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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 [動画で解説]米中対立はバイデン政権でも激化必至?世界経済へのダメージはコロナより深刻?」
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米中対立が、再び世界経済・株式への脅威に
1月に民主党バイデン政権が発足してから、しばらく米中対立は小康状態でした。バイデン大統領が、トランプ政権の「米国第一主義」を修正し、国際協調路線に回帰する方針を示していたからです。米国も中国も、新たな関係構築の可能性を見据えて、対立を激化させる行動を控えていたと思われます。
ただし、それは長続きしそうにありません。3月にはもう、対立激化の兆候が出ています。バイデン政権でも、トランプ政権時代と同じように対立激化が進めば、世界経済や株式にとって重大な脅威となる可能性があります。
米国・EU・英国・カナダが22日、対中制裁発表
EU(欧州連合)は22日、中国当局による少数民族ウイグル族の不当な扱いが人権侵害に当たるとして、中国の当局者らへの制裁を採択しました。EUが対中制裁を発動するのは1989年の天安門事件以来で、約30年ぶりです。これに対し、中国は即座に欧州議会の議員などに中国入国禁止の制裁を科しました。
EUの制裁発動に合わせて、米国・英国・カナダも対中制裁を発動しました。米国は、トランプ政権時からウイグル問題をめぐって中国の当局者に制裁を発動していましたが、EUの制裁発動に合わせて、ウイグル自治区の高官2名に追加で制裁を科しました。ウイグル問題で、米国・EU・英国・カナダが協調して圧力をかける姿勢を示したと考えられます。
欧州はこれまで、中国への制裁では、米国と距離を置いてきました。ドイツが中国との経済関係を重視してきたことに加え、トランプ政権が貿易問題をめぐって欧州と対立し、米国との関係が悪化していたことも影響していました。ところが、香港の自治侵害が進むにつれて風向きが変わり、欧州でも対中制裁の議論が高まっています。バイデン政権の発足で、トランプ政権時に悪化した米EU関係を改善させる意向も働いています。
米国は17日、香港自治法に基づく制裁を発表
米国は、トランプ政権時より、香港の自治侵害に関与した人物などに制裁を発動しています。バイデン政権でも、制裁が続けられています。3月17日には、昨年米国で成立した「香港自治法」(香港の自治侵害に関与した人物や組織や金融機関への制裁を可能にする法律)に基づき、中国および香港の当局者ら24人を新たに制裁対象に加えました。
米中会談は非難の応酬に
3月18日には、米アラスカ州で米中外交トップによる会談が行われました。米国からブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官が、中国から楊潔篪・中国共産党中央政治局委員と王毅・外相が出席しました。バイデン政権になってから初めての高官級協議です。
冒頭から、異例の展開となりました。米国から、ウイグルや香港、台湾での中の行動や、米国へのサイバー攻撃などへの懸念が表明されると、中国は、米国の人種差別問題や歴史問題まであげて反論しました。その後、激しい非難の応酬となりました。
最終的に、米中ともこの会談を「率直な意見のやり取りがあって満足」と結論づけたのは、トランプ政権で悪化した米中関係の再構築を手探りしている最中であったからと考えられます。ただし、これで、バイデン政権になっても米中対立を緩和することは困難との印象が強まったことは否めません。
米中対立は、50年続く「米中冷戦」へ
米中対立は、これから50年続く「米中冷戦」に発展すると私は考えています。米中対立は根が深すぎて、抜本的な解決策がありません。貿易戦争から始まり、ハイテク覇権争い、アジア・太平洋圏での勢力争いにも発展しています。
政治体制をめぐる対立も解決策がありません。米国は、中国の「国家資本主義」を批判しています。国の補助を得た中国企業が半導体・液晶・スマートフォン・車載電池・5Gなど世界の有望市場で次々とトップシェアを取っていく戦略です。中国は、成長の根幹にかかわる「国家資本主義」を米国に批判されたからといって、やめるつもりはありません。
日本は明治時代に、自由民権運動を抑圧しつつ国家主導で産業育成を進め、経済を急速に発展させました。時代背景もやり方もまったく異なりますが、国家主導で経済を強化する中国のやり方に似た部分はあります。
国家が強権を持つことで、欧米の民主主義国家より早く新型コロナウイルスの感染を収束させられたことも、中国が自信を深め、さらに国家権力を強化する誘因となっています。
米国との貿易戦争は、泥沼に落ちる可能性があります。中国企業は、歴史的な流れからすると、そろそろ自国からの輸出を抑え、米国での現地生産をどんどん立ち上げていかなければならない段階に入っています。ところが、米国との関係をここまで悪化させてしまうと、中国企業が米国で現地生産を立ち上げるのは困難になりつつあります。
日本は、1980年代に米国と苛烈な貿易戦争を体験しました。その後、日本企業はどんどん米国での現地生産を増やしました。その結果、日米の貿易戦争は、影を潜めました。中国企業は、日本と同じように米国での現地生産を増やそうとしても、政治的な対立でできなくなっています。
2020年の中国の対米貿易黒字は、前年比7%増の3,169億ドルとなりました。トランプ政権が対中制裁関税をかけても、中国から米国への輸出増加には歯止めがかかっていません。これが、バイデン政権下でも、新たな火種となると考えられます。
株式市場の関心は、新型コロナウイルスから米中対立に移っていくと考えられる
2020年の株式市場にとっての最大の脅威は、コロナ禍でした。新型コロナウイルスが2021年も引き続き人類にとっての重大な脅威となっている状況に変わりはありません。ただし、世界経済や株式にとってのリスクとしては、徐々にウエイトが下がってきています。
それには、2つの要因が効いています。1つは、ワクチンへの期待ですが、それだけではありません。もう1つ、ウィズコロナでも経済を回していく知恵を人類が身に付けつつある効果が大きいと言えます。
今、日本経済は急速に回復しつつありますが、それは日本でワクチンが普及したからではありません。米国や中国経済回復の恩恵を受けて、自動車や半導体がフル操業になるなど、製造業が急回復しています。コロナ禍でも安全対策を取った上で、工場を動かしていくことができるようになっています。海運業も久々の活況に沸いています。街の人出も物流もウィズコロナのまま、かなり回復しています。
外食や観光、イベント、航空、電鉄業などの落ち込みは厳しいままですが、他の産業では急速に業況が改善しています。毎日の新規感染者数は増加減少を繰り返し、ワクチン普及まで収束が見通せませんが、それでも、欧米やブラジル・インドなどと比べると、日本は感染爆発をなんとか抑えることに成功しています。
コロナウイルス変異種の広がりが、新たな脅威となっていますが、それでも株高が続いてきたのは、安全対策をとりつつ経済を回していく知恵を人類が身に付けつつあることによると考えらえます。
一方、新たな脅威として、今後重大な影響が及ぶ可能性があるのが、米中対立です。年後半、新型コロナウイルスの株式市場に対する脅威が低下していく中で、米中対立の脅威が大きくなっていくと予想しています。
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