米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。
米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。
これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。
そこで2021年7月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2021年6月14日現在、為替は1米ドル=110円で計算)。
その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な3つの違いについて、お伝えします。
米国高配当銘柄への投資の留意点
(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。
(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。
(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。
米国高配当株1:バンク・オブ・ノバスコシア(BNS)
カナダ5大銀行のうちの一つで、カナダ第3位の銀行です。
カナダ以外では米国、メキシコ、ペルー、チリ、コロンビアでも事業を展開しています。
時価総額は807億ドルで、日本円で約8兆8,800億円となっています。
事業の注目ポイント
事業の中心は「カナダ国内金融事業(Canadian Banking)」と「国際金融事業(International Banking)」で、続いて「グローバル・ウェルス・マネジメント(Global Wealth Management)」「グローバル金融市場事業(Global Banking and Markets)」「その他(Other)」となります(2021年4月期)。
また、地域別の構成はカナダが約6割、続いてメキシコ、チリ、カリブ海と中央アメリカ、その他地域、米国、ペルー、コロンビアとなります。
各地域において、住宅ローンや企業向けのソリューションビジネス、富裕層向けのウェルスマネジメントサービスなどのさまざまな事業を展開しており、順調に預金量が増え資産規模が拡大しています。
競合他社
競合他社として、同じくカナダを中心とした金融会社でバンク・オブ・モントリオール(BMO)、カナディアン・インペリアル・バンク・オブ・コマース(CM)、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RY)などが挙げられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年2020年の高値を超えています。
また、配当は四半期ごとの変動はあるものの、新型コロナウイルス発生前の水準を超えて推移しています。
他にもバンク・オブ・ノバスコシアは、ESG(環境・社会・企業統治)評価の指標の一つである「MSCI ESG Rating」において世界の銀行の2%だけが取得している最上位の「AAA」を獲得。マーケティングリサーチで著名なJ.D. Power社の顧客満足度調査ではカナダ2位となっています。
それらの評価に加えて、コロナワクチン流通の広がりや、政府支援策による貸倒引当金の減少、住宅ローンなどの手数料収入の増加により業績が回復し、それに伴い株価が回復しています。
業績動向
2021年6月1日開示の四半期決算ではEPS(1株当たり利益)は市場予想を上回りましたが、売上高は市場予想を下回りました。決算を受けての株価の変動はあまりありませんでしたが、売上高・EPSについては前年同期を上回るとともに、新型コロナ発生前の水準も超えています。
カナダ中央銀行による緊急流動性プログラムの影響もあり、業績の回復が早かったようです。
次回は8月24日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。
注意点
カナダでは、今後2年間が1985年以降で最も成長率の高い年になると予想されており、バンク・オブ・ノバスコシアの業績も堅調となることが想定されます。
しかし一方で、インフレの高まりによる経済への影響によっては、見通しどおりにいかない可能性もあり、注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:2.98ドル
配当利回り:4.47%
株価:66.52ドル(約7,300円)
権利落ち日は7月2日(権利実施日は7月28日)です。
配当は2.98ドル、配当利回りは4.47%、株価は66.52ドルで約7,300円から購入できます(2021年6月14日時点)。2018年以降の最高値は68.00ドル、最安値は32.16ドルです(終値ベース)。
米国高配当株2:エジソン・インターナショナル(EIX)
傘下に、米国大手電力会社の一つである南カリフォルニア・エジソン(Southern California Edison[SCE])や、グローバルエネルギーアドバイザリー企業であるエジソン・エナジー(Edison Energy)を抱える持株会社です。
南カリフォルニア・エジソンはカリフォルニア州を中心に135年にわたって電力を供給し続け、エジソン・エナジーはコスト削減やエネルギー効率化、再生可能エネルギー導入アドバイスなどの事業を展開しています。
時価総額は222億ドルで、日本円で約2兆4,400億円となっています。
事業の注目ポイント
会社の事業構成は電力会社運営事業(南カリフォルニア・エジソン)と、非公益事業セグメント事業(Edison International Parent and Other)に分かれています。
南カリフォルニア・エジソンが電力供給を行っているカリフォルニア州では、GHG(温室効果ガス)排出量を削減し、2045年にカーボンニュートラルを達成することを目標としています。
そのため、南カリフォルニア・エジソンでは「Pathway 2045」というカリフォルニア州がすすめるGHG排出量削減目標を実現するためのロードマップを作成し、それに沿って、よりクリーンエネルギーを作り出す企業へと変革を進めています。
競合他社
