5月中旬以降がリバウンド先行も、2万9,000円回復後はもみ合いが続く形に

 直近1カ月(5月17日~6月11日)の日経平均株価は3.1%の上昇となりました。5月13日にかけ株価が大きく調整した反動で、前半はリバウンドの動きが優勢となりました。

 ただ、5月末にかけて2万9,000円レベルを回復した後は、同水準でのもみ合いが続く形となっています。下は25日移動平均線、上は75日線に挟まれる形での推移となっており、日中の値幅も足元は限定的な状況です。

 懸念されていた米国長期金利の上昇ですが、FRB(米連邦準備制度理事会)のクラリダ副議長が金融緩和縮小の協議は時期尚早との考えを再表明したことなどで、緩やかに反転、低下する流れとなりました。

 それに伴い、5月中旬以降は、グロース株主導で株式市場もリバウンドに転じる展開となった格好です。5月27日にMSCIリバランスが実施されましたが、翌日はリバランスによる日本株売りの需給要因が一巡したことで、一段と上げ幅を広げました。

 ただ、2万9,000円回復後は、米雇用統計やCPI(消費者物価指数)などの発表が買い手控え材料とされるなど、6月11日のメジャーSQに向けて売り買いともに積極的なポジションをとる動きは限られました。

 この期間の主力株の動きとしては、トヨタ(7203)の上昇が話題となりました。2015年の高値水準8,783円を突破すると、一気に1万円の大台乗せを視野に入れる動きとなり、一時は9,971円にまで上昇しています。他の自動車株でも連れ高する銘柄が多くなりました。

 また、大手海運株など景気敏感セクターの一角も続伸となったほか、空運や電鉄、旅行、挙式などのアフターコロナ銘柄でも水準訂正の動きが強まりました。

 個別では、アルツハイマー病治療薬の承認申請が認められたことで、エーザイ(4523)が連日のストップ高を演じるなど急騰しました。

 一方、海運株とともに景気敏感セクターとして買われてきた大手鉄鋼株には利食い売りの動きが優勢となりました。

 また、2万円乗せ後も急騰が続き、トヨタとともに活況が目立っていたレーザーテック(6920)ですが、複数の投資判断格下げの動きが重なったことで、6月に入り大きな調整場面を迎えました。

長期金利の再上昇懸念など拭い切れず、上値の重い展開は継続の公算

 6月15~16日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果は現段階で不明ですが、未曽有の金融緩和策の長期化を示唆するものになる可能性も高いでしょう。

 ただし、5月の米CPIは2008年8月以来の上昇率となっているほか、雇用統計では賃金の上昇傾向も確認されています。インフレへの懸念は日増しに高まっており、先行きの金融引き締め懸念は完全には拭えないでしょう。

 足元の米長期金利はファンダメンタルズと乖離(かいり)する動きになっていますが、FOMCを境に反転してくる可能性も高いと考えられます。

 直近では、木材価格の急騰が住宅建設に影響を及ぼし始めているなど、金融緩和策長期化のマイナス効果も見え始めています。引き続き、株式市場は上値の重い展開が続くものとみられます。

 国内でもワクチン接種が進展しつつあり、アフターコロナ銘柄の今後の業績は反転傾向が鮮明化してくるものと考えられます。

 関連銘柄ではコロナショック前の株価水準を上回ってきているものもありますが、代表格といえる空運株では、日本航空がコロナ前(2020年2月14日)との比較で13%、全日空が15%程度依然として下回っています。

 こうした点から見て、上値余地はまだ残るものと考えます。このテーマで言えば、米国では「ミーム株」相場が盛り上がりを見せており、とりわけ、現在は映画運営チェーンのAMCエンターなどが中心格となっているようです。こうした流れが波及して、国内でも、関連の低位小型株などが仕手化するような動きとなってくる可能性もありそうです。

 前述したように、レーザーテックが足元で波乱の展開となったこと、トヨタが1万円大台を目前に足踏みしていることなどから、ここまでの相場のリード役には上値の重さも意識されつつあります。

 日経平均が一段と上昇を目指す展開となるには、出遅れ銘柄の底上げなどが、今後は中心となってくるものとみられます。

 足元でも折に触れて話題となっていますが、グループ再編の動きなどは、東証再編の実施を控えていることも後押しとなり、今後広がることが想定されます。

 親子上場の解消に関して言えば、保有株の売却、追加取得による完全子会社化など、両極端の反応になる可能性があります。基本的には、PBR(株価純資産倍率)の低い銘柄、ROE(自己資本利益率)の高い銘柄などは、完全子会社化されやすいと考えておきたいところです。

 なお、今年の株主総会集中日は6月29日とされていますが、総会前には個別でネガティブな材料は表面化しにくいタイミングといえます。

コロナ禍においても2ケタ増益を達成した利益安定成長銘柄に注目

 現在は、いずれ到来する長期金利の再騰を見据える局面と捉えられます。相対的にはバリュー株に妙味があるタイミングであり、高配当利回り銘柄を物色するには良好な外部環境といえるでしょう。

