過去3カ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

5月雇用統計の予想 

 6月4日に5月の雇用統計が発表されます。

 市場予想によると、失業率は5.9%。NFP(非農業部門雇用者数)は65.0万人増加となっています。また平均労働賃金は前月比▲0.2%、前年比+1.6%の予想。

 前回の雇用統計はNFPが予想の1/4程度の増加にとどまりました。米国経済の回復期待感に水を差す結果となってドルは下落。ドル/円は108円台前半まで売られて5月の安値をつけました。

 しかし、市場が弱気になったかというと、そのようなことはありません。予想を見ての通り、50万人以上の雇用を期待しています。新型コロナで最もダメージを受けたレジャー部門の雇用の回復が順調なことが理由です。感染率の低下も雇用に弾みをつけています。

 外出による消費増を見込んで飲食店では従業員を増やそうとしているのですが、米政府からの失業給付金がとても手厚いせいで、仕事をしない方が収入は高くなるという「珍現象」も起きています。これが再雇用伸び悩みの一因といわれています。

 そのせいか、高校生のバイト募集がリーマンショック以来で最も多くなっています。コロナで家に閉じこもっていた子供に社会に触れる機会を増やしてあげようと、親も積極的にアルバイトをすすめています。 

 もっと小さな子供のいる家庭では、親が働いている間はおじいちゃん、おばあちゃんに面倒を見てもらうことが多く、その結果55才以上の年齢層の人材が労働市場に戻れずにいます。これも雇用者が伸びない理由となっています。

 新型コロナ回復期の米労働市場では、需要と供給のミスマッチがさまざまな箇所で発生しているため、予想が非常に難しくなっています。

4月雇用統計のレビュー 

 BLS(米労働省労働統計局)が先月5月7日に発表した雇用統計では、NFPは26.6万人増加。失業率は6.1%でした。雇用はレジャー・サービス業を中心に大きく伸びたものの、派遣業や宅配業の減少で一部相殺されました。

 4月の失業率は6.1%で横ばい。昨年4月の最悪期に比べると著しく改善していますが、コロナ流行前の2月時点(失業率3.5%)よりも、まだ2.6パーセントポイント近く高いです。4月の失業者は980万人。こちらも前月とほぼ変わらずで、昨年2月時点(580万人)よりまだ400万人多い状況。

 失業率は米国の州によって違いがあり、例えば観光やレジャーの依存度が高いハワイ州やNY州では高止まりする一方、製造業の多い州では低下が目立ちます。

 4月のNFPは26.6万人増加しましたが(3月77.0万人増、2月53.6万人増)、昨年2月のコロナ流行前に比べると、まだ820万人(5.4パーセントポイント)少ない状況。

 4月のレジャー・サービス関連の雇用は、33.1万人増加。コロナによる移動制限の解除が各州で進んでいることを反映しました。このうち半分以上は、飲食店(18.7万人増)関連で、娯楽・ギャンブル(7.3万人増)や宿泊施設(5.4万人増)でも増加が目立ちました。レジャー・サービス分野の雇用は、1年間で540万人増加したものの、2020年2月に比べると280万人(16.8%)減少しています。

 4月の非農業部門雇用者全体の平均時給は、前月比21セント増の30.17ドル(前月4セント減)。また、民間企業の一般職の平均時給は20セント上昇して25.45ドルになりました。

 経済再開に伴う労働需要の増加が、賃金の上昇圧力となっている可能性を示しています。ただし、平均時給は業種によって大きく異なり、また2020年2月以降の雇用の変動が大きいため、平均時給の動向の正確な予測はまだ難しい状況。

 4月の失業者のうち、一時解雇者(レイオフ)は210万人。一時解雇者はコロナ直前(2020年2月)よりもまだ140万人多いものの、コロナ直後(2020年4月)の1,800万人からは大幅に減少。

 一方、永続解雇者(パーマネント・レイオフ)は350万人とほぼ横ばいで、コロナ直前に比べてまだ220万人多い。労働参加率は61.7%で前月とほぼ変わらず、コロナ直前よりまだ1.6パーセントポイント低い。

 4月にコロナ流行を理由に在宅勤務をした被雇用者の割合は18.3%で、前月の21.0%から減少。また新型コロナ流行による会社の休業や倒産を理由に働けなかった人は940万人いましたが、前月より1,140万人少なくなりました。

雇用統計は、なぜ大外れするのか?

 BLSが5月7日に発表した雇用統計では、4月のNFPは、予想の100万人増を大きく下回り、26.6万人の増加にとどまりました。

 なぜ予想はこれほど外れるのか? 理由は雇用者数の予測方法にあります。予測は、実はとてもシンプルな方法で、ある業種の営業再開のペースを見て、その割合に応じて雇用者を計上するというものです。例えば、デパートの50%が再開したら、スタッフの数も以前の5割まで戻るというように集計します。

 しかし現実はそれほどシンプルではなく、再開率に合わせて単純に従業員を増やしているわけではありません。まずはある程度のスタッフを戻して様子を見る。必要があればもっと増やすし、そうでなければ少人数で回すというやり方が普通。前回の雇用統計の雇用者数の少なさは、企業の景気見通しが、「予想値」に表れるよりかなり慎重なことを示したともいえます。

 より正確な情報を知りたければ、修正後の過去データを見たほうがいいのですが、マーケットは修正データには興味がないようです。

 雇用側は「レイオフ」という再雇用前提の一時解雇制度を使えるので、採用の調整がしやすいです。一方で、雇われる側は、給料より失業手当が高いなら失業したままでいいと思っています。FRB(米連邦準備制度理事会)も、寛大な給付金が再雇用の妨げのひとつになっていることを認めました。

 前回の雇用統計の詳細を見ると、レジャー・サービス関連の雇用は33.1万人増加。娯楽・ギャンブル関連や宿泊業でも増加が目立ちました。

 レストランなどでは、米政府の手厚い失業手当のせいで、従業員の確保に苦労していると報告されています。その一方小売業は弱かった。経済が再開しても業種によって回復には濃淡があり、それが雇用統計の予想をいっそう難しくしています。

 FRBは「緩和縮小と雇用市場の回復はセット」だという立場。パウエルFRB議長は、「100万人程度の雇用増が数カ月間以上継続することを望む」と述べていましたが、これがFRBにとっての「雇用の回復」の基準になるわけです。

 前回の結果が悪く、雇用の回復は振り出しに戻った状態。緩和縮小のためには、今回100万人近い雇用増が必要なことはもちろんですが、それでもまだ十分ではありません。道のりは意外に険しいといえます。