日米の金融政策会合の要点と市場の動きを振り返り

 先週のFOMC(米連邦公開市場委員会)ではマーケットとの対話も何とか無事に終えたようでしたが、週末にかけて米ダウも日経平均も売られる展開となり、ドル/円も108円台で頭の重い展開となっています。今後のシナリオを考える際に参考になるため、日米の金融政策会合の要点と市場の動きを振り返ってみたいと思います。まず、FOMCでは、

・ゼロ金利政策を維持、量的緩和政策も継続

・経済見通しでは、2021年GDP(国内総生産)成長率を4.2%から6.5%に上方修正し、物価も2021年末に2.2%と目標の2%突破の見通し

・パウエル議長は、景気の持ち直しについて「景気回復は想定よりも早い。ワクチンと財政出動で進展があったため」と指摘する一方、「雇用者数は危機前に比べて950万人も少ない水準」と述べ、長期の金融緩和を改めて強調

・物価の2%突破の予想については、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は「一時的なもので、政策目標の達成を意味するものではない」と強調

・金利見通しについては、2021年、2022年、2023年とも中央値はゼロ金利を維持する見通し。ただし、2022年に利上げを予想するFOMCメンバーは前回12月の1人から4人に増え、2023年に利上げを見込むメンバーは5人から7人に増加

・市場で浮上している早期の量的緩和縮小観測については、「まだ、議論していない」と一蹴。「今後2~3年の経済見通しは不透明で利上げのタイミングに焦点を当てたくない」と強調

・米大手銀行への資本規制(SLR、補完的レバレッジ比率)の緩和延長については、FOMC終了後の17日には発表されず、19日に3月末で終了と発表

 FOMC後のマーケットの反応は、ゼロ金利政策の長期継続方針が改めて強調された安心感から米ダウは上昇し、初めて3万3,000ドル台に乗せました。米10年債利回りは若干の上昇にとどまりました。ただ、SLR(補完的レバレッジ比率)については、19日に3月末終了と発表された後、米金融株は売られ、ダウは下落し、米長期金利も一時1.75%に急騰後、1.72%台に低下して引けました。ドル/円は、一時109円台に上昇しましたが、108円台に下落して引けました。

 日銀の金融政策決定会合では政策の点検結果が公表されました。長短金利操作やETF(上場投資信託)などの資産購入といった政策の大枠は維持され、下記のような修正が行われました。

(1)長期金利の変動幅を明確化し、「プラス、マイナス0.25%程度」とする

(2)ETF買入れは、原則年6兆円、最大12兆円の目安から6兆円は撤廃。公表文から「積極的な買入れを行う」との文言を削除し、株式市場の動向に応じて柔軟に行う姿勢を明確化

(3)マイナス金利の副作用対策として、マイナス金利深掘り時でも金融機関の収益への影響を緩和するため、「貸出促進付利制度」を創設

 これらの政策修正発表を受けて、市場は混乱しました。これまでの長期金利の変動幅は、「±0.1%の倍程度」としていましたが、今回、これを明確化し、「変動幅を±0.25%程度」と変更されたのですが、黒田総裁は、この変更は「拡大ではなく表現を明確化にした」と記者会見で説明したため市場の混乱が広がりました。結局、長期金利は変動幅拡大を受けて上昇しましたが、その後は日銀が長期金利上昇を容認するとの見方が後退したため金利の上昇圧力は薄れています。

 日経平均は、ETFの買い入れ対象から日経平均株価連動型が外れ、TOPIX連動型のみが対象となったため、一時600円近く急落しましたが(19日終値29,792,05円 ▲424.70円)、TOPIXは対照的に上昇し、1991年4月以来の高水準を付けました(19日終値2012.21 +3.70)。

 ドル/円は、109円台に乗せた後、株安を受けて108円台後半に下落しました。

トルコリラ急落の波及懸念

 今週に入っても日経平均は続落し、2万9,000円を割れました。株安は、米銀の資本規制緩和が3月末に終了することが決まったことや、日銀のETF買い入れの見直しに加え、ルネサスエレクトロニクス社の半導体工場の火災が悪材料として影響しているようです。この株安を受けてドル/円は頭の重たい展開が続いていますが、その背景にはもう一つ注目する材料があります。20日にトルコの中銀総裁が更迭され、ハト派の総裁就任によって、週明け、トルコリラが急落したことです。

 トルコリラの急落で投資家の脳裏を横切ったのは、トランプ前政権との関係悪化でトルコリラが急落した2018年8月の「トルコショック」です。今回、一時、15%前後急落しましたが、「トルコショック」以来の大幅な下落率でした。

 今回の急落は一時的な現象とは捉えがたい面もあります。コロナ感染拡大が経済に及ぼしている影響や、米長期金利の上昇とドル高の影響が一気に噴き出した可能性もあります。今後のトルコリラの動向を注目すると同時に、他の新興国も同じような事情であるため、他の新興国市場の株安、通貨安に伝播しないかを注視する必要もあります。2018年の時は、アルゼンチン、ロシアなどの新興国通貨だけでなく、貿易と投資でトルコとの関係が深いユーロも売られました。これら新興国市場への影響は、ドル/円にとっては円高要因となりそうです。

3月末に向けて蠢く円高要因

 FOMCは無事に終えましたが、その後、3月末に向けて相場環境が少し変化してきたようです。米銀の資本規制緩和終了の影響は限定的との見方もありますが、3月までは保有資産の見直しによる米長期国債への影響の懸念から米長期金利は下がりづらくなっているかもしれません。4月に入ると、その懸念が払拭(ふっしょく)されることによって米長期金利の上昇圧力も和らぎ、それと同時にドル/円の支えもなくなるかもしれません。

 欧州主要国では復活祭に向けて規制を強化したため、ワクチン接種の遅れも加わり、世界経済の正常化が遅れるとの見方から、長期金利は低下し、株は弱含み、原油も今月の高値から10%超の下落となっています。そのためクロス円が下落していることもドル/円の頭を重くしています。

 3月は、欧米の企業や投資家にとっては四半期末、日本の企業にとっては年度末となります。欧米投資家の保有資産の調整・見直し(リバランス)が、今週から来週にかけて行われる可能性があります。もし、実施される場合は、買われ過ぎの資産は売却され、売られ過ぎの資産は買われることになるため、債券買い(金利低下)・株売りのリバランスになるとの見方となっています。また、日本企業にとっては期末要因によるレパトリエーション(資金の本国回帰)や実需の特殊玉も予想されます。これらの実施タイミングや規模はわかりませんが、期末要因として相場が動くこともあるため、今週から来週にかけては警戒心を持ってマーケットに臨む必要があります。