※本記事は2020年8月28日に公開したものです。

 資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

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将来に備えて、投資信託で積立投資スタート!資産1,000万円が目標だが…

田村亜里沙さん(仮名)会社員・26歳(独身)

 田村さんは現在、社会人4年目。仕事にも慣れ、少しずつ生活にも余裕が出てきました。

 先日、久しぶりに大学時代の友人に連絡を取ってみると、友人は1年ほど前から投資を始め、少しですが利益が出ているとのことでした。この話を聞いているうちに、田村さんも投資に興味が湧き、自分も始めてみようと考えました。

 その後、ネットや本などで調べていると、投資信託で毎月一定額を投資する「積立投資」が、手間も掛からず、失敗も少なそうだと感じました。

 これから積立投資を始めようとする田村さん、果たしてこの選択は正しいのでしょうか。

積立投資のウソホント(1)メリットは?

 積立投資は「初心者におすすめ!」と言われることが多いようです。ではいったい、どんな点が具体的におすすめなのでしょうか。

 まずは、積立投資のメリットについて、チェックしてみましょう。

積立投資のホント1:少額でできる

 積立投資は、100円からでも始めることができます。「習うより慣れろ」ということわざもあるように、投資には商品の仕組みなどの専門用語も多く、相場の値動きにも慣れるためにも、少額で始められることは大きなメリットです。

積立投資のホント2:積み立てを自動化できる

 積立投資を始めると、あとは手間を掛けることなく、毎月自動的に積み立てができます。

 特に、値動きを頻繁にチェックする必要もないので、投資を始めて10年、20年たつころ、気づいたら目標金額を達成していた、ということもあるでしょう。

 ただ、ここで重要な点があります。実は積立投資の一番の難関は、継続できるかどうかにかかっています。積立投資は継続することで、余裕資金を積み増しながら運用で得た利益も再投資する複利効果が期待できます。そして継続するためにも、投資を自動化して、ほったらかしでいい環境を作ることが重要です。

積立投資のホント3:相場に振り回されず投資ができる

 日々刻々と世界情勢が変わる中で、投資対象の相場もあっという間に変化していきます。仕事をしている人や日々忙しい生活を送っている人にとって、その変化にいちいち対応するのは、かなり難しいことです。この点、積立投資なら機械的に毎月定額で商品を購入していくだけなので、相場の状況を考える必要がありません。

 特に個人が投資で失敗しやすいのは、相場の変化についていけず感情的になって売買をしてしまうこと。「機械的に」投資をする積み立ては、時間が取れない人にとって、非常に相性が良い投資のやり方です。

投資の入口は積立投資がベスト。でも…

 こうしてみると、投資初心者が運用を始める入口は、やはり積立投資がおすすめのようです。しかし、積立投資といえども投資に変わりはなく、リスクはあり、盲目的にすべてが良いとは限りません。次に、積立投資で誤解されがちな2点について解説します。

積立投資のウソホント(2)ありがちな誤解

積立投資のウソ1:「ドルコスト平均法」で購入できるので、安定した運用成果が期待できる

 ドルコスト平均法とは、「一定期間ごとに、一定金額で、同じ投資対象を買い付ける投資方法」のことで、毎月一定額で積立投資をすれば、価格が安いときは多く、価格が高いときには少なく買い付けるため、結果的に平均購入単価を平準化できる投資のやり方です。

 これは間違ってはいませんが、良い面だけしか見ていません。

 例えば、運用を続けて10年・20年たったとき、運悪く相場が大きく下落した場合は、これまで積み立てしていたお金が、突然大きく目減りする可能性もあります。そして、投資期間が長くなればなるほど、毎月積み立てしている金額よりも、「すでに投資している金額」の方が大きくなるので、買付価格を平準化する効果も少なくなっていきます。

 ただし、ドルコスト平均法が悪いわけではありません。投資初心者にはむしろおすすめの方法ですが、ここでお伝えしたいのは、「盲目的に良い点だけを見てはダメ」だということ。このようなリスクや注意点にも、しっかりと目を向けることが大切です。

積立投資のウソ2:長期積立投資なら資産形成がうまくいく!

