※本記事は2019年10月25日に公開したものです。

短期トレードと長期保有、どちらが良いか?

 短期トレードと長期保有、一体、どちらが良い投資戦略でしょうか? この答えは簡単です。皆さんが実際にやってみて、利益が出る方が、あなたにとって良い手法です。

 短期トレードはうまいのに、長期保有では成果を出せない人がいます。逆に長期保有は得意なのに、短期トレードはぜんぜんダメな人もいます。

 投資の世界の有名人の例で言えば、SACというヘッジファンドを立ち上げたスティーブン・コーエンという人がいます。彼は成長株の銘柄選びをやらせたら右に出る人はいないと言われるセンスのいい投資家ですが、その投資スタイルは短期トレードです。

 ウォーレン・バフェットの場合、これとは正反対に長期保有を身上としており、短期トレードはやらないし、そもそも得意ではないと公言しています。

 つまり、そもそも短期トレードの方が優れているか? それとも長期保有の方が有利かという問題を、投資家本人の気性や資質の問題を抜きにして語ること自体、成り立たないのです。投資スタイルというものは、極めてパーソナル(個人的)な問題なのです!

 まだ両方の手法を試してもみないうちから、(私は長期保有派だ)とか、(私は気が短いから短期トレードのはずだわ)とか、勝手に自分の思い込みで決めないでください。

 卑近(ひきん)な話で恐縮ですが、私は最初に米国で勤めた投資銀行がバリュー系の調査を得意とするSGウォーバーグという会社だったので、バリュー投資の訓練を受け、長期投資のアイデアばかりを追いかけました。その関係で自分自身も、(私は本格派バリュー投資家だ)という痛い妄想に取りつかれてしまったのです。

 しかし……。

 次に入ったH&Qという会社は、成長株のIPO(新規公開株)や調査を得意とする会社で、短期トレードの推奨ばかりをする投資銀行でした。ところが、どうでしょう? 実際にやってみると、こっちの方もガンガン儲(もう)かるし、自分自身の投資スタイルも、それまでのじっくり構えた長期のスタイルから、「早乗り早降り」のスタイルへ見事に変わってしまいました。

 つまり私が言いたいことは、思い込みで(自分はこっちだ)と、やる前から決めてしまわず、両方のスタイルを実地で行ってみて、どちらのスタイルを援用した方が自分の成績が良かったか、客観的に自己診断してみてくださいということです。

 きっと思いがけない発見に驚きますよ(笑)。

短期トレードと長期保有、両方のスタイルを試すときの注意

 ここで大事な話をします。

 短期トレードと長期保有、この両方のスタイルを皆さんが実際に試すとき、「正しいやり方」を踏まえた上で、トライしてください。

 正しい短期トレード、正しい長期保有のやり方にも、厳格なルールがあります。

 面倒くさがってそのような「正しいやり方」を無視し、自己流で試したら、結果はランダムになってしまうのがオチです。

 剣道でも水泳でも、まず「型」というものを知る必要があるのと同じで、株式投資にも正しいフォームに相当するものがあります。それを無視し続けると、いつまで経っても上達しません。これは私が自信を持って断言できます。

短期トレードの基本

 短期トレードの基本は順張りです。そう言うと、(おいおい、ちょっと待ってくれよ! リバーサル(自律反発)トレードを忘れてもらっちゃ、困るな)と反感を抱く読者がいると思います。

 その指摘は正しいです。ただ、そのような既に有効性が立証されている数々の短期トレードの手法の大部分は、ちょうどいい加減のレバレッジ(信用取引)を用いてこそ威力を発揮する手法なのです。その好例がFX(外国為替証拠金取引)です。

 でも、ここではあくまでもレバレッジを用いないストレートな短期トレードについて語るので、リバーサル・トレードに代表される、相場のアヤを取りにいくタイプのトレードはあえて無視することにします。

 そこで問題になるのは、そもそも「順張り」とは何か? という定義です。

 順張りとは、株価のトレンドに逆らわず、素直にそのトレンドに乗っていく投資法を指します。チャートを眺めたとき、きれいに右肩上がりになっている銘柄を選んだほうがいいでしょう。

