米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2021年6月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2021年5月17日現在、為替は1米ドル=110円で計算)。

 その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な3つの違いについて、お伝えします。

米国高配当銘柄への投資の留意点

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので、注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ、無駄に手数料を支払うことになります。

米国高配当株1:フラワーズ・フーズ(FLO)

 米国第2位のベーカリー製品の製造・販売メーカーです。

 フラワーズ・フーズのブランドの一つ「Nature’s Own」は米国で一番売れているパンブランドで、他にも競争力のあるブランドを複数有しています。

 時価総額は51億ドルで、日本円で約5,600億円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「ブランド小売事業(Branded Retail)」で売り上げの約7割を占めており、続いて「非小売及びその他事業(Non-Retail and Other)」が約2割、「ブランド小売店事業(Store Branded Retail)」が約1割となっています(2021年3月期)。

出所:筆者作成

「ブランド小売事業」では、人工保存料、着色料を使わない「Nature's Own」や、タンパク質、繊維、全粒穀物が豊富に含まれている「Dave's Killer Bread」、LOVE BREAD AGAINをテーマに食物アレルギーを持つ人のためにグルテンフリーベーキングを手掛ける「CANYON BAKEHOUSE」などの複数のブランドの製品を販売しています。

 また、2020年のフラワーズ・フーズの販売チャネルは「スーパー」が約4割、大型小売店(mass merchandiser)が約3割、外食産業(Food service)が約2割の売り上げとなっており、販売代理店との契約で米国の人口の約85%をカバーするネットワークを有しています。

株式の注目ポイント

 株価は2020年の高値近辺で推移しています。また、配当については2020年6月の権利落ちで増配しており、今回の6月でも増配が期待されています。

 新型コロナウイルス感染拡大によって、消費者が家庭で食事をとる機会が増えたことでパンの消費量が増え、他業種に比べて業績への悪影響が比較的少なかったことが株価回復の要因の一つのようです。

業績動向

 2021年5月20日開示の四半期決算では、EPS(1株当たり利益)は市場予想を上回りましたが、売上高が市場予想を下回りました。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響によって家庭での食事の機会が増えたことで上昇していた売り上げが、新型コロナワクチン接種の広がりとともに外食の機会が増えたことで減少しました。

 内訳は中心事業の「ブランド小売事業」で売上高が前年同期比3.3%減、「ブランド小売店事業」で14.6%減、「非小売及びその他事業」で3.6%増となり全体として3.5%の売上減となりました。

 しかし、コロナ発生前の2019年第1四半期の売上高は超えており、会社側も「eコマースでの売り上げ増などの効果によって、着実に会社は成長している」として発表しています。

 次回は8月11日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 2020年は新型コロナの影響で、家庭で食事をとる機会が増えたことによって売上高が上昇したこともあり、会社側は2021年の売上高のさらなる減少を見込んでいます。

 今後、計画している設備投資などの効果が業績にプラスに寄与していくか、注意が必要です。

株価動向、配当利回り

配当:0.8ドル
配当利回り:3.29%
株価:24.31ドル(約2,700円)

 権利落ち日は5月下旬予定(権利実施は6月中旬予定)です(2021年5月18日時点で未確定。2020年を参照)。

 配当は0.8ドル、配当利回りは3.29%、株価は24.31ドルで約2,700円から購入できます(2021年5月17日時点)。

 2018年以降の最高値は25.09ドル、最安値は17.74ドルです(終値ベース)。 

米国高配当株2:メルク(MRK)

 1891年、ジョージ・メルクによって設立された世界有数の製薬会社です。NYダウ平均株価を構成する30銘柄の一つであり、時価総額は日本の大手製薬会社3社を足しても、なおメルクには及ばないという巨大企業です。

 がん免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が、日本国内における2019年の医薬品売上高ランキング首位となるなど、米国以外でも幅広くメルクの薬は利用されています。

 時価総額は2,000億ドルで、日本円で約22兆円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心は、「医薬品事業(Pharmaceutical)」で売上高の約9割を占める中心事業となっており、他に「動物医療事業(Animal Health)」も展開しています(2021年3月期)。 

出所:筆者作成

「医薬品事業」では「キイトルーダ」、糖尿病治療薬「ジャヌビア」「ジャヌメット」、子宮頸(けい)がんワクチン「ガーダシル」「ガーダシル9」などの医薬品を取り扱っており、その中でも「キイトルーダ」が「医薬品事業」の売上高の約35%を上げています。会社側も「キイトルーダ」の売り上げはまだまだ伸びると予想しており、今後もメルクを支える中心医薬品となりそうです。

株式の注目ポイント

 株価は2020年の高値を超えていません。しかし、コロナ禍でも増配しており2011年以降連続増配中です。抗菌薬「ZERBAXA」(一般名=タゾバクタム/セフトロザン)のリコールに関連する減損費用や、新型コロナワクチン開発プログラムに関連する費用などが影響し、EPS(1株当たり利益)が減少したことも2020年の高値を超えていない要因のようです。

