5月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 下って昇る…月の前後半で両極端なジェットコースター相場。月間騰落率は、日経平均株価+0.2%、TOPIX(東証株価指数)+1.3%、新興株市場では日経ジャスダック平均▲0.1%に対して東証マザーズ指数は▲4.3%。今年頻発していますが、5月もマザーズが他市場をアンダーパフォームする1カ月でした。

 GWを挟んだため、5月は6日が立会初日。この日からマザーズ指数は陰線6連発で6日続落、最悪の幕開けとなりました。そもそも前月から売買代金が急減。流動性が落ちている状態で、GW明けに“AI insideショック発の連鎖安不安”を持ち越す格好でした。

 そのAI insideは、値幅制限の下限4倍適用となった7日、大口OEMパートナーNTT西日本から、大量のライセンス不更新通知を受けたとのリリースの発表直前終値(3万7,300円)に対し、54%安い1万7,000円で全株一致。マザーズで信用買い残トップだった銘柄の暴落は、個人の信用損益悪化要因になりました。

 また、月前半は、米市場で長期金利と期待インフレ率の上昇に市場がナーバス化。インフレ懸念(テーパリング懸念)を理由に、ハイテクグロース株や超高バリュエーションのハイパーグロース株が急落…この流れも需給が悪化していた日本のマザーズ銘柄にとって逆風に。

 また、マザーズ120社超の決算発表が集中する14日に対する警戒心も重石となりました。

 “陰の極”となったのは、決算発表集中日の翌日17日。朝はプラスで始まったあと、ゲリラ的にロスカットが相次ぎ、それが嵐のように広がった1日でした。

 この日、前日比10%超の下落率で終わった銘柄数は38…恐怖感から、価格無視で手持ち株の売却に動いた投資家が多かったと想像されます。

 ただ、ここでシコリがほぐれたこと、鬼門の決算発表を通過したこと、IPO(新規公開株)がなかったことなどが(結果論ですが)重なったからか、怒涛(どとう)のリバウンドに一変。初動はAI insideも含めた下げのきつかった銘柄や、バイオ株や直近IPOから買われる、よく起きる“バーゲンハンティング”。

 ただ、これらはすぐに脱落し、好決算銘柄などクオリティ重視のマザーズ大型株が指数をけん引。とはいえ、急落を見たことで、リバウンド局面でも売買代金が増えなかったのも特徴でした。戦々恐々のリバウンド…「マザーズ怖い」の後遺症が尾を引いたまま終えた5月でした。

5月の売買代金ランキング(人気株)

 恐怖心を増幅させた月前半の急落と、月後半のリバウンド。両極端な地合いにあって、マザーズ市場の売買エネルギーが両局面とも低水準だったのが印象的でした。個別株ベースでも、25日移動平均売買代金が100億円を超えた銘柄はゼロ。

 マザーズ市場の1日当たり売買代金の変遷を示すと、1月2,311億円→2月2,037億円→3月1,637億円→4月1,567億円→5月1,427億円。

 ジェットコースター相場の中で、想像以上に売買エネルギーが膨らまなかった…これが意味することは、昨年来の上昇でバリュエーションが切り上がり過ぎた銘柄が多く、発表された決算を踏まえると「今はまだ買えない」と感じている投資家が多いということ。

 結果、日々の地合いを見ながら、短期前提で参加する投資家が多く、モメンタムの強い(上昇基調)銘柄にばかり資金が集まります。売買代金上位では、AI insideショックが尾を引き、JIG-SAWやHENNGEなどバリュエーションの高いDX関連を手放す動きが目立ったといえそう。

 一方で、業績安心感の高いグロース銘柄として、プレミアアンチエイジングや、ジャスダックのテクノホライゾンが急騰。ウェルスナビやミンカブなども月後半のリバウンド局面でスポットライトを浴びる存在になりました。

