7月の株式市場のアノマリー

 S&P500の歴史的な動きをみると、7月相場はパフォーマンスの高い月と言えるだろう。大統領選挙の翌年の7月の米国株相場は堅調だが、過去の平均的な動きをみると、7月相場は月の半ばでピークアウトしている。

 8月相場と9月相場は下げ基調になることがほとんどで、7月はいったん利食いをしておく月でもある。

S&P500のシーズナリーチャート (平均と大統領選挙の翌年)

出所:エクイティクロック

7月の通貨市場のアノマリー

 モルガン・スタンレーの某アナリストは、「2020年に債券市場を国有化した後、今度はFRB(米連邦準備制度理事会)が出てきて株式を買い始めざるを得なくなるのか?」と疑問を呈し、「次の20%の下落の後に明らかになるだろう。その時点で、FRBのタカ派的な姿勢はすべて消え去り、パウエル(あるいは後任のFRB議長)は、最後にして最大の資産バブルを放出する準備として、超ハト派的なモードに移行するだろうと予想する…」と述べている。

 いずれにせよ、次の下げが来れば「FRBも日本銀行にならって株を買う」とウォール街も思っているようだ。

 債券市場が“国有化”され、動きにくくなった通貨の市場だが、例年7~9月の相場は荒れやすい。足元の相場はドル高になっているが、ドルインデックス先物のシーズナリーチャートをみると、7月はドル安に注意が必要な月であろう。

ドルインデックス先物のシーズナリーチャート(過去20年の平均)

(上昇=ドル高・下落=ドル安)
出所:エクイティクロック

ユーロ/ドル(日足)と売買シグナル

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ポンド/ドル(日足)と売買シグナル

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

豪ドル/ドル(日足)と売買シグナル

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ドル/円(日足)と売買シグナル

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 株高のリスクオン相場には通貨は反応が鈍いが、株安のリスクオフ相場には比較的感応度が高い。上にも述べたが、歴史的にみても、例年7月半ばから9月までは米国株が下げやすく、この時期はクロス円相場の下落に注意が必要な時期である。

S&P 500 の年間シーズナルパターン 米国株は7月半ばにピークアウトしやすい

出所:トレーダーズアルマナック

NZ中銀が向こう数カ月で債券購入を打ち切る可能性

 ニュージーランドは「金融引き締め時期を前倒しするのではないか?」という観測が出ているようだ。BNZ(ニュージーランド準備銀行)のストラテジストによると、ニュージーランド準備銀行(中央銀行)は利上げに備え、QE(量的緩和)の国債買い入れを向こう数カ月で終了する可能性があるという。

 BNZのストラテジスト、ニック・スミス氏は28日の顧客向けリポートで、ニュージーランド準備銀行が政策金利であるオフィシャル・キャッシュレートを11月に引き上げる可能性について、金融市場は50%強の確率を織り込んでいると指摘。さらに国債発行額が3億NZドル(約235億円)から5億NZドルに名目上引き上げられたにもかかわらず、中銀が今週の購入ペースを2億NZドル(約156億円)に維持したことは、市場にとってさらなる供給を吸収し始める必要性が生じることを意味すると分析した。

「市場の反応は、中銀が完全に購入を停止した際に市場がどう適応するかに関する幾分の手掛かりになるかもしれない」とスミス氏は指摘。11月の利上げ確率が50%強という「市場の織り込みを額面通り受け止めれば、NZ中銀が向こう数カ月で債券購入を打ち切る可能性を意味する。利上げ開始前に保有債券を増やしたくないからだ」と説明した。

(「NZ中銀は今後数カ月で国債買い入れ終了か、利上げに備え-BNZ」 6月28日ブルームバーグ)

 下の「OECD(経済協力開発機構)の住宅バブルランキング」をみてもわかるように、ニュージーランドは住宅バブルがかなり過熱している。オーストラリアよりも金融引き締め時期は早くなるだろう。

OECDの住宅バブルランキング

出所:WOLFSTREET

NZドルのシーズナリーチャート(過去20年の平均)