 2021年は為替の影響などでEPSが改善すると会社側も想定しており、業績次第で2020年の高値を超えることもあるかもしれません。

業績動向

 2021年4月29日に発表した四半期決算では売上高・EPSともに市場予想を下回りました。しかし、決算を受けての株価の変動はあまりなく、現在は決算発表前の水準を超えて推移しています。

 売上高は前年同期比を上回りましたが、新型コロナワクチン開発プログラムを打ち切ったことで、関連する費用などが利益の減少につながりました。

 次回決算は7月29日開示予定ですが、EPS同様に売上高も市場予想を上回る決算を出せるか注目です。 

注意点

 オルガノン社の分社化(スピンオフ)を2021年第2四半期後半に完了する予定で、分社化することでメルクは特定の領域に経営資源を集中することとなります。その一方で、事業範囲が狭まったため、悪材料が出た際の影響が今まで以上に色濃く出る可能性があり、注意が必要です。

株価動向、配当利回り

配当:2.6ドル
配当利回り:3.25%
株価:79.87ドル(約8,800円)

 権利落ち日は6月中旬予定(権利実施は7月上旬予定)です(2021年5月18日時点で未確定。2020年を参照)。

 配当は2.6ドル、配当利回りは3.25%、株価は79.87ドルで約8,800円から購入できます(2021年5月17日時点)。

 2018年以降の最高値は92.04ドル、最安値は53.27ドルです(終値ベース)。 

米国高配当株3:オムニコム(OMC)

 世界的な広告代理店で、英国のWPP、フランスのピュブリシス、米国のインターパブリックと並ぶビッグ4の1社です。

 傘下には世界90カ国以上で事業展開する世界的なマーケティング企業である「DDB」などがあります。時価総額は179億ドルで、日本円で約2兆円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「広告代理事業(Advertising)」で売り上げの約6割を上げており、続いて「CRM関連事業(CRM Precision Marketing、CRM Execution & Support、CRM Commerce & Brand Consulting、CRM Experiential)」が約2割、「PR事業(PR)」「健康事業(Healthcare)」が約1割ずつとなっています(2021年3月期)。

出所:筆者作成

 また地域別売上高は、「米国」が約5割で、続いて「欧州諸国」が約2割、「アジア太平洋」「英国」が約1割と続いていきます。

 中心事業である「広告代理事業」では、世界3大広告賞の一つといわれる「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」において、2年連続でホールディングカンパニーオブザイヤーに選ばれるなど高い評価を得ています。

株式の注目ポイント

 株価は2020年の高値近辺で推移しています。また、配当は直近増配を発表しています。

 販管費を抑える一方、売り上げは前年同期比と同程度の水準を維持することで、EPS(1株当たり利益)が上昇していることも、株価回復の要因のようです。

 今後は、新型コロナの状況とESG(環境・社会・ガバナンス)への対応によって株価は上下する可能性がありそうです。

業績動向

 2021年4月20日開示の四半期決算では売上高・EPSともに市場予想を上回りました。

 決算を受けて株価は小幅に上昇し、現在は2020年の高値近辺で推移しています。

 事業が多岐にわたり、また売り上げも特定の顧客へ依存せず、いい意味でバランスが取れた企業であり、今後も安定した業績が期待されます。

 次回2021年7月21日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 売り上げの中心である、北米での売り上げが減少しています。

 今後のコロナの状況によって北米の売り上げ回復が遅れることで、株価にマイナスに働く可能性があり注意が必要です。

株価動向、配当利回り

配当:2.8ドル
配当利回り:3.36%
株価:83.11ドル(約9,100円)

 権利落ち日は6月10日(権利実施は7月9日)です。

 配当は2.8ドル、配当利回りは3.36%、株価は83.11ドルで約9,100円から購入できます(2021年5月17日時点)。

 2018年以降の最高値は84.96ドル、最安値は45.80ドルです(終値ベース)。

米国高配当株4:ナビエント(NAVI)

 米国連邦政府の学生ローン支援政策目的遂行のために、連邦議会によって政府支援機関(GSE)として設立された企業の一つです。

 後に別々の上場企業に分割され、同社と「サリーメイ」となりました。ナビエントでは、学生ローンの管理サービスを中心に事業展開しています。

 時価総額は31億ドルで、日本円で約3,400億円となっています。

事業の注目ポイント

 ナビエントの中心事業は「学生支援ローン事業(FEDERAL EDUCATION LOANS SEGMENT)」で売り上げの約5割を上げており、続いて「消費者金融事業(CONSUMER LENDING SEGMENT)」で約3割、「業務管理事業(BUSINESS PROCESSING SEGMENT)」が約2割となっています(2021年3月期は、事業売却による売り上げがあるため、2020年12月期より)。