 とりわけ、今年は全般的な企業収益の改善が見込まれるため、収益上振れに伴う増配の動きなども今後十分に想定されます。新年度ガイダンスを発表したばかりの現在は、今後の増配アナウンス、それに伴う利回り水準の一段の上昇を享受できるタイミングであるといえます。

 下表は、今期の業績見通しを発表したばかりの3月期決算銘柄の中で、前期実績、今期予想ともに営業利益が2ケタ増益となっている高配当利回り銘柄です。高い利益成長にもかかわらず、割安感が強い銘柄ということができます。

 コロナショックがストレートに影響した前期に高い利益成長を遂げ、さらに、今期も利益成長が続くことで、コロナ特需を享受したわけでもないことから、外部環境に関わらず安定した成長を続けている銘柄と位置付けることができるでしょう。

連続2ケタ増益予想の高配当利回り銘柄       

コード 銘柄名 予想配当利回り 株価 時価総額 2021年3月期
営業増益率
2022年3月期
予想営業増益率
9508 九州電力 4.57 876.0 4,154 21.3 29.2
3465 ケイアイスター不動産 3.99 5,010.0 714 95.5 22.6
7240 NOK 3.62 1,382.0 2,393 18.5 55.5
7259 アイシン 3.53 4,815.0 14,189 158.9 51.4
2715 エレマテック 3.50 1,229.0 520 14.6 19.0
6724 セイコーエプソン 3.15 1,970.0 7,873 20.7 19.6
5702 大紀アルミニウム工業 3.06 1,176.0 513 19.8 20.6
配当利回り平均(%) 3.63
注:予想配当利回りの単位は%、時価総額の単位は億円、営業増益率の単位は%。株価は2021年6月11日終値、単位は円。

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.0%以上(6月11日終値ベース)
  2. 時価総額が500億円以上(同)
  3. 前期実績、今期予想ともに営業2ケタ増益
  4. 3月期本決算企業

九州電力(9508・東証1部)

▼どんな銘柄?

 九州地方に電力を供給する電力大手の一角です。グループでの年間総販売電力量は858.2kWhとなります。2020年3月現在の発電設備は191カ所で、ほか、九電みらいエナジーで手掛ける再エネ発電設備は24カ所(2021年3月時点)となっています。

 原子力発電所は川内原子力発電所で2基、玄海原子力発電所で2基が再稼働済みとなっています。再生エネや原子力の活用によって、同社はゼロエミ・FIT電源の比率が大手電力会社の中でも高くなっています。

▼業績見通し

 2021年3月期経常利益は557億円で前期比39.0%増益となっています。グループ会社である九電みらいエナジーの九州外での販売電力量増加に加えて、前年度の冷夏暖冬の反動増などで販売電力量が増加し、減価償却費の減少も増益要因につながりました。

 また、2022年3月期は700億円で同25.7%増益の予想となっています。原子力発電所の稼働増による利益率の向上のほか、前期の卸電力市場の価格高騰影響の反動も見込んでいます。

 年間配当金は前期比5円増配となる40円を計画しています。

▼ここがポイント

 全般的に高配当利回りの電力セクターの中でも、中国電力、電源開発に続く高い水準となっています。国内の原発で稼働中の炉は9基ですが、そのうち4基は同社であり、足元での相対的な業績の堅調推移につながっています。

 原発利用に加えて、再生エネルギーの取り組みも強化しており、2019年度のCO2排出量は2013年度比51%減となるなど、脱炭素化に向けた動きが進んでいることも評価点となります。

ケイアイスター不動産(3465・東証1部)

▼どんな銘柄?

 1次取得者層向けを中心とした分譲住宅の販売会社です。関東、東北、中部、九州などで事業展開し、年間5,000棟の住宅を供給しています。

 ITシステムで統合された一気通貫の供給体制で実現する「コンパクト分譲」に特化し、戸建の第4の選択肢として「セミオーダー新築」も提供しています。

 独自に開発した、土地の仕入れにおけるAIテクノロジー活用による価格推定・開発システム「ミツカルPro」なども手掛けています。

▼業績見通し

 2021年3月期営業利益は126億円で前期比95.5%増益となりました。年間配当金も前期の76円から139円に増配しています。コロナ禍における住宅需要の高まりを背景に、分譲住宅の販売が極めて好調に推移しています。

 2022年3月期も154億円で同22.6%増と、連続2ケタ増益の見通しです。年間配当金は200円にまで引き上げる計画となっています。住宅需要の拡大傾向の持続を想定しているもようです。

▼ここがポイント

 住宅業界にとっては、木材調達難による建設着工の遅れが目先警戒されています。同社に関しては、4月末段階で、12月末までの販売計画分は確保できているとしています。

 また、三栄建築設計やオープンハウスなどと「日本木造分譲住宅協会」を設立し、国産木材の積極的な活用推進を目指すとしています。過度な懸念は不要といえるでしょう。

 なお、4月の分譲住宅受注額は前年同月比約2倍と、好スタートを切っているようです。

NOK(7240・東証1部)

▼どんな銘柄?

