4月の円高進行の背景
4月に入ってからのドル/円は下落が続き、110円台から108円近辺まで円高が進行しました。その背景は、米長期金利の上昇が一服し、その後低下したことが主因のようです。米10年債利回りの動きで見ると、金利上昇は1.7%台で頭打ちとなり、その後1.5%台まで下落しました。
ただ、米10年債利回りの動きは、現実の経済の動きと逆行した動きとなりました。直近発表されたPPI(生産者物価指数)やCPI(消費者物価指数)などの物価指標が強くても、また強い経済指標が発表されても、本来なら金利が上昇してもおかしくないのに金利は低下しました。この動きから、米国の債券市場は当面の米国の景気回復、インフレリスクを織り込んでしまったのではないかと言われています。
米長期金利の動きでもうひとつマーケットの話題になったのは、4月という季節要因とヘッジファンドの債券ポジションの巻き戻しです。4月という年度初めになったことや、金利上昇によって米債の魅力が増し、日本の機関投資家などが米債投資に殺到した結果、ヘッジファンドや投機筋が米10年債金利の2%超えを目指して売り込んでいた債券のショートポジションが踏み上げられたのではないかと話題になりました。
つまり、日本の機関投資家による米債買いによって金利が低下し、金利が低下したことによって、ヘッジファンドなどが債券のショートカバー(債券買い)を余儀なくされた結果、更に金利が低下したということです。
ただ、注意しなければいけないのは、経済指標が示すように米国経済は極めて堅調であり、インフレの懸念はむしろ上昇していることから、ポジションの需給要因で、どこまでもショートカバーとなって金利低下が続くということを想定すべきではないと思われます。
日米共同宣言で円高?!
米長期金利の低下で下落したドル/円は、108円台後半で一旦踏み止まりましたが、今週明けから再び円高が進行しました。その背景は、東アジアの地政学リスクの高まりにあるようです。
4月16日にワシントンで開催された日米首脳会談での共同声明では、52年振りに台湾問題について言及されました。「台湾海峡の平和と安定の重要性」が強調されたことから、東アジアの地政学リスクが高まり、リスク回避の円買い予想から、今週19日早朝からドル/円の上値が重い展開が続いています。しかし、台湾海峡有事の際は、日本も協力を求められ、沖縄を中心に日本が巻き込まれる可能性が高いことが予想されます。そのため、一概に円買いとの判断にはなかなかなれない側面もあります。
また、有事が起こらなくても緊張が高まった状態が続き、中国による経済面での報復措置も予想されます。尖閣諸島問題を契機とした中国による2010年のレアアース禁輸措置や2012年の日本製品不買運動など日中の経済関係に影響が及ぶ可能性が高まることも予想されます。
19日に財務省が発表した2020年度の貿易統計によると、輸出額に占める米国向け比率は17.9%に対し、中国向けの比率は22.9%となっています。近年は米国とほぼ同水準でしたが、2020年度は遂に米国を抜きました。日中貿易は日米貿易よりも比重が高まっていることから、中国との経済関係悪化は日本の経済回復に大きな影響が出てくることになります。
他の先進国に比べてワクチン摂取率が極めて低い日本にとっては欧米に比べて経済回復が遅くなることが予想され、これに日中経済関係の悪化が加われば、回復は更に遅くなることが予想されるため、円売り材料になりかねません。従って日米共同宣言は円高との見方には単純に踏み込めない面もあることにも留意する必要があります。ただ、今のところ中国は日米に対する批判は抑制しているようです。
「日経均衡為替レート」は1ドル=94円
日本経済新聞によると、経済の実体から算出する理論値「日経均衡為替レート」は2020年10~12月期で1ドル=94円と報じられています。均衡為替レートはその国の政府債務や経常赤字の状況から算出されているとのことです。
米国はコロナ感染拡大によって冷え込んだ経済を回復させるために巨額の財政出動に動いたため「双子の赤字」が膨れ上がり、その結果1年前の均衡レートである110円から16円のドル安が進んだ計算となっています。現在の水準である108円と比べても14円程円高の水準です。
しかし、「双子の赤字」という懸念を上回る経済回復が米国で進行中のため、現時点ではその懸念を解消するために今すぐ為替レートの調整が起こることは現実的ではありませんが、留意しておく必要はあります。
3月後半から4月にかけて、米10年債利回りは1.5%~1.75%の間で動きましたが、これに呼応するようにドル/円は、108円~111円の間で動きました。この動きを参考にすると、米10年債利回りが1.5%~1.75%で動いている限り、ドル/円も108円~111円のレンジで動きそうな気配です。
今後、米国内のワクチンの摂取が進むにつれて経済回復期待が更に高まるだけでなく、実際に引き続き強い経済指標が出てくれば、金利は再び上昇してくることが予想されます。また、2兆ドルのインフラ投資も、今後、議会でもまれて実現が近づくにつれて、経済回復加速への期待によって金利上昇要因となることが予想されます。
その場合、1.75%を超え、2%を目指す動きが出てくれば、ドル/円も一段の円安の動きになるかもしれません。しかし、逆に、強い経済指標が続いても、まだ、仕事に戻れていない800万人超の雇用の回復が鈍い場合は、全体の賃金も上がらず、物価上昇も一時的な動きとなり長期金利は期待ほど上昇しないことも予想されます。
また、2兆ドルのインフラ投資も増税など財源が確保できなければ債務は一段と膨らみ、上記の「均衡レート」は更に円高に修正されることが予想されます。その場合、悪い金利上昇が起これば、為替レートの調整が起こるかもしれません。
経済回復による長期金利上昇という第1段階は3月に織り込まれたかもしれませんが、次のステージで同じようなことが起こるかどうか注意を払う必要がありそうです。「均衡為替レート」は、そのことを教えてくれています。
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