進化を続ける投資信託

 投資信託という金融商品は、時代の流れとともに進化を続けてきました。この過程には、資産運用業界を取り巻く規制緩和の動きや技術革新のほか、投資信託の運用を担う運用会社も大きく貢献してきました。世界中の運用会社が日々知恵を絞り、多様化する投資家のニーズに応えるべく、困難なマーケットに立ち向かっています。

 その一つの流れが、資産運用におけるIT(情報技術)の最先端技術の活用です。これはビッグデータを活用して、AI(人工知能)やロボットが、運用担当者のために投資先の選定の「お手伝い」をするようなイメージです。

 これを具体的にお伝えする前に、まずは、投資信託の運用手法の違いからご説明しましょう。

投資信託のジャッジメンタル運用とは?

 投資信託などの運用を担うファンドマネジャーが、投資先企業の調査・選定を含む、総合的な投資判断を行う手法は、一般的に「ジャッジメンタル運用」と呼ばれます。多くの方がアクティブファンドの運用でイメージされるのは、このジャッジメンタル運用でしょう。

投資信託のクオンツ運用とは?

 一方、高度な数量分析に基づいて作られた運用モデルで投資判断を行う手法を、「クオンツ運用」と呼びます。あらゆる経済・マーケットデータを収集した上で運用モデルを構築し、そのモデルに沿って機械的に運用を行うため、人の判断や相場観を排除できるという点にメリットがあります。

 クオンツ運用自体は、金融工学の発展とともに何十年も前から資産運用界で取り入れられてきましたが、近年は技術面で変化が見られるようになりました。

 上記の枠に当てはまる単語が何か分かりますか?

投資信託の進化のウラに、何がある?(1)

解答:(1)ビッグデータ

 ビッグデータの活用とはつまり、大規模データの解析です。

 インターネットの普及により、現在は世界中のさまざまな情報を比較的容易に入手できるようになりました。しかし、毎分毎秒配信されているニュース記事や、世界各国の企業の財務情報など、株価に影響を与える可能性があるすべての情報を人間が処理することは、もはや不可能な領域にきています。

 そこで、インターネットを通じて入手できる大量の情報をビッグデータ化し、株価の動きに一定の法則を見抜いたり、ニュース記事に特定のキーワードが増え始めたシグナルを検知したりするなどして、運用に役立てるのです。

投資信託の進化のウラに、何がある?(2)

解答:(2)ディープラーニング(深層学習)

 ディープラーニングとは、機械学習の一種で、人間による指示を必要とせず、AIが自ら分析対象であるデータの特徴を見出し、学習を重ねていく技術です。前述のビッグデータを、ディープラーニングの技術を使って高精度に解析することも含まれます。

 人間の感情に左右されないという点は、従来のクオンツ運用と同じですが、ディープラーニング機能を搭載することで、さらなる運用の効率化や、高度なリスク管理の実現が期待されています。

 ファンド名や投資方針で明示されていなくても、実は、ビッグデータの活用やディープラーニングの技術は既に世界中の運用会社で取り入れられています。しかし、これらの技術が、運用担当者による伝統的なアプローチであるジャッジメンタル運用から、完全に置き換わるほどには、必ずしもなっていません。

 例えば、投資先となる企業を見極めるとき、企業の中の「人」、つまり、経営者と向き合うことができるのは、やはり「人」である運用担当者だからです。

 現在、ビッグデータやディープラーニングの活躍が見られるのは、限定的な領域が中心です。投資妙味のある個別銘柄をピンポイントで発掘するというよりは、主に株式市場の潮目の変化を察知したり、成長が見込める産業・投資テーマをあぶり出したりすることに活用されています。

お宝銘柄の発掘には人間力が欠かせない!

 今後、さらなる技術革新が進めば、将来的にはピンポイントで「お宝銘柄」を発掘することも可能になるかもしれません。一方で、運用担当者が積み重ねた知識や研さん、そして、足で稼ぎ蓄積された情報は、そう簡単に代替できないと思われます。こうした情報は、運用会社の財産であり、他社と差別化をする上でも重要な要素であるからです。