 シール事業とFPC(フレキシブルプリント基板)事業が二本柱となっています。自動車用のオイルシールでは国内推定シェア7割、世界でもトップシェアとみられます。また、携帯電話などに使用されるFPCでも業界トップのもようです。

 台湾とタイに生産拠点を有しています。中期経営計画においては、2023年3月期売上高6,400億円、営業利益330億円、ROE4.5%などの数値目標を掲げています。

▼業績見通し

 2021年3月期営業利益は145億円で前期比20.3%増益となりました。自動車生産の減少でシール事業が伸び悩みましたが、FPCなどの電子部品事業は、人件費や経費の減少、償却費の減少などにより、収益が改善しました。

 一方、2022年3月期は225億円で同55.5%増益の見通しとしています。国内外の自動車生産回復によって、シール事業がけん引役となる見込みです。また、電子部品事業は引き続き売上伸び悩みの予想ですが、コスト減少による赤字縮小を想定しています。

 年間配当金は前期比倍増の50円を計画しています。

▼ここがポイント

 現在低迷しているFPCですが、今後は5Gの普及拡大やEV用の電池向けなどに拡販も進む見通しです。同事業の売上回復による2023年3月期以降の業績拡大余地が残っている点は買い妙味ともいえるでしょう。

 コロナショック前水準を依然として割り込んでいる現在の株価には出遅れ感も強いと感じられます。

アイシン(7259・東証1部)

▼どんな銘柄?

 トヨタ自動車系列の自動車部品大手企業です。トランスミッションやエンジン周り部品などのパワートレイン領域、ブレーキやステアリングなどの走行安全領域、ドアやシートなど車体領域、カーナビやセンサーなど情報・電子に至るまで幅広く扱っています。

 2019年には、電動化の普及に向けた駆動モジュール開発・販売へ向けデンソーと合弁会社を設立しています。2021年4月にアイシン精機とアイシン・エイ・ダブリュが合併しています。

▼業績見通し

 2021年3月期営業利益は1,453億円で前期比2.6倍の水準となりました。年度前半の自動車生産減少の影響から売上高は減収となりましたが、構造改革の効果や前期一過性損失の反動などで収益は拡大しました。

 2022年3月期は2,200億円で同51.4%増益の見通しです。年間配当金も前期比50円増の170円を計画しています。

 自動車生産回復による国内外での売上拡大、原価改善やブレーキ事業再編効果などを想定しているようです。比較的業績計画は保守的ともみられているようです。

▼ここがポイント

 電動化普及によるマイナスインパクトへの警戒感は残りますが、足元でのトヨタ自動車やデンソーの株価モメンタムと比較すると、やや出遅れ感も意識されるところです。PBR水準も1倍を大きく割り込んでいます。

 会社側では2030年度にパワートレイン、走行安全、情報・電子など関連領域売上における電動化商品売上構成比を50%以上にすることを目標としていますが、具体的な道筋が見えるに伴い、水準訂正の動きが続くものと考えます。

エレマテック(2715・東証1部)

▼どんな銘柄?

 電子材料や部品の専門商社で、2009年に高千穂電気と大西電気が合併して発足しました。2012年にTOB(株式公開買付け)を実施した豊田通商の連結子会社となっています。

 仕入れ先は約6,800社で、販売先は約6,600社、地域別では日本が過半を占め、海外は中国、アジアなどが中心です。

 2021年3月末段階での拠点数は65拠点です。軸足をスマホから車載やロボット、医療関連などへシフトさせています。

▼業績見通し

 2021年3月期営業利益は54.6億円で前期比14.6%増益となりました。年間配当金も32円から36円に増配しています。

 新規顧客開拓による電子部品向け部材、商品拡充によるゲーム関連部材、ドライブレコーダーなどの販売が好調だったもようです。2022年3月期は65億円で同19.0%増益の見通しです。

 年間配当金は43円にまで引き上げる計画となっています。主に自動車向けの販売回復が収益増加要因になるとみています。

▼ここがポイント

 もともと電子材料や電子部品の専門商社であるため、自動車の電動化に伴うビジネスチャンスの拡大期待は高まりやすいものと考えます。中期計画では2024年3月期経常利益90億円を目指しており、当面の収益成長の確度が高いことも安心感につながります。

 親子上場解消の動きが強まる場面では、同社にもグループ再編思惑などはストレートに高まりやすいともみられます。