響がいかに大きいかがうかがえます。

 カカオは「バイデン・ワクチン相場」が始まった昨年11月に急騰しましたが、その後、反動で大きく下落しました。

 上昇で最も目立ったのはやはり暗号資産でした。イーサリアムが+699.8%、ビットコインが+260.1%、リップルが+159.5%と驚異的な上昇となりました。いずれも今年春のピーク時はさらなる高値がありました。

 暗号資産と同等の上昇を演じたのは、バルチック海運指数(+503.9%)、鉄鉱石(+156.9%)、温室効果ガス排出権(+134.0%)などの物流・鉄鋼・環境関連の銘柄でした。

 次いで、大豆油(+106.5%)の上昇、上昇率50%以上の銘柄では、トウモロコシ、銀、大豆、原油、銅、菜種、木材などが名を連ねました。

 以下のグラフは、56銘柄の代表例として抽出した19銘柄の騰落率です。

図:主要銘柄の騰落率(56銘柄中19銘柄を抽出) 2020年3月2日~2021年7月5日

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

世界の石油消費は「7割経済」の最中。在庫減少は供給減少が主因

 先ほどのグラフで61%上昇した原油に着目します。原油相場は、「インフレ(物価高)」動向に関わる指標として、注目が集まることがあります。

 目下、インフレ動向は、ジャンルを問わず、幅広い、銘柄の価格動向をも左右する、米国の金融政策の方向性に影響を与えるため、注目が集まっています。

 以下の通り、本原稿執筆時点(日本時間7月5日午前時点)で、NY原油先物価格は1バレルあたり75ドル近辺で推移しており、2018年秋の高値水準に接近しつつあります。

 先述の「インフレ」動向に注目が集まっている最中、米国大手金融機関が「100ドル」という、一見すると突拍子もない目標価格を示したこともあり、原油相場自身、100ドルに達してよいのか悪いのか、判断に困っているように、思えます。

「価格上昇=消費拡大」と考える人が、多いかもしれませんが、以下のとおり、世界の石油消費量は、まだ、コロナ前の水準まで回復していません。原油価格はコロナ前の水準を1.6倍以上(+60%以上)も上回っているのに、です。

図:世界の石油消費量

出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 消費量の回復が不十分であるにもかかわらず、価格が大きく上昇しているのは、主要国の石油在庫が減少していることが主な要因に挙げられます。

 先月のOPEC(石油輸出国機構)プラスの会合で、同在庫が今後、大きく減少する見通しを示されたことがきっかけに、原油相場が一時的に大きく上値を伸ばす時間帯がありました。

図:主要国の石油在庫

出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 消費の回復が不十分、それでいて在庫が減少しているわけです。このような状況における在庫減少の要因は、生産量が減少していることです。

OPECプラス、需要回復という世論を味方に、原油価格上昇と限定的増産を画策

 以下は先ほど述べたOPECプラス23カ国のうち、原油の減産(人為的な価格調整)に参加している合計20カ国の原油生産量の合計です。2020年5月に減産を再開した際、急減しました。

 今後も徐々に増加することが見込まれているものの、後述する、世界の石油の消費量の増加見通しに比べれば、規模が小さいため、OPECプラスの原油生産量の増加見通しが、世界の石油の需給バランスを緩める要因にはならないと、筆者は考えています。

図:OPECプラスの原油生産量(減産実施20カ国) 単位:千バレル/日量

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 原稿執筆時点ではまだ7月5日(月)に延期された第18回OPEC・非OPEC閣僚会議は終わっていません。このため、UAEが主張した減産時の基準となる生産量の引き上げが実現するかどうかは現時点ではわかっていません。

 UAEがこのような主張をした背景の一つに、組織内の発言力の向上、が挙げられると筆者は考えています。OPECプラスのうち、減産免除となっているイラン、リビア、ベネズエラの3カ国を除けば、どの国も、削減するべき量の数値目標を持っています。

 以下のとおり、UAEが主張する基準量の引き上げ(報道では日量320万バレルから同380万バレル)が実現した場合、UAEの減産順守率と削減量の順位が上がる計算になります(2021年6月の実績をもとに計算)。

図:OPECプラスの減産実績(2021年6月)

出所:OPECの資料およびブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 減産順守率は削減量の順位が高位であればあるほど、減産に積極的であると言えます。実際に、昨年夏にサウジが自主減産(必要以上の削減を自主的に行った)際、メディアはサウジが非常に減産に積極的だと報じました。OPECのプレスリリースでもサウジはたたえられていました。

 積極的であることは、組織にとってそれだけなくてはならない存在であり、組織の中でも、必要とされる、ある意味、強い発言力を持つことができるでしょう。このような組織内のパワーバランスを考慮した思惑が、UAEの基準値変更要請の背景にあると、筆者は考えています。

原油100ドルは、ハードルは高いが、条件がそろえば可能性はゼロでないだろう

「NY原油100ドル」と、しばしば報道で目にします。以下のとおり、値位置、100ドルに達するために必要とみられる条件、その条件の中で最も力強い条件になり得る、世界の石油消費量の見通しは以下の通りです。ご参考になれば、幸いです。

図:NY原油先物価格(期近) 単位:ドル/バレル

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

図:NY原油100ドル超実現のための条件(筆者イメージ)

出所:筆者作成

図:世界の石油消費(EIAの見通しあり)

出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

[参考]原油関連の具体的な投資商品

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP