今週の米10年債は1.5%超え。ドル/円も110円台に

 先週のドル/円は、1ドル=109円台の狭いレンジでの動きとなりました。米長期金利10年が1.43%でも109円台前半、米CPI(消費者物価指数) が予想を上回る+5.0%と発表されても、米10年債は1.5%を超えず、ドル/円も110円を超えない動きでした。

 4~6月の CPIは、ベース効果や中古自動車などの特殊要因で高くなるとの見方がかなり織り込まれていることを示す動きでした。

 しかし、今週に入って、米10年債は一時、1.5%を超え、ドル/円も110円台に乗せてきました。特段これといった理由もないことから、今週15~16日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)をかなり気にしているような動きです。

 マーケットがFOMCを警戒し始めている理由は、5月下旬にFRB(米連邦準備制度理事会)のクラリダ副議長やクオールズ副議長が、「今後数回の会合」でのテーパリング議論開始に言及したことや、また6月上旬にはFRBが、社債やETF(上場投資信託)の売却開始を発表したことなどから、少し警戒心が高まってきているからかもしれません。

 社債やETFの売却については、コロナ対策の緊急措置の一環として購入した量を、ポートフォリオの調整として段階的に売却するものであって、金融政策とは無関係であり、政策についてのシグナルでもない、とFRBは説明しています。

テーパリングいつ?FRBの金融政策変更を読む

 さて、現在、テーパリングの議論開始あるいは時期が注目されていますが、これらはFRBの金融政策変更の流れの中では、どのような位置付けにあるのかを確認したいと思います。

 FRBは現在、金融緩和政策を取っています。政策金利はすでに「ゼロ金利」なので、次の政策として市場に資金を供給する「量的緩和政策」を取っています。

 現在、FRBは、MBS(米国債と住宅ローン担保証券)を合計で毎月1,200億ドル(約13兆円)購入しています。そしてテーパリングとは、この資産購入額を縮小するということです。

※テーパリング(Tapering )のテーパー(Taper)とは「縮小」という意味のことです。

 年8回開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)では、この金融政策を維持するのか変更するのかということが議論されています。FRBの現在の政策は金融緩和政策なので、政策変更とは、金融緩和から金融引き締めということになります。その流れとしては、

「(1)量的緩和→(2)量的緩和縮小開始→(3)量的緩和縮小終了→(4)利上げ開始→(5)保有資産の段階的縮小開始」となります。

 現在、焦点となっているのは、緩和から緩和縮小である「(2)量的緩和縮小開始」の時期がいつになるか、ということですが、さらに(2)の前に「(a)縮小検討の議論開始」→「(b)縮小を示唆」→「(c)FOMCで縮小開始を表明」→「(2)量的緩和縮小開始」となります。

 先程触れた、FRBのクラリダ副議長やクオールズ副議長の発言は、「今後数回の会合」でのテーパリング議論開始という内容ですので、「(a)縮小検討の議論開始」の時期について言及したということになります。しかも、「今後数回の会合で」ということですので、2~3回ということであれば、6月、7月、9月のFOMCで議論がはじまるということになります。「(b)縮小を示唆」「(c)FOMCで縮小開始を表明」は、まだまだ先の話ということになります。

 そして、このスケジュール感に「雇用回復」という最大テーマを考慮すると「縮小開始」まではかなり時間がかかりそうだということになります。ただ、雇用回復については留意したい点もあります。

共和党州では7月上旬で失業手当を打ち切り

 米経済対策として失業手当の週300ドル上乗せについては、米労働者の復職意欲を高めるため、早めに打ち切る州が出てきたということを以前お話しましたが、現時点では共和党が政権を握る25州では7月上旬までに打ち切られるとのことです。

 そうなると、打ち切りによって復職が反映される7月の雇用統計(8月発表)が注目されます。また、残り25州でも制度が終了する9月の雇用統計(10月発表)に反映されるため、8~10月にかけて雇用回復が加速するかもしれません。予想以上に雇用回復が加速するのであれば、8~10月の雇用統計発表に合わせて、テーパリングの早期開始期待が高まり、相場が動くかもしれません。

 一方で、雇用回復に伴って賃金上昇が和らぐ可能性もあり、インフレへの警戒心が後退するのかどうかも注目したい点です。賃金上昇が和らげば、反対にテーパリング期待が後退することになりますが、雇用が回復しても賃金上昇に歯止めがかからなければ、インフレは一時的とはいえなくなることも予想され、注意が必要です。

 今週のFOMCでは、政策変更の時期を匂わす直接的な表現はないと予想されますが、注意しないといけないのは、匂わす表現がなくてもインフレ見通しや金利見通し(ドットチャート)で、前回よりタカ派的な見通しとなった場合です。

 3月の物価見通しでは、2021年末に2.2%、22年末に2.0%、23年末に2.1%と、その前の12月時点よりも上方改定されていますが、今回も、21年末や22年末の見通しが上方改定されるのかどうか注目です。

タカ派見通しなら金利高、ドル高に要警戒

 また、金利見通しについては、3月は2021年、2022年、2023年とも中央値はゼロ金利を維持する見通しでしたが、この「2023年末までゼロ金利」との見通しが変わるのかどうか」、そして、「その中で2022年に利上げを予想するFOMCメンバーは前回4人、23年に利上げを見込むメンバーは7人でしたが、この人数が増えるのかどうか」に注目です。マーケットでは増えるとの見方が大勢です。

 タカ派的な見通しとなった場合、テーパリングや利上げ時期の前倒し期待が高まり、相場が金利高、ドル高に反応する可能性があるため、注意が必要です。そして、その場合、パウエル議長は、従来から主張している「インフレは一時的」との整合性をどのように説明するのか注目です。

 過去2カ月の雇用回復のペースを見ている限り、他の理事たちのタカ派的見方や発言が増えても、パウエル議長の姿勢は変わらないと予想され、「議論はしたが、条件がそろうにはまだ時間がかかる」と強調するのではないでしょうか。テーパリングへの道筋が少し見えてきたとしても、まだ時間がかかるのであれば、ドル/円は多少上振れても、方向付ける流れにはなりにくいかもしれません。