市場 コード 銘柄名 5月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金
25日移動平均値
(億円)
月間
騰落率
東証マザーズ 4488 AIinside 16,590 649 94.8 -45.2%
ジャスダック 4582 シンバイオ 1,899 729 89.9 44.5%
東証マザーズ 7342 ウェルスナビ 4,265 1,945 71.5 1.7%
東証マザーズ 6613 QDレーザ 1,645 569 60.3 4.2%
東証マザーズ 4934 Pアンチエイジ 16,800 1,465 60.0 40.8%
東証マザーズ 4477 BASE 1,727 1,914 59.4 -5.3%
東証マザーズ 4385 メルカリ 5,190 8,187 55.3 -3.9%
東証マザーズ 4498 サイバトラスト 7,670 306 48.0 4.4%
東証マザーズ 6521 オキサイド 7,680 362 48.0 -15.1%
ジャスダック 6629 テクノHR 1,801 379 36.5 49.2%
東証マザーズ 3914 JIG-SAW 8,540 577 34.9 -46.8%
ジャスダック 2702 マクドナルド 4,955 6,588 34.8 -0.7%
東証マザーズ 4563 アンジェス 1,027 1,509 32.4 3.3%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 2,124 1,008 30.6 4.1%
東証マザーズ 4436 ミンカブ 4,130 571 29.7 9.4%
東証マザーズ 4478 フリー 8,270 4,500 29.7 -10.9%
ジャスダック 2667 イメージワン 798 76 29.5 -8.3%
東証マザーズ 7343 ブロドマイン 1,334 71 24.2 24.4%
ジャスダック 6890 フェローテック 2,656 991 23.4 8.3%
東証マザーズ 4475 HENNGE 5,050 819 22.6 -35.3%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 AI inside(4488・東証マザーズ)

 4月28日に発表された「大口OEMパートナーNTT西日本からの大量ライセンス不更新通知」。解約率の低いビジネスモデルをウリに、高成長のSaaS銘柄として超高バリュエーションが付いていただけに、そのショックは甚大でした。

 発表直前終値3万7,300円に対し、5月7日(下限の制限値幅4倍適用)の全株一致時株価は1万7,000円。昨年11月に付けた上場来高値は9万6,000円とマザーズ最大の値がさ株だった経緯もあるうえ、発表直前の信用買い残は140億円とマザーズ最大。その株のリリース一発での暴落には衝撃が広がりました。

 12日に発表した今期ガイダンスは、大口解約の影響で、売上高は前期比21.5%減の36億900万円、営業利益が同80.8%減の4億5,300万円でした。21日には、保有割合5.5%で大株主だった米キャピタルリサーチが全株売却したことも判明しています。

 決算発表時にNTT東日本など他のOEMパートナーの状況などは明かされず、不透明感は晴れないまま。現状でも予想PER(株価収益率)は200倍を超えていますので、さすがにロングオンリー勢も一旦降りるしかなさそうで…。

2 シンバイオ(4582・ジャスダック)

 今期黒字転換を見込む創薬ベンチャーで、ジャスダック・グロース市場では時価総額でダントツ。エーザイから自社販売に移行した海外事業は、第1四半期から売上高で14億円超を計上。

 その他のカタリストも豊富で、中外製薬の再発・難治性リンパ腫に効果を発揮する治療薬が販売開始となるなか、併用療法で同社の抗悪性腫瘍剤「トレアキシン」の使用が可能になること、同社が独占的開発・製造・販売権を持つ米キメリックス社の抗ウイルス薬への期待などの株価織り込みも進んでいるようです。

 株価が堅調なため需給は良いのですが、注意が必要とすれば信用買い残が多い点。5月末時点でも527万株ありますが、これは発行済み株数の13%以上と高水準。創薬ベンチャーだけに中小型ファンドの関与率が低いと見られ、上昇トレンドが一度崩れると調整が長引きやすい銘柄とも言えます。

3 QDレーザ(6613・東証マザーズ)

 注目された上場後最初の本決算でしたが、内容的にはネガティブでした。13日に発表した今期見通しは、売上高が前期比41%増の12億円、営業損益が5.3億円の赤字(前期は6.5億円の赤字)。

 一部国内大手証券が、営業赤字は1億円未満と事前にレポートで予想していたこともあり、いわゆる“コンセンサス下振れ”に。翌14日は一時10%超の下落率となりました。

 ただ、決算翌日の失望売り一巡後はリバウンド基調へ。米SOX指数が上昇し始め、東証1部市場でもレーザーテックなど半導体関連が躍動。半導体関連の中小型株にも物色が広がった追い風も受けたといえそうです(新興株市場ではシキノハイテックやオキサイドなど直近IPOの半導体関連も人気化)。

 19日開催の決算説明会では、レーザアイウェアの今期販売台数計画を800~1,000台弱(前期は276台)と示しています。前述の国内大手証券が強気に見ていた理由も「レーザアイウェア事業の今期黒字転換」。今後の四半期決算で、レーザアイウェア好調による黒字転換の兆しを示せば、ガイダンスのネガティブイメージは払拭(ふっしょく)できそうです。

