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本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)レーザーテック(6920)

東京エレクトロン

1.2021年3月期4Qは35.8%増収、57.4%営業増益

 東京エレクトロンの2021年3月期4Q(2021年1-3月期、以下前4Q)は、売上高4,392億1,700万円(前年比35.8%増)、営業利益1,103億8,800万円(同57.4%増)となりました。半導体製造装置(SPE)が好調で、SPE事業は売上高4,154億円(同34.5%増)、セグメント利益(税金等調整前当期純利益)1,253億円(同51.3%増)と好調でした。半面、フラットパネルディスプレイ(FPD)事業は、売上高237億円(同65.7%増)、セグメント利益12億円(同55.6%減)と大幅減益となりました。

 全社では、増収と生産性改善に伴い、営業利益率が前々4Q21.7%から前4Q25.1%へ上昇しました。

 また、半導体設備投資が先端半導体分野だけでなく、自動車、家電、産業機器向けなどの汎用半導体分野でも活発になったことを反映して、フィールドソリューション(中古製造装置の販売、改造、部品販売など。SPE、FPD両方に含まれる)が売上高1,032億円(同22.0%増)と順調に増えました。

 前4QのSPE新規装置売上高をアプリケーション別に見ると、DRAM、不揮発性メモリ(主にNAND型フラッシュメモリ)、ロジック・ファウンドリ(TSMCなどの半導体受託生産業者)、ロジックその他(MPU、アプリケーションプロセッサなど。インテルなどの垂直統合型ビジネスモデルのメーカー)の全分野が前3Q比で増加しました。特に不揮発性メモリ向けが前3Q330億円→前4Q977億円、ロジック・ファウンドリ向け同486億円→882億円と大幅に伸びました。

 地域別売上高を見ると、韓国(前3Q393億円→前4Q1,014億円)、中国(同705億円→1,022億円)、台湾(同525億円→882億円)、日本向け(同361億円→536億円)が大きく伸びました。

 半導体製造装置の機器別売上高を見ると、コータ/デベロッパ、エッチング装置、成膜装置が好調で市場シェアもほぼ維持できましたが、洗浄装置は横ばいでシェアが低下しました。

 この結果、2021年3月期通期は、売上高1兆3,991億円(前年比24.1%増)、営業利益3,207億円(同35.1%増)となりました。好業績でした。

表1 東京エレクトロンの業績

株価 48,750円(2021/5/6)
発行済み株数 155,551千株
時価総額 7,583,111百万円(2021/5/6)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

表2 半導体製造装置のアプリケーション別売上構成比と売上高(新規装置のみ)

単位:%、億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:売上高は会社公表の売上構成比から楽天証券計算。

表3 東京エレクトロン:半導体製造装置の地域別売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:端数処理の関係で合計が合わない場合がある。

グラフ1 東京エレクトロンの半導体・FPD製造装置販売高

単位:億円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

2.2022年3月期会社予想は21.5%増収、37.8%営業増益だが上乗せ余地がある。

 2022年3月期会社予想は、売上高1兆7,000億円(前年比21.5%増)、営業利益4,420億円(同37.8%増)です(会社側は、今期に会計基準を変更するため、今期会社予想の前年比を示していませんが、従来の会計基準との相違はほぼないもようなので、ここでは2022年3月期会社予想と2021年3月期実績を単純比較しました)。

 一方、TSMCの設備投資計画によれば同社の2021年12月期設備投資は約300億ドル(前年比74.0%増)であり、今期を含む3カ年で1,000億ドルの設備投資を計画しています。また、サムソン、インテルも大型投資を行うと予想されます。

 メモリでも特にDRAMの大型投資が予想されます。

 これらのことから、楽天証券では東京エレクトロンの今期2022年3月期を25~30%増収、2023年3月期も20~25%増収と予想します。この売上予想に基づき、楽天証券では2022年3月期を売上高1兆7,600億円(同25.8%増)、営業利益4,600億円(同43.4%増)、2023年3月期を売上高2兆1,500億円(同22.2%増)、営業利益6,000億円(同30.4%増)と予想します。前回予想の2022年3月期売上高1兆6,800億円、営業利益4,020億円、2023年3月期売上高1兆9,600億円、営業利益4,900億円を上方修正します。

 引き続き、コータ/デベロッパ、エッチング、成膜の各装置の好調が予想されます。

表4 東京エレクトロン:半導体製造装置(新規装置)の製品別売上高

単位:億円、%
出所:各年度決算説明会資料記載の構成比より楽天証券試算。

3.今後6~12カ月間の目標株価を、前回の5万5,000円から6万6,000円に引き上げる。

 東京エレクトロンの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の5万5,000円から6万6,000円に引き上げます。2023年3月期の楽天証券予想EPS 2,873.7円に成長性を考慮した想定PER20~25倍を当てはめました。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

