先週のドル/円は、月末絡みのドル買い需要や、米バイデン政権の6兆ドル超の予算提出から米長期金利が上昇し、ドル/円は上昇しました。28日にはFRB(米連邦準備制度理事会)が物価の目安として注目するPCE(個人消費支出物価指数)が発表されました。

 その4月コア指数が前年比+3.1%と前月(+1.9%)から大幅に拡大し、29年振りの高い伸びとなったため、12日に発表されたCPIと同じようにマーケットにとってはサプライズとなりました。

 コアPCEの大幅上昇を受けて、ドル/円は4月6日以来の110円台に乗せ、110.20円近辺迄上昇しました。ニュージーランドや英国が来年の利上げを示唆したためNZドルやポンドが上昇し、それらのクロス円が円安になったこともドル/円のサポート材料になりました。

 しかし、その後米長期金利は低下し、月末絡みのドル買い需要も一巡すると、ドル/円もじりじりと緩み、109円台後半に下落しました。米長期金利が上がり切らなかった背景として、

(1)FRBの金融緩和長期化の姿勢が変わらないことがマーケットに浸透していること。

(2)昨年の反動によるベース効果や中古車などの一部の項目がコア指数を押し上げており、それらの影響が収束すればインフレ圧力も弱まるとみていること。

(3)ゴールドマン・サックスの分析によると、コア指数から変動率が高い3分の1の項目を削って計算する4月の「刈り込み物価指数」は1.56%の上昇にとどまるとのこと。

 などが考えられ、マーケットは物価指標の予想外の大幅上昇に対して冷静な反応を示したようです。

 結局、5月の動きをみてみますと、108.50円以下と110円以上はオーバーシュートであり、109.50円を中心とした109円台で推移する展開となりました。

 さらに今年の動きの中でみてみますと、ドル/円は1月、2月、3月と上昇し、102円台から111円手前まで上昇しましたが、4月は調整月(円高)となりました。5月は陽線(円安)ながらも値幅の狭い調整月でした。

 また、1~3月で2020年の下落幅の約7割を取り戻した後の調整となったことから、しばらくは調整的な動きは続きそうな気配です。「しばらく」というのは、FRBのテーパリングの検討が始まる迄というのがひとつの目安かもしれません。

 今年の高値110.97円(*)と安値102.60円(*)の半値は106.78円となります。また、心理的節目である110円以上には、日本の輸出企業や機関投資家のドル売り需要も多いとの見方があるため、106円台半ばから110円台半ばがテーパリング検討開始までの居心地のよい相場空間かもしれません。

(*)筆者の情報収集により算定した参考値

 今週は4日にパウエルFRB議長の講演があります。金融緩和政策継続の姿勢は変わらないと思いますが、一層強調すれば、ドル/円の調整感、一服感も強まることが予想されます。今週の最大注目イベントである米雇用統計の発表時間は、パウエル議長講演の1時間半後の予定です。強い数字が発表されても、講演内容によってマーケットの反応が緩和されることも予想されるため、講演内容やその後の相場の反応にも要注目です。

G7通貨の強弱

 5月時点でG7の中での通貨の強弱は「カナダ、英ポンド>ドル、ユーロ>円」となっています。

その背景は、ワクチン接種率、景気回復、金融政策の変更が要因として働いているようです。

 ワクチン接種率については、ドル、英ポンドを筆頭にカナダもユーロも、円より圧倒的に高い状況です。金融政策については、カナダは既にテーパリングを開始しており、英国は来年の利上げを示唆しています。米国のテーパリング議論が現在焦点になっていますが、時期的にはまだ先の話であり、ドルが最強となるのは時間がかかると思われます。日本は金融政策の変更は数年考えられないことから、今後の円の強弱を決める要因としては、ワクチン接種率や景気回復度合いとなりそうです。

 景気回復度合いはワクチン接種ペースによるため、今後の日本の接種ペースに注目です。日本は現時点の接種率は低いものの、接種ペースは欧米と比べて速いとの見方もあり、欧米が頭打ちとなっている中では、6月は日本の接種率が見直される月になるかもしれません。

 特に米国では、ピークの4分の1程度の接種ペースであり、今後、日米の接種率のギャップが縮まっていくことも予想されるため、円とドル、あるいは、他の通貨との関係も変わってくるのかどうか注目です。

 テレビのニュース番組で、高齢者が予約しているのにもかかわらず、5時間前から行列に並んでいる姿をみていると、政府や自治体の取り組みが真面目な国民性に対してスムーズに対応できるのであれば、接種ペースは予定よりも早まるかもしれません。