4 プレミアアンチエイジング(4934・東証マザーズ)

 マザーズ軟調な5月にあって、18営業日中12営業日で上昇。月間騰落率は40%を超えて上場来高値を更新し、株価の上昇で知名度・流動性とも跳ね上がった銘柄でした。4月下旬に、中国テンセントと中国事業での戦略提携を発表。

 スキンケアブランド「DUO」の中国展開にとって最良のパートナーと組んだことで、株価も急騰。ただ、マザーズの地合い悪化に飲み込まれ、5月の月前半だけで“テンセント提携分”をほぼ消すほどの調整に。

 ただ、月後半に怒涛の上昇。4月末に67万株だった信用買い残は5月末に60万株に減少させています。信用買い残を減らしながら大きく上昇したということは、個人の信用買い以外(中小型ファンドやヘッジファンドなど)の買い越し要因が大きかったと見られます。

 業績進ちょく率から再増額修正も見込めること、株式分割が期待される株価水準になったこと、業態的に株主優待を始める可能性もあること―などを内包し、目下のマザーズ最強モメンタム銘柄に。

5 テクノホライゾン(6629・ジャスダック)

 決算失望で売られる新興株が多発した5月でしたが、決算通過で評価を高めた代表例が同社だったといえます。10日発表した今2022年3月期は、売上高が前期比25%増の330億円、営業利益が同24%増の30億円の見通し。

 コロナ禍でオンラインでの授業や会議が浸透し、電子黒板などの需要が急増。この流れは続く一方、半導体不足の影響を考慮して保守的に見積もった面もあるようです。

 ジャスダック銘柄ということもあり、決算発表直前まで予想PER7倍台と割安放置されていました。月間49%の大幅上昇となっても、今期予想ベースのPERは10倍を超えた程度。グロース株的な成長性はありますが、金利上昇局面に耐性のあるバリュー株にも見えます。

5月の株価値上がり率ランキング

 月前半が最悪地合いだったこともあり、月間で2倍化した銘柄はなし。値上がり率上位20のうち、時価総額100億円未満の小型株が9銘柄でした。

 材料のあった小型株の仕手株化がメインですが、それでも4月の同14銘柄よりは減少。決算発表というイベントがカタリストになって、地合いに逆行して大幅高した大型新興株も生まれました。

 時価総額が大きいところでは、ケアネットやプレミアアンチエイジングが大幅高でランクイン。とはいえ、モメンタムに追随する短期の資金も相当量巻き込んだ可能性がある点はやや注意でしょう。

 4月も時価総額が大きい銘柄でマネーフォワード(4月の月間上昇率40%)、ジャスダックのフルヤ金属(同34%)がランクインしましたが、5月はそれぞれ▲6%、▲18%と大幅下落。長期上昇トレンドにあっても、その過程では短期勢のふるい落としで調整を挟むのも当然です。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
5月末
終値
前月末
終値
時価総額
(億円)
ジャスダック 3326 ランシステム 88.5% 803 426 17
東証マザーズ 6198 キャリア 85.5% 612 330 53
ジャスダック 1724 シンクレイヤ 79.8% 1,300 723 52
ジャスダック 6337 テセック 74.7% 3,105 1,777 179
東証マザーズ 2150 ケアネット 67.4% 8,000 4,780 884
東証マザーズ 4933 INE 53.7% 5,950 3,870 520
ジャスダック 2673 夢 隊 53.2% 193 126 20
ジャスダック 4556 カイノス 50.0% 1,507 1,005 69
ジャスダック 6629 テクノHR 49.2% 1,801 1,207 379
ジャスダック 2479 ジェイテック 48.4% 276 186 24
東証マザーズ 6081 アライドアーキ 47.6% 1,008 683 142
ジャスダック 8699 澤田HD 47.1% 1,053 716 431
ジャスダック 8298 ファミリー 46.1% 748 512 49
ジャスダック 4582 シンバイオ 44.5% 1,899 1,314 729
ジャスダック 3189 ANAP 44.3% 502 348 24
東証マザーズ 6562 ジーニー 42.5% 1,466 1,029 265
ジャスダック 4196 ネオマーケ 42.2% 3,640 2,560 89
東証マザーズ 3496 アズーム 40.8% 5,810 4,125 171
東証マザーズ 4934 Pアンチエイジ 40.8% 16,800 11,930 1,465
ジャスダック 6957 芝浦電子 39.9% 4,925 3,520 383

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 ランシステム(3326・ジャスダック)

