長く株式投資をしているなら、もうご存じの人も多いかもしれません。夕凪さんは会社員から専業投資家に転身して大きな成功を収めた1人で、「イベント投資」という手法の草分け。そんなベテラン投資家の夕凪さんに、成功につながった投資術を聞きました。
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夕凪(ゆうなぎ)さんPROFILE
投資歴22年の日本株メインの専業投資家。運用資産は億超え。投資ブログ「ダントツ投資研究所」を運営するほか、日本証券新聞「夕凪所長のイベント投資100%」や、日刊スポーツ関西版「億り人の投資術」などでも、投資情報を発信する。著書に『スタバ株は1月に買え! 10万円で始めるイベント投資入門 [電子書籍版]』がある。
米国赴任をきっかけに株投資スタートもITバブル崩壊に遭遇
──億超えの資産を築く夕凪さんですが、まずは投資を始めた経緯からお伺いできますか。
僕は2004年にイベント投資を始めたのですが、最初に株を買ったのはその5年ほど前。当時、IT企業に勤めていて、米国シリコンバレーに赴任になりました。
で、向こうで働き始めたら、周りの同僚がよく株の話をしていたんです。どこそこの株が上がったとか下がったとか。それで株式投資に関心を持ち、まずはスターバックスとウォルト・ディズニーの株を買いました。
当時はITバブルの真っただ中でしたから、IT銘柄もよく買っていました。それらが軒並み上がったので、けっこう稼ぐことができました。
──いきなり順調だったんですね!
でも、最初だけだったんですよ。それから1年もたたずしてITバブルが崩壊し、含み損を抱えることになりました。しばらくそのまま保有していたのですが、結局100万円以上は損しました。
──すべて売却したんですか。
はい、IT銘柄のアマゾンやアップルも保有していましたが、日本への帰国を契機にそれらも売却しました。
──株投資はこの時、やめたのですか。
はい、いったんは。帰国した後にすぐ仕事で忙しくなったこともあり、しばらくは手を出しませんでした。ただ、いつか再開したいという思いはありました。米国で100万円以上を失ったので、そのリベンジを果たしたいなと。
でも、米国での投資手法を使うつもりはありませんでした。勝てる保証はありませんからね。勝つどころか、また同じことを繰り返すハメになるかもしれない。
そこで必勝法がどこかにきっとあるはずだと研究し始めたのです。いわゆる「聖杯探し」です。今となっては聖杯は伝説だという考えに至りましたが、当時は真剣でした。だから、まずはどうしたら勝てるのか、じっくり考えることにしたんです。
──ということは、勝つ方法が見つかったから、投資を再開したのですか。
まあ、それに近いですね。帰国後2~3年たったころ、ある本を読んで、この方法なら勝てるかもしれないと思ったんです。
──どんな本ですか。
個人投資家のJ-Coffeeさんという方が書いた『東証1部昇格銘柄を事前にキャッチして資金を5倍にしたJ-Coffee投資法』(あっぷる出版刊)というイベント投資術の本です。当時は「特殊需給」という名前でした。
その本のタイトルにあるように、東証2部や新興市場の中の、東証1部に昇格しそうな銘柄を狙って買うという投資法が紹介されていました。1部に昇格すると、投資信託の運用会社がその銘柄を決まった日付で商品に組み入れる必要があるので、株価が上がりやすくなる。そのタイミングを狙えば、労せずして利益を上げられるといったものです。
今では広く知られる手法ですが、当時、そういうことをいう人は少なかったんです。僕にとっては「目からウロコ」でした。
市場変更や株主優待に関連するイベント投資を実践
──実際、東証1部に昇格しそうな銘柄を購入したのですか。
はい。ただ、その本が私に与えた影響はそれだけではありません。
普通、私たちは会社の業績や財務、あるいは株価の推移などをチェックして、株価が上がるかどうかを予想しますよね。でも、その本には、会社の業績などとは関係なく、何かの出来事、つまりイベントをキッカケに株価が上がることがあると、数値から明らかにしたのです。
──そういう出来事を機に利益を狙うのがイベント投資というわけですね。銘柄の市場昇格以外にはどんなイベントがあるのでしょうか。
その頃、僕が発見したのが、株主優待にまつわるイベント投資です。
当時、居酒屋チェーンを展開する三光マーケティングフーズという銘柄を優待目当てで保有していたのですが、あるとき、これが優待の権利確定日に向かって株価が上昇し、確定日を過ぎると下がることに気づいたんです。
考えてみれば当たり前ですよね。権利確定直前に株を買い、優待をもらったら売却する人がいても不思議ではないですから。それで、株主優待銘柄の権利確定日を調べ、その前に買うということを始めました。
──今では広く知られる手法ですが、最初に始めたのは夕凪さんだったのでは?
