今週、日本株が急落。米国でも乱高下が続いています。特に投資を始めたばかりの方は、このような「大きな下げ」であわててしまうもの。そこで緊急レポートを配信。
「今、世界の株式市場が揺れている理由は? 」「このようなタイミングで個人投資家はどう対応すべきか?」をご案内します。

 

日経平均はなぜ下がっているのか?

 5月14日(金)の日経平均株価は、前日比636円高の2万8,084円と反発したものの、これで下げ止まったかまだわかりません。

 以下のチャ-トをご覧いただくと分かる通り、2月以降、NYダウは堅調なのに、日経平均は下げ基調が続いています。

■NYダウと日経平均の動き:2020年10月1日~2021年5月11日(NYダウは5月10日まで)

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 昨年11月以降、世界景気の回復期待が強まり、世界的に株価が上昇する中、日経平均も大きく上昇しました。今年の2月まで、NYダウと日経平均はほぼ同じ動きをしていました。

 ところが2月以降、NYダウは高値更新が続いたのに、日経平均は徐々に下げる展開となっています。日米の景況感の差が、そのまま株価のパフォーマンスの差にあらわれた格好です。

 米国と中国の景気が好調で、世界景気の回復期待が強まっていることがNYダウ上昇の要因です。

 ところが、東京・大阪などで緊急事態宣言が延長され、日本の景気回復が遅れる懸念が出ていることから、日本株はさえない動きとなっています。

日本の景気回復の遅れ、米景気過熱。2つの懸念が株の上値を抑えている

 米景気は好調で、コロナワクチンの接種が進む中、バイデン政権による1.9兆ドルの財政出動も行われることから、年後半には米景気が過熱する懸念すら出ています。

 日本はと言えば、ワクチン接種が遅れる中、コロナ変異種の感染拡大によって東京・大阪などで緊急事態宣言が延長され、景気回復が遅れる懸念が出ています。

 ただし、そのNYダウもここまで一本調子での株価上昇が続いたため、高値警戒感から少し調整色が出ています。NYダウが下がったので、日経平均にも一段と売り圧力がかかりました。

 米景気は好調です。米国株の不安は、年後半に「景気が過熱するリスク」が意識され始めたことです。景気回復の遅れが心配されている日本とは、逆の心配です。

 米景気が年後半に過熱してしまうと、インフレが進み、米金利が上昇します。そして、来年は過熱の反動で米景気が減速する懸念が生じます。

 米景気が、今年過熱して来年に失速するのか、あるいは、今年も来年もゆるやかな拡大が続くのか、そこを見極める必要があります。

日経平均、ここからどうなる?

 2つのシナリオが考えられます。

メイン・シナリオ

日本の景気・企業業績の回復が年後半にかけて鮮明になり、日経平均は再び上昇に転じて、年初来高値(2月16日の30,467円)を超えていく

リスク・シナリオ

日本の景気回復が遅れるうち、米景気は年後半にかけて過熱し、来年には過熱の反動で失速する。こうなると日経平均は、2万6,000円に向けて下げが続くことに

 私は、メイン・シナリオが実現すると予想しています。緊急事態宣言の延長があっても、日本の景気・企業業績の回復は続くと考えています。

 確かに、外食・観光・イベント・電鉄・航空業の業績低迷は長引きそうです。それでも、米景気・中国景気拡大の恩恵を受ける、自動車、機械、半導体など製造業の業績は一段と拡大すると思います。

 また、AI(人口知能)、IoT(モノのインターネット化)、5G(第5次移動体通信ネットワーク)を活用する第四次産業革命も世界的に加速し、企業業績を拡大させる要因になると考えています。

 そういう理由から、今期(2022年3月期)の東証一部の純利益は、前期(2021年3月期)比、約4割の増益になると予想しています。

 それを前提に、東証一部全体の割安度を測るPER(株価収益率)【注】を計算すると約「16.5倍」となります。

【注】PER(株価収益率:ピーイーアール、またはパーと読む)
株価の割安割高を判断する代表的指標の1つ。1株当たりの利益の何倍まで株価が買われているかを示す。単位は「倍」。倍率が低いほど株価は割安で、倍率が高いほど株価は割高と判断。世界の主要株価指標のPERは、歴史的にみておおむね10~20倍の範囲に収まってきた。

 PERが16.5倍であれば、東証一部の株価は平均値として「割安」と判断できます。今、予想に織り込んでいるのは、コロナの影響でサービス業の利益低迷が続く中での回復です。

 いずれコロナが完全に収束することまで見込むならば、サービス業の回復によって東証一部の利益はさらに増える余地があります。

個人投資家は何をすればいい?

 ここから日本の景気・企業業績の回復色が強まると予想しているので、私はこの水準では日本株を売るのではなく、買っていったほうが良いと判断しています。

 ただ、みなさんがどういうポジションを持っているかによって、対処方法は異なります。

ケース1

積立投資を始めたところなら、継続していくと良いと思います。

ケース2

いくらかまとまった投資に使える余裕資金があるなら、景気敏感バリュー(割安)株を中心に、少し投資してみて良いと思います。日経平均やTOPIX(東証株価指数)に連動する投資信託(インデックスファンド)に投資しても良いと思います。

ケース3

日本株を持ち過ぎ、過度にリスクを取り過ぎているなら、しばらく様子見して、株の反発局面で少しずつ減らしていく必要があります。

予想が外れて、日経平均が下げ続けたらどうなる?

 私の予想が外れ、日本の景気回復が遅れているうちに、米景気が過熱→失速に向かったらどうなるでしょう。

 先に述べたリスク・シナリオが実現すると、日経平均はさらに下げていくことになるでしょう。そうなると、日経平均が2万6,000円になることも、ないとは言えません。

 そうなっても、積立投資なら、淡々と積み立てを続けていくことが、長い目で見た資産形成に寄与すると思います。

 というのは、私は将来、日経平均は史上最高値(1989年12月の3万8,915円)を更新していくと予想しているからです。そう予想する理由は、別の機会に詳しく説明します。

 余裕資金で株式投資をしている方なら、短期的な下げが大きくなったほうが、より安い水準で追加投資ができるので、将来得られるリターンはより大きくなると思っています。

 下がった時に困るのは、レバレッジをかけて【注】、本来取るべきでない過度なリスクを取っている場合です。

【注】レバレッジをかける
先物やオプションなどの派生商品を使う、あるいは信用取引を使い、保有するキャッシュを上回る投資ポジションを持つこと

 下がったところで、売らざるを得なくなるような過度に投機的なポジションを持つべきではありません。短期的な相場変動でダメージを受けないように、余裕資金の範囲で株式投資をしていくべきと思います。

▼著者おすすめのバックナンバー
2020年5月12日:日経平均急落。三大割安株「買い場」の判断変わらず