年初からのコロナウィルス向けワクチンの普及による景気回復を背景とした期待インフレ率の上昇に伴い、米10年国債の金利が一時1.7%台後半まで急騰する中、ハイテク株比率の高いナスダック総合指数が直近高値から10%超の急落を見せる等、一部市場関係者には長期金利の上昇局面にある金融市場に対して、リスク資産の持ち高を減らす動きが見られます。

 実際に、3月半ばにかけて米主要3株指数が売られやすい地合いの中、高配当株式で構成される主要ETFは比較的堅調に推移しており、年初来リターンにおいても市場平均を上回る等、成長グロース株から高配当の割安銘柄がより優位な相場展開が期待されています。

 そこで、今回は高配当株戦略の一つとされる「Dividend Aristocrats(配当貴族)」を分析対象に、その運用環境及び、長期保有に適した銘柄をご紹介致します。

 まず、「配当貴族」の採用基準として、連続増配年数の条件をクリアする事に加えて、「S&P500種株価指数」の組入れ銘柄かつ、時価総額や流動性(平均取引額)の要件を満たす必要があります。

配当戦略 採用条件 採用銘柄数
(2021年3月末)
増配の判断基準
配当貴族 ●連続増配年数:25年以上 65 配当権利落ち日を基準に暦年(CY)で年間配当が増加
●S&P500種株価指数
●時価総額30億ドル以上
●1日の平均取引額500万ドル以上

 実際に、「配当貴族」を構成する65銘柄のうち、8割超の銘柄が時価総額100億ドル以上の大型株であり、「S&P500種株価指数」の採用要件も踏まえると、中小型株の構成割合が過半数を占める「配当王」に対して、経験の浅い初心者の長期投資に適していると言えます。

Market
Cap
Size Number
of
Dividend Kings
Major
companies
Mega
Caps
$200 billion+ 8 Johnson
&Johnson
Walmart Procter
&Gamble
Large
Caps
$10 billion
to
$200 billion
54 Chevron PepsiCo McDonald`s
Mid
caps
$2 billion
to
$10 billion
3 Federal
Realty
People`s
United
Financial
Leggett
&Platt
Small
Caps
$300 million
to
$2 billion
0 N/A
suredividend.com「2021 Dividend Aristocrats List」を基に筆者作成

 また、2021年3月末時点で「配当貴族」をセクター別に見ると「資本財・サービス」、「生活必需品」、「素材」の3業種が過半数を占める様に、景気変動に敏感な業種も多く、25年以上の長期にわたる連続増配の実績を考慮すると、米国株には景気サイクルに対する耐性が強く、持続的な成長性を維持する優良企業が多い事が分かります。

 更に、「配当貴族」の年初来パフォーマンス及び、過去10年にわたる年率リターンは米株主要指数に対して、オーバーパフォームしています。

Annualized Return(%)
Total
Return
Year To Date 1yr 3yr 5yr 10yr
S&P 500
Dividend Aristocrats(TR)
8.50 53.72 14.51 13.37 14.17
S&P 500(TR) 6.17 56.35 16.78 16.29 13.91
Dow Jones
Industrial Average TR
8.29 53.78 13.61 15.99 13.09

 そして、運用期間の長さに反比例する形で、標準偏差 が低下しており、同時にリスク調整後リターンが向上するという長期投資のインセンティブを活かしつつ、連続増配による配当利回り上昇によって、投資効率を最大化できるメリットがあります。

  Annualized Risk
(*標準偏差)
Risk-adjusted
Return
  3yr 5yr 10yr 3yr 5yr 10yr
S&P 500
Dividend
Aristocrats(TR)
17.88% 14.70% 12.81% 0.81 0.91 1.11
S&P 500(TR) 18.40% 14.89% 13.58% 0.91 1.09 1.02
Dow Jones
Industrial
Average TR
8.80% 15.51% 13.77% 0.72 1.03 0.95
S&P Dow Jones Indices「S&P 500配当貴族指数」を基に筆者作成
*(標準偏差は対象期間におけるリターンのブレを示しており、低い数値ほど優秀とされる)

 以上の点から「配当貴族」の様に、数十年に及ぶ連続増配銘柄を中心にポートフォリオを組む事ができれば、世界の機関投資家が運用指標とする「S&P500種株価指数」にも負けないリターンを実現できる可能性があると言えます。

 それでは、「Dividend Aristocrats (配当貴族)」の構成銘柄のうち、過去10年間にわたって、最も増配率の高い上位3銘柄をご紹介致します。

  Ticker Sector Dividend
Increases
(Years)
Dividend
Yield
Payout
Ratio
DGR5y
(CAGR)
DGR10y
(CAGR)
1 LOW Consumer
Cyclical
57 1.25% 29.6% 15.98% 18.24%
2 AOS Industrials 27 1.50% 46.8% 19.81% 18.19%
3 ROP Industrials 28 0.56% 23.3% 14.34% 18.02%
4 SPGI Financial
Services
48 0.86% 28.7% 17.13% 15.54%
5 HRL Consumer
Defensive
55 2.05% 57.7% 12.08% 15.17%
6 SHW Basic
Materials
42 0.71% 25.6% 14.75% 14.65%
7 CTAS Industrials 38 0.87% 39.8% 27.66% 13.89%
8 BEN Financial
Services
41 3.81% 68.6% 10.76% 13.38%
9 ITW Industrials 46 2.00% 66.1% 16.03% 12.94%
10 TROW Financial
Services
34 2.02% N/A 12.47% 12.93%
出所:suredividend.com「2021 Dividend Aristocrats List」を基に筆者作成
*上記各項目は2021年3月28日時点のデータ
*下記個別銘柄の「財務情報」は「morningstar.com」を参照