出所:エクイティクロック

 NZドル/円相場は8月の下げに注意しなくてはならない。中期的には9月のボトムが買い場だが、筆者は毎年11月の頭に裁量取引でNZドル/円と米国の株価インデックスを買っている。

NZドル/円(日足)と売買シグナル

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

次の基軸通貨は!?通貨の「グレート・リセット」に向けた動きが加速

 先日、英国で開催されたG7サミットでは、低所得国のCOVID-19危機への対策として、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)を1,000億ドル割り当てることが承認された。

 ジェームズ・リッカーズの『「グレート・リセット」の到来、その1:世界的なインフレーションの新設計図』というレポートによると、通貨市場の方でも長年期待されてきた「グレート・リセット」に向けた動きが加速しているようだ。

「IMFのSDRの基本的な考え方は、ドルを中心とした世界の通貨システムは本質的に不安定であり、改革が必要であるというものだ。ロバート・トリフィンは、支配的な基軸通貨の発行者が貿易赤字を出し、世界の他の国々がその通貨を十分に保有して、発行者から商品を購入し、世界貿易を拡大する必要があるとした。しかし、赤字を長く続けていると、やがて破綻してしまう。これは、1960年代初頭にドルについて言われたことだ。SDRはトリフィンのジレンマを解決してくれる。今後数年の間に、国連や世界銀行などの多国籍組織にSDRが発行され、民主的に選出された機関の監督下にない気候変動インフラやその他のエリートのペットプロジェクトに使われることになるだろう。私はこれを「世界インフレの新設計図」と呼んでいる」

(ジェームズ・リッカーズ)

 2009年以降、IMFは、SDRを大量に新規発行するためのプラットフォームを構築し、SDR建て資産の深い流動性プールを確立するために、ゆっくりとしたステップを踏んできた。

 SDRは、IMF加盟国に大量に発行することができ、将来的には、国際収支の決済、石油価格の決定、エクソン・モービル、トヨタ、ロイヤル・ダッチ・シェルなどの世界最大の企業の財務会計など、世界で最も重要な取引の一部に使用することができる。

ドルの購買力の推移(1913~2020年)

出所:ビジュアルキャピタリスト

 バイデン政権による追加の、かつ大胆な支援策によって、家計収入全体に占める政府給付金の割合は過去最高となる34%まで上昇した。

 言い換えれば、現在、米国の世帯収入の3分の1は国からの給付によるものだということになる。

 米国に続いて英国もテーパリングに及び腰になってきた。もう緩和中毒の中央銀行は何もできないということだ。ただ資産を押し上げ、行けるところまで行くということだろう。インフレに言及する企業の数が急増しており、インフレはすぐそこにまで迫っている可能性が高い。

「認識されている価値が失われることによる痛みは、ここから価格が上昇するにつれて、さらに激しくなるだろう。要するに、ボルカー以来のFRBはかなり無知であり、今もそうである。

 しかし、より注目に値するのは、資産バブルへの対処が明らかに無能であるにもかかわらず、これら4人のFRBのボス全員に示された持続的な信頼である」と、GMOのジェレミー・グランサムは述べているが、より注目に値するのは、資産バブルへの対処が明らかに無能であるにもかかわらず、グリーンスパン、バーナンキ、イエレン、パウエルという4人のFRBのボス全員に示された持続的な信頼である。

 FRBの政策は小手先のみで、麻薬(おカネ)を注射しまくって一過性、一時の元気を与えるだけという緩和依存症に陥っている。「世界インフレの新設計図」はすでに奥の院によって用意されているのかもしれない。歴史と論理に従えば、ばらまいたおカネはいずれインフレ、増税、通貨切下りげなどで減価していくだろう。

6月30日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 6月30日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹さん(楽天証券 株式・デリバティブ事業部長)をゲストにお招きして、「ここからの株式市場の見通しと注目銘柄」というテーマで話をしてみた。放送をぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

6月30日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube

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