【今日のまとめ】
- アルファベットによるデータセンター資産の損金計上は注目に値する
- アドバンスト・マイクロ・デバイセズは新製品登場を囃して株価が騰がっている
- インテルの財務内容は安定している
- エヌヴィディアは圧倒的な技術力を誇っているが、そのビジネスはシクリカルだ
- NXPセミコンダクターズは自動車向け半導体でナンバーワン
- テキサス・インスツルメンツは地味だが手堅く経営されている
半導体セクター
今日は半導体セクターについて書きます。このところ半導体セクターは人気になっています。スマートフォン、インターネット・インフラストラクチャ向け半導体などの需要に加えて、IoT、AI(人工知能)、自動運転車などの新しい市場の出現が投資家を強気にさせています。
データセンターではメモリーやGPUへの需要が高まっており、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)やアルファベット(GOOGL)など、一握りのリーダー企業では「軍拡競争」の様相を呈してきています。これらのリーダー企業によるデータセンターに対する設備投資額を合計すると年間300億ドルを超えると言われています。
その反面、慎重さに欠く投資も散見されはじめており、2016年第4四半期決算では、アルファベットがデータセンター資産の一部を評価損計上しました。つまり先行投資ブームは、行き過ぎの様相を呈し始めているのです。その意味ではAIバブルがはじけるなどの反動が、近く起こるリスクもあるかもしれません。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(ティッカーシンボル:AMD)は1969年に創業された半導体メーカーです。現在、同社は半導体の製造をファウンドリーに外注しており、設計に注力しています。同社のファウンドリーは、グローバルファウンドリーならびにTSMCです。
同社は長年、経営不振にあえいできました。2012年に債務返済の再交渉を行うと同時に7%の従業員を解雇し、経営改革に乗り出しました。この結果、当時売上高の9割を占めていたPC向け半導体は、現在、6割を切っています。
同社はインテルのx86マイクロプロセッサー互換型のCPUを作っています。
同社の現在のデスクトップ市場でのマーケットシェアは約12%、ノートPCでは9%、サーバでは1%です。
AMDは新製品、「ライゼン7」CPUを発表したばかりで、現在はこの新製品に対する期待から株価が上昇しています。
AMDはAPUも作っています。APUとはCPUとGPUの機能をひとつのシリコンの上に統合したものを指し、CPUならびにGPUにかかる負荷を軽減するため、一部のタスクをオフロードする役目を果たします。
さらにAMDはGPUも作っています。GPUはグラフックス描画の際、並列計算を司ります。近年、GPUはグラフィックス以外の用途にも使用され始めており、スーパーコンピュータ、深層学習、AI、機械知能、さらには組み込みシステムなどにも利用されています。AMDの「ベガ」GPUは第2四半期に発売される見込みです。
AMD の2016年の売上高のうち約6割がソニー(プレイステーション4)、マイクロソフト(Xボックス)、HPの3社から上がっています。
このうちソニーとマイクロソフトは主にAMDのエンタープライズならびに組み込みシステム製品を購入しており、HPは主にMADのコンピューティングならびにグラフィックス製品を購入しています。
これらの顧客はAMDが新製品を出す度に、それを採用するかどうか判断します。もし採用されなかった場合、AMDは大きな売上機会を逸します。
AMDのバランスシートには14億ドルの純負債が載っており、営業キャッシュフローから借金を返してゆけるかどうかは定かではありません。
2016年通年のグロスマージンは23%で、2015年の27%より下落しました。マージンが下がった主因は2016年第3四半期に3.4億ドルの評価損を計上したためです。この評価損はグローバルファンドリーとのウエハー供給契約を改訂したことで発生しました。
下の一株当たりの業績のグラフに見られる通り、AMDの過去の業績は、万年赤字体質であり、芳しくありません。
【略号の読み方】
DPS 一株当たり配当
EPS 一株当たり利益
CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
SPS 一株当たり売上高
インテル
インテル(ティッカーシンボル:INTC)は1968年に創業された世界最大のCPUメーカーです。同社は自社工場で半導体を製造しています。工場は本社のあるカリフォルニア州サンタクララの他、オレゴン、アリゾナ、ニュー・メキシコ、アイルランド、大連などにあります。
もともとPC向けCPU(売上高の55%)を作っていましたが、現在はクラウド&データセンター向け製品(同39%)、IoT(5%)、NANDメモリー(4%)、プログラマブル(3%)など製品の多角化を目指しています。