 複合カフェ「スペースクリエイト自遊空間」の運営が主力事業ですので、コロナのマイナス影響を受けた企業。5月末には、今6月期業績の下方修正も発表していました。

 ただ、コロナ前に比べて株価は半値以下となり、時価総額は8億円台まで低下。そんな超小型株にとっては、材料ひとつあれば十分、そんな勢いで…。

 21日に、同社がネットカフェ運営で得た無人化ノウハウを、ネットカフェやカラオケなどを運営するAOKIホールディングスが導入すると発表。

 これを受けて、翌日から4日連続でストップ高に。月末31日から信用規制(増し担保)が発動しています。最軽量級の銘柄に個人の信用買いが群がり発生した、よくある短期の大相場だったようです。

2 キャリア(6198・東証マザーズ)

 コロナに関連する材料株では、これまではワクチン、注射器、保冷庫、PCR検査などの切り口がありました。ここに追加で、5月に新しく生まれた切り口が“ワクチン接種”でした。

 菅政権が高齢者から「1日1万人接種」を目標に、自衛隊を動員した大規模接種を開始。接種会場での人員が足りないため、民間企業にも委託。そのなかで、看護師派遣を同社が担当することが一部報道で判明しました。

 直後の11日はストップ高買い気配に。報道は事実だったようで、12日には「東京・大阪でのワクチン大規模接種会場への看護師案件を落札した」と発表しています。200人派遣の業績インパクトは不明ですが、タイムリーな話題だったこと、小型株だったことで株価インパクトは絶大。

 ただ、こちらも21日より信用規制が発動。買っていたのは、短期値上がり益目的の個人信用組でした。

3 ケアネット(2150・東証マザーズ)

 決算材料をきっかけに、株価を想像以上に切り上げました。想像以上と書いたのは、完全なウィズコロナ側にある銘柄のため。昨年の年間上昇率は驚がくの6.1倍でしたが、今年は他のウィズコロナ株同様に軟調でした。

 それが、13日に発表した今2021年12月期業績の上方修正で一変。昨年11月の高値6,420円を上回ると、月末31日の上場来高値8,160円まで上値を追い駆ける展開へ。

 同社は13日、今期売上高予想を60億円→76.6億円、営業利益予想を17億円→22.1億円に大幅増額しました。従来予想が慎重だったようですが、既存顧客からの受注増や新規顧客の増加によるトップラインの上昇がポジティブでした。

 新しい業績予想ベースで予想PER約60倍、予想PSR(株価売上高倍率)約11倍ですので、同じ医療系DX関連エムスリーの同約100倍、同約24倍に比べれば、それほど高くない?(規模感が違うので比べてはいけないのでしょうが…)

4 カイノス(4556・ジャスダック)

 流動性の低い小型株が、コロナ関連の強材料で噴き上がりました。きっかけは25日付の一部業界紙。同社が3種類の新型コロナウイルス感染症の検査試薬を同時に発売すると報じました。

 この検査試薬は、試験紙だけで感染の有無を簡単に調べられる(60分で判別できる)ようで、6月に発売すると。報道後では、31日に製造販売承認を取得し、保険適用されたとも正式発表されています。

 報道直前24日の終値1,018円に対し、3日後の27日高値は1,945円。短期間で最大9割超の急騰劇を演じました。ただ、高値を付けた27日引け後、28日から信用規制をかけると東証が発表。そうなると、手の平を返すように個人の信用組が撤退、正式発表前にひと相場終わった格好に。

5 ANAP(3189・ジャスダック)

 年初来安値320円を付けたのが13日、ここから材料ひとつで月末31日終値502円まで急騰。超小型株だからこそ、なせる業…。

 強材料視されたのが、ZOZOが運営するアパレル通販サイト「ZOZOTOWN」の中国版での商品販売開始のリリースでした。発表した27日の翌日から、2日連続でストップ高に。

 中国版ZOZOTOWNは、日本版と同率の販売代行手数料で出店できるうえ、商品在庫も日本国内にあるZOZOの物流センターで管理される仕様のようです。

 クリアすべき越境ECの法律などもZOZOグループが対応してくれるため、出店ショップ側は日本版に出店するような感覚で越境ECにトライできます(ZOZOさすが)。

6月に注目したい新興株の動き

 6月の新興株市場、「期待半分、不安半分」といったところでしょうか。上にも下にも短期のトレンド自体が消えていますし、そもそも肝心の米ハイパーグロース株が(なんだかんだ)大崩れは回避中ながら何とも言えないあんばい。ひとまず、しっかり現状認識をしつつ「過剰な期待はせず」といったところでしょうか…。

