米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合株価指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種株価指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2021年4月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2021年3月12日現在、為替は1米ドル=108円で計算)。

米国高配当銘柄への投資の留意点

 その前に、米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な日本との違い3つについて、お伝えします。

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。

米国高配当株1:AT&T(T)

 傘下にAT&Tコミュニケーションズ、ワーナーメディア、AT&Tラテンアメリカを抱える世界最大の通信会社です。S&P500の採用銘柄であり、その中でも時価総額上位100社で構成されるS&P100の銘柄でもあります。

 時価総額は2,126億ドルで、日本円で約23兆円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心は通信事業で売り上げの約8割を占めており、そしてワーナーメディア事業、ラテンアメリカ事業が続きます。通信事業の中心はモバイル関連で売り上げの約半分を占め、携帯電話事業を中心に展開、日本で同様の事業を展開している企業は、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどがあります。

株式の注目ポイント

 株価はまだ2020年の高値を超えていません。また、直近まで36年連続増配をしていましたが、これもストップしました。しかし、2021年も配当性向50%以上を予定しており、高い配当利回りが予想されます。

 また、通信事業を中心に展開しているため比較的業績が安定しており、株価もここ10年は30~40ドル前後と、一定の範囲で推移しています。

業績動向

 2021年1月27日開示の四半期決算はEPS(1株当たり利益)、売り上げともに市場予想を上回りました。

 しかし、事業全体としてはモバイル関連が前年同期を上回ったものの、それ以外の事業が前年同期を下回っており、売り上げは新型コロナ発生前の水準を回復していません。

 次回は4月22日に四半期決算の開示予定ですが、今回同様、市場予想を上回る数字を出せるか注目です。

注意点

 スプリントを吸収合併したTモバイルUSに携帯総加入者数で抜かれ、現在全米3位となりました。中心事業である通信事業は安定していますが、今後の業績への影響には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.09ドル
配当利回り:7.01%
株価:29.81ドル(約3,200円)

権利落ち日は4月上旬予定(権利実施日は5月上旬予定)です(2021年3月12日時点で未確定)。
配当は2.09ドル、配当利回りは7.01%、株価は29.81ドルで約3,200円から購入できます(2021年3月12日時点)。
2018年以降の株価最高値は39.63ドル、最安値は26.50ドルです(終値ベース)。

米国高配当株2:シスコシステムズ(CSCO)

 コンピューターネットワーク機器開発の世界大手です。日本でも、学校法人や企業、病院などでセキュリティーの強化、ビデオ会議の環境整備、Wi-Fi整備などそれぞれの需要に応じて利用されています。

 NYダウに採用されている30銘柄のうちの一つでもあります。

 時価総額は2,060億ドルで、日本円で約22兆2,600億円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心はネットインフラ機器開発・販売で売り上げの約半分を占める中心事業となっており、続いて関連サービスが約3割、アプリケーションが1割と続きます。

 地域別売上高は、アメリカ大陸が59%、続いてEMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ地域)が26%、APJC (アジア太平洋地域[日本および中国を含む])が15%と続きます。

 ネットインフラ機器開発・販売ではスイッチ、ルーター、ワイヤレス、およびデータセンターに関連するコアネットワーク(基盤網)機器を開発しており、特にスイッチ、ルーターにおいては世界的なシェアを確保しています。

株式の注目ポイント

 株価は2020年年初の水準まで回復しています。また、配当は11年連続増配中です。

 しかし近年、これまでと比較すると柱のコアネットワーク機器の状況が芳しくないため、サブスクリプション方式での収益比率を上げるよう、ビジネスモデルの変革を進めています。

業績動向

 2021年2月9日に発表した四半期決算では、EPS、売り上げともに市場予想を上回りました。
増収増益ですが、株価にはあまり影響がありませんでした。

 次回決算は5月19日開示予定ですが、EPS、売り上げともに市場予想をどの程度上回る決算を出せるか注目です。 

注意点

 コアネットワーク機器のシェアでは既に確固たる地位を築いています。

 しかし、次の有望な事業が、シスコシステムズ内の中心事業に育つまでは、株価の大きな上昇は期待しづらいかもしれません。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.48ドル
配当利回り:3.03%
株価:48.82ドル(約5,300円)

権利落ち日は4月5日(権利実施は4月28日)です。
配当は1.48ドル、配当利回りは3.03%、株価は48.82ドルで約5,300円から購入できます(2021年3月12日時点)。
2018年以降の株価最高値は58.05ドル、最安値は33.20ドルです(終値ベース)。

米国高配当株3:アライアント・エナジー(LNT)

 ウィスコンシン州に本社を置く、電気およびガス事業の持ち株会社です。隣接するアイオワ州とウィスコンシン州の2州で事業展開しており、近年クリーンエネルギーにも力を入れています。

 時価総額は128億ドルで、日本円で約1兆3,800億円となっています。

事業の注目ポイント

 2020年には、2005年と比較して42%のCO2を削減しており、2040年には2005年比で70%のCO2削減を目指しています。

 また、2021年から2024年に約59億ドルの設備投資を予定しており、太陽光発電への投資や電気・ガスの配給システムへの投資を予定しています。公益事業を行う企業にとっては、ESG(環境・社会・企業統治)への取り組みが他の業種よりも求められており、そういった環境下で、アライアント・エナジーは積極的にESGに取り組んでいるといえそうです。

