米インフレ指標は織り込み済み

       
 先週4月9日(金)に発表された米国の3 月PPI(卸売物価指数)は、予想を大きく上回り、PPI コア指数(エネルギー、食品を除く)が前月比+0.7%と2月の+0.2%から大きく跳ね上がりました。

 前年比PPIコアも+3.1%と2011 年以来の3%超えとなりました。PPIが予想を上回り、拡大したことから、インフレ加速への警戒感が強まり、金利の上昇とともにドル買いとなり、ドル/円は一時110円手前まで上昇しました。しかし、金利上昇が限定的な動きとなったため、その後の金利低下とともにドル/円も109円半ばまで下落しました。

 ドル円は、4月6日に110円を割れてからは、110円に戻す力が弱まっている状況となっています。110円突破を目指しますが、110円手前で何度も跳ね返されています。今週もこの110円の壁を超えられるかどうかに注目です。

 予想以上のPPIが発表されたにもかかわらず、マーケットはほとんど反応しませんでした。インフレを材料とする投機的な動きは一部にはみられますが、大半のマーケット参加者は、足元のインフレ上振れについてはかなり冷静な見方をしているようです。

 主要なインフレ指標は、昨年感染が広がり始めた3月、4月、5月と大きく落ち込みました。そのため今年の前年比での伸びは、その反動で当面、上振れしやすい状況が続くことをマーケットは織り込んでいるようです。また、金融当局も、足元のインフレは加速するが一時的なものと繰り返し説明してきました。その結果としてマーケットはパウエルFRB議長やFRB(米連邦準備制度理事会)を信任する形となりました。

 4月13日(火)に発表された米国の3月CPI(消費者物価指数)も予想を上回り、前月から拡大しました。CPIコア指数(エネルギー、食品を除く)は、前月比+0.3%と2月の+0.1%から予想以上の伸びとなり、前年比では+1.6%と、2月+1.3%から予想以上の伸びとなりました。先週のPPIに続きCPIも予想を上回り、拡大しましたが、長期金利は発表後低下し、ドル/円も一時上昇した後は下落しています。

 先週末の動きによって、短期的なインフレ上振れは、もはや長期金利の上昇材料にはならないことが確認されました。このことは、1~3月で長期金利上昇とともにドル高・円安となった動きにも影響してくることが予想されます。今後の参考のために、1~3月の動きを振り返りたいと思います。

1~3月の動きを整理

 1月は、バイデン新政権への期待と、ワクチン接種開始への期待から、一段の株高となりました。ドルについては、経済回復の期待から米長期金利が上昇したため、株高が続く中でいち早く反転し、ドル高の動きとなりました。1月の安値102円台半ばから104円台後半へ上昇。米10年債利回りは、1月初めの0.9%台から1.0%台へ上昇。2月もその流れは続き、長期金利が1.6%台に乗せると、ドル/円も106円台後半へ上昇。3月に入ると、最初の1週間で約2円の円安となりました。

 米国の1.9兆ドルの追加経済対策への期待と、長期金利上昇に対する日米金融当局の容認姿勢の違いから米長期金利の上昇が止まらず、9カ月振りに109円台へ上昇。月末近くには、追加経済対策第2弾(インフラ投資)への期待と、月末の米大手銀行への資本規制(SLR、補完的レバレッジ比率)の緩和が終了となったことから長期金利は一段高となり、1.78%台に上昇。ドル/円は111円手前まで上昇しました。

 4月に入ると、バイデン政権の経済対策第2弾である、インフラ投資2兆ドルが発表されました。期待されていた規模よりも小さく、増税とセットのため、財政規律への懸念が後退したことから。金利上昇圧力は緩和されました。また、3月末の債券の売りも一巡したことから、米長期金利は低下。それとともにドル/円も低下しました。

 このように振り返ってみると、米10年債利回りが2月、3月で急上昇し、ドル/円も106円を上抜けて加速し、111円手前まで上昇しました。現在は、米長期金利上昇が一服していることから、ドル/円も110円以上の円安は遠のいたようです。

 ただ、バイデン政権の経済対策は第2弾と合わせて3.9兆ドル(予定)と巨額であり、国債は増発されること、またFRBは、時期はともかく方向としては購入資産の縮小(テーパリング)、利上げと出口政策に向かっているため、長期金利も下がりづらいことが予想されます。従って当面のドル円は、108円台を中心とした105~110円のレンジ内で推移しそうです。

 インフレ指標については、4月分、5月分も上振れしそうですが、織り込み済みのため、しばらくは今回のような反応が予想されます。とは言ってもFRBが見方を変えるようなインフレが起こるのかどうか常に目配りしていく必要があります。

日米首脳会談

 今週は16日に日米首脳会談を控えているため、為替市場は様子見の地合いとなるかもしれません。また、日米首脳会談前後には、中国が会談を牽制するような動きを見せる可能性もあり、注意する必要があります。

 中国が会談前に行動すれば、日米の結束を強める逆効果となるかもしれないため、あるとすれば会談後かもしれません。

 すでに12日、中国軍の戦闘機など計25機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入するという事態が起こっています。台湾国防部によると25機は過去最多とのことです。台湾への圧力を警告する米国に対して中国が強い反発姿勢をみせたものといわれていますが、16日の日米首脳会談も意識した牽制行動とも考えることができます。

 また今週は、15日には米財務省の為替報告書の提出期限が控えていることも、様子見地合いとなる要因になりそうです。為替報告書で日本が名指しされることはないと思いますが、中国に対してどのような対応をするのか、注目です。