衆院選結果を受け、ギャップオープンした相場

 週末の衆院選では、自民、公明の与党が圧勝。この結果を受けてドル/円は「ギャップオープン」しました。

 ギャップオープンとは、週末の終値と週初の始値の間に大きな開き(ギャップ)が生じて、相場が始まることをいいます。

 為替市場は平日24時間開き、日付が切り替わる場面でも空白時間は発生しませんが、市場が閉まる土、日や祝日にはそれが生じます。この空白時間帯に発生した出来事に影響を受け、市場が閉まる直前の値と、市場が開いた直後の値に、ギャップが生じることがときどきあります。

 この相場のギャップは、経済指標の発表が原因になることはあまりなく、選挙結果や国際会議などのイベントでの首脳や金融当局者の発言、突発的なテロや政治的事件などによって起こります。

 投資家の中には、こういった週末のイベントによってギャップが発生すると予測し、あらかじめポジションを作る投資家もいます。しかし、円安方向にギャップが生じる場合もあれば、円高方向にギャップが生じる場合もあります。

 もし、予測と逆の結果の場合、リスクはかなり高まります。むしろ、結果によってはギャップが発生するかもしれないと予測し、ポジションを閉じるか、減らすことで対応し、ギャップが開いてから方向を見極め、再びポジションを作るほうが得策かもしれません。
今回は衆院選の与党圧勝の結果を受け、アベノミクスは継続との期待感から円安方向にギャップが生じました。

 ドル/円は、先週終値の113円台半ばから30銭ほど円安にギャップを開けてシドニー市場がオープン。その後も円安方向へ進み、東京市場がオープンする前に114円台をつけました。日本株も250円以上、ギャップオープンして始まりました(※)。
 日本株は、週明け23日は終日ほぼ200円以上の上げ幅を維持し、日経平均株価15連騰の新記録で終えました。

 この15連騰は、1961年1月11日に記録した14連騰を56年9カ月ぶりに更新。終値も2万1,696円65銭(前日比239円1銭高)と、1996年7月以来、約21年振りの高い水準となりました。
※日本株のギャップオープンは、土日をはさんだ場合だけでなく、平日でも空白時間があり、海外で発表された経済指標やイベントに影響を受け、翌日にギャップオープンする機会が多くなります。先物市場では海外市場でも価格の連続性が読み取れますが、東京市場での取引ベースでギャップが発生することになります。

 ところが、株の堅調さに比べると、ドル/円は114円台をキープできず、利食いなどで113円台前半に押し戻されてしまいました。

 ギャップオープンすると、いったんギャップを埋める方向に動きやすいという習性がありますが、ドル/円だけがギャップを埋める方向に動いたようです。つまり、日本株と比べてドル/円の伸びは鈍いということ。FRB(米連邦準備制度理事会)次期議長の不透明感や北朝鮮リスク、米国物価の伸び悩みなどの要素が重しになっているようです。

 この動きの鈍さを見ると、タカ派のFRB新議長が就任しても、FRBが12月に利上げをしたとしても、今年の高値118.60円を超えるのは難しいかもしれません。場合によっては、年内の戻り高値の壁になっている115円の節目を超えるのにも、時間がかかるかもしれません。
今年のドル/円の動きは107.32~118.60円で、レンジ幅は11.28円と狭く、昨年の年間値幅22.70円の約半分しかありません。昨年までの10年間の年間値幅の平均16.70円と比べても、今年は狭いレンジで動いていることになります。ひょっとしたら、この狭いレンジで今年の値幅は決定するのかもしれません。

 

為替水準の妥当性を判断するには?

 前述のとおり、ドル/円の今年の値動きは107.32~118.60円ですが、115円以上に動いたのは1月の2週間ほどであり、110円以下はのべ日数で見ると、滞空時間は2カ月弱です。それ以外の期間は110~115円のレンジ内で動いています。

 ところで、ドル/円にとって、これは「居心地の良い水準」なのでしょうか。
これを判定するために、PPP(購買力平価:Purchasing Power Parity)で考えるという見方があります(「購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)」参照)。

 PPPとは、「為替レートは2国間の物価上昇率の比で決定される」という考えをもとにした見方です。

 たとえば、物価上昇率が日本より米国のほうが相対的に高い場合、米国の通貨価値は減価するため、米国の為替レートは下落する(ドル安)という考え方です。反対に日本の物価が上昇すれば円安になり、下落すれば円高になります。

 ここ数年の場合では、日本の物価がアベノミクスによって、マイナスからゼロをわずかに上回る動きになっています。反対に米国の物価は下がる方向で動いてきたため、円安ドル高にバイアスがかかりやすくなったのではないかとみられます。

 直近では、日本の物価は緩やかながらも上昇が続いていますが、一方で米国の物価も年初のマイナス近辺から上がり始めてきています。このことから、円安ドル高のバイアスが弱まってきているという見方ができます。

 実際に為替レートは、2国間の物価格差だけで決まるのではなく、各国間の関税などの貿易障壁や、証券投資や直接投資、投機マネーなどの需給など、いろいろな要因によって動いています。

 また、物価もひとつではなく、経済取引のさまざまな局面によって輸出物価、企業物価、消費者物価と異なってきます。そのため、このPPPというのは、現在の実勢相場は2国間の物価の比較から見た場合、どの水準に位置するのかという目安のひとつになります。

 

PPPから判定する現在の為替水準

 それでは、現在のPPPはどうなのでしょうか。
国際通貨研究所によると、企業物価基準で約97円になります。また、OECD(経済協力開発機構)や世界銀行が算出するPPPなどを見ると、だいたい1ドル95~110円の間にあるようです。

 現在の為替レートは113円台で、PPPから見ると円安水準。また、滞空時間が長かった110~115円という今年のレンジも、円安方向にずれていることになります。このレンジは、PPPから離れているため、居心地の悪いレンジなのかもしれません。
過去の実勢レートとPPPとのかい離は、実勢レートがPPPよりも平均1割弱ほど円高方向にかい離しているとの試算があります。このことから言えば、PPPが約97円なら、1割弱円高は約87円。現在の113円台から見れば、かなりの円高方向と言えます。

 あくまでひとつの目安ですが、もし、円高要因が発生し、円高圧力がかかった場合、「かなりの円高余地がある」と見ることができます。

 

来年の為替相場の動きを推測する

 ところで、来年の為替の動きはどうなるでしょうか。
今年の値幅が11.28円で収まるなら、来年は大きく相場が動く可能性があると言えるかもしれません。なぜなら、直近10年間の値動きで見ると、狭い値動きの翌年は大きく相場が動いているからです。

 2012年の年間値幅が10.76円だったとき、2013年の値幅は18.88円、2015年の値幅が10.01円、2016年の値幅は22.70円でした。
値動きの乏しい年に溜まっていた相場エネルギーが、翌年に一気に発散し、大きく動くのかもしれません。

 為替変動が大きくなれば、米国の利上げペースが、より焦点になると予想されます。
この意味でもFRB新議長の人事に注目です。
タカ派の新議長が就任すれば、利上げペースが早まる可能性をにらむマーケットの期待が高まります。そして、金利高、ドル高だけではなく、株安や新興国の資本流出による通貨安や株安などが起こり、マーケットが大きく動揺するかもしれません。
来年のシナリオを想定する際には、以前、お伝えした年間の値幅や平均値幅、年間サイクルなどと合わせ、このPPPの目安を加えてみてください。現在の為替水準の位置を鮮明にすることで、より精度高く、来年の相場レンジを絞れるかもしれません。