20年の長期・積み立て・分散投資の勝率はどれくらいか

 長期・積み立て・分散投資は、誰でも簡単に実行可能で、途中、売買判断などを行う必要がないため、他の投資と比較して負担も軽く、かつベターな結果を獲得しやすいところに大きなメリットがあります。

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)や、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を用いて、国内外に分散投資された投資信託を毎月自動的に購入し続けることで、誰でも長期・積み立て・分散投資を実行することができる仕組みとなっています。

 ところで、長期・積み立て・分散投資はどれくらいの勝率になるか考えたことがあるでしょうか。本当に、長期・積み立て・分散投資を続けるだけで、私たちの運用成果は報われると考えていいのでしょうか。

 また、報われるとして、どれくらいの利回りが得られるものでしょうか。このとき「金額ベース」での収益率はもちろんですが、インフレを考慮した「実質価値」での収益率のことも考えておく必要があります。

つみたてNISAの資料、確定拠出年金の法改正議論のデータで長期・積み立て・分散投資の勝率を確認

 長期・積み立て・分散投資のシミュレーションでよく引用されているのは、つみたてNISA創設時に金融庁が出した試算です。

 つみたてNISAのパンフレットに紹介されているのは、国内外の株式と債券に25%ずつ投資をしたシンプルな分散投資モデルを作ったとき、運用収益のレンジ(幅)がどうなるか、提示しています。現在公開されているパンフレットでは、データ取得期間を1985~2020年としています。

 この資料では5年の積み立て投資ではマイナスの運用で終わることが15%くらいあるものの、20年の積み立て投資ならほぼ確実にプラスで終わることが示されています。

 しかも運用成績も年2~8%のレンジにあり、おおむね6割弱の確率で年4~6%の利回りになっていることが示されています。

 長期・積み立て・分散投資といえば、確定拠出年金の運用も同じアプローチです。こちらについても、厚生労働省の審議会(確定拠出年金の運用に関する専門委員会)の議論に際して分散投資に関する資料が提出されています。

 デフォルト商品(運用未指図者の自動購入される金融商品。米国の401[k]では原則として投資信託が選ばれる)の法整備に際して、臼杵政治委員(名古屋市立大学教授)が提出したものです。

 こちらについては、2020年末までアップデートされたデータが最近、ニッセイ基礎研究所のウェブサイトに公開されているので、そこから読み解いてみましょう。

国内外への長期・積み立て・分散投資、勝率は100%

 こちらは分析期間を1980年1月~2020年12月末としてシミュレーションされています。41年間にわたるデータです。

 そして20年の積み立て投資の結果として、国内外4資産への分散投資については、元本割れする確率は0%であったことが示されました。これはNISAの資料と同じです。

 こちらの資料では「国内株のみ(TOPIX[東証株価指数]配当込み)」「外国株(MSCIコクサイ)」「定期預金(1年)」で投資をした場合もデータが示されていて、「分散しなかった場合」や「投資をしなかった場合」の可能性も見ることができます。

 残念ながら、国内株のみに投資をしたモデルのみ、元本割れに終わる可能性が42%もあったようです。やはり国内外へ分散しないことのリスクが高いことがうかがえます(それでも平均収益率は年7%になります)。

 ちなみに国内外4資産への分散投資については、同期間の平均収益率を6%としているので、リスクとリターンのバランスで考えても、国内株式への投資はリスクが偏っているといえます。

32%もの高い確率で実質的なマイナス!やっぱり怖いのは預金の「実質価値」の低下

 臼杵氏が確定拠出年金の時の議論においても指摘していたのは、預貯金のみの資産管理は額面上の損失はないとしても、実質価値に「損失」が起きる可能性がある、ということでした。

 そのため、日本でもデフォルト商品は投資信託を設定するほうが望ましいと議論をしたわけです。私も同委員会の委員を務めていたので議論をよく覚えています。

 今回の試算でも20年の積み立てを行った試算で、もう一つ重要なデータを示しています。それは「額面」だけではなく「実質的な価値」の変動を、定期預金についても検証したものです。

 確かに定期預金は元本割れをしません。今はもう銀行の破綻も考えにくい情勢にあるので、ペイオフの心配もずいぶん後退しました。しかし、インフレに金利が追いついているかは別です。

 定期預金を20年続けた試算によれば、なんと32%もの高い確率で実質的なマイナスが発生しているとしています。

 私たちが持っている「定期預金は安全だ」というイメージは強いものがありますが、データを提示されると「実質元本割れ」の確率はかなり高いと感じるのではないでしょうか。額面こそ守られていると思っていたら、3回に1回は資産価値が目減りしたことになるわけですから。

 物価との見合いで実質的価値を意識するのはなかなか簡単ではありません。しかし、「預金」が安全である、ということは、実は盤石な話ではないわけです。

 なお、「それらは過去のデータの結果に過ぎない」という意見もあり、それはそれでその通りです。

 過去は未来を保障するものではありません(日本株のリスク・リターンのバランスは将来マシになるかもしれないし、定期預金の金利の物価上昇を上回る時期が増えるかもしれない)。

 時代と社会の変化も無視することはできません。とはいえ、過去のデータから教訓や可能性を学んでいくことは有用ではないでしょうか。

あなたの資産の一部は長期・積み立て・分散投資に回しておくほうがいい

 さて、今回の記事を最後にまとめておきましょう。

 まず、長期・積み立て・分散投資は、元本割れの可能性を大きく減らしてくれるといえます(過去のデータとしては0%)。

 また長期・積み立て・分散投資のリターンも高く、物価の上昇を上回ることができることにも意義があります。

 その意味で、あなたの資産の一部は、投資に振り向けておくべきだと考えられます。長期・積み立て・分散投資の力は簡単に獲得できるわけで、できるだけ活用しておくことが望ましいといえるでしょう。……というか、銘柄を選ぶ努力も必要なく、売買タイミングを検討する苦労もなく、ただ継続するだけでまとまった運用成果を出せる方法です。これを使わない手はありません。

 iDeCoやつみたてNISAを満額継続していく、たったそれだけで、私たちは経済の長期的成長を、私たちの経済的豊かさに変えることができるのですから。