株式の注目ポイント

 株価は2020年の高値を超えていません。しかし、配当は増配をしています。そのため、2019~2020年まで配当利回り3%を切る水準でしたが、現在は3%を超える配当利回りとなっています。また、EPSも2017年以降、毎年6~7%程度増加しており、今後も安定した成長が予想されます。

業績動向

 2021年2月18日開示の四半期決算でEPSは市場予想を上回りましたが、売り上げは市場予想を下回りました。しかし決算を受けて株価への影響はほとんどありませんでした。

 次回は2021年5月5日に開示予定ですが、市場予想を上回る決算を発表できるか注目です。

注意点

 米国の長期金利が上昇していますが、このような時に株価の値動きが比較的少なく、配当を出す公益事業を手掛ける企業の株価は長期金利の影響を受けることがあり、今後の金利動向には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.61ドル
配当利回り:3.15%
株価:51.12ドル(約5,500円)

権利落ち日は4月下旬予定(権利実施は5月中旬予定)です(2021年3月12日時点で未確定)。
配当は1.61ドル、配当利回りは3.15%、株価は51.12ドルで約5,500円から購入できます(2021年3月12日時点)。
2018年以降の株価最高値は60.16ドル、最安値は37.14ドルです(終値ベース)。

米国高配当株4:パターソン(PDCO)

 動物用医薬品販売や獣医用CTスキャンなどの販売を行う事業と、人間用の歯科診療製品の販売事業を展開しています。地域は米国、英国、カナダで事業を展開しており、売り上げの8割を米国で上げています。

 時価総額は31億ドルで、日本円で約3,300億円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心は動物健康事業で、同社の売り上げの58%を上げており、残りは歯科事業です。

 動物健康事業では、新型コロナウイルス感染拡大による在宅勤務の増加に伴い、ペットを飼う家庭が増加していることなどから、同事業の売り上げが拡大しています。2021年度も同社はペット市場の加速を予想しています。

 また、歯や口元の美しさに焦点を当てた総合的な歯科治療「審美歯科」に対する需要の高まりと、歯科製品の継続的な革新と相まって、歯科事業の安定成長も同社は見込んでいます。

株式の注目ポイント 

 株価は2020年の高値近辺まで回復しています。新型コロナの影響により株式市場全体が下落したことで、パターソンの株価も下落しました。しかし、新型コロナによって需要が増えた事業もあり、その後に株価は上昇し、現在は新型コロナ発生前の水準を超えています。配当は2017年以降、横ばいで推移しています。

業績動向

 2021年3月3日開示の四半期決算では、EPS、売り上げともに市場予想を上回りました。

 しかし、決算を受けての大きな株価の変動はなく、その後は上場しているナスダック指数が調整している事もあり、パターソンの株価も軟調に推移しています。

 EPS、売り上げともにコロナ禍の最悪期からは脱して順調に回復しており、次回2021年5月27日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。

注意点

 ペット市場がいつまで拡大するのか、同市場が停滞したときに他の事業でカバーができるのか、これらの点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.04ドル
配当利回り:3.27%
株価:31.78ドル(約3,400円)

権利落ち日は4月上旬予定(権利実施は4月下旬予定)です(2021年3月12日時点で未確定)。
配当は1.04ドル、配当利回りは3.27%、株価は31.78ドルで約3,400円から購入できます(2021年3月12日時点)。
2018年以降の株価最高値は38.13ドル、最安値は13.10ドルです(終値ベース)。

米国高配当株5:シチズンズ・フィナンシャル・グループ(CFG)

 米国の大手金融機関の一つで、米国で総資産は13位、預金量は12位です。

 時価総額は194億ドルで、日本円で約2兆1,000億円となっています。

事業の注目ポイント

 事業の中心は個人・中小企業向け銀行業務で、続いて機関・企業向け銀行業務となっております。

 個人・中小企業向け銀行業務では、預金商品、住宅ローンおよび住宅担保ローン、学生ローン、自動車ローン、クレジットカードなどを個人顧客や中小企業にサービス提供しています。

 また、機関・企業向け銀行業務では年間収益が2,500万ドルから25億ドルの企業を中心に貸し付け、リース、預金、財務管理、外国為替、金利リスク管理など幅広い金融商品、およびソリューションを提供しています。

株式の注目ポイント 

 株価は2020年の高値を超えています。住宅ローン手数料の増加や、広告費の低下などにより、コロナ禍の大幅な業績悪化を回避しました。

 また、米国の長期金利が上昇したことから、同行の株価も右肩上がりで上昇しています。

業績動向

 2021年1月20日開示の四半期決算では、EPS、売り上げともに市場予想を上回りました。

 しかし、決算を受けての大きな株価の変動はなく、その後は米国の長期金利が上昇するに従い、株価も上昇しています。また、米国のコロナ禍に対する経済対策の一環として量的緩和が実施されたことで、預金額も10%以上増加しており、こういった資金が住宅や投資へと流れているようです。

 次回2021年4月16日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるか注目です。

注意点

 長期金利の影響によって株価の上下が予想されます。

 しばらくは長期金利が上昇するという見通しがありますが、その動きには注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.56ドル
配当利回り:3.43%
株価:45.48ドル(約4,900円)

権利落ち日は4月下旬予定(権利実施は5月中旬予定)です(2021年3月12日時点で未確定)。
配当は1.56ドル、配当利回りは3.43%、株価は45.48ドルで約4,900円から購入できます(2021年3月12日時点)。
2018年以降の株価最高値は47.87ドル、最安値は15.32ドルです(終値ベース)。

【要チェック】
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