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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]大手総合商社5社(伊藤忠・丸紅・三井物産・住友商事・三菱商事)決算レビューと投資判断
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大手総合商社5社を配当利回りの高いバリュー株として評価

 私は、大手総合商社5社(伊藤忠・丸紅・三井物産・住友商事・三菱商事)は、いずれも高配当利回りのバリュー(割安)株として、長期投資する価値があると考えています。
以下の通り、PER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)が低く、配当利回りが高めのバリュー株として、評価できます。

大手総合商社5社の株価バリュエーション:2021年6月7日時点

銘柄名 株価:円 配当
利回り
PER PBR 1株
配当金
会社予想
:円
伊藤忠 3,344.0 2.8% 9.0倍 1.49倍 増配 94
丸紅 1,013.0 3.4% 7.7倍 0.96倍 増配 34
三井物産 2,552.5 3.5% 9.2倍 0.91倍 増配 90
住友商事 1,557.0 4.5% 8.5倍 0.76倍 70
三菱商事 3,088.0 4.3% 12.0倍 0.81倍 134
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成、配当利回りは、2022年3月期1株当たり配当金(会社予想)を6月7日株価で割って算出。PERは、6月7日株価を2022年3月期1株当たり利益(会社予想)で割って算出

 私は、「株価指標で見て割安」というだけで、この5社を評価しているわけではありません。5社とも、将来的に最高益を更新していくビジネスモデルを確立していると考えていることが、評価する理由です。配当利回りが高いことに加え、株価上昇の期待もあると考えています。

伊藤忠・三井物産は今期最高益更新の見通しを発表

 大手総合商社5社の前期(2021年3月期)決算が出そろいました。コロナ禍で第1四半期(2020年4-6月)には戦後最悪の景気落ち込みがあったにもかかわらず、伊藤忠・三井物産・丸紅は高水準の純利益をあげました。

5大手商社の連結純利益:2019年3月期(実績)~2022年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成
単位:億円
コード 銘柄名 2019/3 2020/3 2021/3 2022/3
会社予想
8001 伊藤忠 最高益
5,005
最高益
5,013
4,014 最高益
5,500
8002 丸紅 最高益
2,308
-1,974 2,253 2,300
8031 三井物産 4,142 3,915 3,354 最高益
4,600
8053 住友商事 最高益
3,205
1,713 -1,530 2,300
8058 三菱商事 最高益
5,907
5,353 1,725 3,800
  コロナショック  

 上の表をご覧いただくとわかる通り、伊藤忠・三井物産は今期純利益で最高益を更新する予想を発表しています。丸紅は、2019年3月期の最高益に並ぶ利益をあげる見通しを発表しています。この3社は好調です。

 利益モメンタム(勢い)が低いのが三菱商事と住友商事です。住友商事は、前期(2021年3月期)にマダガスカルのニッケル事業減損などがあり、1,530億円の純損失に陥り、今期(2022年3月期)も利益回復が鈍くなっています。三菱商事は、黒字を維持していますが、今期の利益回復は鈍い見通しです。

 利益モメンタムの差が、そのまま配当金に表れています。以下の表をご覧いただくとわかる通り、伊藤忠・三井物産は、コロナショックを超越して増配を続けています。

5大手商社の1株当たり配当金:2019年3月期(実績)~2022年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成
単位:円
コード 銘柄名 2019/3 2020/3 2021/3
会社予想
2022/3
予想
8001 伊藤忠 83 85 増配 88 増配 94
8002 丸紅 34 35 減配 33 増配 34
8031 三井物産 80 80 増配 85 増配 90
8053 住友商事 75 80 減配 70 70
8058 三菱商事 125 132 増配 134 134
  コロナショック  

5大商社それぞれの投資魅力

 5大商社の利益モメンタムを見ると、伊藤忠・三井物産・丸紅が強く、三菱商事・住友商事が相対的に弱くなっています。ただし、利益モメンタムの差は既に株価に織り込まれています。

5大商社の株価推移比較:2019年末~2021年6月7日

出所:QUICKより作成、2019年末の値を100として指数化

 三菱商事・住友商事は足元の利益回復が鈍い分、株価は出遅れ、配当利回りは相対的に高めとなっています。私は5大商社すべてが、中長期的に最高益を更新する力があると判断していますので、5社それぞれ投資していく価値があると考えています。

 伊藤忠の強みでありリスクともなり得るのは、伊藤忠の「中国最強商社」としてのポジションです。中国経済成長の恩恵を受けやすい位置にあると同時に、米中対立が激化する際に、板挟みになるリスクもあります。中国でアパレル事業を川上から川下まで手掛ける伊藤忠にウイグル綿問題がなんらかの形で波及するリスクは心に留めておく必要があるかもしれません。

 また、5社共通のリスクとして化石燃料ビジネスを幅広く手掛けていることがあります。特に、三菱商事は豪州石炭事業に大きなエクスポージャーがあることは、将来的にリスクとなる可能性があります。

 住友商事は相対的に化石燃料ビジネスのウエイトが低く、足元の資源価格上昇の恩恵を受けにくくなっていますが、その分、化石燃料ビジネスリスクは相対的に低いと言えます。同社は既に石油の新規開発から撤退し、再生エネルギー事業を強化する方針を発表しています。

NISAで利回り5%を稼ぐ高配当投資術

 最後に、著書出版のお知らせです。6月16日、日経BPより拙著「NISAで利回り5%を稼ぐ、高配当投資術」が出版されます。

 私が25年の日本株ファンドマネージャー時代に得たバリュー(割安株)投資のノウハウを初心者にもわかりやすく解説しています。

 NISAを使って高配当利回り株に長期投資して資産形成を行っていくことを考えている個人投資家にぜひお読みいただきたい内容です。5大商社を長年にわたり分析してきた私が、今なぜ5社とも高く評価するのかも詳しく解説しています。
 

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