個人投資家にとって「信用取引」は身近な存在
読者の皆さんの中には、信用取引を使って株式投資をしている、という方も多いのではないでしょうか。
筆者が株式投資を始めた頃の信用取引は、非常にハードルが高く、例えば預かり資産3,000万円以上で、かつ支店長との面接に合格しないと信用取引の口座を開けない、という時代もありました。
今ではネット証券なら数十万円の資金で口座開設や取引ができるため、個人投資家の皆さんにとって、信用取引は身近な存在になっているのではないでしょうか。
ただ、信用取引の税金となると、「あれ、どうだったかなあ?」という方も少なくないと思います。
そこで今回は、最低限これだけは知っておこう、という内容を取りあげようと思います。
同じ銘柄を現物と信用で保有していた場合の税金は?取得単価が…
例えば、すでに現物でA社の株式を保有していて、同じA社の株式を追加で買う場合、税金計算上の取得単価はどのように扱われるのでしょうか。
実は、A社の株式を追加で買うとき、現物取引なのか、信用取引なのかによって取り扱いが異なるのです(説明の便宜上、いずれも源泉徴収ありの特定口座で買うという前提です)。
もし、追加購入分も同じ現物取引であれば、A社株式の取得単価は、下記のようになります。
もともと保有していた100株分の取得単価 | 2,000円 |
追加で購入した100株分の買値 | 3,000円 |
↓
■すべて現物取引で購入の場合の価格
[(2,000円×100株)+(3,000円×100株)]÷200株 | 2,500円 |
しかし信用取引を使い、追加でA社株式を買うと、A社株式の取得単価は次のようになります。
■信用取引で100株追加購入した場合の価格
もともと現物取引で保有していた100株分の価格 | 2,000円 |
信用取引で追加購入した100株分の価格 | 3,000円 |
なぜこうなるかといえば、たとえ同じ株であっても、現物取引で買った分と信用取引で買った分は別の銘柄と見なし、区別して取得単価を計算することになっているためです。
現物と信用の併用で、含み益の余分な放出を抑えることができる
前ページの例で、もし、その後株価が5,000円に上昇したので、200株のうち100株を売却したとします。
すべて現物保有の場合
すべて現物で200株保有している場合、利益は25万円となります。
・25万円=(5,000円-平均取得単価2,500円)×100株
現物100株、信用100株保有の場合
一方、現物取引で100株、信用取引で100株保有している場合、現物の取得単価は2,000円、信用の取得単価は3,000円です。
現物の方を売ると利益は30万円です。
・30万円=(5,000円-2,000円)×100株
信用の方を売ると、20万円になります。
・20万円=(5,000円-3,000円)×100株
したがって、あまり含み益を放出したくないのであれば、信用取引で保有している方を売ればよいですし、利益を多く実現させたいのであれば現物で保有する方を売る、といった選択ができることになります。
現引きしてから売った場合は注意
なおこの例の場合、信用取引で買った後、現引きしてから売った場合は、信用取引で買った時の取得価格によって、現物で追加買いしたという扱いになり、平均取得単価の2,500円になりますので、注意してください。
現物取引と信用取引の損益通算は?
信用取引は、信用取引専用の口座を別途開設しないと取引することができません。このことから、現物取引と税金の扱いも違うのではないか、と思われる方もいらっしゃると思います。
ところが実は、税金の扱いが同じ部分も異なる部分もある、というのが正解です。
株を売った結果、売却益と売却損の双方が出た場合、それが現物取引によるものか、信用取引によるものかにかかわらず、損益通算することができます。現物取引でプラス、信用取引でマイナス、というケースであれば、両者を相殺してネットの損益を出すことになります。
この理由は、現物であっても信用であっても、上場株式の売買という点では同じ扱いだからです。ちなみに、先物やオプション取引、FX(外国為替証拠金取引)で生じた損益と、現物もしくは信用取引で生じた株式の売却損益を相殺することはできません。
信用取引の配当金は「売却益なの?」
このように、株式の売却損益は、現物取引も信用取引も同じ扱いとなりますし、利益と損失はネットすることができます。
ところが、信用取引で保有していた株の配当金については、現物で保有していた場合と全く扱いが異なります。
実は、信用取引で保有していた株は、現物そのものを保有していたわけではないので、配当金をもらうことはできません。その代わり、配当金のようなものとして、「配当落調整金(はいとうおちちょうせいきん)」を受け取ることができます。
これは、現物の株を持っていれば配当金として支払われるべき額から所得税の15.315%を控除した残額が、信用取引で買っていた株を保有している場合に受け取れるものです。
この配当落調整金の税務上のポイントは、配当所得ではなく譲渡所得(売却益)になるということです。
感覚としては、配当金をもらっているようなものなのですが、制度上これは配当金と似て非なるものなので、譲渡所得として取り扱われるのです。
なお、空売りをしていて配当権利日をまたいだ場合は、逆に配当落調整金を支払う必要があります。これは譲渡所得(売却損)として扱われることになっています。
現物取引と信用取引、税金の扱いは大体同じですが、ところどころ異なるところがあるのが実際のところです。
今回お伝えしたような点を頭に入れつつ、信用取引を行ってくださいね。
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