雇用減、失業増。進まない雇用回復
先週の4月米雇用統計は、ネガティブサプライズとなりました。非農業部門雇用者数が、予想100万人に対して26.6万人と大幅に下回ったからです。前月も91.6万人が77万人に下方修正されました。今年に入ってからの増加傾向が4月で腰折れとなったことから、FRB(米連邦準備制度理事会)のテーパリング(資産購入の段階的縮小)観測が後退し、米10年債利回りは急低下し、一時1.5%を割れました。ドル/円は1ドル=109円台から108.40円近辺まで下落しました。ドル/円は、しばらくは頭の重たい展開が続きそうです。
雇用統計では、雇用者数だけでなく失業率も悪化しました。4月は6.1%と、3月の6.0%から低下の予想に反して上昇しました。また、パウエルFRB議長が「パウエル・ダッシュボード」と呼ばれる、新たな雇用指標として注視している黒人失業率は9.7%となり、3月の9.6%から上昇、非大卒者の失業率は6.9%と、3月の6.7%から上昇し、やはり悪化しています。
雇用市場の悪化は、季節調整要因や、学校再開の遅れ、失業手当の延長などで労働者が労働市場に戻って来ないなど雇用のミスマッチが、背景として挙げられています。失業手当は9月まで延長されているため、ワクチン接種が進んでいるものの、依然として高い感染リスクを考えると、対面を必要とし、低賃金であるサービス業務などの回復は鈍くなることが予想されます。
働いたら負け?失業手当>給料の構図も
例えば、モンタナ州の場合、1人当たりの州の失業給付最大572ドルに加えて、連邦政府の追加失業手当300ドルにより、働かなくても毎月3,488ドル(約38万円)を受け取ることができるとのことです。前年の所得が4万2千ドル未満(3,488ドル×12カ月、約455万円)の層は、働くよりも失業手当を受け取る方が得となる計算になります。
バイデン米大統領は、7月4日の米国の独立記念日を“コロナからの独立記念日”として位置付け、7月4日までに成人の70%の、1回の接種完了という目標を掲げましたが、仮に70%接種となっても労働者が戻るのは、追加失業手当が切れる10月以降となるかもしれません。
新型コロナのパンデミックで失われた雇用は、昨年5月以降急速に回復してきましたが、それでも未だ約840万人喪失しています。リーマンショックの時には約870万人の雇用が喪失し、FRBが金融緩和から政策変更に動き出したのは、雇用喪失が250万人にまで回復してきた時点でテーパリングに言及したといわれています。それに当てはめると、今回、テーパリングに言及するには約840万人の雇用喪失が約600万人回復する必要があります。月平均で60万人回復して10カ月かかる計算になります。直近2カ月の3カ月平均雇用者数50万人だと、1年かかる計算になるため、テーパリングへの言及は来年の春か夏前ということになります。
失業手当延長がなくなる10月以降に雇用回復が加速すれば、テーパリングへの言及時期は前倒しになるかもしれませんが、今年の年末にテーパリング開始となると、月100万人以上の雇用が回復していく必要があります。雇用回復ペースの観点からみると、年内テーパリング開始のシナリオは難しいかもしれません。
FRBの出口戦略が焦点に
以上の話はあくまで計算上の話ですが、マーケットでは、8月のジャクソンホール会議でテーパリングの検討に着手し、2021年の終わりから2022年初めに資産購入減が始まるとの予想が多いようです。政策金利も、FRBの2023年末までゼロ金利継続との方針に対して、マーケットではインフレを警戒し、2022年終盤の利上げが織り込まれつつあります。
雇用統計の発表前には、6月にもテーパリングの検討が始まるのではないかとの見方が浮上していましたが、今回の雇用統計でその見方は後退しました。それでも消えてはいないようです。
今後の相場シナリオを想定する際に、FRBの金融政策の変更、すなわち出口戦略が焦点になるのは間違いありません。出口政策に動き始めたカナダドルや、出口戦略を検討し始めているポンドが買われているように、ドルもFRBの出口戦略が動き始めたら本格的に買われるかもしれません。しかし、出口戦略が雇用情勢に左右されるということにも留意しておく必要があります。
物価よりも雇用を重視しているFRBが、雇用の回復を睨みながら、どのタイミングでテーパリングや利上げの時期を言及し始めるのかが今後の注目ポイントとなります。
ドル/円は、雇用統計のネガティブサプライズによって売られましたが、ネガティブサプライズの割には108円が割れるほどの急落ではありませんでした。テーパリング観測後退によってドル全面安となったため、ユーロやポンド、豪ドルは上昇し、それらの通貨のクロス円も上昇(円安)したことが、ドル/円の円高にブレーキがかかったようです。
例えば、スイス/円は6年振りの高値、カナダ円も元円も3年振り、ユーロ/円や豪ドル/円も3年振りの高値となっているため、ドル/円が円高に行きにくくなっているのも仕方のないことかもしれません。そうは言ってもドル/円の頭は重たくなってきています。しばらくは、ドル/円の頭の重たさとクロス円の上昇の綱引き相場が続くかもしれません。
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