競合他社として、同様に米国の各州に電気を供給するファーストエナジー(FE)、アヴァングリッド(AGR)などの公益事業銘柄が見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年2020年の高値まで回復していません。配当は2004年以降、連続増配中です。
カリフォルニア州では毎年のように山火事が発生しますが、2020年は東京都の4.2倍にあたる山林が焼失するなど年々被害が大きくなっており、それに伴う費用負担が重くなったことも株価の上値を重くした要因の一つでした。
これについては、エジソン・インターナショナル側も山火事のリスクとなり得る送配電網を強化するなど、山火事発生リスクを減らすことに努めており、今後もカリフォルニア州と協力して対策を行っていく予定です。
業績動向
2021年4月27日開示の四半期決算ではEPSは市場予想を上回りましたが、売上高は市場予想を下回りました。EPS・売上高ともに前年同期を上回っていますが、株価は前年同期と同程度の水準で推移しています。
株価の戻りが遅い要因として2020年5月の株式募集による希薄化の影響もありますが、今後の山火事対策などが業績拡大にプラスに働くことによって、それによる株価の値上がりが期待されます。
次回は7月29日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。
注意点
仕方のないことではありますが、山火事による業績への影響には注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:2.65ドル
配当利回り:4.51%
株価:58.68ドル(約6,400円)
権利落ち日は7月上旬予定(権利実施は7月下旬予定)です(2021年6月14日時点で未確定、昨年を参照)。
配当は2.65ドル、配当利回りは4.51%、株価は58.68ドルで約6,400円から購入できます(2021年6月14日時点)。
2018年以降の最高値は78.20ドル、最安値は44.47ドルです(終値ベース)。
米国高配当株3:ユーナム・グループ(UNM)
就業不能保障保険、団体生命保険の大手です。
米国、英国、ポーランドで事業展開をしており、S&P500やフォーチューン500に採用されています。
時価総額は61億ドルで、日本円で約6,700億円となっています。
事業の注目ポイント
主な事業収益は保険料収入(Premium Income)で、ユーナム・グループの売り上げの約8割を上げています。その事業の中心である生命保険事業は、ユーナム・米国(Unum US)で同事業の売り上げの約6割を上げており、続いてコロニアル・ライフ(Colonial Life)、クローズド・ブロック(Closed Block)、ユーナム・インターナショナル(Unum International)と続きます。
従業員の福利厚生の一環としてユーナム・グループの商品は、米英において幅広く利用されています。
競合他社
競合他社として、日本ではアヒルがキャラクターのがん保険で有名なアフラック(AFL)、日本法人の子会社がIFA(独立系金融アドバイザリー)事業にも進出しているマニュライフ・フィナンシャル(MFC)、生命保険事業を日本でも力を入れているプルデンシャル・フィナンシャル(PRU)が挙げられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年2020年の高値を超えており、配当は横ばいを維持しています。
今後の予定として、会社側は2021年5月27日の説明会で「2021年下半期には自社株買いの再開を予定していること、および2021年第3四半期配当から、普通株式1株あたり現行の0.285ドルから、0.3ドルに増配し、年間1.2ドルを予定している」と発表がありました。
さらに「当社の資本状況と今年の業績見通しに自信を持っていることを示している」としており、今後の業績次第ではさらなる株価の上昇もあるかもしれません。
業績動向
2021年5月5日開示の四半期決算では、EPS・売上高ともに市場予想を上回りました。
決算を受けて株価は上昇し、その後自社株買い・増配の発表を受け、さらに上昇しています。
コロナ禍の中でも、新型コロナ発生以前と同程度の業績を上げており、コロナワクチン接種の広がりとともに同社の業績がさらに拡大し、それに伴い株価の上昇が期待されています。
次回2021年8月3日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。
注意点
会社側は懸念として、デジタル機能の開発、または情報技術開発の遅れによって成長機会を阻害し、それがビジネスチャンスを逃す可能性があることについて言及しており、そういったリスクがあることには注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:1.14ドル
配当利回り:3.77%
株価:30.19ドル(約3,300円)
権利落ち日は7月下旬予定(権利実施は8月中旬予定)です(2021年6月14日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は1.14ドル、配当利回りは3.77%、株価は30.19ドルで約3,300円から購入できます(2021年6月14日時点)。
2018年以降の最高値は58.59ドル、最安値は10.38ドルです(終値ベース)。
米国高配当株4:ゼネラル・ミルズ(GIS)
米国の大手食品メーカーで、半年前にもご紹介した銘柄です。
100カ国以上で100以上のブランドを展開しており、その中には「ハーゲンダッツ」や「Yoplait」など強力なブランドを複数抱えています。日本では、ゼネラル・ミルズとの技術提携によって1978年にハウス食品が「とんがりコーン」を発売しており、世界各国でゼネラル・ミルズの製品は食されています。
時価総額は380億ドルで、日本円で約4兆2,100億円となっています。
事業の注目ポイント
事業の中心は北米小売事業(North America Retail)で、売り上げの約6割を上げており、続いて欧州・豪州事業(Europe & Australia)、アジア・南米事業(Asia & Latin America)、ペット関連事業(Pet)、コンビニエンスストア&フードサービス事業(Convenience Stores & Foodservice)と続きます。