 もちろん右肩上がりでなくても、例えば大きなボックス圏の範囲内で横ばいを続けている株のボックスの下限で買い、上限で売るという方法でも良いわけです。しかし、私の経験から言わせてもらえば、そもそも株価がボックス圏を形成している銘柄は、業績がいま一つハッキリとしない会社である場合が多く、リズムよく買いに入ることができなかった場合、好業績に助けられて、つたないトレードから損を出さずに離脱できるという可能性は低いです。

 その点、株価が右肩上がりになっている銘柄は、大体、業績も良い場合が多いので、チャートの勢いの点でもフォローの風が吹いているし、業績の面でもフォローの風が吹いているという状況なわけです。このように株価を押し上げるいくつもの要因が、全てフル稼働しているような株を丹念に探すべきだと思います。

 そもそも順張りというのは、素直に良いモノに乗っかる手法に他ならないわけですから、(ちょっとでも安いところを……)とか、(相場のアヤで売られた隙に……)とか、愚にもつかない小手先のテクニックを、あれこれ思案すると、それだけ逆効果になる場合が多いのです。

 ハッキリ言って、順張りを得意とするプロは、そういう買い方をしません。彼らは好決算が発表された瞬間などに、ドカンと気合で買いにいきます。高値づかみになることを重々承知で飛び付くわけです。通常、そのような買い注文は、一日では収まりません。

 私は長いこと証券会社のトレーディング・ルームでそのような機関投資家を相手に商売していたので、最初は、(なんだい。好決算が判明した後で慌てて買いにいくなんて、ダサい連中だな)というふうに考えたものです。好決算が出るのをあらかじめ予想し、先回りするのでなければ意味がないと思ったわけです。

 しかし、業績を予想することは、それほどカンタンではありません。それに好決算が出た直後というのは、(業績が悪くなるに違いない)と考えて、空売りをかけていたショート筋が慌てて買い戻します。つまり、良い材料が出たところで出動するのが、いちばん堅いやり方なのです。

勝ち組は、たぶん今後も勝ち続ける。シンプルだけど無視できない事実

 下図はフェイスブックの2013年夏から秋にかけてのチャートです。フェイスブックは7月24日に好決算を発表しました。その直後に窓を開けている点に注目してください。

図:フェイスブックのチャート

単位:ドル
出所:コンテクスチュアル・インベストメンツ

 好ニュースが出た後で飛び乗るのはカッコ悪いと考える人は、たぶん短期トレードには向かないと思います。どこまでも素直にならないといけないのです。

 なお、銘柄選びに際しては、同じ業種の中で最も株価が強い銘柄を選ぶのが良いでしょう。

 また、小さいけれど割安な銘柄より、マーケットシェアで首位の企業を優先してください。

 これらは全て、「勝ち組は、たぶん今後も勝ち続ける」という、シンプルだけど無視できない事実に依拠したトレード戦略に他ならないのです。

短期トレード失敗を回避する、アーリーシグナルを見落とすな!

 短期トレードは、ポジションを建てた矢先から、すぐに利が乗り始めるのが当たり前です。もし、買い建てて5日くらい経っても利が乗っていないのなら、あなたがやっていることは、どこか間違っているかもしれないと疑ってみると良いと思います。

 もし、株価が上昇トレンドを割り込んだ場合、あるいは自分の買い値より8%以上下がった場合、躊躇(ちゅうちょ)せず、その銘柄は切りましょう。手じまいは、早ければ早いほど良いのです。

 短期トレードは、そもそも上昇トレンドのきれいさに惚(ほ)れて投資するわけなので、トレンド・ラインを割り込んだら、買い根拠が消えてしまったことを意味します。

 また、自分の保有している銘柄だけでなく、マーケット全体が弱気相場に入り、それが原因で買い値より8%以上やられてしまった場合も、損切りするのがいいでしょう。なお、そのケースでは、(割安な今のうちに!)という、はやる気持ちを抑えて、まず市場全体が上向きになるまで休み、少し頭を冷やした方が良いでしょう。

