仮想通貨、商品安で金利低下、円高に                    

 先週の注目すべき出来事は、仮想通貨ビットコインの急落でした。急落のきっかけは、18日付で中国の金融機関向けに通知した中国金融当局の仮想通貨の規制強化でした。19日には一時30%下落し、約3万ドルにまで値下がりし、4月に付けた6万4,863ドルの最高値からわずか1カ月で半値になりました。

 仮想通貨の急落は、他の資産の売却を誘発し、19日には銅や原油先物などの国際商品にも売りが波及しました。商品の下落は、「中国政府がコモディティの異常な動きについて監視を強化する」との報道も大きく影響しました。ビットコイン、原油や銅の急落によってNY株は弱含み、ドル/円も円高となり、109円台前半から108.60円近辺まで下落しました。 

 しかし、その後公開された4月FOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨で、資産購入の縮小(テーパリング)について、3月のFOMCでは「参加者が言及した」との表現が、今回は、「多くの(a number of)参加者が、経済の急回復が続くなら、今後の会合のいずれかの時点で資産購入ペースを調整する計画を議論することが適切」との見解が示されたことから米金利が上昇し、ドル/円も買い戻され、109.30円まで上昇しました。しかし、その後はフォローはなく、債券市場では買い意欲が強く金利が低下し、ドル/円も徐々に頭の重い展開となりました。

 12日の米CPI(消費者物価指数)の大幅上昇を受けて、早期の量的緩和縮小観測が盛り上がり、19日のFOMC議事要旨を受けて再び盛り上がりましたが、債券市場などメインマーケットは冷静な反応をしています。ドル/円も盛り上がりのつど、109円台には乗せますが、長期金利の低下とともに上値が重たい動きとなっています。しかし、ビットコインや商品は、規制報道はあったものの量的緩和による過剰流動性の巻き戻しが始まっているような動きをしており、気になる動きです。

 今後、テーパリング開始の思惑とともに、このような動きが続くのであれば、その度に安全資産としての米国債券の買いは続き、長期金利は上がらず、ドル/円も上値の重たい展開が続きそうです。また、商品の下落によって豪ドルやカナダドルなどのクロス円も頭が重くなり、これまではドル/円に対しては円安への支援材料でしたが、その役目は外れていくかもしれません。

 前回ご紹介したバンク・オブ・アメリカのグローバルファンドマネージャーに対する5月の調査によると、テールリスク(確率は低いが発生すると影響が大きいリスク)の1位は前回2位の「インフレ加速」、2位が前回1位の「テーパータントラム(金融緩和縮小による市場波乱)」、そして3位は「資産バブル」との回答となっています。前回3位の「コロナ」が後退し、「コロナ」よりも「資産バブル」を警戒すべきと示しています。

 4月のFOMC議事要旨公表によって、3月よりも多くの参加者が言及したことが明らかになったことから、6月(15-16日)のFOMCの注目度が一層高まりそうです。しかし、雇用が回復し、賃金上昇が伴わない限り議論は始まらず、思惑で一時的にマーケットが踊っても長続きしない状況が続きそうです。ただし、雇用回復を遅らせていると言われている追加失業給付金については、打ち切る州が増えてきており、10月以降の就業活動が早まる可能性があります。その場合、出口論の検討に向けた環境が整うのが早まる可能性があります。

 そうなると、8月下旬のジャクソンホール会議ではパウエル議長も何らかの方向を示さざるを得ない状況に追い込まれていくかもしれません。それまではマーケットも方向が定まらず、毎月発表される米雇用統計、米CPI、テーパリングの思惑によって上下する展開が続きそうです。

「陰極まれば陽転す」

陰極まれば陽転す:もう売り物が出てこないほど売りつくされて、逆に買いのエネルギーがたまっている状態であるため、良い材料が出ると一気に上昇に向かう、という意味の格言

 前回も触れましたが、今年に入ってからの通貨の優劣は、ワクチン接種ペース(接種率)と出口戦略の時期が決める動きとなっています。ワクチン接種ペースが速く、接種率が高まっている国は、行動規制が緩和され、経済活動が活発になり、景気が回復していきます。そして、雇用が回復し、賃金が上昇し、物価が上昇し、これまでの金融緩和政策の出口への議論が高まってきます。

 18日に発表された日本の1-3月期GDP(国内総生産)速報値は実質年率で▲5.1%と、米国の+6.4%とかなり見劣りする結果になりました。また、日本の接種率は世界で100位以下であり、米国は世界で1、2位です。

 このように「円」を取り巻く環境は最悪です。しかし、もし、現在の状況がこれ以上悪くならない状況(「陰の極:いんのきょく」)であるならば、これからは悪い情報には反応が鈍くなり、良い情報に敏感に反応していくかもしれません。「陰極まれば陽転す」と相場格言にあるように、日本で接種ペースが早まると、「円」を取り巻く環境は好転するかもしれません。

 一方、米国の接種ペースの伸びは鈍化が鮮明になってきています。CDC(米疾病対策センター)によると、1日あたりの接種回数(7日移動平均)は5月17日時点で183万回となり、4月中旬のピーク時の338万回から半分近くになっています。その結果ワクチンも大量に余ってきているようです。また、バイデン大統領は「7月4日の独立記念日までに成人の7割に少なくとも1回接種」との目標を発表しましたが、現時点では6割に留まっているようです。各州はワクチン接種を促すためにNBA招待券や抽選で100万ドル贈呈などの特典を次々に打ち出しています。

「6割の壁」で米国が留まっている間に、日本の接種ペースが速まれば、ウサギとカメのレースのように日米の接種率は縮まっていく可能性があります。日本の国民性から真面目に接種していくことが予想されます。

 景気の面でも、ワクチン接種が進み、感染拡大ペースが鈍化し、緊急事態宣言が解除されていけば、日本の景気はこれから上向いていくことが期待されます。7月29日には、米国4-6月期GDP速報値、8月16日には日本の4-6月期GDP速報値が発表されます。日本はマイナスの可能性がありますが、日米の景気の差が縮まるのか拡大するのかという点に注目したいと思います。それまでにも1-3月期のGDPの改定値が発表されますので日米の差がどうなるのか注目です。

(5/27 米国改定値 6/24 米国確定値、 6/8 日本2次速報値)