レーザーテック

1.2021年6月期3Qは売上高3.5倍、営業利益7.5倍

 レーザーテックの2021年6月期3Q(2021年1-3月期、以下今3Q)は、売上高197億1,400万円(前年比3.5倍)、営業利益65億2,800万円(同7.5倍)となりました。前年比が大きくなったのは、前3Q(2020年1-3月期)は大口案件の端境期だったもようで売上高と営業利益が小さかったこと、今3Qは今2Q並に大口案件があったもようで売上高が大きかったことによります。ただし、今2Q比では営業減益となりました。

 今3Q売上高の内訳は不明ですが、今上期並みかそれ以上にEUV関連が多かったと思われます(今上期の半導体関連売上高274億円のうちEUV関連は65%。EUV関連とは、EUV露光装置用マスク欠陥検査装置「ACTIS A150」(EUV光を使うタイプ、価格は不明だが推定50~80億円/台)、同じく「MATRICS X8ULTRA」(EUV露光装置用マスク欠陥検査装置で、ディープUV(DUV)光を使うタイプ。価格は約15億円/台)、EUVマスクプランクス欠陥検査装置「ABICS E120」(EUV光を使う。価格は約40億円/台)など)。今3Qは四半期としては過去最高売上高となり、今2Qの過去最高売上高を更新しましたが、今2Q、3Qとも複数台の「MATRICS X8ULTRA」とともに、最低1台の「ACTIS A150」、または「ABICS E120」が含まれている可能性があります。

 このように今3Qは業績好調だったものの、KLAと競合する「MATRICS X8ULTRA」の比率が今2Qよりも上昇したもようで(市場シェア100%で高採算と思われる「ACTIS A150」、「ABICS E120」の比率が下がったもようなので)、営業利益率は33.1%となり、今2Q39.5%から下がりました。

表5 レーザーテックの業績

株価 19,180円(2021/5/6)
発行済み株数 90,178千株
時価総額 1,729,614百万円(2021/5/6)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社の所有者に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表6 レーザーテック:セグメント別四半期売上高

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成

2.3ナノラインで使うEUV露光装置はペリクル有りかペリクル無しか、まだ結論が出ていないもよう。

 TSMCは2022年春~夏に3ナノ半導体の量産を開始すると予想されます。その3ナノ半導体(3ナノCPU、GPUなど)は、2022年9~10月頃に発売されるアップルの新製品(新型iPadか新型iPhone)に最初に搭載されると思われます。

 3ナノ半導体の生産ラインには、これまでよりも多い台数のEUV露光装置が装着されることになります。TSMCの場合、7ナノ第2世代ライン(N7+)では3~4工程にEUV露光装置が装着されていた模様ですが、5ナノライン(N5)では10工程前後に、3ナノライン(N3)では20工程近くに増加する模様です。レーザーテックのEUV用フォトマスク欠陥検査装置の中で、最新型でEUV光を使う「ACTIS A150」と、一世代前の機種でDUV光を使う「MATRICS X8ULTRA」がEUV露光装置何台に対して1台必要なのか不明ですが、これにはEUV用フォトマスクに「ペリクル」(防塵カバー)を使うのか使わないのかがポイントになります(TSMCの5ナノラインでは、ペリクルを使わずにEUV用フォトマスクの検査に「MATRICS X8ULTRA」(DUV光を使う)の台数を増やして対応している模様ですが、3ナノラインでも一部のEUV用フォトマスクの検査は「MATRICS X8ULTRA」を使うもようです)。

 現在、ヨーロッパの有力研究機関であるimec、日本の三井化学が実用段階のEUVペリクルを開発中であり、TSMC、サムスンともペリクルについては評価中のもようです。

 ペリクルを使うメリットは、フォトマスクに傷やホコリが付きにくくなるため、フォトマスクの検査・交換頻度を少なくして生産性を上げることが出来ることです。しかし、ペリクルの光の透過率が低い場合や、耐久性が低い場合は逆に生産性が落ちる要因になります。

 一方、ペリクル無しの場合は、フォトマスクの検査・交換頻度が増えるため、フォトマスク欠陥検査装置の台数をペリクル有りの場合よりも増やす必要がありますが、防塵カバーを被せる手間が省け、より精度の高い検査が出来るというメリットがあります(半導体に重大な影響を与えるキラー欠陥の検査が容易になる)。このため、3ナノ半導体の価格がEUV露光装置とフォトマスク欠陥検査装置の費用を賄うだけ十分に高い場合は、高品質でないペリクルを使うよりは生産性は高くなるはずです(前述のように、TSMCの5ナノラインはペリクル無しでDUV光を使ったフォトマスク欠陥検査装置「MATRICS X8ULTRA」の台数を増やして対応しているもようです)。

 この問題は複雑で、半導体メーカーによって、また、生産ラインによって結論が異なると思われます。ペリクル有り、ペリクル無しのラインが同じメーカーの中に混在する可能性があります。