同社は半導体のデザインだけでなく、製造ノウハウに競争力の源泉を求めています。半導体の線幅が細くなればなるほど、歩留り管理は難しくなり、歩留りは利幅の大きな決定要因になります。
2016年通年のグロスマージンは60.9%でした。これは立派な数字だと思います。また2016年の設備投資額は96億ドルでした。
同社は2016年にプログラマブル半導体デザイン会社、アルテラを買収しました。また2017年3月には先端運転補助システム(ADAS)のモービルアイの買収を決めています。
インテルの財務力はとても強く、手堅く経営されています。
エヌヴィディア
エヌヴィディア(ティッカーシンボル:NVDA)は1993年にカリフォルニア州サンタクララで創業されたGPUのデザイン会社です。
GPUはゲーム・コンソルやPCゲームの描画を加速するための半導体としてスタートしましたが、高速並列計算に優れているため、最近はAI、深層学習、自動運転車などへも利用され始めています。
2016年はゲーム向けGPUの新しい商品サイクルの年にあたったため、ゲーミング売上高が急増しました。しかしゲーム向けGPUの売上は、新製品サイクルと密接に関係しているのでシクリカルな動きをすることが知られています。
これに対しデータセンターではAI、深層学習などへのアプリケーションにGPUが使われています。これは新しいマーケットであり、シクリカルと言うより、セキュラー(長期成長的)な需要だと思われます。
さらに自動運転車も新しいマーケットとしてたいへん有望です。現在のところエヌヴィディアの自動車向けGPUの大部分は、自動運転車のアプリケーションではなく、車内のオーディオ&インフォテイメント・システムを駆動することに使われています。
同社の場合、会計年度は1月末で〆られるのですが、2017年度の市場別売上成長率はゲーミングが+44.1%、プロ向けビジュアライゼーションが+11.3%、データセンターが+144.8%、自動車が+52.2%、OEM&IPが-10.9%でした。
GPU市場におけるエヌヴィディアの市場支配力は圧倒的であり、技術力では他社を寄せ付けません。その反面、売上高ならびに利益の過半数はシクリカルなゲーミング向け市場に依存しており、それは今がピーク需要を迎えている点には留意する必要があると思います。
NXPセミコンダクターズ
NXPセミコンダクターズ(ティッカーシンボル:NXPI)はオランダのフィリップスの半導体部門が2006年にスピンオフされて出来た会社です。その後、2015年にフリースケールを買収し、2016年にクウァルコムの子会社、クウァルコム・リバーを買収しています。
NXPセミコンダクターズは、自動車向け半導体、セキュアーID、インフラストラクチャ、モバイル・ペイメント、工業向け半導体などを作っています。主な顧客はアップル、ボッシュ、コンチネンタル、デルファイです。
同社はいわゆる「コネクテッド・カー」と呼ばれる車載エレクトロニクス市場に深く関与しており、車載エンターティメント・システム、車内ネット環境の実現、リモート・ドアロック、レーダーシステム、ABS制御、トランスミッション制御、バッテリー・マネージメントなどを提供しています。自動車向け半導体企業としては世界第一位です。
同社のもうひとつの重要な市場はIoTで、スマート・ホーム、スマート・ビルディング、スマート・グリッド、インテリジェント・ロジスティックス向けの製品を揃えています。
さらにニア・フィールド・コミュニケーションズ(NFC)と呼ばれる技術を持っています。これはスマホなどのデバイスが、近くにある決済端末と情報をやりとりすることを実現するシステムを指します。
同社は自社で半導体製造工場を所有しています。工場はシンガポール、オランダ、テキサス州オースチンなどにあります。
なお2016年の利益は合併関連費用の計上で少なくなっています。
テキサス・インスツルメンツ
テキサス・インスツルメンツ(ティッカーシンボル:TXN)は1930年に創業された老舗企業で、本社はテキサス州ダラスにあります。
同社はアナログ半導体と組み込みシステムを得意としています。
それらの半導体の用途は大変広く、顧客集中度が低い(顧客数は10万社)のが同社のビジネスの特徴です。
アナログ半導体は、自然界に存在する、音や温度や映像などのシグナル(=アナログ・シグナル)を「101100011111011100」というデジタル信号に置き換える役割を果たします。その説明からもわかるとおり、我々の生活のあらゆる局面でアナログ半導体が活躍しています。
具体的には工場のオートメーション、医療分野、ビル管理、送電網、テスター、航空宇宙、家電製品、照明、自動車、テレビなどで使用されています。
テキサス・インスツルメンツは自社で半導体工場を持っており、それらはアメリカの他、アジア、日本、欧州などにあります。
同社は地味ながら手堅い経営で知られており、業績は安定しています。
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