「長期積立投資なら資産形成がうまくいく!」と聞くと、「投資」の運用成果で資産を作れるように勘違いをしがちですが、大切なのは「積立」のほう。積み立てによって、運用の原資を作っていることを見失わないでください。

 楽天証券の「積立シミュレーション」を使って、「毎月3万円・20年間・3%」で運用した場合を計算すると、積み立てた金額の合計は約1,000万円となります。

 内訳を見ると、「積立」した元本部分が『720万円』、運用で増えた部分が『約265万円』であることが分かります。比率で言えば、元本が約73%、運用益約27%です。このことから、積立投資で最も大切なことは、毎月積み立てができる家計、つまり余裕資金のある家計であることが大前提なのです。

出所:楽天証券積立シミュレーションより筆者作成

1,000万円につながる積立投資の入口と出口のルール

 資産形成をする人にとって、「1,000万円」は一つの節目となる金額です。100万円であれば賞与や臨時収入で手に入る人もいますが、1,000万円は計画的に貯蓄しなければ届かない人がほとんどの金額だからです。

 そこで、いまゼロから1,000万円を貯めたいと考える人に向けて、おすすめの方法をご紹介します。

ルール1:貯蓄とは別に毎月3万円投資できる家計を作る

 これまでも触れましたが、資産運用をしようとしても元金がなければどうしようもありません。優先順位は投資をするよりも、まずは家計の見直し、支出の削減、収入の増加です。

 さらにその前、投資のお金を貯める以前にやることは、いざというときのための貯金を作っておくことです。いざというときに、投資をしたお金を当てにすると、相場の状況によって目減りしていたり、損なタイミングで売却しなければならないため、お金を貯める順番は間違えないようにしましょう。現役で働いている人なら、貯金は毎月の生活費の6カ月分が目安です。

ルール2:つみたてNISAで毎月3万円を積み立て続ける

 投資のスタート時は無理をせず、値動きが怖ければ少額から始めることがおすすめです。ただし、1,000万円を目標にするには、最低でも毎月3万円は投資資金を積み立ててみましょう。

 運用成果はもちろん約束されているわけではありませんが、世界株式の中心である米国株式のS&P500がここ10年で平均年11%ほど上昇(年初から年末にかけての騰落率の平均)していることを考えると、シミュレーションで挙げた年率3%は、決して高い想定ではないと言ってもいいのではないでしょうか。

 さらに、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座を活用すれば、売却益の税金(20.315%)が非課税になります。値上がりした資産を売却したとき、通常の証券口座での売買よりも手元に残るお金が多くなるため、使わない手はないでしょう。

ルール3:目標の1,000万円を超えたら、いったん商品を売却する

 投資で一番難しいのは「いつ売却するか」だと言われます。

「たい焼きの頭と尻尾はくれてやれ」という投資の格言があります。これは、目標を達成しているのなら、さらに利益を追おうと欲張らず、いったん売却・整理しておきましょうという意味です。

 うまくいっているときほど、まだ上がると考えて売却できなくなるのは、よくあることです。もちろん、さらに上がる可能性もありますが、売却を待つ間、逆に大きく下がることも考えられます。また、下がったタイミングであせって売却をすると、たとえ利益は出ていても、すごく損をした気分になりがちです。

 積立投資の基本的な考え方から、「継続して積み立てしていきましょう!」と提案する方も多いのですが、投資を続けているうちは冷静に状況判断をすることはなかなか困難なもの。そこで、いったん投資をストップしてみると、客観的に状況を把握しやすくなります。1,000万円を貯め始めたころと、貯めた後では状況が大きく変わっている可能性もあります。いったん投資を整理して、市場環境を分析したり、投資対象を見直して、次の計画を考えるといいでしょう。

家計の救済策

投資は良い点・注意点、入口・出口を考えておくこと!

 投資はうまく付き合えば資産を大きく増やしてくれる半面、安易な投資は大切な資産を目減りさせてしまいます。投資初心者の方には、まずは投資をやってみることをおすすめしていますが、無理のない金額から始めるべきです。

 今の自分に合った投資方法や金額なのか、そもそも投資をする時期なのかなど、自問自答した上で、身の丈に合った投資を実践し、ぜひ投資経験と知識を身につけていきましょう。

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