都心部では持ち家があるだけで基礎控除額を超える

 親御さんがご健在の方であれば、「うちは相続税がかかるのかなあ?」と不安に思っている方も少なくないでしょう。

 実際、都心部であれば、親御さんが持ち家に住んでいるだけで財産額が相続税の基礎控除額を簡単に超えてしまうケースも非常に多いのです。

 ただ、自分の親がどんな財産をどのくらい持っているか、正確に知っているケースは少ないと思います。親が子どもに、自身の財産について明確に開示をすることはなかなかないからです。

 とはいえ、「相続税を払うのは自分たちなのだから、せめて現時点で相続税がかかるのかどうか、かかるならどのくらいなのか」くらいは最低限知っておきたいのが子どもの側の切実な思いです。

不動産は自分でも調査できる

 筆者も、そうした人たちに対しては、機会をみて親御さんと話をする時間を設けていただくようアドバイスはしていますが、話を切り出すことすら、なかなか難しいのが本音のようです。

 しかしそれでは、いつまでたっても相続税の有無や金額について推定することはできません。

 そこでせめて、不動産だけでもできる限りの調査をするようにしましょう。

 親御さんがどこに不動産を持っているかが分かれば、その物件についての登記簿謄本を取得しましょう。登記簿謄本は誰でも取得することができます。

 また、自宅に親御さんと同居しているような場合は、固定資産評価証明書や名寄帳といったものを、委任状なしで取得できる自治体も多いですから、これらも情報として得ることができます。

 登記簿謄本には、土地、建物それぞれにつき、誰がどのくらいの割合で所有しているかが記載されています。自宅であれば、父が100%保有しているケースもありますし、父と母が2分の1ずつ保有しているケースもあるでしょう。

 そして、路線価が付されているエリアであれば、土地の面積に路線価を乗じることで、おおよその相続税評価額を出すことができます。

 これにより、父もしくは母が保有している不動産の存在を知ってさえいれば、これらがどのくらいの金額なのかを概算でつかむことができます。

 また、自宅や賃貸物件などは、小規模宅地の特例を使うことにより土地の評価額を減額することができます。小規模宅地の特例を使えるかどうか、そして実際に相続が生じた時に使えるようにするために何をしてはいけないのか(例えば親が老人ホームに入り自宅が空き家になった後、賃貸に回してはいけないなど)を確認しておきましょう。

金融資産が多ければ何とかなる

 相続税という観点からみると、「相続税をそもそも支払うだけのキャッシュがあるかどうか」が大きな問題になってきます。

 もし、相続財産の中に占める不動産の割合が低く、現預金や上場株式、投資信託、債券などの金融資産や、金地金(ゴールド)などの換金しやすいものが多数を占めるのであれば、相続税の多寡はともかく、支払えないという心配はありません。

 でも、例えば相続財産のうち95%は不動産で、換金性の高い資産がほとんどない、という場合は、不動産の一部を売却して納税資金を確保する必要があります。

 このとき、相続発生後に慌てて売却すると、価値の高い不動産を買い叩かれてしまう恐れもあります。できるだけ生前から、不要な不動産を処分するなど対策をしておくことをお勧めします。

 一方、親御さんの財産の中に不動産など換金性の低い資産は金額的にそれほど多くはない、ということが分かれば、存在の知らなかった多額の金融資産が相続発生後に見つかっても、相続税を支払う資金はありますから何とかなります。

相続人が1人の場合は要注意!簡単でいいので税額シミュレーションを

 不動産を中心に、ざっくりと財産の金額を推定できたなら、相続税額のシミュレーションをしてみましょう。その際、相続人は誰が該当するのかをしっかりと把握することが重要です。

 実は、相続税の計算上、相続財産の金額は同じでも、相続人の人数が少ないほど相続税の額は高くなります。

 例えば相続財産が2億円(基礎控除前)あったとすると、相続税額はそれぞれ

  • 相続人1人:4,860万円
  • 相続人2人:3,340万円
  • 相続人3人:2,460万円

 となり、相続人1人の場合の税額は、3人の場合のおよそ2倍となります。さらに、3人の場合はこの税額を3人で支払えばよいですが、1人の場合は全てを1人で支払わなければなりません。

 ですから、同じ相続財産の額であっても、相続人の人数が少ない方が、納税資金をまかなえるだけの金融資産をより多く準備する必要があるのです。

 これ以外にも、例えば「遺言書があるのか」とか「遺産分割協議がスムーズに進みそうか」といった点も重要なのですが、相続税がかかるのかどうかという観点からは、最低限、今回お話しした内容については確認するようにしておきましょう。ご自身で計算するのが難しかったり、不安に思う場合は、税理士に依頼して試算してもらうのもよいでしょう。