長期保有の基本

 ウォーレン・バレットに代表されるような長期保有投資を、皆さんがやってみたいと考え、最初に投資する銘柄を選ぶとき、下記のリストの銘柄が浮かびます。

銘柄名 ティッカー 利回り 業種
AT&T T 5.5% 通信
ベライゾン VZ 4.1% 通信
ロッキード・マーチン LMT 2.2% 防衛・航空宇宙
ノバルティス NVS 2.1% 薬品
ウエイスト・マネージメント WM 1.8% ごみ処理
マクドナルド MCD 2.2% ファーストフード
プロクター&ギャンブル PG 2.5% 日用品
ゼネラル・ミルズ GIS 3.6% 食品
ジョンソン&ジョンソン JNJ 2.9% 日用品・医療関連
エクソン・モービル XOM 4.7% 石油
コカコーラ KO 3.0% 飲料
ペプシコ PEP 2.8% 飲料
バクスター・インターナショナル BAX 1.0% 医療関連
ウォルマート WMT 1.8% ディスカウントストア
チャブ CB 1.9% 保険
出所:著者作成

 上の銘柄に共通することは、四半期ごとの業績に安定感があるということです。それに加えてバリュー投資家が好む、ワイドモート銘柄だということです。

「ワイドモート」とはお城の周りに巡らせた濠(ほり)の幅が大きいという意味です。つまり、防御力に勝った企業だと言い換えても良いでしょう。ワイドモート企業の条件としては、次が挙げられます。

1:普通の企業以上に儲かっていること
2:事業規模がバカでかいこと
3:市場占有率が圧倒的であること
4:ロー・コスト体質であること
5:有名なブランドを持っていること
6:ネットワーク効果があること
7:ユーザーや顧客にとって乗り換えコストが大きいこと

 このような条件を満たす銘柄となると、たくさんあるようで、実はかなり少ないです。

 私が「まずバリュー投資に適した銘柄群のリストから始めた方が早い」と主張する理由は、長年の経験から、経年劣化が起こらない、エバーグリーンのような銘柄は、本当に少ないことを、ひしひしと身をもって実感するからに他なりません。

 もし、私の提示したリストがイヤというのなら、例えばウォーレン・バフェットの投資会社バークシャー・ハサウェイの保有銘柄のリストでも良いと思います。ポイントは、誰がやっても、大体、同じような線に落ち着くという点なのです。

 長期保有の利点は、株式投資から目先の株価の乱高下というランダムな要因を除去し、長期でのその投資対象の潜在成長力やキャッシュを生む力に投資できるという点にあります。

 しかし、肝心の投資先に潜在成長力が欠如しており、キャッシュを生むどころか、ごくつぶしみたいに株主のカネを使い果たしてしまうようなダメ会社であれば、長期に保有すればするほど、確実に酷い目に遭います。

 米国のいろいろなバリュー・ファンド・マネージャーたちも上記の銘柄を愛してやまないです。

 もちろん、ここにある銘柄はどれも退屈で死にそうな株ばかりです。でも、長期保有というからには、最低でも5年くらい抱き続ける覚悟で投資してほしいのです。

バフェットの真髄

 最後に一つ、長期保有に関するエピソードを紹介します。

 アマゾンのジェフ・ベゾスとウォーレン・バフェットは親友です。ある日、二人がランチをともにした際、ジェフ・ベゾスがウォーレン・バフェットに聞きました。

「ウォーレン、あなたの投資アプローチは、極めてシンプルだ。そんな手法にもかかわらず、模倣者が続出してあなたの競争優位が失われてしまわないのは、一体、どうしてですか?」

 これに対してバフェットは次のように答えました。

「世の中の人はなるべく早くお金持ちになろうと考えている。ゆっくりお金持ちになるというのは誰もやりたがらない。だから私の競争優位は失われないのだ」

第6章「投資シグナルの読み方。景気、金利と個別株の関係」はこちら