 現時点では、3ナノラインのEUV用フォトマスク欠陥検査装置がどの機種になるのか、まだ決まっていない模様です。候補に挙がっているのは、レーザーテックの「ACTIS A150」(EUV光を使う最新型)、レーザーテックの「MATRICS X8ULTRA」(DUV光を使う一世代前の機種)とKLAのDUV光を使う競合機種、KLAの「Printcheck」(KLAのEUV用シリコンウェハ検査装置をフォトマスクにも使う)の3タイプである模様です。どれか1機種に決まることは考えにくく、私見ですが最新型の「ACTIS A150」が実際に使う機種の一つとして採用される可能性は高いと思われます。

3.2021年6月期4Q、2022年6月期1Qの受注高に注目したい。

 今3Qの全社受注高は207億円(前年比15.8%減)、半導体関連装置受注高は182億1,700万円(同10.0%減)となりました。受注の中心は引き続きEUV関連と思われますが、全社受注高、半導体関連装置受注高ともに今1Q、2Qよりも少なく、目立った変化はありませんでした。

 前述のように、3ナノラインのEUV露光装置の仕様(ペリクル有りか無しか)がまだ決まっておらず、EUV用フォトマスク欠陥検査装置も候補の3タイプのうちどれが採用されるかも決まっていない模様です。ちなみに、1機種だけに決まることは考えにくく、候補の3タイプが全て採用される可能性もありますが、その場合は、ペリクル有りか無しかで各タイプ、機種の必要な台数が決まると思われます。

 一方で、2022年9~10月発売予定のアップルの新製品に3ナノ半導体を間に合わせるためには、遅くとも2022年1-3月期には生産ラインを稼働させる必要があると思われます。「ACTIS A150」の納期は不明ですが推定で1~2年なので、今後予想される3ナノ半導体の増産投資を考えると、ペリクル有りかペリクル無しかの議論にある程度結論が見えて、「ACTIS A150」の採用が正式に決まれば、3ナノ増産投資のための受注をレーザーテックが受けるのは、2021年4-6月期か7-9月期、遅くとも年内になると思われます。この場合、レーザーテックの受注は遅くとも年内には再び増勢に転じると思われます。

 また、3ナノの生産能力は5ナノに匹敵するかそれを上回る可能性があります。これは、5ナノCPU、GPUを搭載したアップルのiPhone、MacPC、iPadの売れ行きが好調であることが大きな刺激材料になっていると思われます。昨年9月に5ナノ半導体がiPadに搭載されてからの販売競争によって、3ナノ半導体を搭載したいという意欲がスマホ、PC、タブレットPCの各メーカーの間で強くなっていると思われ、これが実際に最先端半導体への強い需要を生み出しています(5ナノ半導体はまさに強い需要を獲得しています)。

グラフ2 レーザーテックの全社受注高

単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

表7 レーザーテックの受注高、受注残高内訳:通期ベース

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:端数処理のため合計が合わない場合がある。

4.楽天証券の2023年6月期業績予想を上方修正する。

 このような見方から、再度レーザーテックの業績予想を見直しました。2021年6月期、2022年6月期は前回の楽天証券予想を維持しますが、2023年6月期については上方修正します。前回予想では2023年6月期はやや業績が鈍化すると予想していましたが、2023年暦年は3ナノの増産投資が予想されること、TSMC、サムスンに続き、インテルがEUV露光装置とEUV用フォトマスク欠陥検査装置のユーザーになると思われることから、業績が鈍化すると考える必要はないと思われます。今回は2023年6月期を売上高1,260億円(前年比43.2%増)、営業利益510億円(同64.5%増)と予想します(前回予想は売上高1,160億円(同31.8%増)、営業利益460億円(同48.4%増))。

 2021年3月末受注残高は1,204億4,800万円と2020年12月末1,194億6,100万円から微増となりました。今後受注が増加すると予想すると、価格が高い製品ほど納期が1~2年かかるため、2年後の2023年6月期に売上高が1200億円を超える水準に達することは十分あり得ることです。また、3ナノの先に2ナノ、1.5ナノが2年ごとに続くことを考えると、レーザーテックの成長が2023年6月期で終わることも考えにくいと思われます。

 この楽天証券業績予想は、3ナノラインに「ACTIS A150」が採用されることを前提しており、この点はまだ正式決定ではないためリスクがあります。ただし、これまでの経緯を見ると、最先端の半導体生産ラインには最先端の製造装置と検査機器が導入されてきたため、前述したように「ACTIS A150」が採用される可能性は高いと思われます。

表8 レーザーテックの売上高内訳:通期ベース

単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成。

5.今後6~12カ月間の目標株価を2万5,000円とする。

 今後6~12カ月の目標株価を2万5,000円とし、前回の2万円から引き上げます。2023年6月期の楽天証券予想EPS395.9円に、PEGを約1倍として想定PER60~65倍を当てはめました。引き続き中長期で投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)レーザーテック(6920)