出所:筆者作成

 中心事業の「学生支援ローン事業」では、学生ローンの借り手側のデフォルト(返済不能)回避のために、50以上ある学生ローンの返済方法から、最適な返済方法を提供するとともに、早期に返済するためのサービスを提供しています。

株式の注目ポイント

 株価は2020年の高値を超えています。また、配当は昨年と同じ水準を維持しています。

 業績は新型コロナウイルス感染拡大前の水準を既に超えています。新型コロナによって学生ローンの返済救済を求める人々が増えたことも、好調な業績の要因の一つのようです。

 年々、学生ローンの借入残高は増え続けており、自動車ローンやクレジットカードローンを上回り、米国の社会問題になっています。そのような背景から、引き続きナビエントのサービスを利用する人の増加が想定されることから、今後も好調に業績が推移することが期待されます。

業績動向

 2021年4月27日開示の四半期決算では、売上高・EPS(1株当たり利益)ともに市場予想を上回りました。

 決算を受け株価は上昇し、そのまま横ばいで推移しています。

 会社側も「返済で苦労している学生の借り手の数が多すぎる」としており、今後も米国の社会問題となっている学生ローン市場を背景に、堅調な業績が想定されます。

 次回2021年7月27日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。

注意点

 以前、同社に対し、米投資会社「キャニオンパートナーズ」と「プラティナム・エクイティ」による買収騒動がありました。

 現在はそのような話は出ていませんが、再び買収の話が出た場合、株価変動の可能性があり注意が必要です。

株価動向、配当利回り

配当:0.64ドル
配当利回り:3.68%
株価:17.385ドル(約1,900円)

 権利落ち日は6月上旬予定(権利実施は6月中旬予定)です(2021年5月18日時点で未確定。2020年を参照)。

 配当は0.64ドル、配当利回りは3.68%、株価は17.385ドルで約1,900円から購入できます(2021年5月17日時点)。

 2018年以降の最高値は17.39ドル、最安値は5.00ドルです(終値ベース)。

米国高配当株5:ウエスタン・ユニオン(WU)

 国際送金サービス事業を行っており、世界200カ国以上の国と地域で事業展開しています。

 オンラインやアプリで世界中の銀行口座に直接送金することができ、外国人労働者が本国に送金する際や、国をまたぐ売買の決済になど幅広く利用されています。

 時価総額は102億ドルで、日本円で約1兆1,200億円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「個人金融事業(Consumer-to-Consumer)」で、ウエスタン・ユニオンの売り上げの約9割を上げており、続いて「法人金融事業(Business Solutions)」「その他(Other)」となります。
 

出所:筆者作成

「個人金融事業」ではオンライン、アプリを利用して送金・受け取りを行う事業を展開しています。日本ではセブン銀行・ファミリーマートも提携しており、コンビニから世界200の国と地域のウエスタン・ユニオン取扱店への送金を可能としております。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値近辺まで回復しています。また、配当は2015年以降連続で増配しています。

 会社側は「新型コロナの世界的流行により余儀なくされた、新技術の導入や労働環境のデジタル化により世界の国境を越えたサービス取引額は 2019年の6.1兆ドルから2025年までに8兆ドルに増加する見通し」としており、その際の決済に同社のサービスが利用されることで、さらなる株価の上昇が期待されます。

業績動向

 2021年5月4日開示の四半期決算では、売上高は市場予想を上回りましたが、EPS(1株当たり利益)は市場予想を下回りました。

 決算を受けて株価は下落し、その後は横ばいで推移しています。

 利益の減少はマーケティング費用の増加などが理由ですが、第2四半期以降に業績は改善し、2020年の利益を上回る見通しとなっています。次回2021年8月5日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。  

注意点

 デジタル通貨など新しい海外送金の台頭と、国際的な送金手数料の引き下げです。

 デジタル通貨については安全性・信用度の点から普及にはもう少し時間がかかりそうですが、送金手数料の引下げは既に起きています。

 今後は、買収などで事業規模を大きくしていく企業が生き残ると思われ、業界再編の動きには注視が必要です。

株価動向、配当利回り

配当:0.94ドル
配当利回り:3.77%
株価:24.89ドル(約2,700円)

 権利落ち日は6月15日(権利実施は6月30日)です。

 配当は0.94ドル、配当利回りは3.77%、株価は24.89ドルで約2,700円から購入できます(2021年5月17日時点)。

 2018年以降の最高値は28.30ドル、最安値は16.55ドルです(終値ベース)。

【要チェック】
リーファス社の公式YouTubeチャンネル『ニーサ教授のお金と投資の実践講座』では、同コラムの他にも動画でお金と投資の知識を学ぶことができます。