3月のドル/円は円安基調継続となり、1月、2月に続き3月も陽線で終わりそうです。106円半ばで始まったドル/円は、バイデン政権の1.9兆ドルの追加経済対策による景気回復期待とそれを受けた長期金利の上昇によって円安が進行しました。米長期金利の上昇スピードが速かったため、FRB(米連邦準備制度理事会)がけん制するかどうか市場は注目していましたが、パウエル議長は容認姿勢を取りました。一方、日本銀行の黒田総裁は逆の姿勢を示したため、ドル/円の円安に拍車がかかりました。その後のFOMC(米連邦公開市場委員会)や日銀金融政策決定会合でも、再び、日米の長期金利に対する逆の姿勢が確認されたため、米長期金利は上昇し、月末に向けて110円台に上昇して3月を終えようとしています。

 4月も、米株高、米金利上昇、ドル高の流れは続きそうですが、これらの流れの背景となる、注目すべき4月の相場変動要因を考えてみます。

要因1:米国の追加経済対策(=インフラ投資)

 1.9兆ドルの追加経済対策への期待と景気回復期待による米長期金利上昇が1月からのドル高・円安をもたらしましたが、経済対策第2弾として3兆~4兆ドルのインフラ投資が材料視されています。しかし、今回は一筋縄ではいかないかもしれません。インフラ投資は法人税の引き上げや富裕者への増税などとセットとなっているため、法案成立は難航しそうです。31日にはバイデン大統領がこの経済対策について演説する予定ですが、増税とのセット法案がどの程度突っ込んだ内容になるのか注目です。増税色が強くなるとマーケットにはネガティブになり、また、法案を成立させるために規模や時期も後ろ向きになるかもしれません。増税色が弱いと、財政赤字拡大が懸念され、悪い金利上昇となる可能性があります。その場合、ドル高ではなくドル安を誘引する可能性があるため、今後の議論の進展に注目です。

要因2:ワクチン接種ペース

 バイデン大統領は5月1日までに全米の成人全員を接種対象にする目標を掲げていますが、さらに普及スピードを加速すると明言しました。その背景は、ここへきて米国で感染再拡大がみられ、米疾病対策センター(CDC)所長が、「急増している欧州と似た傾向をたどっている」と警告したことがあるようです。ワクチン接種ペースが速まっても、感染が再拡大すれば、経済規制に繋がるような動きとなり、経済の回復に水を差すことになります。ワクチン接種ペースと同時に感染拡大の動向にも注目しておく必要があります。

 ワクチン接種が先行する米国、英国などでは5月、6 月には完了のめどが付くと見られていますが、一方、欧州各国ではワクチン接種が遅れる中、新規感染者数が再び急増しており、接種完了前にもう一度景気減速が生じる可能性が出てきています。欧州は国によって規制強化と規制解除の動きが交錯していますが、方向は感染者拡大、ワクチン接種遅延、物価は上がるが景気回復は鈍い流れとなっており、ユーロの頭を押さえ込んでいる状況となっています。ユーロ/円も頭が重たくなれば、ドル/円の円安抑制要因になりそうです。

 欧州の悩みは日本においてもより切実なリスクとなりつつあります。ワクチン接種完了が主要先進国中で最も遅くなる見込みの中、緊急事態宣言を延長しても感染拡大を抑え込めていない政策、第4波の動きが出始めており、地方にも波及している中での聖火リレーなど日本のシステムの弱さ・甘さがぼろぼろと出始めて影響しているのではないか、そして円安の長期要因として働いてくるのではないかと気になるところです。このような体制下では景気に対しても徐々に影響が出てくるのではないかと懸念されるため、大企業・中小企業、製造業・サービス業を含めた足元の景況感を教えてくれる、4月1日公表予定の日銀短観に注目です。

要因3:超金融緩和、米株高、米長期金利上昇、ドル高の影響

 29日、野村ホールディングスやクレディ・スイス・グループが取引先のヘッジファンド(アルケゴス・キャピタル・マネジメント)の投資損失によって巨額損失計上の可能性があると発表しました。

 背景は、金融緩和によって資金を借りやすくなったヘッジファンドがレバレッジを大きくしたことが損失の規模を拡大させ、また、個人投資家の標的になったことも一因ではないかと言われています。30日には三菱UFG証券ホールディングスも損失の可能性を発表しました。これらの動きは、金融緩和によって生じたバブルの氷山の一角なのか、四半期末の特殊要因なのか、このヘッジファンドだけの特殊要因なのか今後の影響度合いを注視する必要があります。今のところ相場全体を押し下げるほどの影響は出ていないようです。

 また、ドル高の影響も新興国通貨に影響が出始めています。ドル上昇によって、トルコリラ、ブラジルレアル、ロシアルーブル、南アランドといった主要新興国通貨の下落が大きくなってきています。豪ドル、ニュージーランドドルといったオセアニア資源国通貨も、資源価格は上昇しているにもかかわらず、軟調地合いとなってきています。このようにユーロだけでなく、オセアニア通貨や新興国通貨などもドル高や米長期金利の上昇による影響が出始めており、さらにドル高、金利上昇となった場合、これら通貨が一段と下落するのかどうか今後の動きを注視する必要があります。これらのクロス円の頭が重たくなると、ドル/円上昇の重荷になり、ドル/円はもたつく可能性が出てきます。

要因4:グローバル・サプライチェーンの混乱

 ここのところグローバル・サプライチェーンの混乱を引き起こす事件が相次いで起こっています。

  • 2月に米テキサス州を襲った寒波や停電の影響で、同州の石油化学工場の操業がいまだに回復せず、自動車産業や住宅産業向けの樹脂などの供給が滞っていると報じられています。
  • 半導体の需給逼迫(ひっぱく)が続いており、十分な半導体が入手できないため、生産調整を余儀なくされる企業が増えています。さらに日本では、3月19日に発生したルネサスエレクトロニクスの半導体製造工場の火災によって自動車生産に影響が拡大しています。
  • 3月23日、スエズ運河での大型コンテナ船の座礁によって海上輸送に支障。29日にコンテナ船は離礁し、動き始めましたが、400隻以上の足止めが解消するのに3日半かかるとのこと。解消がスムーズに進むかは不透明で、混乱の収束に時間がかかるとの見方は強いです。スエズ運河はアジアと欧州を結ぶ海運の大動脈であり、原油関連も多く物流への影響が長引きそうです。

 これらの事件は、今すぐマーケットに影響を及ぼすようなことはありませんが、今後、生産活動や物流にどの程度影響してくるのか、2月、3月、4月の経済指標に注目する必要があります。

 4月は、1月、2月、3月と同じように景気回復楽観論の流れが続きそうですが、同時に上記のようにさまざまな影響も出始めていることから、これまでの流れを起こしている要因とその影響とのせめぎ合いになるような動きになるかもしれないため、より慎重に相場に臨む必要がありそうです。

 ドル/円は、1年ぶりに110円台に乗せてきましたが、このまま115円、120円に進む勢いはないとみています。しばらくは、要因と影響のせめぎ合いで居場所を探すような動きになりそうです。