<今日のキーワード>
欧州連合(EU)が、環境を重視した投資等を通して経済を浮上させようとするグリーンリカバリー計画を提唱したことを機に、各国・地域では気候変動への取り組みが加速しています。日本でも菅首相が2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする『カーボンニュートラル』を宣言しました。マーケット・キーワードでは、『カーボンニュートラル』の取り組みについてシリーズで取り上げ、第2回は産業界の取り組みについて見ていきたいと思います。
【ポイント1】『カーボンニュートラル』へ向けた産業政策が進展
昨年10月に菅首相が2050年『カーボンニュートラル』を宣言し、政府は同12月に「グリーン成長戦略」を発表しました。「グリーン成長戦略」では、温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、成長の機会と捉える時代に突入したとし、「経済と環境の好循環」を作っていくことをうたっています。産業界は、これまでのビジネスモデルや事業戦略の抜本的な変革が求められることから、対応を急いでいます。
【ポイント2】各産業界は『カーボンニュートラル』対応を急ぐ
国内二酸化炭素(CO2)排出量の約40%を占める電力部門は、今年見直しが予定されているエネルギー基本計画において目標構成比率の増加が見込まれる再生エネルギーへの対応を急いでいます。特に、導入が遅れていた洋上風力発電への取り組みを活発化させています。また、水素発電やアンモニア発電の実証実験も進んでいます。
排出量の約25%を占める一般産業部門でも、排出量の多い鉄鋼業界は2050年『カーボンニュートラル』を目標とし水素還元製鉄の技術開発を進めます。セメント業界も石炭燃料の置き換えや、代替が難しい原料(石灰石)に対応したCO2回収貯留技術開発を急いでいます。
また、排出量の20%弱を占める運輸業界は、世界的に電動化の流れが加速しています。各国の規制は前倒しが進んでおり、各自動車メーカーは2030年代までに主要市場に投入する新型車の電動化が求められることから、電動車モデルの開発・投入を急いでいます。
【今後の展開】コスト増加も、長期的な視点での先行投資が必要
欧州で取り入れられている排出量取引制度が導入されると、温暖化ガスの排出量が割り当て上限を超えた企業は、他社から排出枠を購入することとなりコストが増加します。また、炭素税や国境炭素税が導入されれば脱炭素に遅れている企業は追加の税負担が必要となります。『カーボンニュートラル』への対応はコスト負担が大きいですが、長期的な視点に立ち、技術開発や設備投資など先行投資を行いしっかりと対応できた企業は、競争力やESG(環境・社会・企業統治)評価を高めることとなります。
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