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本レポートに掲載した銘柄:ショッピファイ(SHOP、NYSE)スカイウォーター・テクノロジー(SKYT、NASDAQ)

ショッピファイ

1.ネット通販サイトの構築支援会社。アマゾンへの不満を受け止め成長中

 ショッピファイ(Shopify。ティッカーシンボルはSHOP。ニューヨーク上場)は、企業や個人が構築するインターネット通販サイトの構築支援サービスを行っている会社です。カナダの会社で、主にアメリカ、カナダ、イギリスで事業展開していますが、日本を含むアジア、欧州にも進出しています。

 アメリカのネット通販販売高の39.0%はアマゾン・ドット・コムによるものであり(2020年、ショッピファイによる)、ショッピファイは2位8.6%のシェアを得ています。アメリカでも世界でもネット通販市場におけるアマゾンのシェアは圧倒的ですが、アマゾンには欠点もあります。アマゾンが得意なのは、ブランドや性能、機能に対する評価が確立した商品(主に各分野のコモディティ商品)の値引きによる大量販売です。反対に、丁寧にブランド構築をして値引きを出来るだけせずに売りたい販売業者(アマゾンのサードパーティ)にとっては、アマゾンに出品することにメリットを見いだせないことも多いと言われています。

 アマゾン自身はGMV(流通総額)を開示していませんが、Marketplace Pulseの推定によると、2020年のアマゾンのGMV(全世界)はアマゾンによるもの1,900億ドル(前年比40.7%増)、サードパーティによるもの3,000億ドル(同50.0%増)となっています。日本円換算で約33兆円という巨額の流通総額がサードパーティによるものになっており、アマゾンがいかに努力しても、アマゾンに不満を持つ販売業者は増加していると考えられます。

 そのような販売業者に対して、ネット通販サイトの構築支援と日常の販売活動に使う各種ツールやサービスを提供しているのがショッピファイです。月額定額のウェブサイト構築支援サービス(サブスクリプション・ソリューションズ)から、より大規模なネット通販サイトの構築支援サービス(マーチャント・ソリューションズ。各種ツールの提供、決済システム、配送サービス、金融システム[販売業者向けローンなど]など)を提供しています。

 顧客の多くは中小、ベンチャーの販売業者と思われますが、大手企業も含まれています。また、TikTok、フェイスブックなどのSNSサービスと提携しており、ショッピファイの顧客であるネット通販業者が顧客を開拓する際に効果を上げています。

グラフ1 アメリカのeコマース売上高(小売)シェア(2020年)

出所:ショッピファイ資料より楽天証券作成

2.2021年12月期1Qは売上高2.1倍、営業利益黒字転換

 ショッピファイの2021年12月期1Q(2021年1-3月期)は、売上高9億8,900万ドル(前年比2.1倍)、営業利益1億1,900万ドル(前年同期は7,300万ドルの赤字)となりました。

 売上高の内訳を見ると、サブスクリプション・ソリューションズ3億2,100万ドル(同70.7%増)、マーチャント・ソリューションズ6億6,800万ドル(同2.4倍)となりました。売上総利益率は、サブスクリプション・ソリューションズ81.6%に対してマーチャント・ソリューションズ44.3%とマーチャント・ソリューションズが低くなっていますが、ショッピファイの流通総額が大きくなったため、顧客の間でネット通販サイトを充実させる動きが強くなっており、各種構築ツール、決済サービス、配送サービス、事業者向けローンなどからなるマーチャント・ソリューションズの需要が大きく増えました。その結果、全社の増益に対する寄与もマーチャント・ソリューションズが大きくなりました。

 また、今1Qの純利益は12億5,800万ドル(前年同期は3,100万ドルの赤字)となりましたが、このうち13億ドルは投資先のAffirm(Buy Now Pay Later(先に買って、後払い、分割払い)の決済サービスを提供する新興企業)のIPOに伴う投資有価証券評価益です。

表1 ショッピファイの業績

株価 1,478.99ドル(2021年6月24日)
時価総額 187,350百万ドル(2021年6月24日)
発行済株数 126.674百万株(完全希薄化後)
発行済株数 123.244百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済株式数(Basic)で計算。時価総額は完全希薄化前発行済み株式数(Dilluted)で計算。

表2 ショッピファイ:セグメント別業績(四半期ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:端数処理のため合計が合わない場合がある。

3.高率の増収が続く見通し。当面は人材投資を続ける

 会社側は数字による今2Qと通期のガイダンスを提示していませんが、今期2021年12月期については、新型コロナワクチンの接種が普及して、人々が自由に外出するようになれば、リアルの店舗での買い物が増えることにより、巣ごもり消費が活発だった2020年よりもネット通販の伸びは鈍化すると考えています。ただし、ネット通販の高率の伸びそのものは続くと考えてもいます。要するに2021年12月期のショッピファイの増収率は2020年12月期の前年比85.6%増から2019年12月期の47.1%増の間になるだろうと会社側は予想しています。