ロウズ

財務情報

TTM YOY 10-Year Average Growth Rate
営業利益率 フリーキャッシュフロー・マージン フリーキャッシュフロー成長率 売上高成長率 EPS成長率
10.8% 10.33% 229.23% 6.26% 18.50%

5年チャート

コメント

 1921年創業の同社(NYSE:LOW)は、ホームセンターとして世界第二位の市場シェアを持つ小売企業であり、北米とメキシコを中心に約1,970店舗を展開しており、持ち家所有の個人から不動産賃貸といった業者向けに、家電全般・木工製品・園芸具・照明器具・キッチン等の水回り製品等の住宅修繕に欠かせないツールやキットを幅広く提供しています。

 最大の強みはその店舗型とオンラインを融合した幅広い販売網であり、最大手の米ホーム・デポを含めた寡占市場における競争優位性を武器に、足元で営業利益率が2桁台に改善しつつあり、また2020年10~12月期の全米住宅価格指数が過去最大の伸び率を記録する等、歴史的低水準のローン金利を背景とした住宅需要の増加も経営の追い風になっています。

 20年通期の業績は、売上高が前年比24%増かつ、純利益が同36%増の増収増益とコロナ禍で在宅時間の増えた消費者の自宅改修ニーズを追い風に、住宅資材の販売が好調となり、第4Qの既存店売上高が28%増となる一方で、22年通期では経済正常化により減収の見通しを発表した事が嫌気されましたが、株価は直近5年間で2.7倍上昇と市場平均を凌いでいます。

 財務面では、カナダの販売店舗の拡大といった戦略的支出と、配当性向35%を目標とした配当の継続かつ、上限200億ドルの自社株買い等の株主還元政策を明確にしており、長期目線で持続可能な経営体制が整備されている点において、投資妙味が高いと言えます。

A. O. スミス

財務情報

TTM YOY 10-Year Average Growth Rate
営業利益率 フリーキャッシュフロー・マージン フリーキャッシュフロー成長率 売上高成長率 EPS成長率
15.5% 17.45% 28.97% 6.87% 13.36%

5年チャート

コメント

 1874年創業の同社は温水及び水処理技術において、業界を代表する世界的なメーカーであり、主に北米とアジアを中心に住宅やレストラン、ホテル等の商業施設向けに包括的な水ビジネスを水道事業者からEコマースまで幅広い販売チャネルを通じて提供しています。

 主要な事業セグメントは売上げ全体の7割超を占める「北米」と「その他世界」と地域別の2部門から構成されており、前者では主力の各種給湯器をはじめ、凝縮ボイラーや硬水軟化装置やフィルターといった水処理全般を手掛けており、特に「AO Smith」ブランドの米国内のマーケットシェアは家庭用と商業用のいずれにおいても業界トップを守っています。

 海外販売では、第二の収益源である中国において、直販・リテール店・オンラインによる流通ネットワークをバランス良く確立させており、特に直近の水処理事業の販売シェアでは北米を凌ぐ56%と地域別で首位、またインドにおいても人口150万人以上の大都市を含む合計400拠点以上の流通網を整備する等、人口の上位2ヵ国で競争優位性を高めつつあります。

 直近の第4Q決算では、売上高が前年同期比で11%増かつ、純利益が同31%増の増収増益となり、特に「その他世界」の売上が約2割増加と増収の牽引役となり、通期ベースの営業キャッシュフローも2割超増えた事で、来期はコロナ前の水準さえ上回る4億ドルに及ぶ、自社株買いをガイダンスで発表する等、株主還元政策を惜しまない経営体制が魅力的です。

ローパー・テクノロジーズ

財務情報

TTM YOY 10-Year Average Growth Rate
営業利益率 フリーキャッシュフロー・マージン フリーキャッシュフロー成長率 売上高成長率 EPS成長率
25.9% 26.71% 5.53% 8.76% 10.40%

5年チャート

コメント

 今年創業40周年を迎える同社は、特殊産業向け技術会社として、ヘルスケア・輸送・食品・エネルギー・教育といった多様な業界を対象に医療用および科学用の画像処理装置、ポンプ、材料分析装置などの製品及び、ソフトウェアを開発しており、企業風土には資産を持たない事業モデルを念頭に、一貫性かつ耐性に優れた収益源を育てる事に注力しています。

 実際に、一株あたり純資産が過去10年間で3倍超の水準に成長すると共に、直近3年間で無形固定資産の割合が約2倍に増加しており、収益モデルが「SaaS」及びライセンス契約といった継続課金型に移行しつつある中、2020年通期では営業キャッシュフローが前年比で16%増と利益率を高めながら、より筋肉質な財務環境の実現を目指しています。

 また昨年は超低金利の市場環境を活かし、合計60億ドルに及ぶ資金を調達、保険向けソフトウェア大手の「Vertafore」を買収した事で、長期負債が倍増した一方で、固定資産は前年比でほぼ変わらず、直近の営業利益率が約26%かつ、D/Eレシオも1未満と債務返済に不安な点は見られません。

 主要な4部門から構成される事業セグメントの傘下には各種ソフトウェアや分析ツール等の計47種類にも及ぶブランドを整備しており、全部門において、EBITDAマージンが30%超と分散かつ高収益なポートフォリオが同社の持続的な競争優位性を盤石にしています。

転載元:モトリーフール

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