今日は、「日本株に積み立て投資を始めたものの不安」という読者の声があることに対して、私の考え方をお伝えします。これから投資を始める初心者の方に、ぜひ、知っておいていただきたいことです。

まず以下の問いに、回答してください。

 積み立て投資について解説する前に、以下の問いに答えてください。

<問い>以下の投信Aと投信B、あなたにとって、どっちが良い投信だと思いますか?

出所:筆者作成

 今後4年間投資できるお金が100万円あるとして、あなたなら投信Aと投信B、どちらに投資した方が良いと思いますか?

 未来のことはわからないのですが、ここではわかってしまいます。投信Aは、チャートを見るとわかる通り、急騰急落を繰り返すハラハラドキドキ投資ですが、4年後には40%値上がりしています。投信Bは値動きが小さい堅実投資で、4年後に10%の値上がりです。4年後のリターンだけ見るならば、投信Aの方が良いのは明らかです。

 それでも、投資家のタイプによっては、ハラハラドキドキ投資を選ぶべきでないこともあります。値動きの荒いファンドで最悪のタイミングで売買してしまうタイプの人は、投信Aはやめた方が良いと思います。皆様は、投信Aへの投資で失敗する、以下のタイプに該当すると思いますか?

<投信Aで失敗するタイプ>素直で慎重な人

 景気について明るい話が増えてくると株を買いたくなり、景気について暗い話が増えてくると株を売りたくなる「素直な人」は、高値買い・安値売りをするリスクが高くなります。素直な上に慎重だと、最悪のタイミングで売買することもあります。

 素直で慎重な人は、投信Aを1年後の最高値で買ってしまうリスクがあります。株価が上昇する過程で少しずつ明るい話が増えていきますが、最高値では、みんなが強気で明るい話をするようになるからです。

 素直で慎重な人は、3年後、最安値で売ってしまうリスクもあります。最安値ではみんなが弱気で暗い話をしているからです。

 株式を良いタイミングで売買するためには、安い時に買い、高い時に売らなければなりません。そのためには、暗い話が増えた時に株を買い、明るい話が増えた時に売ってしまう「ひねくれ者」である必要があります。

 それでは、素直で慎重な人は、投信Bのような低リスク低リターンファンドばかりに投資すべきなのでしょうか? 素直で慎重な人が、投信Aのような高リスク高リターンファンドをうまく乗りこなす方法があります。それが、「積み立て投資」です。

荒れる日経平均、NYダウより値動きが荒い

 日経平均株価は、一時3万円を超えましたが、昨日は617円安の2万9,174円と大きく下がり、値動きの荒さが目立ちます。

 日経平均インデックスファンドに積み立て投資をしている人には、落ち着かない日々が続いていることと思います。私は、日本株は日経平均3万円でも割安で、積み立てで投資を続ければ中長期で資産形成に寄与するアセット(投資対象)だと考えています。

 ただ、非常に値動きが荒く、投資タイミングをはかるのが難しいアセットでもあります。
アベノミクスがスタートした2013年以降の日経平均とNYダウ平均株価の値動きを比較したグラフをご覧ください。

日経平均とNYダウの値動き比較:2012年末~2021年3月22日

注:2012年末の値を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成

 日経平均がNYダウより値動きが荒いことが、わかります。日経平均は、アベノミクスが始まった2013年を起点としてNYダウと比較すると、NYダウを上回る上昇率となっています。ところが、下げ局面(上のグラフで青矢印をつけた所)だけ見ると、日経平均はNYダウより大きく下落していることがわかります。

 日経平均は、上げる時も下げる時もNYダウより値動きが大きく、それだけに、いつ買ったら良いのか、判断が難しいと思います。

値動きが荒いアセットへの投資では、積み立て投資が効力を発揮する

 これから資産形成を考えている個人投資家は、月々1万円とか2万円とか、金額を決めて、積み立てていくのが良いと思います。積み立て投資は、日経平均インデックスファンドなど、値動きの荒いアセットへの投資で効力を発揮します。

 積み立て投資の威力を理解いただくために、簡単な例を作りました。まず、以下のクイズを解いてみてください。

【クイズ】

 以下の投信A・投信Bに、1カ月後と2カ月後に1万円ずつ投資したとして、3カ月後の資産価値は、どちらが大きいでしょう?

