米国、4月のCPIで、インフレへの警戒心高まる

 先週12日に発表された米国の4月のCPI(消費者物価指数)は前年比で+4.2%と、2008年9月以来、12年7カ月振りの高い上昇率となりました。マーケットでは物価上昇は予想していたものの、前月(+2.6%)からも大きく拡大したため、インフレへの警戒心が高まりました。

 米10年債利回りは1.7%近くまで上昇し、ドル/円は1ドル=108円台後半から109円台後半に上昇しました。株は、利上げ時期前倒し観測から嫌気され、大きく下落しました。しかしドル/円は、米長期金利が伸び悩んだことや株安を嫌気し、110円には届かず、109円台前半に押し戻されました。

 CPIの加速は、新型コロナの感染拡大で大きく落ち込んだ1年前の反動が主因(ベース効果)とではないかといわれています。コロナ感染が広がる前、前年比2%前後で推移していたCPIは、2020年4~6月には0%台に鈍化しました。この物価低迷の反動が大きかったのですが、前年の反動だけが要因だけではなく、経済再開に伴う需要の急回復の局面で人手や原材料の供給制約が重なり、上昇圧力が一気に高まったようです。このことを示すように前月比でみても4月のCPIは0.8%上昇しています。特に食品とエネルギーを除くコアCPIは+0.9%と39年振りの高い伸びとなっています。

 項目別でみると、最も大きく上昇したのはガソリン(+50%)で、次いで中古車・トラック(+21%)となっています。サイバー攻撃による米東海岸の燃料パイプラインの停止や、世界的な半導体不足で自動車の生産ペースが鈍ったことがガソリンや中古車の高騰の理由であり、供給制約が物価上昇をもたらしています。ただ、中古車の大手販売各社の株は軒並み下落し、5カ月振りの安値を付けている会社もあります。中古車価格の高騰によって中古車の仕入れコストが上昇したことが嫌気されたようです。

一時的?問題視すべき?FRBと市場の間にギャップ 

 FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、このような供給制約に伴う物価上昇は一時的なものとして問題視していない姿勢を貫いていますが、市場との見方とはギャップがあり、今回のCPIの大幅上昇を受けて、そのギャップがどんどん広がっていくかもしれません。

 バンク・オブ・アメリカが3月に実施したグローバルファンドマネージャーに対する調査がそのことを物語っています。その調査によると、警戒すべき最大のテールリスクを「インフレ」とする回答が最多とのことです。テールリスクとは、発生する可能性は低いものの、起こると甚大な影響を及ぼす出来事のことですが、昨年2月以降、最も警戒されていた「新型コロナウィルス」は3番目に下がり、2番目は「金利上昇」となりました。つまり、「コロナ」よりも「インフレ」や「金利上昇」の方が怖いという調査結果になりました。

 そして4月の調査では、1位が「テーパータントラム(金融緩和縮小による市場波乱)」、2位が「インフレ加速」、3位が「コロナ」とのことです。インフレは加速し、それを制御するため、FRBの政策変更によって起こる市場の混乱を最も恐れているということを示しています。FRBと市場とのインフレに対する見方のギャップが広がれば広がるほど混乱が大きくなるため注意が必要です。FRBは、投資家の不安心理解消のためにますます丁寧な説明が必要になります。

 今後も、インフレ指標によってマーケットは大きく揺さぶられることになりそうです。そして、FRBのインフレに対する見方、あるいは金融緩和に対する姿勢が変化した時には最も波が大きくなるため注意が必要です。そのタイミングは6月のFOMC(連邦公開市場委員会)なのか、8月のジャクソンホール会議でテーパリングに触れるのかわかりませんが、その時期が近づくにつれてマーケットは身構え、敏感になることには留意しておく必要があります。

 米CPIの翌日13日には米4月PPI(卸売物価指数)が発表されました。前年比で+6.2%と予想を上回りましたが、マーケットはベース効果などを認識しているため冷静な反応を示し、その日のNYダウは上昇しました。

 また、原材料の高騰が供給制約の一因となっていますが、PPIが発表された13日には国際商品相場が全面安となっています。商品の総合的な値動きを示すCRB指数(エネルギーや農産物、金属などで構成される指数)は、前日に付けていた約6年振りの高値から2.4%低下しました。10日に過去最高値を付けていた銅が3.8%下がったほか、原油や穀物も軒並み下落しました。米長期金利の上昇に伴いドル高が進み、ドル建てで取引される商品全般の下げ圧力となったようです。また、CPIを受けて、FRBの早期引き締めへの警戒感が強まったことも下げ圧力になったようです。

物価上昇、夏場まで続く?

 このようにベース効果による物価上昇は夏場まで続くのは確実という見方は広がってきており、また、供給制約による物価上昇の品目もまだ限られているため、インフレは警戒しているものの、まだパニック的な動きにはなっていないようです。しかし、今後、他の品目にも広がってくれば、市場のリスク回避姿勢が強まってくるかもしれないため注意は必要です。

 米長期金利、ドル、商品相場などもインフレを警戒しながらも、一本調子に進むのではなく上げ下げを繰り返しながら、インフレをどのように消化していくのか注目です。

 今年に入ってからの通貨の優劣は、ワクチン接種ペースと出口戦略の時期が決める動きとなっています。出口戦略はインフレ動向によって決まりますが(FRBは雇用の回復を重視)、日本は接種ペースも遅く、物価も再びデフレに傾き始めており、通貨優劣の中では「円」は最も分が悪い状況となっています。その割には110円には届かず、もたもた感が強い状況となっています。

 今週18日に発表された日本の1-3月期GDP(国内総生産)速報値は実質年率で▲5.1%と、米国の+6.4%とかなり見劣りする結果になりました。更に4-6月期のGDPもマイナス成長の可能性が高く、2四半期連続のマイナスとなればリセッションということになります。また、英オックスフォード大学などの調査によると、世界のワクチン接種状況で日本は世界110位前後と、発展途上国レベルに低迷しているとの調査結果が出ています。今や、「円」を取り巻く環境は最悪の状況となっています。

 しかし、このような環境の中で、これから日本の接種ペースが早まれば、経済活動が活発になり、景気は上向くとポジティブに捉えられる可能性もあります。接種ペースが早まるにつれて円高へ反応するかもしれません。

「円」を取り巻く環境が「陰の極」であるならば、これからは悪い情報には反応が鈍くなり、良い情報に敏感に反応していくかもしれません。17日から日本では大規模会場での接種が始まりました。接種ペースが早まるとの期待が高まり、「円」を取り巻く環境は好転するかもしれません。

 また、逆に、先行した欧米では接種ペースの鈍化や、集団免疫への達成ペース、物価上昇の持続性、雇用回復の遅れなど、ネガティブな側面にもマーケットがより注目するかもしれません。GDPも物価も1年前と比べた押し上げ効果が剥がれる夏場以降も期待先行となってマーケットは織り込んでいくのかどうか注目ですが、前のめりにはなれず、半身の構えでマーケットには臨む必要があると思っています。