いえ、そうではないと思いますよ。たぶん僕と同じようなことをやっていた人は大勢いたと思います。ただ、当時は今のようにSNS(交流サイト)が普及していたわけではないですからね。ブログやツイッターで投資情報を発信している人なんて、ほとんどいなかった。だから、世の中に広く知られることがなかったのでしょう。
──当時、「クロス取引」も行っていたんですよね。
現物取引で買って、同時に同じ銘柄を信用取引で売り建てを行えば、株価の値下がりリスクを回避して、優待分だけ獲得できるかもと思いつきました。
板寄せとなる寄付では売り注文と買い注文が必ず同じ株価で約定することをルールブックで確認しましたし、信用売り側が優待分の価格負担がないことを証券会社に電話で確認しましたね。
当時は適時開示情報のページも存在しなかったので、株主優待を実施している企業を探すのにも苦労しました。
──今では一般的な投資術ですが、自分で検証して始めたのはスゴイですよね。
子供のころから、物事のカラクリを探ったりするのが好きだったんです。
じっと観察して、コインゲームでお店側が勝てるようになっている仕組みがどこにあるのか、もし、その仕組みが甘くなっている台を見つけたら、そこでコインをたくさん増やせるんじゃないかとか。実際に仕組みが甘くなっている台を見つけて、自分だけでは使いきれないくらいコインを増やしたこともありました。
投資も同じで、じっと観察して、もっといい方法はないか、勝てる方法はないか、どこかにルール上の甘い部分がないかと常に考えていました。だからこそ、いろいろ頭に浮かんだのでしょうね。
TOB銘柄に集中投資!一気に資産増へ
──他にどんな「イベント」を狙うのですか。
一つはTOB(株式公開買い付け)です。
TOBとはある会社が、他の会社の株の一部、またはすべてを買い付けることをいいますが、通常は現在の株価にプレミアムが上乗せされるため、TOB発表前に買っておくと、まとまった利益を得られることが多いんです。だから、TOBの対象になりそうな銘柄を狙います。
──実際、TOB狙いで利益を得たこともありますか。
もちろん、ありますよ。イベント投資を始めて4、5年後だったと思いますが、大手電機メーカーのNECが、電子部品の製造販売を手掛けるNECトーキン(現在はトーキン)という会社を、完全子会社化するというニュースを知りました。
当時、リーマン・ショックの影響で経営不振に陥っていて、株価は150円くらいまで下がっていました。ただ、この会社は大手自動車メーカーが必要とする電気自動車用の電池の開発も行っていたんです。つまり、将来有望な技術を有していた。とすれば、NECトーキンは見捨てることのできない絶対的な存在の会社で、どこからも文句を言われないように、NECはそれなりの値を付けるだろうと思いました。
──思惑通りにいったわけですね。
1株150円で買ったものが240円くらいになりました。というと、大もうけしたとは思えないかもしれませんが、あのときは銘柄に対する思い込みがすごくて、投資資金のほぼ全額をその銘柄に注ぎ込んだんです。だから、かなり大きな利益を得ることができました。
──フルポジション? 同じように一つの銘柄に全額投資することもあるのですか。
今はしないですよ。万が一のことを考えるとリスクが大き過ぎますから。ただ、当時は全額といってもたいした金額ではなかったし、リスクに対して無とん着で、多少は無茶をすることもありました(笑)。
──イベント投資を始めてから成績はどうだったんですか。
よかったですよ。最初30万円で始め、その後は毎月5,000円ずつ追加投資しました。2~3年後にはかなりまとまった金額になったので、追加投資する必要はなかったのですが、しばらく惰性で続けていました。入金額は合計100万円にも満たないくらいですが、数年後には2,000万、3,000万円まで増やすことができました。
──資産が増えたから、会社を辞めて、専業投資家に転身されたわけですね?
いえ、お金が貯まったから辞めたわけではないんです。というか、2,000万円、3,000万円で会社を辞めるのは少し無謀かなという思いがありました。
──では、なぜ?
人事異動があり、とても忙しい部署に移ることになったんです。当時、僕は1日のうちかなりの時間を投資に費やしていたんですね。イベント投資というやり方だと、それなりに情報収集が必要ですし、けっこう頻繁に売買しますし。つまり、新しい部署に移ったら、投資を辞めざるを得ない。だったら、これを機に専業投資家になろうと。
──不安はなかったのですか。
いや、ありましたよ。実は会社を辞めると決断した後、東日本大震災が起こり、保有していた株が暴落したんです。東日本大震災は2011年3月11日ですよね。3月は株主優待権利銘柄が多いので買いまくっていました。それらが軒並み下落して、かなりの損失を出しました。それもあって、今、会社を辞めて本当に大丈夫なのだろうかと、あせったときもありました。
──でも、退職を決断されたわけですね。
僕にとって投資は生活の一部になっていたし、投資をやめるのは考えられなかったんです。それに、今回の人事異動は神様の思し召しではないかと考えたんです。神様が、僕が投資家に向いていると見抜き、会社を辞めるように仕向けたのではないかと。まあ、勝手な解釈ですが(笑)。それなら挑戦してみようじゃないかと思ったんです。
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