「期待」半分でいえば、マザーズ銘柄とは真逆のアフターコロナ株(JR株や空運株、百貨店株や旅行会社の株など)の上昇がすごすぎること…その反動に期待してみる程度でしょうか。日本でも、先月24日より大規模ワクチン接種センターが開始。メディアも連日取り上げており、話題性も抜群です。

 そもそもが、ワクチン接種の遅れを理由に、先進国の株価指数でパフォーマンス最低だった面もあった日本株…それだけに、ワクチン接種の巻き返しによるリバーサル的な動きが広がっているように見えます。

 短期のモメンタムも付いたことで、相当量の短期勢も参戦。結果、コロナ前の株価どころか、2019年高値すら上回るようなアフターコロナ株(=コロナネガティブ株)が増えました。

 ワクチン接種で先行した米国のように、ワクチンが普及すれば、飲み屋も映画もコンサートも再開するだろう…リベンジ消費需要のポテンシャルが甚大なのは明らかですが、とはいえ、現時点ではほぼ進展していません。

「株価は半年先を織り込む」といいますので、すでにワクチン後の織り込みが進んでいるのでしょうが…とはいえ、「さすがに上げ過ぎ」と思っている市場参加者は多いはず。

 現状は、「ヒヨったら負けのチキンレース」くらいの様相になっており、ワクチン接種の進展をトリガーにした「アフターコロナ株買い/ウィズコロナ株売り」のトレンドが、反転する可能性は十分ありそう。

 東証1部市場でも、海外では“リ・オープニング”と呼ばれているアフターコロナ株が盛り上がる一方で、エムスリーやメドピア、ニトリ、サイバーエージェントなどウィズコロナ株が強烈に下げています。この動きの巻き戻しが起きた場面で、想像以上の逆流が生じるはず。そのときに上がるのはウィズコロナ株、ということはマザーズ銘柄も盛り返す公算は立つわけです。

 一方で、「不安」も半分あります。不安な面といえば、マザーズ市場の売買エネルギーが大きく低下している点。“流動性が命”のマザーズ市場においては致命的。

 これについて想像するなら、(1)恐怖感満載の下げが5月17日の安値まであった→(2)ここでロスカットが多発し、短期的なシコリがほぐれる→(3)後遺症(「また急落きたら嫌だな」など)が残り、様子を見ていたら、意外に(閑散に売りなし風に)上がっていたため順張りの買いも入りにくくなった→(4)安値後に入った投資家の需給はすこぶる良好→(5)とはいえ、長期保有前提のフローが少なく、値動きさえ良ければOKな短期フローの比率増加…数週間、数カ月といった長めのスパンで入る投資家が減るなか、短期勢がモメンタムのついた高い株ばかりにお金が集まる傾向が強まっています。

 また、日経平均に上下の動きが出ていますので、日経平均型のブルベアETFに短期資金が向かいがちなうえ、人気ナンバーワン銘柄のソフトバンクGが異様に安く、“逆張り”の個人マネーもソフトバンクGに流入(しかも塩漬け株になっている)。これでマザーズ市場の売買が薄くなっているなか…容赦なく圧し掛かるのが「IPOラッシュ」です。これが厄介。

 6月はIPOが再開し、月間で23社(うちマザーズ18社)も予定されています。ピークは月後半(22日3社、23日3社、24日4社など…)で、かなりの過密スケジュール。「IPOがマザーズ市場を活性化させる」なる意見もよく聞きますが、それは長期目線の話。

 短期的には、初値買い含めたIPOのセカンダリー参戦に短期マネーが奪われ、既存の上場銘柄の流動性が大きくそがれます。「IPOが多い=(6月の新興株市場にとっては)マイナス」のはず。

 以上を理由に、「期待半分、不安半分」。アフターコロナ株とウィズコロナ株(マザーズ株)で両極端な株価(昨年の真逆)になってきましたので、短期と割り切るなら順張りで前者、長期前提なら逆張りで後者…これが理屈に合っているはずです。

 では、何を目安に動く? でいえば、近年まれに見る人気化で最強モメンタム株と化している“トヨタ株”じゃないでしょうか。トヨタとマザーズって、サイズ的にも性質的にも真逆ですしね。トヨタが天井付けて下げ始めれば、マザーズが反撃…単純ですけど、そんなものじゃないでしょうか。