北米小売事業では、新型コロナウイルスの行動制限によって家庭での食品需要が増加しており、それを米国のミール&ベーキング、およびシリアルがけん引することで、順調に売り上げが拡大しています。
ペット関連事業も同様に新型コロナ要因によって売り上げを伸ばしており、今後もさらなる市場シェアの拡大が見込まれています。
競合他社
競合他社として、消費者向けのスナック食品・飲料製品の製造・販売を行うモンデリーズ・インターナショナル(MDLZ)、世界的な食品・飲料会社であるクラフト・ハインツ(KHC)、食品および飲料製品の製造とマーケティングを行うJMスマッカー(SJM)が見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年2020年の高値近辺で推移しています。
また、配当は昨年10月に増配をしており、それ以前にも安定して配当を出しています。
自社株買いの再開や、欧州のYoplait事業の売却、ペットフードのBLUE BUFFALOの買収など選択と集中を継続しており、今後も柔軟な経営戦略による安定した株価推移が期待されます。
業績動向
2021年3月24日開示の四半期決算ではEPSは市場予想を下回り、売上高は市場予想を上回りました。しかし、EPSが市場予想を下回ったものの、EPS・売上高ともに前年同期の水準を上回っております。
また各事業においては、コンビニエンスストア&フードサービス事業以外の全ての事業で、売り上げ・営業利益が拡大しており、今後も選択と集中を進めることで、さらなる業績の拡大が期待されます。
次回2021年6月30日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。
注意点
インフレによる原材料コストの増加及び、物流コストの増加については会社側も懸念を持っており、そういったリスクがある点には注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:2.04ドル
配当利回り:3.25%
株価:62.65ドル(約6,900円)
権利落ち日は7月上旬予定(権利実施は8月上旬予定)です(2021年6月14日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は2.04ドル、配当利回りは3.25%、株価は62.65ドルで約6,900円から購入できます(2021年6月14日時点)。
2018年以降の最高値は65.74ドル、最安値は36.70ドルです(終値ベース)。
米国高配当株5:NRGエナジー(NRG)
米国東海岸とテキサス州など11州の電力自由化地域で事業展開する大手小売電気事業者で、顧客の求めるサービスに応じて、さまざまな電力サービスを提供しています。
再生可能エネルギーによる電力を100%求める顧客向けには「Green Mountain Energy」を、割安な料金を求める顧客向けには「Pennywise Power」、他にも価格と高品質のバランスのよい「Cirro Energy」など、さまざまなブランドで事業展開しています。
時価総額は90億ドルで、日本円で約9,900億円となっています。
事業の注目ポイント
事業の中心は東海岸事業と、テキサス事業で、二つの事業で売り上の約9割を上げており、続いて「その他事業(Other)」が約1割となっています。
テキサス州やニューヨーク州などの東海岸の顧客へ、天然ガス、石炭を中心に、再生可能エネルギー、原子力などにより生成した電力を提供しています。
特に天然ガスは、手頃な価格で米国内で生産され、他の従来のエネルギー源よりも二酸化炭素の排出量が少ないため、エナジーインクは石炭火力発電所を天然ガス利用施設への移行をすすめており、環境面にも配慮した運営を行っています。
競合他社
競合他社として、すでにご紹介したエジソン・インターナショナル(EIX)や、同様に米国の各州に電気を供給するファーストエナジー(FE)、アヴァングリッド(AGR)などの公益事業銘柄が見受けられます。
株式の注目ポイント
株価は昨年の高値まで回復していませんが、配当は今年に入って増配をしております。
株価が戻っていない要因として、今年2月中旬、温暖なテキサス州で記録的寒波が発生し、大規模停電が起きました。
それに伴い、全米の石油生産の4割を占めるテキサスがそのような状況に陥ったことによる発電コストの上昇などで、大きく利益が減ったことも株価の回復が重い要因のようです。
その後も、米国のインフレ懸念などを背景として株価は下落しておりますが、その分、利回りは上昇し、魅力的な水準となっています。
業績動向
2021年5月6日開示の四半期決算ではEPSは市場予想を下回り、売り上げは市場予想を上回りました。
テキサス州を襲った大寒波の影響により業績に影響が出ており、そういった状況によりEPSが市場予想を下回りました。
今後は、買収した北米全体で400万人の顧客を抱えるDirect Energyなどとの相乗効果によって、業績が回復することが期待されます。
次回2021年8月11日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。
注意点
会社側は注意事項として「COVID-19またはその他のパンデミックが当社の事業に影響をおよぼす可能性、政府または市場規制の変化」など、複数の事項を挙げていますが、やはり今回のように天候によって大きな影響を受ける可能性がある点には注意が必要です。
株価動向、配当利回り
配当:1.3ドル
配当利回り:3.50%
株価:37.08ドル(約4,000円)
権利落ち日は7月下旬予定(権利実施は8月中旬予定)です(2021年6月14日時点で未確定。昨年を参照)。
配当は1.3ドル、配当利回りは3.50%、株価は37.08ドルで約4,000円から購入できます(2021年6月14日時点)。
2018年以降の最高値は43.93ドル、最安値は21.99ドルです(終値ベース)。
【要チェック】
リーファス社の公式YouTubeチャンネル『ニーサ教授のお金と投資の実践講座』では、同コラムの他にも動画でお金と投資の知識を学ぶことができます。
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