 また、ビジネスチャンスが大きいことから今下期(今3Q、4Q)に人材投資を活発に行う予定であり、これが今期の営業利益を圧迫することになると思われます。

 楽天証券では会社側のこの見方と今1Qの実績を参考にして、2021年12月期を売上高50億ドル(前年比70.7%増)、営業利益4億ドル(同4.4倍)と予想します。また、2022年12月期は売上高83億ドル、営業利益9.7億ドル、2023年12月期は売上高135億ドル、営業利益24.2億ドルと予想します。2023年12月期になると人材投資の利益への圧迫が落ち着いて、ある程度高い水準の営業利益が期待できると予想しました。

表3 ショッピファイ:セグメント別業績(通期ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:端数処理のため合計が合わない場合がある。

4.今後6~12カ月間の目標株価を2,000ドルとする

 ショッピファイは高率の売上成長が続くものの、当面は人材投資を積極的に行うことによって、2021年12月期、2022年12月期の営業利益は低い水準に抑えられると思われます。ただし、2023年12月期になれば、ある程度高い水準の営業利益が安定的に出るようになると思われます。

 そこで、楽天証券の2023年12月期予想EPS 16.26ドルに想定PER100~150倍を当てはめ、今後6~12カ月間の目標株価を2,000ドルとしました(PEG=1とすると、2023年12月期予想営業増益率149.5%より想定PERは150倍となるが、人材投資の継続など利益面での不確実性を考慮しディスカウントした)。

 中長期で投資妙味を感じます。

スカイウォーター・テクノロジー

1.アメリカの新興ファウンドリ。2021年4月に上場

 スカイウォーター・テクノロジー(SkyWater Technology。ティッカーシンボルはSKYT。NASDAQ上場)は、2017年3月に設立されたアメリカの新興ファウンドリ(半導体受託生産業者)です。もともとはサイプレス・セミコンダクター(汎用ロジック半導体メーカー。2020年4月にインフィニオン・テクノロジーズに買収された)の生産部門でしたが、2017年3月に投資家に売却され、独立した会社として設立されました。

 その後、2021年4月21日にNASDAQに上場し、IPOで1億1,200万ドル(手取りは約1億ドル)を調達しました(公募価格14ドル。初値15.5ドル)。

 スカイウォーターのセグメントは2つあります。一つはアドバンスド・テクノロジー・サービス(ATS)です。顧客との間で主にロジック半導体やIoT用半導体(MEMSセンサーなど)の共同開発と開発ツールの提供を行います。現在の主力事業で高い率で伸びています。

 2つ目は、ウェハー・サービスであり、これがファウンドリ事業になります。顧客の注文通りの半導体を受託生産する事業です。この事業では、従来の重要顧客であるサイプレス・セミコンダクターが半導体大手のインフィニオン・テクノロジーズに買収されたため、スカイウォーターとのファウンドリ契約が解除され、減収となっています。ただし、サイプレス以外の顧客が増えており、また、ATSに発注している複数の顧客との間でファウンドリ契約を結ぶ動きがでているため、早ければ今期中に増収に転換する可能性があります。

 分野別では自動車向けと航空宇宙・軍事向けが多くなっています。

 技術レベルは、65ナノから350ナノですが、中核は90ナノと130ナノです。製造面では先端技術ではありませんが、汎用ロジック半導体やIoT用半導体の生産には十分な技術を持っています。

 スカイウォーターが直面する汎用ロジック半導体の市場は大きく、WSTS(世界半導体市場統計)によれば、2020年のロジック半導体、ディスクリート、アナログ、マイコンの合計は2,351億ドル(前年比3.6%増)です。このうち推定で15~20%が10ナノから先の先端半導体になり、残りの80%強が10ナノ台から以前の汎用ロジック半導体と少数のディスクリート半導体になります。

 この汎用半導体の分野も、先端半導体と同様、工場を持たないファブレスとファブレスから生産を請け負うファウンドリへの分業が進んでいます。ただし、ファブレス半導体メーカーが多いアメリカに立地しているファウンドリは、大手ではファウンドリ世界4位のグローバル・ファウンドリーズのみであり、あとは少数の専門ファウンドリがアメリカに半導体工場を持っている程度です(タワーセミコンダクター、X-FABシリコンファウンドリーズなどのアメリカ工場。いずれもCMOSセンサ、MEMS、高周波半導体などに特化したファウンドリ。このほか、TSMCとインテルがアメリカに先端半導体の工場を建設する計画)。多くのファウンドリの工場は台湾、韓国、中国に立地しています。これに対してスカイウォーターの工場は全てアメリカに立地しています(フロリダとミネソタ)。汎用ロジック半導体は様々な分野の電子機器に搭載され、社会の隅々に使われるため、開発→生産の流れに機動性が求められることも多くなります。そのため、ファブレスが多いアメリカに工場が立地していることは、スカイウォーターの優位性になると思われます。