◆値動きの乏しいアセットA
 1万円でスタート、1カ月後・2カ月後・3カ月後も1万円のまま。

◆値動きが激しいアセットB
 1万円でスタート、1カ月後に1万2,000円(スタート時より+20%)に上昇、2カ月後に8,000円(スタート時より▲20%)に下落、3カ月後にスタート時の1万円に戻る。 

 どちらも、1万円でスタートして、3カ月後に1万円です。ところが、アセットAとBに積み立て投資した場合で、3カ月後の資産価値に差が生じます。

【答え】

 アセットBに投資した方が得です。アセットAでは、投資した2万円が、3カ月後に2万円のままですが、アセットBでは、投資した2万円が、3カ月後に2万800円に増加します。

【解説】

 アセットBに、1万円ずつ投資し続けると、価格が上がったときには少ない量しか買えませんが、価格が下がった時にたくさん買えます。高いときに少し買い、安いときにたくさん買う運用が、自然にできていることになります。

【さらに詳しい解説】

 アセットAは、1カ月後に1万円で1単位、2カ月後にも1万円で1単位、買えます。合わせて2単位、取得できます。その評価額は、3カ月後に2万円です。値動きがないので、損も得もしません。

 アセットBは、どうでしょう?1カ月後、1万2,000円に上昇したときは、1万円で0.83単位(10,000÷12,000)しか買えません。ところが、8,000円に下がった2カ月後には1万円で、1.25単位(10,000÷8,000)買うことができます。合わせて2.08単位、取得できます。3カ月後に価格が1万円に戻れば、評価額は、2万800円となります。800円だけ、資産価値が増えています。

ファンドマネージャーにとっても嬉しかった「積み立て投資」

 私は、25年間、年金・投資信託などの日本株を運用するファンドマネージャーでした。ファンドマネージャー時代に、とても残念に思ったことと、嬉しかったことがあります。

 まず、残念なこと。私が運用していた公募投信(日本株のアクティブ運用ファンド)では、日経平均の高値圏で設定(買い付け)が増えるのに、日経平均の安値圏では、ほとんど設定がありませんでした。株は安い時に買って、高くなった時に売ると利益が得られるわけですが、公募投信では、残念ながら、その逆の動きが見られました。

 次に、とても嬉しかったこと。私が運用していたファンドが、DC(確定拠出年金)の運用対象となったことです。多数の企業に採用していただけました。DCでは、毎月、一定額の設定が入り続けます。加入者の方に、定時定額で積み立てしていただいたことになります。そうすると、日経平均の高値でも、安値でも、淡々と設定が入ってきます。

 日経平均が大暴落して世の中が総悲観になっている時、往々にして、絶好の投資チャンスとなっています。ファンドマネージャーとしては、そんな時こそ、しっかりと投資を増やしてほしいと思います。ところが、公募投信では、そういう時に設定が入ってきません。

 私が運用していたDCファンドでは、定時定額の積み立て投資が入ってきますので、リーマン・ショックで日経平均が大暴落し、世の中が総悲観になっている時でも、淡々と積み立てが入ってきました。今年のコロナ・ショックでも、積み立て投資では安いところでも、投資が続けられています。

 誰でも、株は安い時に買って、高い時に売りたいと思うのでしょうが、言うのは簡単で、やるのはとても難しいことです。そうするためには、世の中が総悲観になっている時に株を買い、みんなが明るくなって強気になっている時に、株を売らなければなりません。それは、少しひねくれた人にしかできないことです。普通の素直な人は、みんなが明るくなっている時に、株を買いたくなり、暗くなっている時に、株を売りたくなるでしょう。

 普通の素直な人は、変に、いいタイミングで株を買い、いいタイミングで売ろうとしない方がいいと思います。それでは、どうするべきか? 私は、定時定額(たとえば毎月1万円)の積み立て投資をしていくべきと思います。

積み立て投資のもう1つの効果、支出を収入の範囲に収める習慣が身につく

 毎月1万円の投資を行うためには、その分、支出を絞らなければなりません。収入を上回る支出を行っていると、積み立て投資はできません。

 積み立て投資をする習慣を身につければ、自動的に、支出が収入を下回るようにコントロールする習慣を身につけることになります。