2.2021年12月期1Qは30.4%増収、営業赤字拡大

 スカイウォーター・テクノロジーの2021年12月期1Q(2021年1-3月期、以下今1Q)は、売上高4,810万ドル(前年比30.4%増)、営業損失140万ドル(前年同期は70万ドル)となりました。

 セグメント別に見ると、ATSは売上高3,810万ドル(同61.4%増)と好調でした。複数顧客からの発注が増えたもようです。

 一方で、ウェハー・サービスは1,000万ドル(同24.8%減)となりました。サイプレス向けの減少が続いているもようですが、会社側によれば、ATSの複数顧客のウェハー・サービスの導入が始まっているもようであり、今2Q以降いつ増収に転換するのかが今後の焦点になります。

 全社売上高は前年比30.4%増の増収になりましたが、研究開発費、販管費が増加したため、営業赤字は拡大しました。

表4 スカイウォーター・テクノロジーの業績

株価 30.73ドル(2021年6月24日)
時価総額 1,198百万ドル(2021年6月24日)
発行済株数 39.000百万株(完全希薄化後)
発行済株数 39.000百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済株式数(Basic)で計算。時価総額は完全希薄化前発行済み株式数(Dilluted)で計算。

表5 スカイウォーター・テクノロジーのセグメント別売上高(四半期ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成。

3.アドバンスド・テクノロジー・サービスからファウンドリへの展開で高成長が期待できる

 会社側は、スカイウォーターが上場したばかりの新興企業ということがあると思われますが、今2Qと今期2021年12月期のガイダンスを示していません。ただし、会社側はアドバンスド・テクノロジー・サービス(ATS)に注力しており、今後も売上増加が続きそうです。またウェハー・サービスではサイプレス向けの減少が今1Qも続いたものの、前述のようにATSの顧客がウェハー・サービスの新規顧客になる事例が複数出ているため、今期中にもウェハー・サービスが増収転換する可能性があります。

 これらの考察から、楽天証券ではスカイウォーターの2021年12月期を、売上高1億9,000万ドル(同35.3%増)、営業損失500万ドル(2020年12月期は860万ドルの赤字)と予想します。また、2022年12月期は売上高2億3,000万ドル、営業利益0、2023年12月期は売上高2億8,000万ドル(同21.7%増)、営業利益1,000万ドルと予想します。上場して間もないため、会社のデータが十分そろっておらず、今1Qの延長線上で業績予想を行いました。

 今後の注力分野については、会社側は次の4分野を挙げています。

  1. アメリカ国防総省と2019年10月に契約した耐放射線半導体の開発(90ナノ)。
  2. 高度パッケージング。
  3. バイオヘルス。MEMS技術を使った診断ソリューションを開発中。
  4. 自動車、IoTに対する130ナノラインの強化。

 設備投資について見ると、会社側の上場前開示資料(2021年3月22日開示のFORM S-1)によれば、2020年12月期は8,990万ドルでした。会社側の2021年12月期設備投資予想は600~1,000万ドルと少額ですが、これはスカイウォーターの主力である90ナノ、130ナノの汎用半導体の場合、10ナノから先の先端半導体のような巨額設備投資を継続する必要がないためです。

 なお、仮に将来大口のウェハー・サービスの受注があった場合、増資や顧客からの支援金等で設備投資を賄うことになる可能性があります。受注の規模によっては比較的大きな資金調達が必要になる可能性もありますが、それによって大きな成長が実現できるならば、前向きに評価してよいと思われます。

表6 スカイウォーター・テクノロジーのセグメント別売上高(年度ベース)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成。

4.今後6~12カ月の目標株価を45ドルとする

 スカイウォーター・テクノロジーの今期2021年12月期は営業赤字が続くと思われます。営業黒字になるのは楽天証券の予想では2023年12月期です。そこで今回の株価評価にはPSR(株価÷1株当たり売上高、または時価総額÷売上高)を使います。2021年12月期予想ベースのPSRは6.3倍です(2021年6月24日終値ベース。時価総額は12.0億ドル)。これを営業黒字になるであろう2023年12月期楽天証券予想売上高2.8億ドルに当てはめると、予想時価総額は17.6億ドルとなり、今の時価総額よりも46%多くなります。ここから、今後6~12カ月間の予想株価を45ドルとします。

 リスクもあります。競争相手は、大手ではTSMC、サムスン・ファウンドリ部門、グローバル・ファウンドリーズなどスカイウォーターよりも規模が大きい会社ばかりです。ただし、追い風も吹いており、先端半導体から汎用半導体までの半導体不足、アメリカ政府のハイテク産業に対する支援策(これからアメリカ下院で審議されることになる「アメリカ技術革新・競争法案」)が今後のスカイウォーターの成長にプラスに寄与すると思われます。

 これらを総合して考えると、中長期で投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄:ショッピファイ(SHOP、NYSE)スカイウォーター・テクノロジー(SKYT、NASDAQ)